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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生31巻11号

1967年11月発行

雑誌目次

特集 住宅と健康 第8回社会医学研究会・主題報告と総括討議

開会のあいさつ

著者: 曽田長宗

ページ範囲:P.617 - P.618

 1.すでに40数年以前,B. Chajesはその著Kompendium der Sozialen Hygiene(国崎定洞邦訳,社会衛生学綱要)の第3章・住宅の社会衛生学において,住宅問題ほど物理的生物学的衛生学と社会衛生学とのものの見かたの相違を明確に示すものはない,と述べた。その意味は,従来の物理学的生物学的衛生学が,ただ単に住宅のあるべき姿,Soll-zustandの探求にのみ止まろうとするのに対し,社会衛生学の立場は,この知識に基づきつつ,このような条件を満たす住居に住み得る者,逆にはその条件にかなわない不良住宅に住まざるをえない者がどれくらいいるかの実情,すなわちIst-zustandを明らかにし,現実にそのような住居生活を強いられている勤労大衆の居住条件を,いかにして改善向上させるかの社会的,技術的対策を考究するものでなければならないという主張である。
 2.現在の勤労国民の居住状況を明らかにしようとするならば,まず居住状況の良否あるいはその度合を弁別する尺度を定めなければならないが,残念ながら今日広く認められている規準がない。たとえば,住居の広さ,わが国では1人当りの畳数などが一種の規準と認められているが,これだけで最後的断定をくだすわけにいかず,採光,通風,家内の設備,環境条件なども何らかの形で考慮されなければならず,試みとしては,採点法による住宅の不良度測定も行なわれている。

主題報告Ⅰ 都市居住者の住生活と健康

座長まとめ

著者: 東田敏夫 ,   須川豊

ページ範囲:P.619 - P.621

Ⅰ.都市における住生活の困窮
 都市居住者の日常生活におけるもっとも多い不満は「住宅困窮」である。昭和41年9月の「住宅需要の実態調査によると,全国市部抽出3万余世帯の44%は「住宅に困っている」と答え,35年よりも8%も増えている。都市における住宅困窮は,市民の各層にひろがっているが,とりわけはげしいのは低所得階層である。38年の「住宅調査」によっても,月収が少ない世帯ほど,非住居居住,狭小過密,老朽,同居などの「住宅難世帯」の割合が大きく,また住宅難世帯の90%は月収5万円以下の世帯である。おおまかにみて,都市の低所得勤労者世帯は2世帯のうち1世帯は住宅に困窮しているといってよい。
 住宅だけではない。ごみ処理,排水,下水,道路などの住区の環境衛生,大気汚染,河川汚濁,悪臭,騒音などの産業公害と都市公害,自動車事故の発生犠牲など,低所得勤労階層が多く住む地域ほど条件がわるいという,市民の住居と住環境の階層格差と地域格差が認められるのである。

報告1.新しい生活環境(転宅)が肺結核の発病や未熟児の出生にあたえる影響

著者: 橋本周三

ページ範囲:P.622 - P.624

 生活環境の変化が私たちの健康に影響を与えることは,多く言及されている。転宅という住生活の新しい生活環境が,肺結核の発病や未熟児の出生にいかなる影響をおよぼしているか,過去の健康管理の資料から考察してみた。
 管理地域は,現東大阪の一部である旧布施市における肺結核患者と未熟児発生状況である。まず肺結核の新しい発生患者は,管轄保健所の結核診査会に提出されるX線写真に基づいて,診査会の協力を得て把握した。

