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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生32巻5号

1968年05月発行

雑誌目次

特集 母子保健管理と対策 主題

母子健康センターの発展と課題

著者: 萩島武夫

ページ範囲:P.184 - P.190

はじめに
 市町村を単位とした母子保健事業を推進するために,はじめて母子健康センターが設置されたのは昭和33年である。その後,毎年40〜60カ所の母子健康センターが増設され,昭和42年度末には全国で503カ所になる予定である。幸い,これまでに設置された母子健康センターの大部分は,おおむね非常に活発な母子保健事業を展開しており,これを利用した母親たちや住民一般にはたいへん喜ばれているし,保健婦や助産婦をはじめ,母子保健関係者からも好評をうけていることは,運営に携わっている市町村当局や関係者のかたがたの熱意と努力によるものと思い,さらにその精進を望みたい。
 母子健康センターが母子保健行政のなかでどのような役割を果たしているか,また果たすべきかを考えるまえに,さかのぼって母子健康センターが誕生した経緯についてふれてみたい。

農村保健と母子健康センター

著者: 館正知

ページ範囲:P.191 - P.196

 母子健康センターは,母子保健に関する各種の相談に応ずるとともに,母性ならびに乳幼児の保健指導を行ない,またはこれらの事業にあわせて助産を行なうことを目的とする施設であって,市町村は必要に応じて,この施設を設置するよう努めなければならない。
 これは母子保健法で述べられている母子健康センターの性格である。

活動

離島で活躍する母子健康センターの実態

著者: 竹村秀男

ページ範囲:P.197 - P.199

はじめに
 母子健康センターは昭和33年度から設置され,42年度末までに全国503カ所に開設される。母子健康センターについてはいろいろの議論があるけれども,ともかく,今日までほぼ順調に発展し,母子保健がおくれている農山漁業地域の母子,とくに妊産婦,乳幼児の健康を守り高めるために各地でめざましい活動を行なってきた。母子健康センターは,保健指導部門と助産部門をもち,助産を含めた総合的な母子保健施設として運営されている。最近,母子健康センターが助産に偏重しているという批判が高まっているが,たとえ一部にせよこういう傾向があることはのぞましいことではない。
 母子健康センターの本来の目的は,地域内の母子の健康管理と効果的な母子保健指導をすべての対象者に推進することにある。助産はその事業の一環として付属的に行なうものである。センター発足の初期のころは,助産偏重の傾向がやや強かったようだが,最近は事情が変わってきた。助産事業も重要だが,さらに重要なことは,保健指導部門の事業の充実をはかることが全国センター関係者の関心事になり,本会も今後各センターの指導部門の活動の促進と,その指導内容の充実に努める考えである。

人とことば

科学者と実践

著者: 高橋晄正

ページ範囲:P.181 - P.181

 医学者といわれる人のなかには,「科学者ははっきりとした根拠なしに意見を述べたり,行動したりしてはならない」という立場を当然のことと考えている人がある。しかし環境の医学あるいは公衆衛生学の問題において,そのような科学者が満足して意見を述べたり,行動をしたりすることができるような決定的なにとがありうるだろうか。彼らは,そのことのゆえに,その専門領域の問題について,どのような行政措置をとるべきであるかを行政官庁から諮問されたときでさえ,正しく助言することをしないのである。
 そのなかに極く少数の人たちは,ほんとうに心の底からの不可知論者であって環境医学のような,いつでも多少のあいまいさを拭いきれないような現実の世界についての実際的な学問をするのには,不向きな人であるかも知れない。しかし残りの大部分の人たちは,助言を拒否することによって,進行しつつある現実―それは国民の健康を侵害している現実であることが多のだが―を停止させることの責任をとることを拒否し,侵害されゆく国民の健康にたいして傍観者であろうとするのである。そして,残念なことには,そのなかには科学の名において,監督責任のある時の権力者におもねたり,あるいは危害を加えた企業経営者の方を向いたりしている人たちが多いのである。(中略)

