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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生31巻3号

1967年03月発行

雑誌目次

主題 新しい食生活計画

食生活と流通・生産

著者: 鈴鹿寛昌

ページ範囲:P.128 - P.133

栄養計画と流通
 はじめに,ごく基本的な1つの問題を設定しよう。
 食料品の質を評価するのに,まったく異なる2つの観点がある。その1つは生理学者や医師あるいは栄養学者の見方を反映するもので,食料品の質を人間の健康におよぼす効果によって判定しようとする観点である。もう1つは,主として経済学者のそれで,ここではもっぱら食料が消費されるまでの費用が問題にされる。

これからの食生活—食生活の基本的ありかたとは何か

著者: 内野澄子

ページ範囲:P.134 - P.139

はじめに
 日本人の食生活の戦後の著しい改善,児童,生徒の体位のめざましい向上にもかかわらず,栄養水準は先進諸国に比較して著しく劣っており,家計費の構造は雑費との競合による食料費のおくれをみせている。本稿ではこのような日本人の食生活の特徴をあきらかにし,はげしい転換期にある日本の近代化のなかで食生活の基本的ありかたを考察しよう。

新しい食生活指導

著者: 桑原丙午生

ページ範囲:P.140 - P.146

 新しい食生活指導と一口にいっても,その意味は2つに解釈される。1つは時勢の変遷に伴う食生活様式の変化についての指導の面であり,他の1つは従来の食生活様式について新しい指導の方法要領を考える面である。前者は新しい食生活そのものについて指導する面であり,後者は新しい指導の方法を考える面である。さらにいえば,新しい食生活をさせるか,新しい指導をさせるか,ということである。
 しかし,ここでは区分することなく,平素考えていることを列挙する。

指針

食生活改善運動と地区組織活動

著者: 相磯富士雄

ページ範囲:P.147 - P.149

食生活の意味
 最近,「食べもの」に対する国民の関心がふたたび高まってきている。栄養価の高い食品,それを購入するための食費。着色剤,防腐剤の入っている食品,農薬などに汚染されている食品。西欧的食生活への趨勢とそれに対する反省と伝統的な民族的食生活への関心。成人病,肥満など食べものと関係の深い疾病への関心。また,体力づくりの基礎としての栄養も脚光をあびてきている。体力をつくり健康を保持増進するためには,「栄養」を取りまくからだの内的,外的環境を整備する必要がある。この外的環境を整備し向上することは,とりもなおさず「食生活」を改善することである。
 食生活とは,飲食だけの概念でなく飲食を中心とする生活をいい,生活史として長い目でみるならば飲食慣行ということにもなろう。

地域活動

岡山県の栄養改善事業の歩み—都窪郡清音村の地区組織活動を中心にして

著者: 難波三郎

ページ範囲:P.150 - P.154

地区組織活動方法確立までの経過
 栄養改善事業が本格化するまで
 第2次大戦終了までは,主として富国強兵という立場から健兵・健民の手段として健民修練や産業戦士の食糧確保,給食が行なわれ,これを中心とした栄養改善の仕事が進められた。戦後は食糧難を切り抜けるための未利用資源の活用,放出食糧,輸入食糧の食べ方の指導,給食物資の増配などを中心とした栄養改善の事業が進められてきたように記憶している。
 考えてみれば栄養というのは,食物を中心にして営なまれる「からだの中のはたらき」のことで,ただ何をどれだけ食べたかということだけで栄養を判定すべきものではない。栄養をよくするには食生活をよくすることは当然であるが,運動,休養,生活環境,精神衛生などの調和が必要であるという考え方から,昭和23年頃から本県ではやや本格的に栄養改善事業が始まったといってよいであろう。それには指導者の養成が必要になってくる。そのため岡山栄養科学園(現在の岡山県立短期大学食物科)を発足させ栄養士の養成を開始した。時を同じくして,今後全県的に栄養改善を進めていくためにはどのような方法をとるべきかという問題と取組み,1つの標準的なものをあみ出すことに努力が払われた。

