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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生32巻12号

1968年12月発行

雑誌目次

特集 ビル・地下街—新しいコミュニティー

都市におけるビル・地下街の環境衛生の課題

著者: 三浦豊彦

ページ範囲:P.506 - P.511

 わたしがビルの環境に関心をもつようになったのは昭和15(1940)年のことで,はじめて,ビルのなかにあるオフィスの換気問題を中心にした調査をやってからである。そのビルは現在も日比谷の交叉点の日活ホテルの前に残っている。このビルのなかのある工業会社のオフィスで,あの交叉点を通るたびにその当時のことを思い出す。温熱条件はもちろん,時間を追って炭酸ガス濃度が測定されたし,粉塵もダストカウンターやインピンジャーで時間を追って測定された。このオフィスは当時かなりおそくまで仕事をしていたので,採取した資料を研究室までもって帰り,処理すると,23時ごろになったような記憶がある。建築衛生の面では,当時の同僚で,今は大阪市大の石堂正三郎教授が協力した。この調査結果は第何回かの連合衛生学会で報告したし,論文として"労働科学"誌にものっている。当時はこうした調査も珍しかったのである。こんなことを書いたのも,ビルの環境について,当時やっとほんの少し関心がもたれはじめたころで,全体的にみれば,オフィスビルの環境を問題にすること自身が,おかしいくらいに考えられていたものである。
 生活のなかにビルがこんなに侵入してきたのは,ここ10数年来のものではないかと思う。

都市におけるビル・地下街の環境衛生上の課題

著者: 小林陽太郎

ページ範囲:P.512 - P.516

概説
 ビル・地下街は,今日ではほとんど,人工的環境となってしまっている。そのプラス面も,マイナス面もすべて,この人工環境に起因するといってよい。
 わが国においては,これらの人工環境がばくだいな量に達しているにかかわらず,公衆衛生・環境衛生的に,必要な法的規制がないのは,たいへんな欠陥である。

地下街の空気調和と換気

著者: 今井隆雄

ページ範囲:P.517 - P.523

はしがき
 産業や人口の過度の集中が都市機能の低下や,都市環境の悪化の原因になっている。これらの問題の1つの解決方法として,地下街や地下駐車場建設の計画が多くなっている。これらの地下施設は,地上施設と異なりわずかな連絡通路を除き,全く閉鎖された空間なので,衛生的環境の保持上,また防災・保安上特別な考慮が払われなければならない。しかし経済ベースを無視した設備の計画・設計は許されないので,これらの施設の負荷特性,既設地下街設備の問題点などをよく把握しておく必要がある。以下,筆者らが行なった地下街の調査にもとづく地下街環境の実態,設備計画上の問題点について考える。

採光・照明

著者: 永田忠彦

ページ範囲:P.524 - P.527

 採光とか照明といわれることがらを正確に定義することは困難であるが,建物などにあって,光を制御して好ましい視環境を作りだすことを採光または照明という,といってよかろう。視環境を作りだすための光源が昼光の場合に採光といわれ,それが人工光源の場合に照明といわれるのが一般的であるが,また,照明ということばは,いわゆる採光と照明との両方を含む広い意味でも使われる。この意味から,いわゆる採光・照明をそれぞれ昼光照明,人工照明とも呼んでいる。しかし,照明の方式が常に昼光照明か人工照明かに判然と分類されるというものではなく,昼間でも必要に応じて人工照明が併用されるのは当然である。最近の事務所建築においては,窓からの昼光と,天井照明灯からの人工光との両方が光源となっているのが普通であり,このような照明方式はPSALI(常用補助人工照明)といわれている。
 このように,照明にはいろいろな方式があるが,いずれにしても,好ましい視環境を作りだそうという目標には変わりがない。