報告2.鉄筋アパート団地居住老人の健康と生活における問題点

著者: 西尾雅七 ,   長谷川豊 ,   桑原治雄 ,   北田章

ページ範囲:P.624 - P.626

 現在鉄筋アパート団地に居住する65歳以上の老人人口は5万人以上と推定される。今後も郊外団地の造成や市街地再開発による住宅の高層集団化がいっそう促進される見通しにあること,かつ既存の団地における人口構成の老齢化の傾向の2点から,鉄筋アパート団地居住老人人口はもちろん,団地居住者に占める老人の割合も増加の一途をたどることが予測される。
 このような情勢から,団地の住居環境や社会環境が老人の健康や生活に適合したものであることが必須の条件となってくるが,実情はどうであろうか。この点について社会医学的観点から調査を実施しその問題点を明らかにすることを試みた。

報告3.感染性在宅結核患者の住居事情からみた問題点

著者: 谷田悟郎 ,   坂井史枝

ページ範囲:P.627 - P.630

 最近,結核はその死亡率が低下したため斜陽化したといわれる。しかし,未開放部落など低所得層を多くもつ大阪民主医療機会連合会の5病院・診療所では,昨年10月の総外来肺結核患者のうち21%の感染性患者がなお入院しないで受診している。この感染性患者の住居が,診療の場として結核感染予防面からみて適しているか,さらに動的な観点から住居環境はどうか。この現状から結核患者およびその家族に及ぼす問題点を,社会医学的観点より追求した。なお,昨年11月,大阪民医連(略称)でケースワーカー,保健婦が在宅感染性肺結核患者の入院を阻む諸因子を調査した。生計の中心者である国保本人の労働者や外国人の入院は経済的問題によって,また生計の中心でない者,主婦が乳幼児を抱えたり,入院可能の生保受給者が精神障害者を抱えることによって入院が阻まれる。医療機関が老人や重症など要付添患者を受入れない問題は,病院の「合理化」が患者側からも入院を阻む原因となっていることがわかった。
 今回,調査対象の当耳原病院は,未開放部落の大仙西校医に絶対的診療圏をもっている。昨年12月末現在の受診者総数376名,そのうち感染性と喀痰中結核菌持続陽性および間欠排菌者(要入院者)とかつて要入院者で最近6カ月間排菌陰性者,A群48名と非感染性(発病以来常に菌陰性で現在学会分類Ⅳ型B群29名)をそれぞれ,計77名を選び,そのうち54名が面接でき,その住居状況を調査した。

報告4.定期往診患者(重症・老人)の住宅事情

著者: 川上武

ページ範囲:P.630 - P.632

1.はじめに
 わが国では,慢性の経過をとり疾病の性格からいって入院の対象というよりはむしろ中間施設で治療すべきものが,現実に歩行困難という点で外来通院不能とあいまって,定期往診患者として扱われている。患者の治療にあたって,医療レベルを決定する諸因子のうち医療内容(狭義の)は医療保障の運用いかんによりある程度確保される。それにもかかわらず療養生活の基本ともいうべき衣食住については患家の所得など社会的条件に大きく制約されている。なかんずく住宅問題は社会性が濃厚である。衣食はむずかしいとはいえまだ改善の余地がないとはいえないが,住については医療担当者の最も手がおよび難くコントロールしにくい。
 入院患者でいえば病室に相当し,しかも社会的性格がいっそうつよい住宅事情を調査することにより,定期往診患者(重症・老人)をめぐる問題点が明らかにされるのではないかと考えた。報告は,3診療所(杉並組合病院6,甲府共立病院36,根津診療所4,計46例)の1967年5月現在の断面調査に基づく。

報告5.清水焼作業従事者の住居と健康について

著者: 来嶋安子 ,   奥村敏雄

ページ範囲:P.632 - P.634

 清水焼産業は,京都における芸術性の高い伝統産業として存続してきたが,生産において高度の手工業的熟練を要するものであり,機械化生産によっては清水焼本来の特質を失う危険性があるために,現在なお手工業的生産に頼っている。したがって他府県の大量生産方式に押され,大衆的な商品市場から遠ざかる傾向がある。さらに流通面においては問屋制支配が強く残っており,ために清水焼産業は未だ零細な企業経営から脱しきれない状態である。戦後伝統産業発展の糸口を求めて,生産設備の改善や関係諸方面からの労働条件改善などを目的としていくつかの調査がなされている。今回はこれら調査資料から住居と健康に関する状況を把握しつつ,実施した事例研究のなかから典型例を紹介する。