談話室

母子保健管理をすすめるには

著者: 須川豊

ページ範囲:P.182 - P.183

はじめに
 母子健康センターの活動は,地域の条件によって種々の型があるように思う。母子健康センターは,その地域の母子管理がどのように進められるかによって,活動のやりかたも自ら定まってくるといえる。
 母子衛生行政は事項別の補助金制度によって進められているが,妊娠中毒症対策とか,新生児訪問といった事業を,断片的に第一線でやっていたのでは真の効果をあげることはできない。したがって現状の母子衛生行政のみで推進される母子健康センターの活動は,単なる助産施設から検診場になってしまう恐れがある。

海外事情

スエーデン,デンマークの母性センター

著者: 松本清一

ページ範囲:P.200 - P.203

スエーデンには3種の母性センター
 スエーデンとデンマークは社会保障制度がゆきわたった福祉国家であることはいうまでもない。ちなみに妊産婦死亡率をみても,1964年度出生10万に対してスエーデン19.6,デンマーク15.6と,ともに20を割って世界の最低レベルを示しており(日本は同年97.8),母性保健でも世界の先頭をきっている国々である。
 ところでスエーデンで母性保健を推進し実行する中心となっているのは,国内の各地に多数散在している母性センターである。

チェコスロバキアの母子保健対策の現状

著者: 松島富之助

ページ範囲:P.204 - P.206

 昭和41年9月中旬から3カ月間,WHOのフェローとしてオランダ,スエーデン,チェコスロバキアの母子保健の実態をみる機会を得たが,とくにチェコスロバキアの保健機構について5週間の間よくみせてもらったのでここを中心に紹介したい。

ヨーロッパの母子保健対策の概観—とくにわが国と対比して

著者: 津野清男

ページ範囲:P.207 - P.208

母子指導センターの活動
 筆者は先年,イギリス,オランダ,デンマーク,スエーデン,ポーランドの5カ国で母子保健事業を視察したが,これらの諸国では小範囲の地区ごとに母子保健事業の拠点となる指導センター(Welfare Center)が設置され,ここで地区内の母子の保健管理を扱い,個別的にもきめ細かい指導や検診を行なうような方式をとっている。
 もちろん,それぞれの国情によってセンターの形式や経営には相違があり,イギリス,ポーランドでは国営が原則とされ,デンマーク,スエーデンでは地方自治体が主体になって運営し,オランダではいくつかの民間団体が中心になって事業を進めている。

話題

医師法の一部改正—その経緯と今後の問題点

ページ範囲:P.212 - P.216

医師法改正に至った経緯
 失業者や復員軍人が巷にあふれていた昭和21年,アメリカ軍占領下という特殊な事態のなかで,医師の資質向上を目的として,実地修練制度いわゆるインターン制度が発足した。それによって明治以来制度的にほとんど改善されることのなかったわが国の医学教育休系が,成立の事情はともあれ大きく変革されたのであった。
 しかし,当時の社会的経済的事情のためもあって,インターン生の身分,処遇,病院の指導体制などを十分整備することなしに出発したため,やがて運営の面で不都合な点が多くなってきた。とくに最近数年間は,学生と医育者の側からするインターン制度廃止の要求がはげしく,公式に文書をもって表明されたものも数種にとどまらなくなった。

研究

疾病観に関する研究

著者: 松井清夫 ,   坂本弘 ,   杉浦静子

ページ範囲:P.218 - P.222

はじめに
 公衆衛生的なコミュニティ・アプローチの初段階では,地区調査すなわち,地域の保健衛生上解決されなければならない客観的な問題点をあきらかにすることが必要であることは論をまたない。しかし一方,対策化を考えるための地区診断の段階においては,地区住民保健行動体系のなかへの問題点のとり込みの状況や程度を知る必要が正じてくる。この場合,住民の保健行動は,保健態度という行動の準備体制のうえになりたち,態度は心理的欲求に支えられたものとの解釈にのっとって調査分析が進められる1)。この作業の流れがニーズの把握といわれているが,ニーズの解釈は必ずしも諸家の見解が一致していない。ヘルス・ニーズといわれているものに心理学的意味での欲求―すなわち「健康でありたい」というものと,WHOなどで使われているような保健衛生上解決しなければならない「必要性」との二つの概念があり,これに対し田中は,コミュニティアプローチの立場からは必要性と欲求を基底としてあらわれた住民保健行動のずれをヘルス・ニーズとして把握すべきことを述べている1)。これに関し,岡田ら2)はニーズを縦の系列で国レベル,地域レベル,個人レベルに分類し,前二者は要請,要求,必要の意味を強くもち,個人レベルでは欲求と同一義に用いられるとしている。