給水・排水

著者: 森村武雄

ページ範囲:P.528 - P.531

まえがき
 ビルや地下街の給水・排水の問題点といっても,ビルや地下街だからといって,特に異なった設備とか問題点はわりあいに少ない。今回のテーマのビルという意味は,おそらくオフィスビルをいっているのであろうと思われるが,オフィスビルは,給排水設備としてはそのサンプルともいえるようなもので,最も一般的な例と考えられる。地下街はその構成からいって,ほとんどすべてが店舗や飲食店であり,その点がオフィスビルとは全く異なっている。しかも,衛生上一番問題点が多いのがこの地下街である。本稿ではビル・地下街に共通の点を述べ,そのあとで地下街としての特徴について言及したい。
 通常,われわれが給排水設備といっているのは,給水設備・給湯設備・排水設備・衛生器具設備であり,建物の規模および周囲の状況(建物の立地条件)によって,消火設備やし尿処理設備またガス設備が加わる。さらに給排水設備を広義にいうときには,厨房設備・洗たく設備,あるいは工場・病院の諸配管設備も含めていうこともある。

清掃とゴミ処理

著者: 武藤暢夫

ページ範囲:P.532 - P.534

はじめに
 "清掃とゴミ処理"―あたえられた表題であるが,ここでは"汚水の取り扱い","ごみの取り扱い","ビルクリーニング"という立場にわけて述べてみたいと思う。ここに"取り扱い"ということばを出したのは,収集・運搬・処理・処分などを広く含めて表現したわけで,単に"しまつ"するということでなく,しまつする過程が大切だという感覚があるからである。また,ビルクリーニングということばは,昭和40年度厚生科学研究の第3分科会がいろいろ考えてたどりついたことばである。清掃ということばもまぎらわしいし,掃除というのもイメージがちがうし,とりあえずこのような表現になった。
 この稿で扱う汚水とかゴミとか,またビル機能を含めた美観保持とかは,改めてビル管理の立場に立ってとりあげようとすると,ことばにもあるいは内容や範囲にも,いくつか整理しておいたほうがよいものがある。それは,従来の都市清掃からくる感覚,あるいは家庭や勤め先の自室の掃除からくる連想,それにも増して初期のビル管理作業の代表例ともいうべきゴミ集め,あるいは,床洗い,まれには机のなかのゴキブリ退治などからくる個々のイメージを,これからのビル管理態勢に発展的に結びつけていく過程として必要なことであろと思うからである。

ビル地下街の環境衛生の課題—ねずみ・昆虫—その問題と対策

著者: 佐々学

ページ範囲:P.535 - P.538

 ビルの地下街は,いろいろな生物にとっても,人為的に作られた新しい環境であり,それまで別の自然環境に生活していた生物の一部が,たまたまそれに適応した習性をもっていたさいには,これに住みついて繁殖しうる場合もある。それは,構造上からあえて類似を求めるならば,自然界の洞穴がこれに似ており,"洞穴生物学"と比較することはたいへん興味がある問題であるが,ビルの地下には,人が住み,人の食物や排泄物などがあるという点で,天然の洞穴とは"栄養源"が大いに違っている。したがって,いまのところ,問題となっている生物(特に害虫たち)に洞穴との共通種はみられない。
 ビルの地下街に繁殖する生物のうち,特に環境衛生上の問題となるのは,ネズミ類,ゴキブリ類と,チカイエカであろう。このうち,ネズミやゴキブリは特に"地下"でなくとも,ビルの中ならどこにでも住みつきうるが,チカイエカは全く"ビルの地下街"という特別な環境に適応しているという点で,生物学的にも興味が深い。

日照間題

著者: 小木曽定彰

ページ範囲:P.539 - P.542

 日照関係で書いたりしゃべったりの注文を受けることは最近ことに頻繁であるが,ビル・地下街の特集というのには少なからず驚かされた。しかし,ひるがえって考えてみると,最も純粋に日照問題を考えるためには意外と適した場であるのかもしれない。すなわち第1に,日をよけるということは全く考えなくてよいこととなるし,もしまた日照に健康上不可欠の効用があるとすれば,地下街には長期間の居室をとることはできない。日照の効用は現在の技術では人工設備でおおむね代用できるとわれわれは考えているが,今後ますます地下街が発展して,地下街の居住人口がふえてくると,意外な方向から日照の効用を見直さざるをえないという事態が生ずるかもしれない。そして,もし新たに代用不能の効用が見つかるとすると,これは今日のややこしい日照権問題に最も明瞭な解決を与えることになる。そうならないとはだれも断言できないはずである。むろんわれわれはそれを期待しているわけではないが,地下街の居室を考える際にも日照の効用を考えることによって,必要な施設設備を求めることが有用であろうし,またそれは地上で日照を奪われたために生ずる各種の日照権問題の解決にも役だつことになるかもしれない。以下そういう意味で,日照の効用とその代替設備というものを考えていくこととするが,編集部の注文もあるので,別に日照権に関する判例その他の法律的な面の解説もつけ加えることとする。

