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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生30巻6号

1966年06月発行

雑誌目次

特集 今後の結核問題 談話室

今後の結核問題

著者: 清水寛

ページ範囲:P.294 - P.296

はじめに
 日本の結核の現状に関して,青木1)は,結核患者の死因を分析して,結核死と非結核死との比は,1953-4年に100:33,1958-9年に100:1271963-4年には100:257であるという。これを各年の結核死亡数に当てはめてみると下の図のようになる。すなわち死亡による結核患者の減少傾向は衰えていない。また患者数について1964年の結核実態追求調査によれば,1963年に2.12%であった要医療率は1964年には1.75%に下っており,諸種の統計を合わせて推定すると,それから2年を経過した今日ではすでに1.3%前後になっていると考えられる。
 このように患者が減少しつつあるので,結核予防法34,35条の経費も二次抗結核剤使用の増加にもかかわらず漸減している。これは戦後の結核対策推進の上に学問的成果が適切に導入されたことによるのである。しかし,将来を考えると未解決または改善を要する点は少なくない。ことに結核軽視の一般の風潮の中で,結核の面における先進国の地位を獲得するには,なかなかに智略と根気を要する。

主題

疫学的にみた結核症の展望

著者: 岡田博

ページ範囲:P.297 - P.310

はじめに
 結核症は永いあいだ人類を苦しめてきた。わが国にあっては10余年前までは死因の第1にあったことはよく知られている。しかし,近年は急激に減少して死因の7位に低減し,国民の生命が延長し,脳卒中,がん,心臓病などが台頭してくるとともに,ともすれば結核症は過去の病気として,国民の間に軽視されがちになってきている。しかし今なお治療を要する患者が200万も存在し,毎年2万余も死亡していて,あらゆる感染症のうちでなおもっとも主要な地位を占めていることには変わりはない。また,欧米諸国に比較してもなお数倍の死亡率を示していて,とうてい過去の疾患として結核対策をゆるがせにすべき時期ではないことは明らかである。また後記するように,世界的にみても後進国の多くにあっては現在なお主要な疾患なのである。
 そこで本論文においては,結核症の過去から現在に至る推移を疫学的観点から瞥見するとともに,現今における結核症の問題点を考察し,今後の予防対策についての見解を記したいと思う。

BCG接種の今後のありかた—能率的で信頼される公衆衛生の実現への寄与を願って

著者: 川村達

ページ範囲:P.311 - P.316

まえがき
 関係者の一部に,結核予防法施行令のBCG接種方法を経皮接種に書き換えるべきだ,という意見をもつものが現われている。BCG接種局所変化軽減をはかろうとする立場に立てば,この意見にも相当の根拠はあろう。
 しかし,将来のBCG接種のあるべき姿を考える場合,局所変化の軽減を何ものにも優先する大問題と考えるのはおかしい。4半世紀にもわたり総延数1億に達するわが国のBCG接種は,そんなにも激しい,あるいは無用な局所変化によって国民を苦しめてきたのだろうか。

結核患者管理はどうあるべきか—渋谷地区7年間の結核患者管理の経験からの成果と今後の問題

著者: 正岡和

ページ範囲:P.317 - P.323

 わが国において結核患者管理が結核対策の重要な要素としてとりあげられてからすでに数年を経過している。
 従来,結核行政は健康診断・予防接種・適正医療を根幹として推進され,最近の化学療法の進歩発展と相まって相当の成果を示してきたことはよく知られている。しかしながら患者発見→適正医療→社会復帰にいたる患者の療養状況,さらには患者をとりまく生活環境の把握が十分になされていなかった。このことは結核実態調査の追跡調査の成績からもさらに明るみに出された。そこで昭和37年には法の改正までして結核患者管理が強くとりあげられるようになったのである。

ろんそう 結核の撲滅のために

保健所管理の拡充と検査センターの増加を—外来治療の問題点から

著者: 飯塚義彦

ページ範囲:P.331 - P.332

 結核の撲滅のためには,結核患者全部の発見,発見患者の十分な治療,予防接種の励行が必要であることはいうまでもない。このために結核予防法が実施され著しい効果をあげることができた。すなわち,結核死亡の減少,さらに結核患者推定数の減少がみられたことである。しかし,推定患者数が全部発見され,把握されているであろうか。発見された患者は皆十分な治療を受けているといえるであろうか。予防接種は十分行なわれているであろうか。このように考えてみると,結核対策の実施面に,まだまだ問題があることは明らかである。これらの問題のうち,外来化学療法実施面の問題点について考察してみたい。