報告6.不良住宅地区改良住宅における住生活

著者: 広原盛明

ページ範囲:P.634 - P.635

住居と健康
 1.住居と健康
 住居の条件として一般には,①安全性,②保健性,③機能性,④快適性といったことが重要視されている。住居は自然の脅威から人間の生命を守る安全なシエルターであり,その生命を健康な状態で維持しつづけるために衛生的でなければならず,また住み手の日常生活上のさまざまな要求に機能的に対応し,かつそこに精神的な安定を見出せるような生活の容器・ハコであることが求められるからである。
 住居の問題を今まで主として取り扱ってきた建築学(住宅計画学),家政学(住居学)の分野では,健康に関しては住居の保健性という側面から,湿気,通風,日照,防虫などの研究が行なわれてきたが,住居研究の中心は,住居の機能性・快適性の追求にあった。このことは,医学的立場からみれば,一見住居の研究が健康と無関係であるようにも受けとれるが,健康の概念を人間の良好な精神的・肉体的状態というように理解すれば,住居の機能性,快適性もまたきわめて健康と深い関係にあることがわかる。機能性とは生活に便利ということであるが,それはたとえば,農家の台所改善によって,広くて不衛生な台所が能率的で動きやすい台所に変わった結果,主婦の労働量を大幅に軽減し,疲労を小さくするというような,健康管理の役割を果たしている。

主題報告Ⅱ 農村の住生活と健康

座長まとめ

著者: 柳沢文徳 ,   前田信雄

ページ範囲:P.636 - P.637

 このテーマでの報告は柳沢・天明による報告だけであるが,このなかでは,老朽化し不健康性のはなはだしい農村住宅の現状と,それが増悪因子となって多数の循環器疾患を招いている農村の実情,ならびにこれらを改善できないでいる農家の貧困と従来の生活改善運動の限界などについて言及された。これに追加して,青森県の農村を例にして,住宅構造や便所・下水の不完備などの実情が述べられた。
 この報告をめぐる討論の第1点は,農村おける住宅改善運動がどういう形ですすめられてきたかに関することであった。報告者からは,明治の頃から主婦たちによる,いわば下からの台所改善運動などが局地的にみられたこともあるが,それが農民運動などとどう結びついたものかどうかは不明であること。また戦後は上からの住宅改善運動が提唱されるが,農民は依然として貧困なために,これが農民自身の運動として展開されるに至っていないことが話された。第2点としては,農村住宅はいかにあるべきかという研究の意義や方法に関する論点がとりあげられた。すでに知られていることは何であり,今後の研究課題は何かということであるが,これについての明確な結論は見出すことができなかったように思われた。

報告1.山村振興調査にあらわれた東北地方山村における健康の問題点

著者: 西成辰雄

ページ範囲:P.637 - P.639

はじめに
 山村振興法の発足によって行政の面から山村に関する関心が高まり,今後山村の開発に大きい役割を果たしていくものと期待される。最近,保健医療の立場から調査に参加する機会を得たので,今後山村振興の問題を考えるに当っての資料としたい。

報告2.農村の住生活について

著者: 柳沢文徳 ,   天明佳臣

ページ範囲:P.639 - P.641

 1.今日住宅問題といえば,一般に都市のそれを指しており,必ずしも農村の住宅問題をも意味してはいない。しかし,日本の全住宅の約28%を占める農村住宅には問題がないのかといえばそうではない。
 たしかに現在の農村には,世帯増に伴う住宅不足という問題はないし,地域開発による住生活環境の悪化も全国の農村に共通する一般的な問題となっているわけではない。しかし,個々の農村住宅についていえば,その老朽化,日常生活に欠くことのできない住宅諸設備の悪さなど,住生活水準の低さは決して都市の場合に優るとも劣らない状況にある。