笹子トンネル内の排気ガスについて

著者: 北博正 ,   前田博 ,   竹内瑞弥 ,   安部六男

ページ範囲:P.223 - P.225

緒論
 自動車数の増加と道路整備の進展にともなって,近年わが国では大規模なトンネルの建設が盛んになってきた。なかでも山岳の多い地方では,道路整備や時間短縮による経済効果を得るために,長大なトンネルの建設が進んでいる。
 1級国道20号線(甲州街道)にある笹子有料トンネル(日本道路公団)もこの一つである。かつては東京,大月方面から甲府,長野県へ通じるには,標高1,100mの笹子峠,17kmの坂道,悪路を自動車で1時間も要した。笹子トンネルの完成以来,これを6kmに短縮し,10分間で通過できるようになった。時間短縮,車輛損耗の軽減など,経済効果が大であるばかりでなく,乗員の疲労軽減の面からいってもその効果はひじょうに大きい。笹子トンネルは,トンネル部分3kmで,時速40kmで4分30秒しかかからない。昭和33年に完成し,その当時は1日の平均通過台数は500余台であったが,年々増加し(第1図),42年前半では1日平均7,500台におよんでいる。36年以降,交通量の増加は予想以上のものとなり,39年からは急激に増加してきたため,完成当初は換気装置もなかったが,40年になって1.8m平方の送気渠,風量40m3/sの送風機2台による換気装置を取りつけて換気を行なうようになった1)。しかし現在では,換気装置完成当時に比べ,通過台数もおよそ2倍近くに増加し,換気能力も不足となってきている。

追跡研究の問題点—日米両国の比較検討

著者: 広畑富雄 ,   倉恒匡徳

ページ範囲:P.226 - P.229

はじめに
 本論文は,追跡研究の問題点を日米両国の対比のうえで論じようとするものである。この研究の動機は,筆者の追跡研究実施の体験に基づいている。筆者は米国のハーバード大学で,ある患者集団の追跡研究に従事した。1)
 わが国でも同様の研究を行なおうと試みたが,日本特有の追跡研究実施上の困難な点が種々あり,断念しなければならなかった。これが契機で,わが国におけるCohort Study,追跡研究を実施する際の問題点を調査・分析した。本論文はその結果を発表するものである。日本には,追跡研究を行なうのに有利な点も不利な点もある。これらの諸点を明らかにすることは,わが国の追跡研究発展のための基礎的研究としての意義をもつものであると考える。

三歳児健診における母親の主訴

著者: 大脇三恵子

ページ範囲:P.230 - P.232

問題
 三歳児健診の精神衛生,幼児心理面の関心が深くなり,母親のわが子についての問題もこの方面の訴えが多くなってきている。それは必ずしも当を得た見方のみでなく,子どもの発達心理について十分な理解がない場合とか過保護による心配なども含まれる。そこで母親の訴えの傾向を把握し,健診する側の問題と比較検討して,問題発生の傾向を考察してみた。

施設紹介

香川県保健衛生センターの意義と役割

著者: 太田正

ページ範囲:P.210 - P.211

発足の動機と施設内部
 香川県保健衛生センターが業務を開始したのは昭和42年5月で,まだ1年にも達せず,その評価の段階には至っていないが,センター設立の意義とその活動内容について紹介しご批判を得たい。
 保健衛生センターの構想が生まれたのは昭和38年頃であって,その動機は老朽化した高松保健所や衛生研究所の改築を契機として,公衆衛生に関係のある諸施設を一堂に集め保健衛生の殿堂にしようという金子知事のアイデアによるものであった。その後曲折を経て成案がまとまり,40,41年の2カ年事業として建築費2億4,000万円で42年4月県立中央病院の構内に竣工されたものである。建物の構造と内容は下表のように,地下1階地上9階の建物の中に県の4施設と衛生関係の3つの団体が同居している。