徹底的な治療と国の暖い手を期待

著者: 金井進

ページ範囲:P.332 - P.333

変りつつある結核との闘い
 結核との闘いの姿が変ってきていることはたしかである。すべての先進文化国家がそうであるように,日本もそのきびを追って結核の姿を変えつつあることは事実である。
 その第1は結核死亡率の激減である。第2は重症肺結核の減少であり,第3は年齢的な罹患傾向の移動である。つまり青年病といわれていた肺結核は,死亡,罹患ともひたむきに低下をたどって老人層に山をもつ一つの曲線を示しているのである。第4は病型の変化であろう。1)肺門腺結核の減少2)浸出性肋膜炎の減少3)粟粒結核症および脳膜結核の減少などが,臨床的にみた結核の病型変化をはっきりと示す事象である。

患者の実態の明確化と届出制度の完全実施を

著者: 野村実

ページ範囲:P.333 - P.334

 結核対策に関しては,望むことが多くて選択に迷うが,以下のふたつを挙げたい。

社会復帰の可能患者への早急な対策を

著者: 五島貞次

ページ範囲:P.334 - P.335

結核は過去の疾病ではない
 かつては恐るべき国民病といわれた結核も,医学や薬学の進歩と関係者の努力によって,急速に患者が減ってきた。昭和38年度の実態調査によると,患者数はそれまでの5年間に半減し,203万人と推定されている。死亡率も39年には23.5に下がった。死亡順位も長い間トップを占めていたが,年々低下して,38年には第7位となった。私たちのまわりをみても,結核患者は急速に姿を消し,日常の話題に病気のことが出ても,ガンや脳出血や心臓病の話ばかりで,結核を口にする人はほとんどいなくなった。
 しかし,それなら結核はもはや問題でなくなったのかというと,決してそうではない。患者が減ったといっても,25歳から49歳の働きざかりの年齢層では,結核はなお死亡順位の2, 3位を占めており,依然,伝染病の大物の一つであることに変わりはない。結核に対する戦いは決して終わってはいないのである。

医師の自覚と反省を望む—九州の結核事情から

著者: 河盛勇造

ページ範囲:P.335 - P.336

 九州の結核死亡率が全国平均に比してはなはだ高いこと,同時に罹患率も高値を示していることなどについては,私どものように九州地区で仕事をし,しかも結核病学を専攻しているものが,最も強く責任を感じねばならないと思っている。そのために,ここ数年間,機会のあるごとに"九州の結核はなぜ減少しないか"というテーマで,熱心な話し合いがされた。その概要については,昨年10月の「健康管理」誌上で記しておいた。本稿もそれの繰返しになるかも知れないが,主として私どもが熊本県下で調査した結果に基づいた事実から,考えられる対策を述べてみたいと思う。
 ただ,お断りしておきたいのは,同じく九州でも,南九州と北九州では相当に事情が違うであろうから,私のこの考え方は南九州地区,すなわち熊本,大分,宮崎,鹿児島の諸県についてのことと了解していただきたい。また私自身が行政についての知識を全く持ち合せていないので,あるいはその面では実行不可能のことを申し上げるかも知れないという点である。

実情に即した具体的方策の再検討を

著者: 中川喜幹

ページ範囲:P.336 - P.337

 現行の結核予防法が制定された頃と比較すると,最近の結核は,その様相がかなり変わってきている。
 結核対策は,当初はかなりの困難が予想された幾多の問題をみごとに解決してきた。従って,今後の課題は未だに解決されていない,きわめて困難な問題の処理と結核の様相の変化にともない新たに生じてきた問題をいかにして解決していくかということである。そのような観点に立って結核対策を再検討すると,従来の対策をそのまま進めていくことはマンネリズムに陥るおそれが多い。この辺で大きな転換をはかられねばならない。

