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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生31巻1号

1967年01月発行

雑誌目次

主題 公衆衛生の将来像

イギリスの公衆衛生法とその沿革

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.15 - P.20

 イギリスEngland & Walesは,18世紀中葉以降,世界に先がけて産業革命を経験し,これが契機となって近代公衆衛生活動の先駆をなした国である。この公衆衛生活動の発足の道標となったのが,よく知られているようにPublic Health Act,1848.(以下P. H. A. と略称)であるが,世界最初の公衆衛生の総合立法といわれるこの法律は,その後たびたび改正され,とくに1875年および1936年には根本的な大改正によって,社会の進歩と時代の要請に適応する内容のものとなり今日に至っている。すなわち,イギリスは第2次大戦の悲惨な経験を経て,その画期的な社会保障制度の主要な一環としてNational Health Serviceの制度を樹立し,その後約20年,激しい内外の変動の中で多くの困難と闘いながら今日に及んでいるが,この間120年に亘ってイギリスの公衆衛生行政を支えてきた主要な法的な支柱のひとつがP. H. A. であり,本法は今日においてもNational Health Service Act,1946(以下N. H. S. A. と略称)とともに,イギリスの保健計画推進の重要な法的支柱となっているのである。

公衆衛生の行くてを阻むものとその改善—識者へのアンケートを中心として

著者: 松浦利次

ページ範囲:P.21 - P.29

はじめに
 われわれの携わっている公衆衛生のもろもろの問題は,新憲法が制定されてからだんだん向上して,その活動は,学界においても,行政においても,また民間の諸団体においても,すばらしい形で展開せられ,国民の健康に大きく寄与しつつあることは,誰しもこれを認めるにやぶさかでないであろう。
 これは,われわれ公衆衛生人だけの誇りではなく,すべての国民の誇りであり,比較的若いこの分野を,さらに正しくたくましく成長させ,より大きく稔らせるよう,もしその育成を妨げる雑草があるならそれを除き,養素や扱いの点に欠けるものがあるなら,よりよく肥培管理するという,その努力を惜しんではならない。にもかかわらず,一部でどこかに,公衆衛生が"たそがれ"を迎えつつあるのではないかという,悪魔のささやきにも似たつぶやきがあり,かと思うと一部には,いやそれは“あけぼの”のうす暗さにすぎないという,善意と希望の反論もきかれる。わが国の公衆衛生は,そんなにも弱々しく,“わかめ”の状態のまま,ひよわな草花のように成長をとどめる存在であろうか。われわれの期待は決してそうではない。それは亭々とそびえて,わが国民の健康と福祉とを約束し,ひいては四囲の国々にもその恵沢に浴すことができる,大樹の素質をもつと信じている。世界のあちこちで,花ひらき実を結びつつある同じ樹木が,わが国では地味わるく,育ち難いなどとは考えたくない。

討論記録

公衆衛生基本法制定は必要か—第23回日本公衆衛生学会医療保障自由集会から

著者: 東田敏夫

ページ範囲:P.30 - P.34

現実の活動の中から生まれた基本法案
 司会(東田敏夫・関西医大)最近「公衆衛生基本法」とか,「健康基本法」といわれる立法措置の構想が出され,今日の公衆衛生学会においても報告がありましたが,本日の集会はこの問題をめぐって自由な話し合いを進めたいと思います。法体系がありましても,この中において,地方自治の問題とが,実際に現場の衛生行政にさまざまな問題が関連しあって出てきます。そこでまず,この問題をとりあげ火つけ役となった研究グループの方に,その経緯,現時点でとりあげられた理由,などについて述べていただきたい。

人とことば

公衆衛生の基本法を

著者: 三木行治

ページ範囲:P.1 - P.1

 私が厚生省を卒業してはや13年である。現役選手だとは夢にも思っていないが,さりとて傍聴人あつかいも不満である。国際劇場のダンサーが日劇に移ったようなもので,今も昔もかわりなく型をかえておどっていると自分では考えている。
 その目から最近の公衆衛生陣をみると,昭和12,3年組みの生え抜きの俊秀がズラリと局長席に並んだ姿は,おそろしくりっぱである。他省ならば別に若返り人事というほどの年頃でもないが,厚生省の歴史としては,かつてない面目一新である。私はふと勝俣大先輩のあとを,東,浜野,私の3人で分けついだ頃を思いだした。もちろん今日の方がいっそう強力だと思いながら。厚生省は今日のトリオの力で新たな黄金時代に入るかもしれないという予感がする。だからあえてネット裏からときどき註文をつけてみたいと思う。

