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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生31巻2号

1967年02月発行

雑誌目次

主題 胃癌の公衆衛生対策

胃癌の疫学

著者: 瀬木三雄 ,   松山恒明

ページ範囲:P.64 - P.70

はじめに
 胃癌の地理的分布が,国により,また地域により差があることはしばしば指摘されていることである。死亡統計によると,わが国で全癌死亡に占める胃癌死亡の割合は,1962〜63年の2年次合計の死亡数についてみると,男49.4%,女37.7%と高い比率を示している。他方米国白人について同じ年次のこの比率をみると,男7.4%,女5.6%にすぎない。このような癌発生の地域差を論ずる場合,最も望ましい方法としては,癌の罹病統計に基づく年齢訂正罹病率を観察することである。しかし正確な癌の罹病統計を得るためには,完備した全国的組織の癌登録制度が必要である。このような組織を持つ国は北欧4国などの若干の国にすぎず,罹病率に基づく癌の地理的分布の観察はなお困難である。これに代る方法として,現在は癌年齢訂正死亡率による地理的観察が行なわれている。
 われわれの教室では1950年以来,世界24カ国の中央統計官庁の厚意により供与されたデータに基づいて,諸国における部位別癌訂正死亡率を算出し,これをCancer Mortality in 24 CountriesNo. 1〜No. 41)〜4)として発表してきた。

胃癌のスクリーニング・フィルターの検討

著者: 市川平三郎

ページ範囲:P.71 - P.77

はじめに
 胃の診断学は最近長足の進歩をとげた。一昔前には,進行癌が診断できる胃癌の大部分であったが,現在ではX線技術の進歩および内視鏡の発達などによって一大飛躍をし,進行癌はもちろん,多数の早期胃癌を発見,確診できるようになってきた。実際に早期胃癌を何例か診断していなければ胃の診断医と認められないとさえいえそうである。
 早期胃癌が見つかるようになったといっても,簡単な検査で発見できるものではない。その診断の主体はX線検査であり,さらに内視鏡であり細胞診,生検である。これらの検査の組合せ,積重ねではじめて早期癌を診断できる場合も多い。

胃集団検診の現状と今後の見通し

著者: 林弘

ページ範囲:P.78 - P.82

胃癌による被害
 死亡統計によれば,戦後の医学医術の進展や公衆衛生の向上により,かつて猛威を奮った各種の伝染病,結核・胃腸炎・肺炎あるいは乳幼児疾患が減少し,その結果50歳にも満たなかった日本人の寿命が70歳にまで延びてきた。一方,出生率の低下に従って,国民の年齢構成が変化して,成年層,老年層の占める割合が多くなった。このため,脳卒中・癌・心臓病などの成人病による死亡が戦後年々増加して,昭和26年以降は脳卒中が国民死因の第1位に,癌が28年以降第2位に,心臓病が33年以降第3位になってきた。しかも,年齢5歳階級別に観察すれば,脳卒中や心臓病は55歳以上の年齢層に多いのに対し,癌は35〜54歳という働き盛りの年代で第1位を占めている。しかも部位別にみると,日本より癌の多い欧米先進国ですでに過去の疾病になりつつある胃癌が,日本では癌死亡者の半数近くも占めていることは,わが国の大きな特色であり単に公衆衛生上ばかりでなく社会的にも経済的にも国家の大問題である。

活動状況 地域の胃癌対策 胃集団検診の体制と問題点

胃癌対策の公衆衛生的問題点

著者: 有賀槐三 ,   高橋淳

ページ範囲:P.83 - P.86

はじめに
 胃癌を早期に発見しようとするには,臨床症状を契機としてはじめて成立する診療体系からは期待できない。現在では早期胃癌は治るものとされている。問題はこの早期発見のアプローチをどのような体系で行なったらよいかということである。個人検査に主体をおけば,公衆衛生の立場では啓蒙に比重がかかる。集団検診に主力をおけば,検診という医療行為そのものを公衆衛生的立場で直接取組まねばならない。現実は両者が併行して実施されてきている。ここに1つの問題があるが,好むと好まざるとにかかわらず胃集団検診は公衆衛生的処置を必要としている。

胃癌患者の医療の現況—大阪府の癌登録成績より

著者: 藤本伊三郎 ,   花井彩

ページ範囲:P.86 - P.90

はじめに
 公衆衛生面から胃癌対策が論じられるとき,集検活動が中心となることが多い。もとより,その活動はきわめて重要なものである。しかし,地域における癌対策を全般的に推進するという見地からみれば,現在,急を要する重要な問題がある。それは,集検活動をも含め,各級の予防,医療機関が,それぞれの機能および分担を規定し,これらを組織化し,胃癌に対する体系を組みあげることであろう。
 その目標とするところは,予防,医療の両面からの活動が,より高い技術水準で総合され,癌に対する対策を近代化することにある。