厚生だより

新たな原爆被爆者対策

著者: T・A

ページ範囲:P.234 - P.234

1.従来の原爆被爆者対策の概要
 国の一般的な被爆者対策は,昭和32年法律第41号をもって制定公布された原爆医療法(原子爆弾被爆者の医療などに関する法律)によって始められた。当初の法律の内容は,被爆者一般に対する健康診断の実施といわゆる原爆症患者であるとして,厚生大臣がその疾病の原爆起因性を認定した者(認定被爆者)に対して行なわれる当該疾病についての医療の給付であった。その後,昭和35年に原爆医療法の一部を改正し,特別被爆者制度を設け,特別被爆者に対し一般疾病の医療費を給付すること,および認定被爆者が当該疾病について医療の給付を受けている場合に医療手当を支給することとした。この改正は,原爆の放射線を多量に浴びた被爆者は,放射能の影響により一般的に負傷または疾病にかかりやすいこと,負傷疾病が治癒しにくいことなどにかんがみ,これらの者の一般疾病の医療費を給付するものとしたこと,および少しでも治療効果の促進を図るため,月額2.000円内の医療手当を支給することとしたのである。その後は,政令改正により,この特別被爆者の範囲の拡大と医療手当の増額を図って今日に至っている。
 昭和32年以来,原爆医療法を施行してきたわけであるが,現在ではこの法律の対象たる被爆者は約30万人であり,このうち特別被爆者は約24万5千人である。昭和40年度から42年度についての原爆被爆者対策費の予算状況は上表のとおりである。

食品中の残留農薬許容量の設定について

ページ範囲:P.235 - P.235

 本年3月30日厚生省告示第109号で告示になった食品中(りんご,ぶどう,とまと,きゅうり)の残留農薬(ヒ素,鉛,γ-BHC,DDTおよびパラチオン)の許容量は,食品衛生法第7条第1項の規定に基づいて食品の規格基準として設定され,本年10月1日から過用されることになった(第1表)。食品中の残留農薬の問題は,近年農業技術の進歩と相まって新農薬の開発は目ざましく,農業生産に大きな貢献をしており,ここ十数年間に開発された有機塩素剤や有機燐剤をはじめとする新農薬の生産量は増加の一途をたどり,農作物の病虫害防除のため,毒性の強い農薬が多量使用されるようになった。このため,昭和27年〜28年頃から農薬撤布中の事故や管理上のミスによる事故が急激に増加しはじめた。またこの頃から撤布した農薬が食品中に残存し,これがために人体危害の発生が危惧されるようになった。たとえば,昭和29年に茨城県下でパラチオンの付着したきゅうりの漬物による事故が発生し,残留する農薬による食中毒が問題となった。また,米の中に残留する水銀に関連して人体毛髪中の水銀量の増加,外国における人体器官内におけるDDTなどの塩素剤の蓄積に関する報告などである。

資料

東京都保健所の精神衛生業務の調査—精神衛生相談員連絡協議会(仮称)

著者: 山下章

ページ範囲:P.233 - P.233

 昭和42年7月現在,東京都の保健所のうち精神衛生相談員が配置されているのは12カ所,そこで配置のない他の49カ所について調査したところ次のような結果が得られた。

モニターレポート

岐阜県精神衛生協会研究会開かる

著者: M・K

ページ範囲:P.190 - P.190

 昭和43年3月19日午後1時より,岐阜県精神衛生協会42年度総会が開かれ,事業報告,収支決算などのあと,協会組織の改革が発表された,行政をバックアップすることを使命とする本協会の事業をいっそう広く,深く県民大衆のなかに働きかけていくために,従来の組織機構を大改革し,真に県民のための協会として一大飛躍をとげることとなった。改正のおもな点としては,
 1.従来の常任理事制度が廃止され,理事会は審議機関となったこと。
 2.理事の構成分野を拡大し,県民全体から各層の代表を選ぶこととしたこと。
 3.新たに執行機関として,企画委員会,専門委員会の制度を設け,専門的に深く検討して事業の実施をはかることとしたこと。
 4.機関誌編集局を新設し,広報部門の拡充をはかったこと。
 などがあげられる。従来にもましていっそうの活躍を期待しよう。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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