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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生32巻3号

1968年03月発行

雑誌目次

特集 医療社会事業の役割 談話室

医療社会事業とはなにか

著者: 浅賀ふさ

ページ範囲:P.126 - P.127

医療社会事業(MSW)とは
 医療社会事業とは,保健・医療の場における社会事業としばしば定義づけられてきたが,場という表現を狭義に解釈せず,むしろ保健・医療プログラムの中のチームの一環として機能する専門社会事業の一分野と解したい。現在アメリカにおいては医療・保健の臨床場面に限らず政府機関や社会保障の各プログラムの中に明確化された位置と役割をもち,社会福祉事務所に相当する一次社会事業機関にも配置され,被扶助患者を扱って効果をあげている。わが国でも生活保護行政の癌ともいわれてきた医療扶助をもっと効果のあるものとするためには,これをとり入れるべきであろう。現在わが国のMSW配置状況は病院1,900名,結核療養所340名,精神病院300名,保健所339名,精神衛生相談所31名,衛生部?を数えている。準専任を加えて専任わずか45%(病院)1),保健所にいたっては,ほとんどが保健婦か事務職員の兼任であって名目上つじつまを合わせているのみである。保健所と地域を同じくする社会福祉事務所がかかえている66万余2)の医療扶助患者の76%は自宅患者であることを考えただけでも,保健所のMSWは充実されるべきである。
 MSWの法的根拠は,わずかに保健所法第2条第6号の規定(MSW)と精神衛生法第42および43条の規定(PSW)があるだけで,MSWの身分法は未だ確立していない。

主題

わが国の医療社会事業の沿革と現状

著者: 杉本照子

ページ範囲:P.128 - P.133

医療社会事業とは?
 社会事業はさまざまの社会施設においておこなわれている。児童相談所で実施されている社会事業は児童福祉とよばれる。学校での社会事業は学校福祉事業であり,隣保館や社会館で実践されているのは地域社会福祉事業である。社会事業は人間のあらゆる生活の部面とかかわり合いをもっている。学校生活を例にとってみれば,学童の怠学,知能が優れているのに成績が悪い,学友となじめない,級の秩序を乱すといった学校生活の面でさまざまな問題をおこしている子どもを対象とする。それと同様に医療社会事業は病院,外来医療機関,結核療養所などの各種医療施設において実施されている社会福祉事業を指していう。その対象者は医療機関に来る患者であり,その人々はさまざまの問題をもっている。たとえば,医師の診断を受けいれないで治療に非協力であったり,病院生活に適応できなかったり,経済的に医療を受けられない立場におかれていたり,一応治癒しても退院先がなかったりする。せっかく,受けた医療をむだにしてしまったり,提供されたものを活用できなかったりする原因はいろいろある。それらの複雑な原因を知って,医師,看護婦,家族と協力して患者を一日も早く快復へと導く援助を行なうのが医療社会事業家の役割である。

医療社会事業の役割と位置づけ

著者: 中島さつき

ページ範囲:P.134 - P.139

歴史的発展のなかでの役割
 イギリスのベバリッヂは人生の苦悩を,貧困,疾病,失業,無知,不潔の五つの要素であらわしている。
 昔から疾病と貧困は悪循環し,貧困が疾病をよびおこし,その疾病がまた人間を貧しさの中におとしいれている。そしてすべての社会事業に共通なことは,宗教を出発点としていることである。これを医療社会事業でみれば,英米ではキリスト教が母体となり,わが国では仏教が基盤となって,貧しい病人に対しての医療と保護が行なわれてきた。

医療社会事業推進への課題

著者: 首藤友彦

ページ範囲:P.140 - P.143

はじめに
 公衆衛生の進歩とともに,従来の集団検診を主とした業務から漸次,個人を対象とする保健対策の重要性が認識され,公衆衛生看護などとともに医療社会事業の必要性が強調されてきたことは大きな前進といえよう。
 しかしながら,保健所の医療社会事業は未開拓の分野が多く,保健所業務のなかでの役割,位置づけは必ずしも明確でなく,その推進はなお困難な現状である。この医療社会事業の推進を阻むものの諸要因について,保健所の医師として,また社会事業大学において公衆衛生(医学知識)を担当するものとして私見を述べてみたい。