主題報告Ⅲ 居住環境と健康

座長まとめ

著者: 庄司光 ,   原島進

ページ範囲:P.642 - P.644

 ブルックリン大学教授のKappは,彼の「営利企業の社会的費用 改訂2版」のなかで,社会的費用をつぎのように定義している。「要するに社会的費用という概念は,生産過程の結果として,第三者や社会が被害をうけ,私的企業家が責任をとらない,あらゆる有害な結果や損失である」。ポール・マントウは「産業革命」で「産業革命がもっとも直接的でもっとも悲惨な結果をもたらしたのは住宅問題に関してである」と述べている。産業資本主義の段階の社会的費用は,主として都市労働者の生活困難であり,それによって都市における労働力の再生産の条件が不十分となり,あるいは破壊された。産業革命期のイギリスの労働者階級の生活状態については多くの文献がある。工場内では労働災害,工場外では住宅難,環境悪化などの都市問題,そして失業が労働者に襲いかかった。それらは低賃金,重労働と相まって,家計費の上昇,労働者の肉体的,精神的荒廃をもたらした。エンゲルスは「イギリスにおける労働者階級の状態」(1845)のなかで,マンチェスターと周辺都市の労働者住宅と居住環境についてつぎのように述べている。「マンチェスターとその郊外都市とに住む35万人の労働者は,ほとんどすべてが粗末なじめじめしたきたない小屋に住んでいる。

報告1.東京都における公害問題

著者: 南雲清

ページ範囲:P.644 - P.646

1.区部(23区)の住宅問題
 都内の住宅環境が悪化した原因の一つは,戦後20年間に住宅に対する環境規準が放置され,正しい指導がなされなかったことにある。この結果,敷地や住宅の規模に制限がなく,住宅は細分化され,不良住宅や住宅のスラム化となり,人口密度は上昇する一方で,42年1月で,1km2/15,084人と世界大都市のなかで第1位である。さらに木造アパートの増築は密集化を招き,通風の悪化,日照時間の短縮は騒音,大気汚染と重なって局地公害をおこしている。40年7月開設された都民相談室での4カ月間に約35,000件の相談件数のうち,住宅問題が60%を占め,世論調査で「住宅に困っている」が41年に42%あった。
 23区内で7.4m2(4帖半)/1人以下の住宅に住んでいる世帯が約64万(27%),老朽住宅,狭小過密住宅に住む世帯が75万8千(35%)ある。その区別では,大田,板橋,北の順で,都の北・東方面が過密地帯である。また荒川・墨田・江東・江戸川・足立・葛飾の各区は,地盤沈下と密集化のため,火災・天災の危険地帯とされ,江東区深川塩崎町の密集地域で120世帯・340人の火災被書はこの典型である。都内にはこのような「危険地域」が128カ所存在していると推定される。

報告2.都市生活者の住宅環境

著者: 小林陽太郎 ,   日笠端 ,   石原舜介 ,   駒田栄 ,   杉山煕 ,   石黒哲郎 ,   加藤由利子 ,   布施好夫

ページ範囲:P.646 - P.647

 この報告は,昭和38年経済企画庁の委託調査「生活環境指数の目標基準の作成」の一部として行なわれたもので,東京都内の特定地区を対象とした生活環境の実態調査の結果のうち,標題に関連のある成績についてまとめたものである。