管理変化に対応したきめ細かい結核対策

著者: 井田直美

ページ範囲:P.337 - P.338

 昭和26年以来,結核予防法の改正が数回にわたって行なわれ,結核対策は強化されてきた。まず最初に進歩した治療法の公費負担制度への採用,ついで国民一人のこらず無料による健康診断の実施,最後に結核患者管理体制の推進などがその主要なものであった。すなわち現在の結核対策は早期発見のための健康診断,患者管理および医療の推進が3本の柱となっている。このようにして治療医学の進歩を中核としたこれらの対策により,この10年間の成果として死亡率は1/3に,発病率は1/2に減少した。それだけをみると,結核は著しく減少し,いまにもわが国における結核は問題とならない時期がくるように考えられる。しかし有病率でみるとわずかに2/3に減少したにすぎず,今なおいささかも結核対策はおろそかにできず,これまでの結核対策の3本の柱に加えて結核症の質的変化に対応した新しいきめの細かい対策が一層必要である。その問題点と対策の2, 3についてのべる。

綜合対策を推進する中で—僻地の結核の現状から

著者: 原寿太郎

ページ範囲:P.339 - P.339

当別保健所管内H村の状況
 結核対策はいまや偏在階層に対する対策の徹底を決め手として追打ちの段階にあるといわれている。しかし,僻辺地域において,すでにそうであるというわけでないことはいうまでもない。筆者は僻地性の背景の中でこの種の業務に携わっている者の立場から当所(L5)管内H村の例をとり,首題に沿った問題を2,3要約して考えてみたい。
 H村は当所より75〜95kmの距離にあり,面積(東西18km,南北36km),人口7,295人(昭和40年末),村内諸部落の大半が,いわゆる「5〜3級地」ないし「特別〜第2種地域」に該当し,生保適用率は6%の高率を示している。人口構成は壷〜瓢箪型の中間型に変り,さらに出稼による流動は年々増大する傾向にある。人文関係の特徴として,長年にわたる生活環境の閉鎖性によって形成された特有の社会枠は容易に解きほぐし難く,依然として根強く底を流れており,すべての生話態度がその規範の中に維持されてきている。このことが結核対策を含めた保健活動に対する関心度や問題意識度の低調さ,あるいは各種問題点についての連帯感の欠如などに密接に関連している。

海外だより

全ての国から結核をなくそう—WHO研修に出席して

著者: 小野寺伸夫

ページ範囲:P.326 - P.330

はじめに
 チエコスロバキア(以後ČSSR)Postgraduate Medical Schoolで開催された「結核の疫学とその対策」およびデンマークTuberculosis Indexで行なわれた,「医療登録管理と結核疫学」のWHO研修に出席した。1965年3月より8月まで17カ国20名が参加し,わが国からは私が岩手県北上保健所に勤務中,厚生省の推薦をうけWHOフェローとして参加した。この間の主な内容と,4ケ月間滞在した【C】SSRの結核予防について記述したい。

人のことば

近代医学の"誤謬"

著者: ガルドストン

ページ範囲:P.293 - P.293

 文字通り驚くべき成果を近代医学が次々と立てつつある時に,近代医学が誤ったと主張するのは,求めて自己撞著をしているものともみられよう。奇蹟的な医学の発展を許している条件,環境こそ,何よりも社会医学の進歩を妨げるというのである。しかし,われわれの思考,考察の構成,医学の将来を検討すると,どうしても近代医学の勝利には危惧すべき条件が備わっているといわざるを得ないのである。問題が複雑になってくるのは,それら勝利の種々の議論の余地のないほどの現実性と,否定できない有効性の故である。種痘やジフテリア抗素,インシュリン,抗生物質等の勝利を誰が一体否定できよう。しかし,これらの勝利の偉大さを認めても,近代医学は誤っていると断定せざるを得ないのである。
 近代医学が誤っているというのは,何もガンや本態性高血圧症,多発性硬化症を治療できないからではない。それが治療できたとしても,やはり誤っている。いかに奇蹟的な新薬ができ,また今に到るまで名声の残っているような勝利を再び得たとしても,近代医学の過誤の告発を示談にできないのである。では,いかにして勝利と過誤とを調停すればよいのか。偶然にも,この種の組合せは歴史上全く未知のものではない。ピールスの勝利といわれているのがある。(エピノルス王ピールスは多大の犠牲を払って辛勝した)しかし,それほど難しくとらないでも次のように説明できる。

