印象記
第8回社会医学研究会に参加して
著者:
伊藤英夫1
所属機関:
1名大医学部公衆衛生学教室
ページ範囲:P.670 - P.670
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一世紀あまり前から,社会というものがますます痛切の度を加えて問題にされるようになってきたが,とりわけ現代のように休みなく変化をつづけ,不安定で予測しがたい環境の中にあっては,あらゆる人びとがこの問題の中に立たざるをえなくなってきている。われわれ医師も患者の治療を行なう場合,患者をとりまいている社会的諸問題を考慮に入れないような治療の効果に疑問を抱くようになってきた。この意味において,社会的立場から時代の医学的問題を追求するこの研究会は,このような現代の社会的状況に最もふさわしいものに思われる。また,もろもろの悪環境に苦しめられ,「基本的にして普遍的な生活欲求」すら満たすことができず,しかも個人の力ではいかに努力してもそこから脱出することが不可能な人びとに対して,少しでも光明を与えようとする熱意が感じられた。
しかし,どこの学会でもそうであるが,発病数を統計的に計算し,単なる現象にすぎないものの因果関係の追求に終始して,ものごとの意味を計量的な手つづきによってしか評価しない態度はいささか残念に思えた。患者はそれぞれの個性をもった個々の人間であるということを忘れ,人間社会の福祉に簿記をつけるようなしかたで接近するのは,根本的に間違っているのではないだろうか。