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特集 明治百年と公衆衛生 ひと
後藤新平論
著者: 小野寺伸夫1
所属機関: 1厚生省結核予防課
ページ範囲:P.46 - P.48
文献購入ページに移動イプセンの戯曲に「民衆の敵」というのがあるが,医学と政治,医師と民衆,衛生問題と民衆の期待を皮肉なタッチでみごとに書きあげている。すなわち,主人公のトマス・ストックマンという医師が温泉地の衛生問題について町政に提言し,改革をせまり,科学的で先見的な計画ながら町の政治家に受け入れられなかったばかりでなく,民衆の憤りをうけ投石などを受けるという筋書きである。このように,時代に受け入れられなかった公衆衛生医の姿を戯曲化しているが,後藤新平研究をおしすすあていると,妙にこの戯曲が思い出されてくるのである。もとより,ストックマンという架空の主人公で,たかだか町の政治家にも相手にされなかった医師と,数度にわたって大臣を歴任し,科学的政治家としての後藤新平医師を同一視するなどはなはだ滑稽なことであるといわれるかもしれないが,私にとってなにか共通するものを考えないではいられない。後藤新平の親戚にあたる人物で高野長英という人があるが,経世の才のある蘭学医ながら幕末の混乱をのりきれず非業な死をとげている。このように,時代に受け入れられなかった一匹狼の人材を眺めるとき,イプセンの「民衆の敵」のもつ味わいは実に大きい。
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