icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生30巻9号

1966年09月発行

雑誌目次

特集 保健活動と行動科学 談話室

行動科学とは

著者: 安井義之

ページ範囲:P.474 - P.475

〔I〕
 人間を科学的思考と方法によって理解しようとすれば,生物科学と社会科学の両分野をふまえて接近をはからねばならない。
 1950年代のはじめの頃に,James G. Millerらの科学者グループによって人間の行動を経験的に確かめうる理論を構成しようとする試みが開始され,Behavioral scienceという新らしい呼び名の科学が創り出された。

主題—保健活動と行動科学

生物,社会,文化の各面からの"ヒト"の追求

著者: 木村正文

ページ範囲:P.476 - P.485

まえがき
 われわれが「ことば」を通じてお互いに理解しあうときには,ひとりひとりがもっている考え方を確かめあうことが大切である。
 いま,これから話をすすめようとする「行動科学」ということは,このような「ことば」の共通の広場をつくりあげるための努力のあらわれであり,また,われわれも行動を研究するものとして理解していかなくてはならないと考える。

行動科学理論の歴史と保健活動との関連

著者: 辻正三

ページ範囲:P.486 - P.493

はじめに
 "行動科学とは何か"について,保健活動と関連させて書いてほしいとの依頼をうけたが,私は年来心理学・社会心理学の研究を続けてきた者にすぎず,行動科学一般について特別の知識をもちあわせてはいない。また,保健活動,公衆術生についても,今から10数年も前に足掛け10年間ほど,当時国立公衆衛生院におかれていた心理学研究室(心理検査室)に席をおいていたことがあるだけで,現在では全くの門外漢である。
 しかし,最近人びとの注目をひくようになった行動科学というものに,少なからず関心と興味をもちはじめている。また,かつて公衆衛生の研究・教育機関のなかで,心理学の知識と技術がどのように寄与できるかについて,自分なりに悩んだ経験は,今なお忘れがたい思い出で,その後も折にふれて頭に浮かんでくる課題であった。

主題参加

産業衛生と行動科学

著者: 市瀬護国

ページ範囲:P.494 - P.498

はじめに
 産業衛生の役割は,産業の現場で働く人びとの健康を守り高めることである。それは産業衛生の本質であって,成立以来変わることはなかったし今後どのように発展するにしても,この本質が変わることはあり得ない。しかし,産業衛生の具体的な内容は,必ずしも同一ではなく,時の流れとともに,変わり進んでいく。それには2つの大きな理由がある。
 第1に,産業衛生は,対象とする働く人びとの健康が,産業内の諸事象によって影響を受けるのに対し,予防的に,あるいはできるだけ早く後始末的に,対処しなければならないという機能をもっている。

衛生教育と行動科学—衛生教育的アプローチ

著者: 金永安弘 ,   宮坂忠夫

ページ範囲:P.499 - P.503

 標記のテーマについて,はじめに以下のことをおことわりしておきたい。行動科学は,社会学,社会心理学,文化人類学の三者の総称として受け取られているが,わが国におけるこの位置づけは,いまだ明確にされていない。そこで現況においては,社会科学と同義語としてとらえておおむねさしつかえないと思われるので,ここでは,衛生教育がこの線に添ってどのように動いてきたかを考えてみたい。この中には,わが国における社会科学からの影響と,米国での影響がわが国にとり入れられたものとの2つの面がある。

精神衛生と行動科学—生態学派の立場から

著者: 小坂英世

ページ範囲:P.504 - P.507

はじめに
 筆者は,結核の疾病管理にならった精神障害の疾病管理を,生態学的観点から,かつて栃木県で推進したことがあり,これからは東京都で推進しようとしているものである。したがって,上記のあたえられたテーマにも,この仕事を通じてふれてみたいと思う。

文献紹介

行動科学とは何かを知るために—行動科学に関連する文献をめぐって

著者: 清水栄一

ページ範囲:P.508 - P.510

 本誌で"保健活動と行動科学"の特集が企画され,それについて,行動科学理論発祥の地であるアメリカの文献を紹介して欲しいとの依頼を引き受けたので,限られた時間内でできるだけ多くの文献にふれたいと考えた。幸いGeorge Rosen1)らによるAmerican Journal of Public Healthに寄稿された,"a Bookshelf on the Social Sciencesand Public Health"に広範囲の分野にわたる文献が紹介されているので,これについて書き,他に少数の追加をして責を果たしたいと思う。

人とことば

専門職業への行動科学の方法の応用

著者: ドナルド・Rヤング

ページ範囲:P.473 - P.473

 専門的実際家の専門技術に対する行動科学の貢献の価値を認識することはより一層困難です。一例として,保健活動をとってみます。医者,看護婦,患者の間の協力を能率的にすることに関連する要因は社会心理学者,社会学者,社会人類学者による研究対象として適切であることを理解することはそう困難ではありません。また病院には,明らかに医学には属していない管理運営の問題があります。他方病気予防,治療手順,さらに慢性病患者や身体障害者の復帰や適応の問題に対する行動的要因の重要性を認識するためには高度な知識思考を必要とします。久しい間,医療というものは薬剤または手術刀で特定の病気を処置する技術と考えられていまして,全体としての病態だけではなく人間としての患者の取扱いといった概念を,十分理解する人はほとんどいませんでした。さらに,それ自体若い行動科学はごく最近保健活動と重要な協力を企てたのです。この協力の必要性は問題の研究者にとっては明白でありますが,これらの貢献は今までのところ自然科学,生物科学の貢献に圧倒され,エキスパートだけが認めておりまして,現在はまだ一般人の意識に上るに至っていません。