座談会

公衆衛生の将来像を語る

著者: 重松逸造 ,   村田謙二 ,   須川豊 ,   水野肇 ,   山本幹夫

ページ範囲:P.2 - P.14

 公衆衛生活動を推進していく上で,いろいろな隘路があり,相互の連けいという面でも欠けている,縦割り行政の欠陥が原因だなどという声は,今日至るところでいわれている。また公衆衛生の発展を阻害する真の原因をつきとめようという試みが各地でなされているとも聞く。こうした情勢を受けて,今年の冒頭を飾る意味でも,日本の公衆衛生にどのような問題点があるのか,そのあるべき姿とは何かを描き出してみようとしたのが,この座談会である。行政の第一線で活躍中の須川氏からの卒直な反省,公衆衛生に関心が薄いといわれている医師会の村田氏からの全面的な援助,研究機関で公衆衛生に寄与される山本氏,重松氏の意見など,あるいは現在ジャーナリズムの一線で医療ジャーナリストとして奮闘しておられる水野氏の示唆など,いずれ劣らず,日本の公衆衛生の発展を願う方達の活発なご発言を収録した。ご一読いただき今後の方向を見出していただければ幸いである。

ひろば

産業衛生面にもっと目を向けよ

著者: 山下辰雄

ページ範囲:P.39 - P.39

 保健所で公衆衛生の実務に携わっている者にとって,その時々の公衆衛生上の問題について相当深い知識を必要とする。今までにも本誌でこういったものの特集もなされたのであるが,学問技術の進歩のはげしい現在,さらにこれを重要視してほしいものである。
 私が勤務する尼崎市は人口50万余りの政令市で保健所が4つある。自分達の市が公衆衛生上で他都市に比べどのような位置におかれているかを知ることは,単に公衆衛生関係者に必要なだけでなく,それ以外の一般の市政に関係している者に対する教育の手段として大切なことである。そしてこのような政令市は府県保健所の管轄地域といろいろの点で趣を異にし,指定都市のような財政規模の大きい都市とも異なる点が多い。政令市の公衆衛生状態の鳥瞰できるような特集号でもつくっていただきたい。私が前に勤務していた尼崎市東保健所管内には,特に中・小工場が多く,しかもそれらの工場の衛生管理の状態は良好とはいえず,中にはまったく放置された状態といった方がよいような所も多い。そしてこれらの衛生管理に関係する人達は,産業衛生の専門家でない場合がほとんどである。保健所の職員もその例外でない。産業衛生面に関する本誌の内容の充実もはかってほしいと思う。

研究

都市の地域社会における結核蔓延の実態論的研究

著者: 小林治一郎 ,   吉田三郎 ,   藤田寛子 ,   高田とし子 ,   竹内亨斉

ページ範囲:P.40 - P.48

1)「一斉検診」などによって発見された者は,「自覚症状によって受診」して発見された者よりも経過がよい。
2)「発病前に定期検診」を受けている者は,受けていない者よりも経過がよい。
3)「経過」と「受療状況」との間には直接には明確な関係はない。医療中止,不受療の理由の7割は,「自覚症状が少ない」と「知識の不足」とであった。自覚症状の「ない」者は5割,「あまりひどくない」者は3割であった。
4)「生活規則がよく守られている者」は経過がよいが,「自覚症状の少ない」者では生活規則が守られにくい。
5)住居の「2部屋以下」の者は,「3部屋以上」の者より経過が悪い。
6)生活状況の「下」の者は,「中」,「上」の者より経過が悪い。「結核発見の方法」,「発病前の定期検診」などの結核管理技術の利用状況でも,「下」が他より悪く,本来の経済状況のほかに,これらの事情が作用していることはたしかである。
7)企業の規模が「49人以下」では,それ以上のものより経過が悪いが,「49人以下」の企業では定期検診を中心とする結核管理技術の利用が少ない。
8)「臨時日雇」,「商人職人」,「自由業」,「家事」,「無職」の群の経過が最も悪く,「常用労務者」,「民間職員」,「官庁職員」の群がこれに次ぎ,「小中学生」,「高校生以上」,「乳幼児」の群が最もよい。これは定期検診を中心とする結核管理技術の社会的な普及度とほぼ平行するようである。
9)「年齢」が多くなるほど経過は悪い。これは結核管理技術を利用している状態とほぼ平行する。
10)「性別」と経過との間には明らかな関係はない。
11)「転入者の結核」の大多数は,転入後3年以上たってから発病している。したがって転入後の発病とみなさなければならない。
12)以上の10の要因を分析し,さらに長田区の11の地区における蔓延状況と比較して整理すると,基本的な条件としては,
 ①定期検診を中心とする結核管理技術
 ②住居の広狭,収入の多少などの生活状況(経済状況)
 ③自覚症状が少ないという特性を中心とする結核症の知識
 ④地区における伝染源
 の4つとなる。したがって対策はそれらによりおのずから定まってくる。

