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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生32巻4号

1968年04月発行

雑誌目次

特集 これからの学校保健 主題

地域保健と学校保健

著者: 白戸三郎

ページ範囲:P.184 - P.188

一保健所長の体験から
 1.保健所長の喜びと悲しみ
 保健所法第5条の2には,「保健所に,政令の定めるところにより,所長その他所要の職員を置く」と定められ,さらに法施行令第4条には「保健所の所長は,医師であって,左の各号の1に該当する技術史員でなければならない。(以下省略)」と定めている。保健所長が医師でなければならないという規定が定められている理由は,いろいろ説かれているが,本当にこれを確信を持って人に言える人は,保健所長に与えられている数多くの責任と使命とを自覚し,身をもってこれを実践し,その喜びも悲しみもつぶさに体験して保健所行政の重要性を深く理解しているかたがただけではないだろうか。
 地域保健の向上発展のために,たくさんの法令の命ずるところにしたがって日夜心を砕く1人の保健所長の姿が,日本中のあちらこちらの市町村の保健行政推進の影にかくれてしまっていても,保健所長はかえってそれを喜んでいるのである。

論点 学校保健の発展を阻むもの

学校こそ予防医学実践の場

著者: 村江通之

ページ範囲:P.189 - P.191

 こわれてから気がつく日本の民族性
 今や世間には明治百年という―種の楽しいムードが流れている。大学生は大切な勉強を放棄して市街地を集団行進する。自動車は道路上にひしめきあって,走れないでよたよたとしている。物価や公共料金は日ごとにうなぎのぼりに昇る。上等なたんぼがつぎからつぎにつぶされて,美しいはりこの家が建てられていく。このように見てくるときバランスは失われて,まったく一種の社会的健康度を失いつつある状態といっても誤りではない。このような状態のとき学校保健の発展を阻むものについて記述するのも大きな意義があるように思われる。
 さて,約3世紀にわたって大平のムードにひたり,進展はげしい世界状勢から自動的に目かくしさせられてきた日本民族が,わずか4隻の黒船の来訪で目が覚めてあわてふためき,ついに明治維新の開国という新時代を迎えたのであった。幸い日本民族はこの一世紀の間に,目まぐるしいほどその社会の様相や生活様式を変えてきたといってよい。ようやく欧米人に追随するところまできたと考えられるとき,一部の近視眼的な血気にはやる人たちの無批判な思いあがりで暴力をふるい,広い大平洋であばれまわってはみたものの,その結果は思わしくなく,ついに世界の他国からきらわれて,とうとう他動的にこの四つの島に閉じこめられたというのが,今日の日本民族の状態である。そうしてさらにわずか2隻の原子力船の入港で大騒ぎを演じたというのが,今回の佐世保騒ぎとみてよいであろう。このぶんならメキシコオリンピックの成績もだいたい見当がつくといってもよい!

保健を深くみつめよう,掘りさげよう—高知県へき地の保健・教育環境調査と実践のなかから

著者: 荒木修 ,   松井栄一 ,   小松寿子

ページ範囲:P.191 - P.193

現状把握と問題解決への構想
 高知県の離島・へき地(山村・漁村)を歩いてみてまず思うことは,「離島・へき地の教員生活はたいへんだな」ということである。その「たいへんだな」と思うことに触れながら,問題解決への道をたどってみよう。

痛感する保健教育を支える"人"の少なさ

著者: 富田龍夫

ページ範囲:P.193 - P.195

はじめに
 学校保健は学校における保健管理と保健教育とに大別されるが,両者は互いに有機的に連繋したものでなければならないことはいうまでもない。私は学校医としての立場,すなわち一学校保健技術者としての現場の立場から考えてみたが,学校保健をすすめていくうえでの種々の困難な点はまことに複雑多岐にわたっていることを,あらためて見直さざるをえなかった。学校保健の構成,人的組織,物的資源および行政機構の諸問題など,いずれをとりあげても大きな壁に突きあたる。学校保健の重要性に対しては誰ひとり反対を唱えるものはいないのに,その実施実践面においては寒心にたえないものがあるのはいったいどう解釈すればよいのであろうか。

学校保健の本質をみつめなおそう

著者: 川津哲郎

ページ範囲:P.196 - P.199

70年の歴史の重み
 学校保健発展の現状分析が私の課題であるが現状は源があって起こることである。それを考えないと現状の打開も対症療法にしかならないものと思う。そこでまずその歴史をふりかえってみよう。明治百年を迎える今日,学校という場での健康問題にはすでに70年の歴史がある。子どもの健康育成の考えは90年以上にもなる。健康処理の所属が内務省であったり厚生省であったりしている間に,学校保健は他の教科や教育行事とたいへんなハンディキャップを持ちはじめたのである。この間隙を埋めてきたのが,当時では延び悩みを感じていた健康づくりの一分野としての体育といえよう。文部系統では保健専従の人材が得られにくかったから,そのようなきりかえをしていくほうが都合がよかったものと思う。この当時,国民の健康づくりには子どもが基礎であるから子どもの健康育成を広視野で専門的に取扱うことのできる機構の確立によりいっそうの努力があったならば,今日のように学校保健法とか何何法とか,健康を対象とする法律で子どもの健康保持の最低防禦線を引くような努力をしなくても,スムースに健康教育に伴った健康管理を常識的に運んでいけたのではないかと思う(文教下の保健基本進路)。学校保健の実施運営の伸び悩みの第一はその源をこのあたりに持っているものと思う。