論点 医療社会事業に何を期待するか

医療社会事業ワーカーの役割に関する分析

著者: 田中恒男

ページ範囲:P.144 - P.146

 医療の総合化は,同時に医療に関連する多職種の役割の明確化と,相互の関連を追究する必要を生んだ。しかしわが国の医療が,すでに多くの識者によっても論じられているように,医師がともすればオールマイティの機能を保たざるをえなかった時は,それ以外の医療関係職種の地位・身分・職能などが決して十分な形で発達しえなかった。それだけに各自の機能を外延したり,また極端な主張によって裏づけようとした場面も見られたのである。このような経緯は,決して医療の円滑な発展に寄与するものではもちろんなく,相互のコミュニケーションすら絶えがちなのである。この点に関して筆者は一部論じたこともあるが1)2),今回その視点を医療社会事業に関して小調査を試みたのでその要点を報告する。

真に国民のためのものにする努力こそ必要

著者: 鷲谷善教

ページ範囲:P.146 - P.147

ばらばらな実践活動
 日本の現在の医療社会事業はそれを直接担当している従事者だけでなく,医師,看護婦,保健婦などの関係者や彼らの所属している機関や施設自体さえ,さまざまなとらえかたをしている。医療社会事業そのものはアメリカにおいて生成・発展の歴史をもち,必然性をもっている。そしてアメリカの医療社会事業はそれなりの理論と方法をもっている。わが国の医療社会事業の主流もこれを典型とし,継承しているところに特徴がある。しかし,現実の医療社会事業はそれにアプローチする人々の立場によって著しく違った様相を示し,そのため歩調が合わず,統一の意志や行動が生まれにくく,一部のやや気負った従事者の専門的自負心が医療社会事業の名を支えているような状態がある。
 あるものはアメリカの医療社会事業を信奉して,それの忠実な実践を本務と考え,あるものは新しい観点から医療社会事業をとらえ直そうとし,またあるものは医療社会事業の名のもとに,羊頭を掲げて狗肉を売るような策を講じている。しかし問題は,国民皆保険のたてまえにもかかわらず,現実には医療から見離された数多くの働く国民がいるという社会現象を前にして,医療社会事業が,患者ひいては国民大衆の医療にどのように役立ち,それを阻害する諸条件に対してどのように取組むかであろう。これを明らかにするためにまずわが国の医療社会事業の歴史を追求する必要があるであろう。

「日本のMSW」という種を育てよう

著者: 大和人士

ページ範囲:P.147 - P.149

十年一日のごとく
 現在のわが国の病院には,医師,看護婦,技術員,栄養士など,それこそ十指にあまるさまざまな職種がある。そのなかで,医療社会事業を行なう医療社会事業家(MSW)に何を期待しているかを院長の立場からのべてみたい。
 しかし,われわれの側から問題提起をする前に,期待されているはずのMSWからのいい分に耳を傾けてみたいと思う。そこで一日,われわれの病院にいる5人のMSWから,各自が抱いている悩みを話してもらった。すると,MSWに対する社会の理解がないこと,一番関係のあるお役所の福祉主事すら,医療保護事務の処理ぐらいだと考えている人が多いこと,したがって,一般に対して,MSWのPRがもっとされなければならないこと,などが問題点としてあげられた。

医学と社会科学の橋渡しの役割

著者: 千早正寿

ページ範囲:P.149 - P.150

人間の生存一切が医学の対象
 医学は自然科学として形成されたところに近代医学のめざましい発展のあとがあった。だからといって医学は単なる自然科学にとどまってもよいというものでないことはもちろんである。本来広義の医の存在理由(レーゾンデートル)は本来医術であると私は考えている。この場合医の技術は一般的な意味の技術とは異なり,後者は人間が自然に働きかける術であるのに対して,前者は人間が人間に働きかける術であるところに他の自然科学を基礎とした技術との本質的な相異のあることを銘記しておかなくてはならない。
 医学を疾病の予防治療の学とするならば,人間の生存に関与するいっさいの事象はすべて医学の対象であり,なかでも社会科学的見地から解明対処すべき分野が幅広く存在し,しかもそれが社会構造の変遷,進展とともにますます拡大され複雑化しつつあることは論をまたない。