奈良県下農山村域における壮老年者の循環器学的考察 第3報 血圧頻度分布

著者: 福井定光 ,   石川兵衞 ,   喜多豊 ,   梅山仁一 ,   勝山哲三 ,   田村雅宥 ,   田中嘉美 ,   船田佳宏 ,   増田隆美 ,   阿部圭助

ページ範囲:P.49 - P.54

 奈良県東北隅の隣接する2村(山添・月瀬)における成人病検診成績については,第1報1)および第2報2)で心電図所見を中心として述べた。今回は年齢・性と血圧頻度分布,血圧平均値および高血圧頻度との関係について検討を加え,さらに壮老年期における血圧頻度曲線の非対称性について統計学的考察をこころみた。

厚生だより

へき地医療対策

ページ範囲:P.55 - P.56

へき地の現状
 全国無医地区の実態は,昭和35年6月の調査によると,人口300人以上の集落における無医地区が1,352カ所,人口50人以上300人未満の地区が711カ所である。この無医地区のうち,汽車,バスなどの交通機関が運行されていないという地理的状況から最寄りの医療機関が容易に利用できない地区,および人口密度が稀薄であったり,経済事情が悪いという地区967カ所については,国の積極的な補助事業により無医地区の解消をはかっている。

ニュースの焦点

人口問題の展望

著者: 篠崎信男

ページ範囲:P.58 - P.59

 昭和41年9月1日の日本人口は9838万と推定されている。現在の状態からみると,昭和42年から43年にかけて日本人の人口は1億を越すものと思われ,昭和80年前後に最大人口1億2200万に達するであろうと予測されている。しかも,15歳未満の幼少年人口と65歳以上の高年人口がほぼ同数の2000万前後に達する見込みであることも推計されるのである。
 終戦後のベビーブームを経て,急速に人口調整に自主的に入った日本人はわずか10年間で出生率を34.3から17.2と半減させ,思いきったこの動態の変化は世界の人口学者をして奇蹟と叫ばしめるに到った。このようにして,多産多死から少産少死へと向かった日本人口は昭和31年以降かなり安定した低出生率で移行していったが,昭和40年からは若干の波動的変化がみられはじめている。特に,昭和41年は丙午のためかどうか,前年度に比較して1月〜9月までの出生減退は28万を上廻っていることが報告されてもいる。今や日本は形の上では出生も死亡も文明国並みであり,最近は乳児死亡率もようやく低位に下がってきた。しかし取残された問題としては,人工妊娠中絶,人工死産の問題をはじめ,未だ諸外国に比して高い妊産婦死亡率をあげることができる。

モニターレポート

交通公害,岐阜県下でも赤信号

著者:

ページ範囲:P.20 - P.20

 岐阜県下の交通公害実態調査結果がこのほどまとまった。これは「薬と健康の週間」行事として,県学校薬剤師会,県薬剤師会,県厚生部がタイアップして行なったもので,さる10月19,21日の両日,午前8時から午後6時まで1時間おきに,県内で交通ラッシュとなる岐阜市,大垣市など10市町,12カ所で実施した。調査項目は,風向・風速・湿度・温度をはじめ,公害の心配がある炭酸ガス・一酸化炭素・二酸化イオウ・じんあい・騒音から交通量まで調べるという大がかりのものだった。その結果,まず一酸化炭素は,わが国の許容量100ppmこそ越えなかったが,羽島郡笠松町,羽島署前では78ppm,大垣市郭町交差点でも75ppmと高い濃度を検出し交通整理にあたっている署員が息苦しさを訴えるほどであった。とくにラッシュで車が停滞するときに高い数値を示すこともわかった。
 じんあいは,ろ紙じんあい計で吸光度を測定したが,いずれも学校環境衛生基準値(0.1)を上回り,なかでも羽島署前は0.75という高い汚染度を示し,ついで大垣,岐阜市も基準値を3倍近く上回った。これは通路状態に左右されるが,やはりディーゼル車の排気ガスが一番影響しているようである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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