地下街の安全対策—特に火災

著者: 前田博

ページ範囲:P.543 - P.545

新建材やプラスチックの燃焼
 一般的には,木造建築が火災を起こした場合,一度にパッと燃えあがるので,被災者はびっくりして,まさに着のみ着のままで逃げ出してしまうのを常としている。これに反して,新建材や耐火処理を行なった資材を使用してある場合,火事といってもパッとは燃えあがらない。煙を放出してくすぶる時間が長いといわれている。したがって被災者はあまりあわてず,また燃えないという自信もあって,ゆうゆうとかまえて物を持出したり,余計なことをする。その内に,フラッシュ・オーバーによって,パッと燃えあがり,大量の煙によって逃げるに逃げられなくなってしまう。最近のビル火災では,火をかぶりもしないのに死亡したり,当然,逃げられたはずのものが死亡する例がかなりあるということである。
 新建材やプラスチックの燃焼,あるいは熱分解によって,大量の煙の発生に伴って,有毒ガスの発生がしばしば問題にされている。本年の8月22日の朝日新聞に,阪大の福井講師らが,合成樹脂が燃焼する際に発生する青酸ガスを問題とし,火災による死亡原因の1つに青酸中毒が想定されることを示唆した記事が掲載されていた。

座談会

ビル・地下街の公衆衛生上の問題点

著者: 六鹿鶴雄 ,   小林陽太郎 ,   中野尊正 ,   山下章

ページ範囲:P.546 - P.552

 最近の都市は,空気汚染や騒音になやまされているうえに,勤労者の大部分は,その生活時間の大半をビルや地下街で暮している。働き場所として,生活の場として,ビル・地下街は,住地に匹敵する重みを加えつつある。しかも,公衆衛生活動からは敬遠され,疎外されようとさえしている。そこで,都市生活の新しい悩みを,"公衆衛生にかぎって"関連領域のかたがたに聞いてみると……。

グラフ

建築衛生—霞ガ関ビルを訪れて

著者: 編集部

ページ範囲:P.499 - P.502

 超高層ビル室内は外部と完全遮閉されているため,空気調和は室内の人体に快感を与えるよう,温度・湿度・空気の清浄度,気流の一定状態を適正に保持している。
 温度は,夏D.B 62℃,WB 19℃,冬D.B 22℃,W.B 16℃に調整され,快感帯温度を持続するとともに,中間期の外部条件の急変に対し,ウェザーマスターによるチェンジオーバーシステムを採用し,室内条件を快感に保持している。湿度は,夏RH 55%,冬RH 40%に調整し,空気の清浄度は集塵率95%以上の能力を有する電気集塵器により,清浄なる空気を供給している。また,気流はドラフトによる不快感除去のため特殊吹出口の開発と通常より低速度吹出を行ない満足される室内気流を保っている。

人とことば

Publicということの理解について

著者: 梶原三郎

ページ範囲:P.503 - P.503

 Public Healthという言葉は,敗戦に際して日本に入り,公衆衛生と訳され,それは憲法25条に用いられている。このHealthについてはさほどではないが,Publicについては,しばしば自分で,よく理解・把握しているかどうかを疑うことがある。こんな反省のとどのつまりは,publicはまだ君の身についていないよという,影の声のなじりで終わる。明治に生まれ,大正に学び,昭和に働いた私には,publicの一員になりきれない性質がこびりついているらしい。幼少期に父母から受け継いだ封建的な伝統が,まだ心の底に沈積していて,なお私の心に傾向をもたせるのかもしれない。私なりには,publicということの理解に勉めてきた。しかし私が現実の集団としてみてきたpublicなるものは,たいてい反抗的な小集団の暴力的な騒動に類するもので(浪人時代・川崎造船所労働争議,大学生時代・米騒動,流行性寒冒下のある紡績工場の女工集団とそのモラル),健全に成育する亭々たる巨木を憶わせるような人間の集団ではなかった。現実としてみられる人間集団は軍隊だけであって,日本にはpublicらしきものは全くなかったのではないか。
 辞典によると,publicはprivateの反語である。公と私の対比は,日本の伝統においてもはっきりしている。しかしpublicと公の間には質的(意味的)な差異がある。