報告3.都市生活者の居住条件と健康—住居と健康研究班の中間報告より

著者: 駒田栄 ,   小林陽太郎 ,   吉田敬一 ,   曽田長宗

ページ範囲:P.648 - P.649

 保健福祉の観点から,住居の質とそこに生活している居住者の身体的・精神的健康および生活状況との関連を検討し,健全でかつ秩序ある家庭生活を営むに必要な住居の条件は何かを明らかにするために,次のような調査を行なった。調査地区は"都市生活者の住宅環境"の報告で対象とした8地区から成城を除いた7地区を選んだ。調査の方法は,調査対象地区に住む2,800世帯について,まず配票調査により,1)住居と家族との関係,2)住居に関する事項,3)健康状態に関する事項 を取り調べ,さらにその5分の1の世帯について,1)住宅,2)居住者とその家族生活についてくわしく面接調査を行なった。

主題報告Ⅳ 住宅政策のありかた

座長まとめ

著者: 大平昌彦 ,   朝倉新太郎

ページ範囲:P.650 - P.651

 居住者の健康を守る立場からわが国の住宅政策を批判検討しようというのがこのSectionの目的である。
 衛生学の祖Pettenkoferは,物理・化学的な居住条件を中心に「住宅衛生」をとりあげ,学問の対象にした。その流れをくむわが国の衛生学もまた「住宅衛生」に関するかずかずの科学的研究成果を蓄積してきた。しかし,これらの成果はごく特殊な場合を除き,居住条件の「あるべき状態」―Soll-zustandを追求したにとどまり,多くの国民の居住条件の改善に役立つように政策に反映することはなかった。しかし今日,住宅問題が国民生活のうえでもっとも切実な課題となり,しかもその解決が土地問題,都市計画などを含めて,まったく個人の能力を越え,公共の力にゆだねざるをえない状況のもとでは「住宅衛生」の死命を制するものはまさに公共の住宅政策にあるといってよい。

報告1.日本の住宅政策史と森林太郎と造家・居住衛生論

著者: 丸山博

ページ範囲:P.652 - P.653

 日本の住宅政策史については研究調査の半途に演者は立っている。ただ次の二つの問題点を指摘し,これが今日的課題であること,①都市計画,都市政策の一環としたもの,②労働者福祉厚生対策,労働政策の一環としたもの――労務者供給住宅,会社給与住宅,(社宅,工場附属寄宿舎)あるいは公務員宿舎(官舎)などに2大別できるが,①の問題にだけふれる。②の課題は久保氏論文(「労働者の住居問題」)にゆずりここでは略す。
 明治5年の東京銀座大火(焼失町数42,およそ5,000軒,死者8人,負傷者60人)に際し,東京府知事由利公正は火災の翌日ただちに正院(現在の内閣に相当する)に赴き,都市計画を実施し,不燃建築物による近代都市を建設すべきことを進言した。火災から4日目の2月30日には,太政官から東京府へ達がでた。ここにはじめて東京市区改正の政府方針がでたのであった。しかし政府も東京府も具体的な改造計画や財政計画をもっていたわけではなかった。そのために煉瓦街建設事業は迂余曲析の結果,銀座大火焼失区域全部にも及ばず,わずかに銀座八丁の不燃化におわって,明治10年に竣工をみたにすぎなかった。

報告2.地域開発と住宅事情

著者: 青山英康 ,   大平昌彦 ,   丸屋博 ,   秋山晴子

ページ範囲:P.653 - P.657

1.緒論
 水島を中心とした石油・鉄鋼コンビナートの誘致に伴う工業開発については,新産業都市造成の計画段階ですでに,地域住民の健康を守るための生活環境の整備とはまったく無関係に推進されようとしている事実を,地域開発の本質を追求するなかから明らかにした1〜3)
 この事実は,今日後進農業県における広域行政化と,工業開発に代表される新産業都市造成という名の地域開発が,全国的な規模で強力な国家的施策として推進されている状況の中できわめて重大な意義を有している4〜6)。その典型として注目視されている瀬戸内海沿岸地帯に位置する岡山県南広域都市の7〜10)状況は,さらにその推進過程を慎重に観察,検討し続けなければならないことを示していると考えられる。