講座 地区診断—よりよい現場活動の展開のために・1【新連載】

健康問題(health needs)の発見技法に関する考察・1

著者: 田中恒男

ページ範囲:P.344 - P.348

はじめに
 あらゆる領域での公衆衛生活動をふりかえるとき,その前提となる健康問題の把握が,かなり便宜的にあつかわれたり,あるいは国家的行政的要請にもとづくものであったりする場面が多いことに気づく。これは現状においてほとんどの公衆衛生活動が行政を中核として展開されているため,やむをえないことかもしれないが,地域社会を中心とする所属成員が,真にその必要性を認識し,自主的に活動を展開してゆくためには,その社会自体の健康問題がどのようなものであり,そのいずれを重点的に指向すべきかについては,慎重な分析と検討が加えられなければならない。
 しかしながら,健康問題をいかに発見すべきかの客観的,系統的な技法はまだ十分な形では整理されていない。いわば地域評価(あるいは事業場評価,学校評価など)とも称すべき方法調論は,きわめて混乱したまま,あるいは常識的に暗目裡の諒解事項として放置されている現状である。もちろん衛生統計的な方法,医療統計の活用などを始め,社会調査技法の応用もとかれてきたが,それらはいずれも併行的な記述に止り,その関連などについての考察が不十分であった。筆者も一部論じたことがあるが1)あらためてその具体的な活用法とその活用に際しての注意点,ならびに問題点の選択について私論を展開してみたい。

レポート 沖縄の公衆衛生事情

本土に15年遅れた結核対策

著者: 景山

ページ範囲:P.340 - P.342

 沖繩の公衆衛生事情はほとんど知られていない。そこで本誌は,2月19日(土),本土に留学され厚生省で研修を受けられている硫球政府厚生部の泰川氏,沖繩公衆衛生看護学院の教務で,国立公衆衛生院で研修を積まれていた前田氏,沖繩で公衆衛生看護婦(本土でいう保健婦)として活躍され,現在国立東京病院で看護婦として勤務されている宮城氏に本社においでいただき,公衆衛生問題,特に結核問題を中心にお話しいただいた。
 沖繩は大きく分けて,沖繩群島,宮古群島,八重山群島(北部,中部,南部)に分けられ,その中に大小64の島々(うち有人島49,無人島15)をもつという地理的特異性がある。そのため,無医地区対策あるいは地域格差の問題など,公衆衛生上にも多くの問題点を抱えている。

News Letter

日本精神神経学会「刑法改正問題研究委員会」刑法改正に関する意見書(案)を発表

著者:

ページ範囲:P.324 - P.325

 現行刑法は明治40年制定のかなり古い形のものであり,これまでも大正15年刑法改正綱領の作成,昭和15年改正刑法仮案作成などのことがあった。最近,法務省を中心として刑法全面改正を検討する動きが活発である。すなわち,昭和38年5月,法務大臣より法制審議会に対し,「刑法全面改正の要否,ならびに改正の要あり」として,その要綱について諮問が発せられ,同年7月法制審議会内に「刑事法特別部会」が設けられた。そして,すでに昭和31年,法務省部内に設けられた「刑法改正準備会」の手により昭和35年起草された「改正刑法準備草案」にしたがって審議が進められている。昭和40年には第2および第3小委員会において,自由刑の体系,常習犯および精神病質者に対する措置,保安処分などをめぐって審議が行なわれた。日本精神神経学会は,以上の状況に即応して精神医学の立場を代表して意見書をまとめることになった。同学会は昨40年,精神神経学雑誌67巻第10号に意見書(案)を発表,ひろく学会員の意見を求めている。
 同学会「刑法改正問題研究委員会」は準備草案に添って検討を進め,とくに,1)責任能力に関する規定,2)保安処分に関する規定,3)アヘン煙に関する罪の3項について,大要次のような結論を出している。

モニターレポート

精神衛生法をめぐる学習会から/岐阜市北保健所誕生す

著者: Y・K

ページ範囲:P.310 - P.310

 精神衛生法改正をめぐって勉強会があり,精神科と臨床医と保健婦有志の話し合いがあった。20名ほどのこじんまりした会で,自由な立場で活発な意見が多数出された。
 医師 43条の訪問指導は今度の改正の柱の1つで,地域性をうち出している。日常活動が地域性をもつ保健婦こそ,やるべき仕事ではないか,特定の"相談員"ということではなく保健婦全部がこれにあたるべきだ。精神の疾患も身体の疾患と同じで,医学的素養のない人には相談してほしくない。

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NEWS REFERENCES in April '66

ページ範囲:P.350 - P.351

保育園で集団赤痢東京・世田谷で園児10人(1日・朝)母親も発病,計15人となる(2日・朝)
文化村の患者,保菌者は計412人に(2日・朝)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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