人とことば

栄養学を志す人のために

著者: 佐伯矩

ページ範囲:P.125 - P.125

 栄養問題は,私達個人並びに社会の基礎として,まず解決せねばならぬ重大事である。何となれば,保健経済並びに道徳を左右する根本義であるからであり,何人といえども栄養を離れて立つことはできぬ。
 栄養の適否は,その影響をいちいち妊娠,出産,素質,発育,体位,容姿,保健,虚弱,罹病,死亡,活力,疲労,能率,心理,知能,品性,情操等,身体並びに精神の上に現わすことが立証され,従って,食物材料の生産,消費,貯蔵,配給等,食糧全般に対する企画及び対策を講ずるに当り,栄養を中心とする要が認められた。

談話室

物価と食生活

著者: 稲葉秀三

ページ範囲:P.126 - P.127

消費者物価値上りの原因は何か
 いま国民がもっとも深い関心をもっているのは消費者物価問題である。昭和41年度も政府の見通しで前年度よりも5.5%上昇することになっているし,その後の見通しも新長期経済計画によれば,向う5年間,年率4%台の上昇はさけがたいという。しかも,こうした物価動向のなかで,とくに値上りの著しいのが食料品だとかクリーニング,散髪などのサービス料金である。それだけに国民は物価上昇の脅威を数字以上に強く感じているし,政府に対する不満も想像以上につよい。
 私も,政府の物価対策の無策さに対する批判はきわめて強いものをもっている。しかし,物価の安定はただ単に政府の施策だけでかちとれるものでないことはいうまでもない。したがって,政府の施策に対する注文は別の機会にゆずるとして,ここではわれわれ国民というか,消費者の立場からの物価安定への努力について2,3考えていることを明らかにしてみたい。つまり,物価を安定させるためには,われわれ消費者自身が食生活の改善やショッピングへの工夫が必要ではないかという問題である。

海外事情

第7回国際栄養会議に参加して

著者: 佐伯芳子

ページ範囲:P.158 - P.161

50数ヵ国から2,000人の出席者を集めて
 第7回国際栄養会議は去る41年8月3〜10日西独ハンブルグでハンブルグ大学のキューナウ博士を会長として開催された。日本からも十数名の学者が出席し,研究発表やシンポジウムなどに活躍された。私もエヂンバラの第6回の会議にひきつづき今回も末席を満たす幸いにめぐまれた。
 この会議は国際栄養科学連合が主催して3年ごとに開かれ,栄養関係の国際会議としてはもっとも規模の大きい権威あるもので,今回は50数カ国から2,000人が出席され,数百の発表には興味あるものが大変多く,また日本にとっては公式に連合加盟国となって最初の会議であるなどまことに有意義な会議だった。

調査報告

献立内容を通じてみた地域食生活の実態

著者: 田中恒男 ,   津田佳世子

ページ範囲:P.162 - P.168

 栄養の摂取状況を把握するために,わが国では主として,国民栄養調査方式に準拠した栄養調査が行なわれている。たしかに栄養の摂取状況を量的に把握したり,食品構成について量的な分析を試みることは,地域の健康水準を裏づけるものとして重要な標尺ではある。しかし,この種の調査法には多くの困難や誤差がともないやすく,信頼しうる結果を求めるためには,なお検討すべき多くの問題を残している1)2)3)
 すでに筆者らは,地域の健康生活の一尺度として,献立内容の分析が必要であることを説いたが5),献立内容を通じて見られる食生活内容は,消費水準,食糧供給状況,生活意織などの経済的,社会的,文化的要因の総合された生活のパターンとみなしうると考えられる4)。したがって,これらの内容を明らかにすることは,栄養調査ではえられない食生活の質的側面を明確にし,その結果,地域保健管理体系の確立に重要な情報を提供することになるであろう。

妊婦の貧血と栄養摂取状況調査および事後指導

著者: 杉原正造 ,   岩泉春夫 ,   渡辺シゲ ,   中村佳代子 ,   太田妙子 ,   頭本藤雄

ページ範囲:P.170 - P.176

はじめに
 妊婦の貧血は,妊娠,分娩,産褥の経過を阻害し,母体の健康をおびやかすだけでなく,胎児の発育にも大きな影響を与え,ときに母児の生命を危険におとしいれることもある。この妊婦貧血も,従来は妊婦の水血症,すなわち血液の稀釈によっておこる血液中の赤血球,および血色素の相対的な減少に起因する「生理的妊婦貧血」であるとみなされ,あまり重視されていなかった。
 しかし,最近になって,全国27の医科大学が協力し,全国的な規模で行なわれた妊婦貧血研究会の貴重な研究や,さらに昭和40年3月,第17回日本産婦人科学会総会宿題報告「妊婦の貧血に関する研究1)」が,東京大学古谷博助教授によって発表されるに至って,本邦妊婦の貧血の実態や,具体的な対策が明らかにされるとともに,母子保健上の重要性が認められ重視されるようになった。