社会福祉の立場にたつという認識を

著者: 藤咲暹

ページ範囲:P.150 - P.151

 医療社会事業は,戦後の保健所法の改正で保健所は医療社会事業の向上増進について指導および必要な事業を行なうと明記され,以来20年余を経過した。医療社会事業がわが国に入り,その基盤を築いたのははるかに戦前のことであり,その後いかに新しい分野の仕事であったとはいえ,その発展の歩みがあまりにも遅すぎると感ずるのは,私一人だけではないと思う。発展しないということは,その必要性がないためか,その必要性が理解されないためかであろう。医療社会事業などというものは,まったく無用のものでその必要性がない社会であれば理想郷であって,われわれは目標としてこういう社会を夢みているともいえるが,現実には医療社会事業の必要性は十分すぎるほど見せられ聞かされている。医療社会事業が発展しないのは,その必要性が理解されないためである。たしかに国民全般に理解されていないが,これは医療や公衆衛生などの医療関係者にもその必要性が認識されていない現状では,国民にわかってもらおうと考えることが所詮むりなことであって,当事者はこの点を深く反省しなければならない。今までの長年月にわたる関係者の懸命な努力にもかかわらず,なぜ理解がえられなかったのだろうか。

まず身分法の確立を

著者: 中村千穂

ページ範囲:P.152 - P.153

 わが国の医療部門に社会事業がとりいれられるようになってからの歴史はまだ浅く,英米におけるその歴史と比べて,その出発点も異なり,法的背景もうすい。保健所法(昭和22年法101号)の第2条第6項にある公共医療事業の向上うんぬんと,社会福祉事業法第2条第3項に規定される生計困難者のために必要な医療相談・指導を行なうことなどに止められている。しかし現在,医療社会事業家,いわゆるメディカル・ソーシャル・ワーカーに課せられていることは,それに謳われていることだけに止まらない広範な内容をもっていることはよく知られていることである。
 私は過去に,保健所のソーシャル・ワーカーとして働いた経験があるが,現在ではその第一線を退いているので現状分析はできないが.過去の経験を通して日常業務を今少しふり返って考えてみたいと思う。はじめにおことわりしておくが,今までに十分述べられていることをまた,あえて重複することがあるかもしれない。また体験的にも保健所のそれしか知らないし,紙面にもかぎりがあるので,多くは語らない。

資料

医療社会事業員について

ページ範囲:P.154 - P.155

 医療社会事業Medical Social Workが,戦後新しい保健所法の制定によってクローズアップされ30年代以降のはげしい社会変動のもとで,その必要性はいっそう増大しているにもかかわらず,制度的にいっこう発展しない。
 その基本的な要因のひとつは,プロフェッショナルレベルのワーカーの身分制度はもとより,かんじんの養成訓練課程が成立していないことであろう。

人とことば

人類は数百万人に健康をもたらし得る

著者: S. レフ ,   V. レフ

ページ範囲:P.125 - P.125

 社会医学は,社会と相互に作用する医学であり,全人民を包含する社会的・医学的・政治的行動の結合によって,労働と生活の進歩を助けて決定的ならしめ,同時に他の諸問題の解決にも寄与する。
 社会医学あるいは近代医学の真髄は,必ずしも明らかに認識されてはいない。現在の保健問題の多くは,理論では既に解決されているが,適切な社会的行動がとられていないために,まだ手をつけないで放置されている。そのほかにも多くの問題があり,未解決である。その解決策は社会状態そのものの中に存しているが,従来それについて真剣に考慮されなかった。多くの病気は,患者個人の苦痛としてよりは,むしろ社会の病患として研究されるならば,よりよく理解されるであろう。疾病には個人的原因と同時に社会的原因があり,社会的疾病として病気の発端を捕え,その対策をすれば予防が更に有効となる。

講座 疫学・1

疫学序説—開講の辞に代えて

著者: 重松逸造

ページ範囲:P.156 - P.159

 疫学的研究の最終目標は,その結果を社会集団に適用して,公衆衛生活動の具体的な対策樹立に役立たせることにある。したがって,現在幅広く利用されている疫学の技術と方法論の正しい理解と応用が,今こそ必要となってくるであろう。そういう意図から今号より10回にわたって本講座を企画し疫学研究の要点についての解説を述べる予定である。

私の保健所

保健所は苦情処理場

著者: 大串章

ページ範囲:P.162 - P.163

 "私の保健所"この題名には少々抵抗を感じたが,「公衆衛生」の編集室からの依頼で,必要にせまられて所内のそれぞれの担当者と仕事について対話をもつ機会を得た。他人とあまり距離をつくらない性分なので,日頃所内のだれかれとなく気やすく話し合いはしていたものの,この対話をもってみて,その重要性をあらためてしみじみ感じさせられた。
 この対話によって,仕事そのものについてのお互いの知識をより深め,よりたしかなものにすることができたし,お互いに仕事に対する相手方の考え方も十分知ることができた。しかし一番うれしく,ありがたかったことは,各担当者の意欲が燃えあがりかきたてられたことであった。対話の間にみられた,彼らの目の輝きを忘れることができない。この対話に比べると現行の文書報告は,あまりにもかさかさとひからびた手段に思われてくる。