鹿児島県における胃集団検診の現況

著者: 佐藤八郎 ,   中馬康男 ,   大山治史

ページ範囲:P.91 - P.96

はじめに
 日本人の胃癌死亡率は諸外国に比べて,1,2を争う高位を占めている。この胃癌撲滅には,現段階では幾多の抗癌剤の出現にもかかわらず,早期発見が最も手近な対策として検討され,胃集団検診が日本各地で実施され活発に運営されている。
 鹿児島県における胃癌死亡の推移を第1表・第1図でみると,全図の胃癌訂正死亡率(人口10万対44.3〜47.0)に比べて(28.0〜31.3)やや下回ってはいるが,全国同様に上昇ぎみである。

京都府の胃癌対策の現状

著者: 井田和徳 ,   角谷仁 ,   川井啓市 ,   高田洋 ,   増田正典

ページ範囲:P.97 - P.100

はじめに
 近年成人病による死亡率の増加からその対策の必要性が強調されているが,なかでも胃癌対策はその最重点策として大きくクローズアップされてきている。京都府でも悪性新生物による死亡率は人口10万対124.4(38年調査1))で,昭和28年から死因順位の第2位になり,このうち胃癌の死亡率は53.0と最も高い。性別でも男64.4,女42.1といずれもきわめて高い。またその年次推移をみても,昭和25年男50.9,女31.0から36年にはそれぞれ68.7,41.4と漸増の傾向がみられ強力な刻策が望まれていた。
 よく知られているように胃癌は現代医学をもってしても,早期発見・早期手術以外には根治治癒は望めないものであり,特異な症状がないままに進行するため受診時にすでに根治不能な進行癌であることが多い。そこで医療機関受診の健康人として日常生活を送っている一般の人々を対象に,胃癌の早期発見を目的にした胃部集団検診(以下胃集検と略す)が試みられるようになった。そのスクリーニング・フィルターとしては,問診,各種の癌反応,生化学的検査法も検討されているが,いまだにいずれも信頼性に乏しい2)。現在では間接X線検査を応用した検診方法がその主軸となって,各方面で多くの成果がみられている。

人とことば

対策のための病症診断施行について

著者: 梶原三郎

ページ範囲:P.61 - P.61

 「健康は帰するところ個人の問題である」と三木清が人生論の中で書いています。医師の診断は個人の違和感の感知なしにはあり得ません。治療を目的としてならばそれでよろしいです。
 対策をいえばそれは予防を目的とします。そこでまず個人差,集団差,社会的地位による差の大きい個人の違和感を消去した診断―わるくやれば強制診断になる―が望ましいことになります。労働基本法が施行されて以来,事業体ではこの類の診断が雇傭者に課せられて,労働者保護上の使用者の義務として行なわれるようになりました。このいわゆる定期診断が円満に,かつ全員について行なえるよう常に考慮がはらわれるべきです。

談話室

今後の胃癌の問題

著者: 崎田隆夫

ページ範囲:P.62 - P.63

 近年,胃癌の多いわが国で,早期診断学が確立され,世界の医学者が今年の国際学会(消化器病学会,癌会議)で真にこれを認識し,高く評価してくれたことは,よろこびにたえない。
 早期に発見すれば助かるということになれば,広くその恩恵を国民に与えるという行政的問題に移るわけで,最近はその動きが,集団検診などの問題として現われはじめてきた。現在そして今後どのような問題点があるか,2,3の面より考えてみたい。

研究

胃癌集団検診のありかた—胃集検の実情とあるべき姿について

著者: 松田朗

ページ範囲:P.104 - P.108

 最近のブームとでもいおうか,癌の脅威がマスコミで流布されるようになると,一般国民も癌に対しては神経質なくらい敏感になってきた。統計的に死因順位の年次変動を観察してもわかるように,今日では癌(悪性新生物)が国民保健の上で重大な比重を占めるようになってきている。厚生省も国家的事業として,癌対策に本腰を入れて取組もうとしている。また愛知県では癌センターを設置し,各関係機関の協力を得て,癌の早期発見による早期治療を目指している。その他の府県にも対癌協会などの組織化が盛んになり,県の行政として,あるいは協会の事業として癌の集団検診が盛んに行なわれるようになってきた。
 岐阜県でも他県と同様に,昨年秋に癌検診車"しあわせ号"を購入し,県民の要望に答えようと癌対策にのり出している。目下のところは胃癌にその焦点を絞ってはいるが,まだまだその実施方法に多くの問題点があるように思われる。

岡山県下事業場の血圧調査結果(第4報)