高知県における二期作農家の食生活の実態

著者: 藤村千賀

ページ範囲:P.177 - P.181

はじめに
 高知県は全国的に知られた水稲二期作地帯である。従来農閑期は,11月〜翌年2月,農繁期は4月,7月〜8月の年2回である。4月は苗の植付のみであるが,7月〜8月は稲の収穫と,苗の植付とが同時に行なわれるため,他地区または県外より鎌棒と呼ばれている男女を雇用したり,農繁期の協同炊事も実施されるなど多忙をきわめている。
 最近は,農業規模の拡大,農業経営の合理化,現金収入の増加などの農業事情の変遷に伴い,高知県の二期作地帯では,水稲の二期作のみでなく,温床(ビニールハウス)による促成栽培が発達し,従来農閑期とされていた11月〜翌年2月でも園芸作物作りに追われ,一般家庭のレジャーブームとは逆に,睡眠時間は短縮され農閑期さえなくなってきている傾向が見うけられる。

厚生だより

下水道と行政所管

著者: 楠本正康

ページ範囲:P.156 - P.157

 下水道は管渠と終末処理場から成りたっていることはいうまでもない。もっともわが国の下水道は,その出発が雨水の排除を目的としていた関係で,終末処理場に結続していない管渠だけの下水道もなおかなりに残されている。このような下水道は単なる排水路にすぎなく,本来の下水道とはいえない。下水道は人体の静脈と腎臓にもたとえられるように,汚水を集中的に処理することにより公衆衛生の確保をはかろうとする基本的な施設であるからである。
 この下水道の管渠の部分は,道路や都市計画に密接な関係があり,しかも衛生上の問題は少ないという理由で,建設省の所管となっている。これに反し,終末処理場は伝染病の予防など公衆衛生に密接不可分な関係にありかつその機能は生物化学反応によるもので,技術的にも建設行政とはおよそかけ離れているところから,厚生省の所管となっている。

ニュースの焦点

買血廃止と今後の問題

著者: 村松博雄

ページ範囲:P.182 - P.183

 "ガソリン一滴,血の一滴"という言葉が第二次大戦中,わが国で標語として使われたことがある。当時としてはガソリンを極度に節約しなければなならなかった情勢にあった。ガソリンの一滴は血の一滴ほども貴重なものである,というイメージを国民に印象づける必要があったからである。
 それから4半世紀たつ昨今,再び"ガソリン一滴,血の一滴"という標語が使われかねない状況が迫っている。「ガソリンを大切にしろ」という意味で使われるのではむろんない。

追悼

村山午朔先生を悼む

著者: 栗原忠夫

ページ範囲:P.157 - P.157

 巨星ついに落つという感がしみじみする。先生は地味な衛生行政陣営の中にあって,常に新しさと若々しい情熱を失わなかった優れたリーダーの1人であったと思う。昭和18年に衛生課長として岡山県より本県へ転じ,以後戦前,戦中および戦後を通じ衛生行政の中心にあって,戦後においては部への昇格もあり,あの混乱期に対処してその方向をあやまらず,盤石の礎を築いたことは先生の大きな功績である。仕事の辣腕家はたくさんあるが,人の上に立って人それぞれの持つ力を発揮させて,所を得させる指揮者は少ない。先生は常に部下に対して"やるだけやれ,責任は俺が持つ"といい,黙って自由に躍らせておく。仕事には折目があって,心ある者ならばその折目のところで必ず反省があるものだということを先生はよく知っていて,上司としての"たずな"はその時にこそあやつるべきであると先生は考えていたようである。だから先生の部下の中から多くの優秀な人材が生まれ,戦後の衛生行政の中で全国各県の責任者として大をなしたものも多い。
 もう1つ大書しなければならないのは講話のうまさである。先生の話の基底にはヒューマンな詩情があって,理に納得すると同時に,心の中にほのぼのとした暖い余情が残るのが他人に真似のできない特徴である。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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