談話室

—ビル・地下街—新しいコミュニテー

著者: 庄司光

ページ範囲:P.504 - P.505

 都市問題の解決策として,都市の立体化・高層化が提唱されている。ビル・地下街―新しいコミュニティーの課題もまさにそれである。しかし,これを所与のものとして,そこにおける災害予防,公害防止,環境施設の問題,あるいは新しいコミュニティーとしての機能を論ずることには筆者は抵抗を感じる。これらのものはphysicalな存在であるとともにsocialな存在であるから,まずsocialな存在としてその実態を明らかにしておこう。

研究

保健所年報に関する調査

著者: 松井熙夫 ,   青山好作 ,   橋本善彦 ,   橋本秀子 ,   石館敬三 ,   小浜恭子 ,   榊孝悌 ,   津田佳世子 ,   山本幹夫

ページ範囲:P.553 - P.559

はじめに
 地域保健活動の中心として,保健所のしごとが非常に重要であることは論をまたない。地域保健の実情を知り,これを評価するには,まず保健所活動を分析しなければならない。そのためには,一般的には保健所年報によるほかはない。
 毎年多くの保健所で年報類が刊行されている。その形態はいろいろで,内容的にも千差万別のようである。もちろん,保健所地区の実情がまちまちで,保健所側の態勢も異なる以上,年報が一様でないのは当然であるが,気になることは,これらの年報がそれによって保健所活動を評価されるように考慮され,準備されて刊行されているだろうかということである。

厚生だより

精神医療費の公費負担

著者:

ページ範囲:P.561 - P.561

 近年,精神障害者の医療保護について,社会復帰,地域社会内での患者管理などが問題になっている。また医療費について見れば,近年精神医療費は急激に増加して,昭和41年には結核の医療費を抜き,おそらく昭和43年度中に1000億円を越えるものと思われる。健康保健の抜本改正に際して,精神医療費の10割公費負担も問題として話題に上っている。過去のわが国における精神医療と医療費について主として精神障害者に関する法律を通して経過をみてみる。
 最初に精神障害者に関する法律が作られたのは,明治33年の精神病監護法である。それ以前は,明治7年に出された太政官達恤救規則で,精神障害者の保護も一部扱われていたようであるが,当時の記録によると,生命をつなぐことができる程度の金が出されただけで,医療など到底できるものではなかったとある。

抄録

地域の病院と一般医との医療協力/ニューヨーク市の中毒制御センター

著者: 白石陽治

ページ範囲:P.511 - P.511

 ニューヨーク市の医学部付属病院である聖ルカ総合病院は,マンハッタンにあって28万人の人口を有する地域に医療サービスを提供しているが,1963年には,同地域の1209人の医師のうちわずか4%が同病院と医療協力体制を結んでいるに過ぎなかった。調査によると,この地域の医師は相当な患者を同病院へ紹介しているが,病院にはその紹介を取り扱う正式な手続や組織を具備していなかった。この状態を改善するため,Dr.Paul R.Torrensは,1965年8月,同院に地域医師連絡事務室を設置し,その地域のG.P.との間の情報交換をよくし,病院の設備の利用,受持ち患者の容態の連絡,医学教育講座などをも担当した。それ以来,延450人の医師が連携をもつようになり,その結果,次のことがらがわかった。
 ①病院には,地域社会の医師よりの紹介や,彼らとの連絡をする独立した事務部が存在しなければならない。

モニターレポート

第1回"結婚医学教室"見学記

著者: 加藤道子

ページ範囲:P.545 - P.545

 財団法人母子衛生研究会は,結婚生活と健康の重要性,家族計画の正しい知識を身につけさせ,健康で明るい家庭を築くようにと,婚約者を対象にして,第1回"結婚医学教室"が,東京日本橋公会堂で9月8日午後1時から開かれました。
 これは,アンケートから,結婚前に家族計画,妊娠,健康管理などについての医学的教育をしてほしいとの要望が強く出されている点を重視して,43年9月から,東京2会場,44年1月より,大阪・名古屋各1会場で開設されることになっています。

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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