人とことば

集団の医学

著者: 高橋晄正

ページ範囲:P.181 - P.181

 集団の医学について考えを進めていくに当たって,わたくしたちは人間の集団はどのようにしてできるかについて考えてみる必要がある。人間も,植物や動物と同じように自然的環境に規定された地域的集団としてみられる場合もあるが,人間はその地域的集団のなかにおいてその社会的要因に基づいたさまざまな小集団を作っている。もちろん,それらの社会的要因の発展は大きくはその地域性に規定され,また地域と結びついた自然環境の影響を強くうけている。しかしながら,集団を規定する社会的要因は,集団の医学的特性に特異的に影響を与えていることが多いので,集団の医学の出発点として,まず社会のなかにおける集団ということについて概観してみることが必要である。
 人類社会が,その最も原始的な形態であると考えられる家族から出発して,どのような過程をへて現在のような複雑な形態へと発展したかを解明することは,その背後にある自然的環境の母体をなす宇宙や地球あるいは種の起源をたずねることと同時に重要な問題である。しかし,先史考古学・未開社会の研究あるいは動物社会学の研究にもかかわらず,その解明は宇宙や生命の起源についてのそれに較べては,いまなお著しく遅れているといわなければならない。

談話室

学校保健の課題

著者: 村上賢三

ページ範囲:P.182 - P.183

 〔Ⅰ〕 わが国における学校保健は,戦前・戦後においては,その考え方なり,実際の活動面においても大きな変化が認められる。すなわち戦前の学校衛生といった時代には,校医が中心になってその活動が続けられ,しかも保健管理にその主力がそそがれてきたのである。
 そのうえその活動は,教育の目的を達成するための補助的活動と考えられてきたのであるが,戦後の新しい健康観の上にたって,生命の尊厳性に鑑み,健康の保持増進の問題は,教育の手段としてではなく,教育の目的と考えられるように,世界的に変わってきたのである。わが国の憲法第25条および教育基本法第1条の精神もまったくここに存するのである。戦後における学校保健の考え方は,上述のようにその方向を変えてきたのであるが,これが現場の教育のなかで,どれだけ正しく認識され実践されているかという点になると,今なお多くの問題を残しているのである。

海外事情

欧米の学校保健概観

著者: 川畑愛義

ページ範囲:P.200 - P.206

はじめに
 1967年7月10日から14日まで開催された第5回国際学校保健医学大会に出席したのを機会に,欧州各国を視察や参観などをしながら,時には研究所や大学などの依頼があればつたない講演などもして,主として学校保健の施設や現場活動の実態などに触れる機会をもつことができた。帰路はカナダから米国にまわりあわただしいなかにも自由と学習の旅を約3カ月間つづけてぶじ帰国した。
 生来ののんきさのうえに会話の貧困さなどもあって必ずしも所期の目的を達したとはいえないが,編集部に乞われるままにこの間における印象記をまとめることにした。はじめにとくにおことわりしたいのは,帰国後の繁忙にとりまぎれまだ学会その他の参考資料などを整理する余裕がないことである。それらは後日にゆずって,今回はもっぱら私自身の体験や観察眼にふれた数項の概要について略述したい。

研究

一郡下全小中学生における心疾患検診について

著者: 陶棣土 ,   陶易王 ,   寺島重信 ,   神辺譲 ,   横山成樹 ,   安江満悟 ,   深海和夫 ,   田村善朗 ,   木内松代子 ,   佐藤山たかぢ

ページ範囲:P.207 - P.213

はじめに
 循環器病の発展や心血管外科の発達普及に伴い,学校医がしばしば経験する学童生徒の先天性ならびに後天性心疾患は,近年大きな問題として注目されている。それにもかかわらず本邦では学童生徒の心集検および心疾患児の管理については組織的な体制が整っておらず,特殊な地域を除いて心疾患の実態もはっきりしていない。先天性心疾患は適切な処置によって天寿を全うしうるものが多いのであるが,乳幼児期に正確な診断がつけられることは比較的少なく,多数の症例が診断不確実のまま放置される例が多いと思われる。また先天性心疾患とわかっていながら本邦へき地にあっては根治的な治療法がわからず,経済的に多大の負担がかかること,さらに愁訴の強くないものもあるため,なんとはなしに放置されている症例も多い。
 後天性心疾患についていえば,その大部分をしめる弁膜性疾患は幼少期におけるリウマチ性疾患から始まることが一般的にいわれており,小中学生の時期における組織的な集団検診と学校管理による早期治療は,成人の弁膜性疾患をなくす近道であると思われる。過去結核が減少した理由の一つが,学校における結核患児の早期発見と管理にあったことを思えば,心疾患についても軌を一にするものであろう。