報告3.労働者の住居問題

著者: 久保全雄

ページ範囲:P.657 - P.658

 戦後,世界の産業の急速な進展は,技術革新,業務管理革新を中心として推しすすめられており,階級・階層分化が生活様式を大きく変遷させ,大量に貧困化している。たとえば,生活の様式にしても,単一化(農村までの電化,ガス化など)と多様化(労働時間の変化,労働条件の変化,交通の発達による通勤の変化など)が錯綜して,既成の概念では住居問題は解決しない。

報告4.不良住宅・不良住区の問題

著者: 東田敏夫

ページ範囲:P.659 - P.661

はじめに
 住宅は単に雨露をしのぐだけでなく,明日の労働を再生産する場である。そして安全で,健康的で,能率的で快適な家族生活の団らんと子弟の発育成長を約束する場でもある。もちろん日々の労働生活と社会生活を阻害するものであってはならないし,その環境は身心の安全と健康をおびやかすものであってはならないはずである。
 近年,「高度経済成長」と「国民所得水準の向上」がうたわれているが,現実には国民の住生活の困窮は依然としてつづいている。昭和41年9月,建設省の「住宅需要に関する実態調査」によると,全国市部における住宅困窮世帯44%,6年前(35年)よりも8%増加している。

総括討議 住宅と健康

その社会医学的問題点

著者: 川名吉ヱ門

ページ範囲:P.662 - P.669

 住宅と健康の社会医学的検討をめざしてあらゆる角度から討議した2日間の日程の最後を飾る全体討論をここに収録する。この大テーマの焦点をどこに求め,今後の研究をどのように発展させるかは社会医学研究者の使命であろう。

ニュースの焦点

健保特例法—今後にどうひびく

著者: 林正秀

ページ範囲:P.674 - P.674

 健保特例法が今次の臨時国会の幕ぎれ寸前に多くの国民・医療関係者・野党の反対をおしきって強行採決された。これが現実の医療に与える影響もさることながら,今後の医療保険・医療制度に対する政府の意図実現に重要な布石となっている意味で注目される。

厚生だより

昭和43年度厚生省予算要求概要(公衆衛生局関係分)

ページ範囲:P.672 - P.673

 厚生省では8月28日に開かれた省議で43年度の予算概算要求を決定し,大蔵省に提出した。43年度の厚生省要求予算の総額は8,392億円で,42年度予算6,714億円に対し約2割5分増となっている。
 ここでは,公衆衛生局関係の項目に限定して,その予算要求の概要を述べてみよう。(単位:100万円,( )内は前年度)

印象記

第8回社会医学研究会に参加して

著者: 伊藤英夫

ページ範囲:P.670 - P.670

 一世紀あまり前から,社会というものがますます痛切の度を加えて問題にされるようになってきたが,とりわけ現代のように休みなく変化をつづけ,不安定で予測しがたい環境の中にあっては,あらゆる人びとがこの問題の中に立たざるをえなくなってきている。われわれ医師も患者の治療を行なう場合,患者をとりまいている社会的諸問題を考慮に入れないような治療の効果に疑問を抱くようになってきた。この意味において,社会的立場から時代の医学的問題を追求するこの研究会は,このような現代の社会的状況に最もふさわしいものに思われる。また,もろもろの悪環境に苦しめられ,「基本的にして普遍的な生活欲求」すら満たすことができず,しかも個人の力ではいかに努力してもそこから脱出することが不可能な人びとに対して,少しでも光明を与えようとする熱意が感じられた。
 しかし,どこの学会でもそうであるが,発病数を統計的に計算し,単なる現象にすぎないものの因果関係の追求に終始して,ものごとの意味を計量的な手つづきによってしか評価しない態度はいささか残念に思えた。患者はそれぞれの個性をもった個々の人間であるということを忘れ,人間社会の福祉に簿記をつけるようなしかたで接近するのは,根本的に間違っているのではないだろうか。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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