めざましい結核予防婦人会の活躍

著者: 木村亮蔵

ページ範囲:P.164 - P.165

 管内は秋田市に所在し1市2町1村で,人口252,215人,世帯数60,924戸,面積941.75m2のUR1型保健所である。所長以下総務課15人,保健予防課29人,衛生課13人の職員で業務を行なっている。
 秋田県結核撲滅5カ年計画の線に添って今年で3年目に当り,保健所の重点事項の一つとして保健予防課のスタッフ結核係9人,保健婦10人で事業をおし進めている。

公害対策に明けくれる

著者: 小林金一

ページ範囲:P.166 - P.169

 名古屋の南西37km近鉄電車で約30分,石油化学の町四日市市のほぼ中央に四日市保健所がある。昭和26年に出来た木造2階建のぼろ保健所であるが,管内面積320km,人口27万人をもつUR型保健所として通常業務以外の特色ある業務をもち日々繁忙をきわめている。

研究

精神障害者に対する住民の意識態度

著者: 進藤隆夫

ページ範囲:P.170 - P.178

 地域の精神障害者の実態を把握し,あわせて地域住民の精神障害者に対する意識態度を明らかにして地域の精神衛生の向上につとめることは,精神衛生センターの機能の一つである。センターは県の衛生部とともに調査計画をたて,地区の病院と保健所と市町村の協力をえてこれを実施し,これに基づいて障害者対策と精神衛生対策をたて,地区の病院と保健所と市町村は協力して地域精神医療を進めることが理想である。
 昭和41年度には福島県原町市を中心として,地域総合医療促進のための研究が行なわれ,県衛生部の後援のもとに地区の精神病院と保健所とが地区の精神障害者の把握につとめた。さらに国立病院管理研究所は全県下の精神病院の機能分化の問題と診療圏(通院圏)をしらべ,国立精神衛生研究所は地区の精神病院の医療状況と,地域の指導者階級の精神障害者に対する意識を身近に発生した患者の処遇などのテーマを話題とした話しあいをもとにして調べた。国立公衆衛生院は,地区住民とその指導者階級の2群について,一般保健衛生についての意識態度と,精神障害者や精神衛生に対する意識態度を原町保健所長渡辺正氏らとともに行なった。これらの諸調査のうち最後のものについてここでのべる。

厚生だより

全国衛生主管部局長会議

著者:

ページ範囲:P.160 - P.160

 全国衛生主管部局長会議が1月31日に厚生省で開催された。厚生大臣の施政方針,重点施策の説明のあと,各局長から昭和43年度の重要施策と指示事項が示されたが,そのおもなものは次のようである。

保健所補助職員給与費の超過負担の解消

著者:

ページ範囲:P.161 - P.161

 昭和43年予算編成にあたって,厚生,大蔵両省は保健所補助職員給与費の超過負担問題について次の合意に達した。
 1 予箕科目
  保健衛生諸費・保健所運営費補助金
 2 給与費単価

モニターレポート

大津市の公衆衛生活動

著者: M・K

ページ範囲:P.139 - P.139

 大津市は市医師会と提携して公衆衛生活動に積極的にとりくんでいる全国でも数少ないところである。人口12万の大津市と会員135名からなる市医師会との協力態勢は,西田現市長の就任(39年9月)を契機として急速に進展した。市長は就任第1声で,「健康都市建設」を市政の第1スローガンとしてかかげた。年間数回に及ぶ恒例的な市首脳部と医師会役員との公式懇談会,および随時回多く行なう非公式な話し合いの場において,医療,衛生諸問題について率直かつ具体的な協議検討を行ない,その結果はつぎつぎと実際の市の行政に生かされてきている。
①地域の健康を守る懇談会は昭和41年1月に発足,参加メンバーは市長および関係部課長,保健所長,医師会長および診療所代表,各病院代表者で随時開催した。この会の主目的は,大津市全般の医療,衛生諸問題を「地域医療圏」の発展という高い次元で眺めた立場から検討することである。この会にとりあげられた最近の重要事項は市内公的病院の増床・増設問題である。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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