福島県一般住民のトキソプラスス抗体保有率について

著者: 鈴木俊夫 ,   逢坂頼一

ページ範囲:P.230 - P.234

はじめに
 トキソプラスマ(以下トキソと略)症の病原体であるToxoplasma gondiiは,Nicolle et Manceaux(1909)によって北アフリカでヤマアラシの一種Ctenodactylusgondiiからはじめて検出された。以来,人間を含め動物界に広く証明され,種々の臨床症状との関連が論議されている。さらに,最近の血清学的な検索から判明したことは,トキソは人および動物にかなり濃厚に感染しており,その中で症状を発現してくるのはごく一部で,その他は無症状に経過する,つまり不顕性感染者であるという事実である。私どもは臨床において,トキソに関係があると思われる特有な病像をそなえ,しかも高い抗体価を示すような症例をしばしば経験することを2,3の機会に報告し,さらにこのような経験を通して私どもは,福島県でもトキソ感染がかなりの高率に存在する可能性があると考えてきた11)12)。しかし,東北地方,とくに福島県では池田(1961)3),富永ら(1961)14)が行なったトキソプラスミン皮内反応調査報告があるのみで,一般住民について系統的に実施された疫学的調査報告はみられない。
 今回私どもは,福島県内の感染実態を追求する目的で広域にわたって調査してみたので,その成績について報告する。

北海道における乳幼児保健対策(第1報)—三歳児診査上の問題点(その1)

著者: 清水敏 ,   兵藤矩男 ,   黒沢和子

ページ範囲:P.235 - P.238

はじめに
 北海道では母子衛生対策をおし進めるために,昭和41年より道内乳幼児の各種の実態調査を開始することになった。その手はじめに未熟児と三歳児をとりあげたが,今回は三歳児の診査の成績がまとまったので,その成績の一部と,さらに北海道における三歳児診査をめぐる問題点などについて述べたいと思う。
 三歳児健康診査のありかたについてはいろいろな問題点が指摘されており,すでにいくつかの論文1〜5)が発表されているが,北海道では多くのへき地をかかえているだけに問題点が多く,専門医による診査とか,歯科を含めた疾病異常の発見,精神発達や生活習慣上の判定などの記載上の問題から,その場における指導や事務措置の面で手ぬかりの点がかなりみうけられるという現状である。

講座 疫学・2

流行理論

著者: 阪本州弘

ページ範囲:P.215 - P.222

 従来,伝染病の流行機序に関する研究は,理論疫学的流行モデル,流行例の疫学的調査研究,血清疫学的研究および実験疫学的研究などと多くの方面から研究がなされている。本講座では実際の流行例の記述疫学から出発して,分析疫学的な考えから流行の実態を検討する方法について述べる。

随想

衛生の旅

著者: 佐々木直亮

ページ範囲:P.223 - P.227

ロンドンの名所
 アメリカをはなれるすこし前,私はロンドンのJ. N. Morris(Uses of Epidemiologyの著者)から,次のような手紙を受取っていた。
…Alas, Dr. Crawford, who is our worker in your field,is in hospital and will not be back on duty till late in July. We therefore hope you will visit us on another occasion. …

厚生だより

水道の広域化

ページ範囲:P.228 - P.228

 水道の整備は人間の健康を保持するための最も基本的な事項となっているが,わが国に近代的水道が作られるようになってから満80年を経た現在,やっと水道の普及率は70%を越えるに至った。この普及状況も,生活水準の向上などに伴い,とくにこの10年余の進展が著しく,昭和30年度末に32.2%であった普及率が,昭和41年度末には72.2%となった。しかし,この普及率の急速な伸びにもかかわらず,現在,幾多の問題を内包している。厚生大臣はこれの解決策を生活環境審議会に諮問したが,昭和41年8月,当審議会は,「水道の広域化方策と水道の経営特に経営方式に関する答申」を出した。この答申のうち,とくに広域化の面について概略を述べる。

管理栄養士制度

ページ範囲:P.229 - P.229

 管理栄養士制度は,昭和37年9月栄養士法などの一部を改正する法律(第158号)の公布によって制定された。
 管理栄養士は,栄養の指導業務のうち複雑または困難なものを行なう適格性を有する者として,厚生省に備えられた管理栄養士名簿に登録されたものをいうのである。

モニターレポート

岐阜県公衆衛生研修会盛大に開かる

ページ範囲:P.238 - P.238

 第12回岐阜県公衆衛生研修会は2月24日,第1会場―生長の家養心会館,第2会場―岐阜県校長会館で開かれた。
 第1会場では19の一般演題がだされたが,そのうち母子保健に関するものが11題で最も多く,結核4題,伝染病2題,その他2題となっている。母子保健では3歳児や未熟児の精神発達,妊婦の保健指導のありかたなど身体面よりしだいに精神面に重点がむけられてきた感がある。また郡上保健所から発表された"新生児,未熟児訪問制度の問題点"では,訪問カードの記載不備,活用が乏しい,問題ケースの訪問回数が少ないなど,幾多の問題を含んでおり,単に予算のための訪問に終ることなく,厚生省でもこの事業に対して再認識してほしいとの訴えがあった。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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