著者: 大平昌彦 ,   貞利庫司 ,   谷本一 ,   大塚信夫 ,   白髪克也 ,   島村篤一

ページ範囲:P.109 - P.113

はじめに
 事業場において,高血圧管理対策を実施するときには,血圧測定,心電図所見,眼底所見,血液の諸検査など診断項目が多いことが望ましいのはもちろんである。しかし,第一次検診では多数の被検者を取扱うための簡便さ,被検者に与える負担の軽減などから,まず血圧測定を実施し,得られた血圧値を判定の基準とすることが多い。けれども,血圧値は同一人でも測定のたびに変動を示し,その変動に関与する因子も無数といってよい。したがって,同一検査対象について継続的に血圧測定を反復実施し,単にある時点のみの状況だけでなく,その変動を把握することが望ましい。
 岡山県職場の衛生管理研究会では,すでに県下事業場男子従業員の血圧測定結果,およびいわゆる高血圧者の再検結果に関してそれぞれ報告したが1)2),その後各年齢層にわたり引続き血圧検診を継続している事業場の測定値を集計検討し,正常血圧者の血圧値変動状況を観察することができたのでその結果を報告する。

地域における簡易人間ドックのパターンに関する研究—1.わが国における人間ドックの現状

著者: 小谷新太郎 ,   千葉裕典 ,   内田和子 ,   佐渡一郎 ,   渋谷修 ,   宮崎利雄 ,   渡辺真言 ,   石館敬三 ,   宇野静雄

ページ範囲:P.114 - P.119

はじめに
 いわゆる成人病による死亡率は,近年わが国における死因順位の上位を占めている。したがって成人病の予防対策を講ずることは,公衆衛生上の重要課題としてとりあげられる趨勢にある。最近の厚生行政のなかでも,成人病に関する罹患率の実態調査,検診技術の開発,早期発見,早期治療の実施,専門医療施設の整備,集団検診施設の普及などの諸対策が推進されつつある。
 一方成人病の早期発見,早期治療および健康状態把握の目的で,精密な総合身体検査を行なう,いわゆる人間ドックと称する施設が昭和29年頃より開設され1),これを利用する人々もかなり多数に及んでいる。著者らは,わが国の通称人間ドックといわれるものはいったいどのようなものか,どのような規模や形式で行なわれているかについて,全国的規模で人間ドックに関しての実態調査を行ない,将来に地域の成人病対策を推し進める際の検診技術の問題,検診と治療との結びつきの問題などについて考察するための資料を得ることにした。

厚生だより

「公害対策基本法(仮称)試案要綱」について

著者:

ページ範囲:P.101 - P.101

 昭和41年11月22日,厚生省は「公害対策基本法(仮称)試案要綱」を発表した。その骨組みは次のようなものである。
 第1章,総則
 第2章,環境基準の設定
 第3章,公害防止に関する基本的対策
 第4章,公害防止にかかる事業者の費用負担
 第5章,公害防止指定地域および公害防止計画
 第6章,公害防止委員会
 第7章,測定監視体制の整備
 第8章,財政措置など
 第9章,公害にかかる救済制度
 第10章,雑則

ニュースの焦点

自動車運転免許と医師の診断書—警察庁案と日本精神神経学会の反対

著者: 大谷藤郎

ページ範囲:P.120 - P.121

警察庁の案
 昭和42年もおし迫った12月6日,警察庁交通局は最近激増している交通事故の防止対策として,精神病の運転者をなくするため,運転免許申請や更新のさい医師の診断書提出を義務づける。また指定自動車教習所での路上教習を義務づける。このために,道路交通法施行規則を1月に改正,4月から実施の予定という案を発表した。
 このことは翌7日の朝日,毎日などの各朝刊に,「精神病の運転者締出し――診断書を出させる」「精神病者にハンドルを渡さない――免許に医師の診断書」などのはでな見出しで大きくとり扱われた。最近の交通事故の激しさは世人の頭を痛めている問題であるから,この記事は多くの人々の関心を集めたことはまちがいない。

モニターレポート

「母親は家庭に帰れ」の討議に疑問

著者: Y・K

ページ範囲:P.119 - P.119

 41年11月8日から10日まで,母子衛生家族計画全国大会が東京日比谷公会堂で開かれた。現場で直接この仕事にたずさわる助産婦,保健婦も多数参加し盛会であった。その中でのパネル討議,"特に共働き家庭について"で出された婦人労働に対する考え方で気にかかる点があるので紹介したい。
 司会は乗木秀夫(日本医科大学教授)氏によって次の4氏の問題提起がおこなわれた。三鷹市長・鈴木平三郎氏,雇用促進事業団婦人雇用調査室長・大羽綾子氏,東京都中野北保健所長・松浦利次氏,愛育病院検査室長・松波昭夫氏である。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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