講座 地区診断—よりよい現場活動の展開のために・4

社会的・文化的特性の分析・2—生活構造の調査技法

著者: 柏熊岬二

ページ範囲:P.512 - P.516

 前号では公的情報源,主として官庁統計資料から地区の生活構造特性を理解する方法について解説した。いわば2次的資料(second-hand data)の利用である。これは,すでに存在する資料・文書・数字を使うのであるから非常に簡便であり,作成された目的を十分に認識し,その範囲内で利用するのであれば有効でもある。しかし,これらの資料の多くは限られた行政目的に従って作成されていることが多いので,それだけで地域社会もしくは地区住民の生活構造を分析しようとしても無理である。不足を補なおうとすれば,一次的資料(first-hand data)を収集する以外にはないであろう。本号で述べるのはこの点に関する方法論である。

研究

赤外線による食品用バツトならびにまな板の乾燥

著者: 佐々木武史 ,   稲垣宇女乃

ページ範囲:P.520 - P.525

 毎年のように梅雨どきになると食中毒が各地で発生し新聞誌上を賑わす。これは単に食品衛生面だけで考えられるものではなく,間接的に調理器具の消毒上の欠陥からもおこりうることも考えられる。本稿は,赤外線照射による乾燥に注目し実験を行なったもので,新しい角度から迅速で殺菌力の強い処理法を示したものである。

血圧と職場環境—段階上昇による血圧値の差について

著者: 塚本勉

ページ範囲:P.526 - P.529

まえがき
 日本における脳卒中死亡は,依然として国民死亡の第1位を占め,各事業場においては血圧測定はますます盛んに行なわれている。血圧測定場としては,階段を上昇しないで受検できることから一階が望ましい。しかし,都会においては建築の高層化の傾向がますます増えたため,2階,3階で血圧を測定する場合が,今後はしばしば起こると思われる。2階あるいは3階に徒歩で昇ればどうしても,ある程度の負荷がかかることになり,1階で行なう場合とでは血圧値に差異が生ずることが推定される。この点について,これまで人工的に運動負荷を加えた場合の血圧の変動についてみた成績1)2)はあるが,私はとくに日常の集団検診の場で,2階あるいは3階に上昇後血圧を測定した場合と階段上昇のない場合との間にどのような差異があるかを検討した。したがって,今回は同一人を1階での測定,2階上昇後の測定,3階上昇後の測定というような比較でなく,多数例について,1階で測定した群,2階上昇後測定した群,3階上昇後測定した群の3群に分けて,血圧値に差があるかどうかについて検討した。

厚生だより

府県における衛生教育態勢

著者:

ページ範囲:P.518 - P.518

 公衆衛生協会の衛生教育の会(専門部会)では,本年3月から衛生教育(業務)指針についての検討をはじめ,6月の全国衛生教育大会の折に,府県の衛生教育担当者の意見を聴取して,7月にほぼ原案をまとめた。指針は公衆衛生協会の意見として厚生大臣あて提出される予定である。厚生省においてもこれと共同して,衛生教育の業務指針の検討をすすめている。なかでも,府県における衛生教育の態勢は府県間の格差が非常に大きく,衛生教育行政の弱点は県段階にあることから,保健所における衛生教育業務規準(昭和25年11月,厚生事務次官通知)の改正とともに県段階の衛生教育業務指針の作成は大きな意義をもつものである。
 府県における衛生教育態勢については,昭和25年9月,厚生事務次宮通知で,衛生教育専任係の設置を指示し,同年10月公衆衛生局長通知で,衛生教育(①公衆衛生従事者の訓練,②地区組織などの育成,活動の促進,③保健衛生に関する知識の普及)と広報をあわせて衛生教育係とし,これを衛生部の総括的業務を所管する課または保健所所管課に配置するように指導している。

献血事業の現況と今後の対策

著者:

ページ範囲:P.519 - P.519

献血事業の現況
 黄色い血の追放,あるいは献血の推進が叫ばれてからちようど2年の歳月が過ぎた。
 論議はすでに終わったのである。全国各地で血液業者による黄色い血,いわゆる買血が大きく後退し,この供給停止による一時的な血液不足が社会問題になってきた。しかしこのことを血液不足と呼ぶのは正しくない。

ニュースの焦点

新宿赤十字産院の乳児結核事件

著者: 中川喜幹

ページ範囲:P.530 - P.530

 今回の新宿赤十字産院の事件は各方面に大きな反響をよんだようである。
 このような不幸な事件を二度と繰りかえさないために,われわれはその原因の究明に当った。

人災と健康—黒磯惨事と四日市公害病患者自殺事件から考える

著者: 西三郎

ページ範囲:P.531 - P.531

 7月16・17両日比叡山で「人災と健康」を主題とした,第7回社会医学研究会が開かれ,多数の報告を中心として活発な討議がなされた。はからずも,研究会の直前,黒磯惨事と四日市公害病患者が自殺するという事件が発生した。この2つの事件を「人災と健康」という問題として見てみよう。

モニターレポート

第12回東海公衆衛生学会開かる/非行化防止をテーマに—岐阜県庁で精神衛生大会

著者:

ページ範囲:P.485 - P.485

 去る7月1日,三重県津市商工会議所ビルにおいて,東海公衆衛生学会が松井清夫学会長(三重県立大学医学部教授)の下で開催された。本学会は静岡,愛知,岐阜,三重の東海地方4県下の公衆衛生機関より成り立っており,木年度の参加者は410名であった。参加者の職種別分類は第1表のようであった。これは,このような地方学会のあり方を考える上で,今後参考になるものと思われる。
 学会は,特別講演3題,特別追加報告1題,シンポジウム2題一般演題45題でおこなわれた。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら