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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生32巻6号

1968年06月発行

雑誌目次

特集 衛生教育

衛生教育の国際的動向

著者: 宮坂忠夫

ページ範囲:P.240 - P.244

はじめに
 実は以前にも,まったく同じテーマで,第12回WHO総会における衛生教育に関する技術討議のレポートを中心に書いたことがある1)。また,WHO衛生教育専門委員会の報告書としては,衛生教育一般に関するもの(第1報)2)と,衛生教育の職員訓練あるいは養成に関するもの3)とがあって,ともに和訳書があること,さらに後者をより実際的,具体的にとりあげたものとして,同じくWHOの会議の技術レポート4)があること,その会議の衛生教育専門家の養成に関する部分のレポート5)があることなどは,多くの方がご存じではないかと思う。しかがってこれらについては,重要と思われる点を多少述べるにとどめ,比較的最近の動向について筆者の知るかぎりで書くことにしたい。さらに,いつも外国に目を向けているわけではないので,何か重大な点が抜けるのではないかと恐れるものである。そこで,最後に文字どおり斯界の先駆者であると同時に権威者であり,今なお世界を股にかけておられるC.E.ターナー教授の"衛生教育に関する世界の進歩と問題点"という論文から重要と思われる点を引用させていただこう。

職域における衛生教育の諸問題

著者: 近江明

ページ範囲:P.255 - P.259

はじめに
 昭和22年に労働基準法が施行され,職域における保健衛生活動が展開されてから,20余年の歳月が流れた。
 第2次世界大戦を荒廃の極限で迎えた産業界が,勤労者の健康管理面で当面した当初の課題は,栄養の低下と予防施策の不備にもとづく結核の蔓延と職業病の多発であり,いかにして,これらの疾病を予防し,克服するかに全力が傾注されてきた。

医師会の衛生教育へのとりくみ

著者: 重田精一

ページ範囲:P.260 - P.264

はじめに
 昭和32年1),日本医師会は武見会長のもとで新規事業計画として,医師会中心の地域社会活動の展開を提唱し,以来,都道府県医師会,郡市区医師会はそれぞれの地域の特殊性に即応した活動を進める努力を重ねてきた。
 それから10ヵ年を経た今日,その評価はまちまちであり,賛否それぞれの意向があるにせよ,当該医師会は,地域の特殊性をふまえての地域保健活動を推進させてきている。

衛生教育におけるマスコミの立場

著者: 横関五郎

ページ範囲:P.265 - P.268

マスコミの必要性と能力
 マスコミの暴力などといわれるが,ここではマスコミ論をやるつもりはない。衛生教育におけるマスコミの立場について述べるためのきっかけとして,それも,主として放送を中心にした衛生教育の問題を述べる前提として,関係のある点だけにふれることにする。
 人間が1人だけでは生きていくことができず,集団をつくって,コミュニティの中で生きていくものだとすると,とうぜん,よかれあしかれマスコミとの縁は切れないものと思う。人間社会が複雑になればなるほど,ますますその必要性は大きくなり,その方法もさまざまになってくるものと思う。しかし現代社会の時点では,雑誌・新聞・放送という3つの方法がその主流ではないかと思われる。

健康問題と新聞—一新聞記者の模索

著者: 大熊由紀子

ページ範囲:P.269 - P.272

 私に与えられたテーマは「マスコミの健康問題にとり組む姿勢について」といういかめしいものだった。けれども残念ながら記者歴5年,健康問題にとりつかれるようになってようやく3年の一記者に,マスコミ一般の姿勢などあげつらう力や資格があろうはずはない。
 それよりも,マスコミ一般に,そのような姿勢が具体的な形で存在するのかどうかも私には疑わしい。さまざまな形で私たちの前に現われてくる問題の個々についてみれば,A社は前向き,B社は後向きというような差が,現象的には読者に印象づけられるかもしれない。でもそれだけで姿勢ときめつけることは的確でない。政治・社会・経済など,歴史の古いジャーナリズムの分野でさえ時の流れとともにはげしい姿勢の変動があった。それらと比べれば,まだ生まれてまもないともいえる医学ジャーナリズムの分野で,固定した姿勢などありえようはずがない。

対談

学校保健指導の現状と問題点

著者: 佐藤恒信 ,   田能村祐麒

ページ範囲:P.245 - P.254

 衛生教育の実効をあげるためには,学校教育が基礎となり,そのうえに積み重ねられた社会教育とが一体となってはじめて可能となりましょう。佐藤先生には学校教育のなかの保健教育,保健管理の両面を含めた学校保健指導のありかたについて,一貫した指導・教育の必要性という観点から,今後のありかたを,現行の教科書・指導要領などにもふれながら問題の所在を明らかにしていただいた。そのさい,観念的な理論よりも現状に即して,現場の学校保健教育担当者がどう考え,どのような問題を抱えているかを話していただくなかから,問題の深さ,本質的な態度,技術を読者とともに考えようとの趣旨から,あえて対話の形にて全文を掲載いたします。
 対話者は,東京都板橋区立第4中学校で,保健体育の教師として20年間のキャリアをもつベテランとして活躍ちゅうの田能村祐麒先生に登場していただき,資料の提供,苦心談など,忌憚のない意見を開陳していただきました。

グラフ

私の"衛生教育"

著者: 樋代匡平

ページ範囲:P.237 - P.238

 真の衛生教育というものは,衛生に対する正しい知識を持たない人たちに正しい知識をふきこむことではないかと思う。それにはテレビが普及した今日,1人でも多くの人を集め,その人たちが納得しかつ喜び,連鎖反応で衛生教育が滲透して行くことが重要である。さらに大事なことは,自分の方から呼びかけて集まってもらうのでなく,地区住民や団体,サークルなどからのニードによって衛生教育に出かける――これが欲しいと思う。

人とことば

衛生教育について

著者:

ページ範囲:P.239 - P.239

衛生教育の目的は,人間の体と心がもっている遺伝された力の十二分の活用と,社会に対する個人の好ましい適応とを,増進することにある。衛生教育とは,健康上の問題に対する教育的な接近法(とり組み)方であり,健康の増進および病気の予防と治療のための実際的な対策に関連するものである。(中略)
 世界中の人々は,教育や教養の程度如何にかかわらず,自己保存という共通の本能を持っており,これは,健康を求める強い動機となるものである。過去においては,健康を求めて,試行錯誤と,恐怖と希望,模範の創作と模倣との長い道程を辿っていたが,今日では,科学的な知識が普及され活用されれば,いろいろなたくさんの手段があることから,快適な状態(Well-being)でいられるかどうかは,われわれ人間が解決(訳者注:健康上の問題の解決)するかどうかにかかっているのである。解決は態度に依存し,態度,洞察力は知識と体験と感情とに依存している。ところで衛生教育の方法は,一般の人々が健康について,よりかしこい選択をすることを援助するという特殊な目的にそって,進歩して来ている。

モニターレポート

保健婦のゆめ

著者:

ページ範囲:P.259 - P.259

 最近,医療の概念が健康の増進から厚生医療を中心とした社会復帰までを一連の体系をする包括的医療といわれ,総合保健活動が強く叫ばれそのために多くの人々が力をつくしている。けれどもまだ予防医学,リハビリテーションの保険給付が認められていない。このことも前進する関係者や住民の健康に対する自覚が高まったとき,現在の医療制度は変わらざるを得なくなるであろう。そして名実ともに総合保健活動が実現されそのなかで保健婦はその一分野を受持ってどんな働きができるだろうか。1つの夢をしるしてみる。
 地域には保健センターがあり,医師家庭医,公衆衛生医,諸検査技師,看護婦,保健婦,国保係,衛生係,ケース・ワーカー,栄養士,事務員などが常住し住民のための健康管理をしている。健康管理は家族単位になされ,健康管理カード(その人に関する胎児期からの健康に関すること,健康状態,家庭,社会環境が記されてあるもの)がフルにその人とともに必要な所で活用される。入院することになると,健康管理カードは病院におくられる。地域に帰るときには入院中のことが記録され,主治医,保健婦への連絡がなされる。入院治療中に自己の健康について正しく認識し,今後の生活調整について家族ともどもどうしたらよいかを把握している。これらの援助は医師や看護婦,保健婦が,治療を通じながらまた健康相談,衛生教育で行なう。

講座 疫学・3

疫学調査のポイント

著者: 平山雄

ページ範囲:P.274 - P.277

はじめに
 疫学調査の講義は一応きいた,その方法とか定義について教科書を読んだ,そのような経験を持つ者がさて実際に集団発生に際会し,あるいは異常流行とあい対して疫学調査を行なおうとする段になると,何をくらべていいか分らない。試みてはみるけれどもさっぱり自信が持てないという経験を持たれた方は少なくなくないと思う。なんといっても場数をふむことが必要だということもある点では正しいわけだが,しかしそれ以上に重要なポイントがあると考える。そのポイントとは何かということを説明するのだが,私は一言にしていえば,仮説を立ててそれを軸にして疫学調査を展開することだと思う。そうい立場と一方仮説を持たないでただ莫然と調査をつづけていく立場のいずれをとるかが,確実な足どりで求心的に結論に近づく調査にするか,どこまで調べをつづけてもまとまりのつかないものにするかの分れ目になるのではないかと考える。
 私自身過去に行なってきたかずかずの疫学調査をふりかえってみて,ある時には非常に自信をもってスムーズに調査を行なうことができたと感じ,ある時には非常にヨタヨタともたつきながら調査が進行していったということなど回顧するのであるが,反省的に整理してみると,やはり最初から方針をキチンとたててのぞんだかどうかということが,その決定的な要因になっていたと思われる。

資料

昭和40年静岡県簡易生命表を計算して

著者: 奥東保

ページ範囲:P.278 - P.280

はじめに
 戦後わが国の生活構造は,戦前に比べて大きく変化している。特に,昭和30年以後のわが国の経済構造が急激に発展したのに呼応して,われわれの生活様式は,全国至るところで古いものを脱皮し,今まで予想もできなかったような形の生活をせざるをえないような事態になっている。静岡県でも,昭和30年前後から次第に農業県から工業県に移行していった。現在では,東海道新幹線が通り,近く東名高速道路が完成する。したがって静岡県の姿はますます工業県への道をたどるであろう。他方,このような外的な条件の変化に加えて,県民の生活のしかたも以前とは非常に違ったものとなりつつある。各地にマンモス団地が出来,自動車の保有者数も増加の一途をたどっている。テレビ・電気冷蔵庫はいうまでもなく電気掃除機など家具一切総電化といえる。
 このようないわゆる生活革命の中で,県民の寿命はどのようになっていのであろうか。この小論は,このような面に関する簡単な考察である。

研究

開拓地の人口問題—(1)千振の将来人口

著者: 三浦悌二

ページ範囲:P.281 - P.286

 昭和18年12月から翌19年1月にかけて,東大医学部の大陸衛生研究会は,大東亜省の援助により北満にある第2次千振開拓団の医学的調査を行なった。千振の滞在は約2週間であったが,吉崎千秋街長はじめ開拓団の方々のご協力により,順調に調査を行なうことができた。中間報告は大東亜省に提出され,それは「千振の医学的調査(中間報告)」として拓医界2巻1号(昭和19年6月)に掲載された。しかし最終的な報告は,これとは別に学生の手から印刷にまわっている間に戦災にあい,ついに世に出ることがなかった。
 本稿のもとはそのなかの一部分の控えが幸運にも戦災を免れて残されていたものである。人口問題を扱った第1編の中で,現状の調査結果の分析に続いて,「第6章将来への考察」として開拓地の人口問題に関する当時の私どもの見解をまとめたもので,以下はその要旨を原文をそこなわない程度に簡略にして再録したものである。今となっては,満蒙の開拓地は日本とのつながりを失ってしまったが,この報告は開拓村の発生と発展の過程を人口学的に捉えたものであり,今日の社会においても生かされ得るものが含まれていると考えられる。

肢体不自由児の栄養学的研究(第1報)

著者: 園田真人 ,   末安桂子

ページ範囲:P.287 - P.289

はじめに
 近代医学の発達と公衆衛生の向上にともない,ポリオ患者の減少傾向は著しい。しかしながら,脳性麻痺や交通事故などによる身体障害児童(以下肢体不自由児と記す)は増加する傾向にある。そこで,これら児童の進学,就職,収容施設などの問題点とあっまって,肢体不自由児対策がクローズアップされてきた。
 これら児童の社会学的リハビリテーションなどの研究は,上記の社会的ニードにより,しだいに充実しつつあるが,肢体不自由児についての栄養学的調査は,まだ少ないようである。私たちは,肢体不自由児の対策に資するため,北九州市で実態調査,とくに栄養学的考察を行なったので,その結果を報告する。

喫煙習慣の形成と環境要件

著者: 石崎龍雄 ,   石田昌久 ,   西山逸成

ページ範囲:P.290 - P.293

 過去半世紀間,呼吸器の悪性新生物とくに肺癌による死亡率は,世界各国とも徐々に増加している1),2)。日本においても,気管・気管支および肺の悪性新生物による死亡率は昭和22年の男子1.4,女子0.6から次第に増加して,昭和38年には男子10.1,女子4.03)と約7倍に達した。そして,紙巻きたばこ(以下単にたばこという)がその原因の大きな部分を占めている事は,医界人にとってすでに常識とされている。たばこは,そのほか冠疾患および胃・十二指腸潰瘍にも関係すると言われている4)し,咽喉頭疾患あるいは気管支疾患に悪影響のある事は喫煙者の誰しもが経験している。
 要するに,たばこが「百害あって一利なし」のものである事はまちがいない。アメリカでは,法律によって「たばこは健康に有害である」と包装に明記するよう定められている。しかるに本邦では,国営である専売公社は「今日も元気だ,たばこがうまい」と宣伝し,厚生省は「たばこの害が確定されたわけではない」と問題を回避している状態である。

一般家屋内における騒音について

著者: 佐々木武史 ,   宮田英子

ページ範囲:P.294 - P.295

 公害としての都市騒音,ことに交通騒音は年々激化の一途をたどりつつあるが,著者らの調査によると主要道路に面した場所を除けば時間当り件数としては,交通騒音の頻度はあまり高くない。大部分の市民の生活が営まれている,主要道路から離れた裏通りではむしろ他の騒音の影響のほうが大きいようである。著者の教室では京都市内の一般住居や医院診療所で屋内における騒音測定1)を行なったことがある。その結果によると,居間の中で測定した騒音の音源は屋外75%(そのうち交通音は50%),屋内25%の割合であって交通音以外の音源の占める割合は非常に大きい。しかしこの騒音の頻度は指示騒音計を用いて5秒間隔で測定した際,暗騒音2)と明瞭に区別できた音源を対象としているので,実際的には測定者が聴いている騒音,とりわけ交通騒音以外のレベルの小さい騒音の頻度は実際ははるかに多いのである。このことは京都府警察本部で集めた騒音に対する投書や苦情3)の内容をみても交通機関に関するものは昭和35年度でわずか5%にすぎないことからも想像できる。交通騒音以外の苦情の内訳は作業音33%,音響機器(ラジオ・テレビ・音楽など)22%,風俗営業音(音響機器,作業音,動作音)19%,深夜の騒音15%,その他6%である。要するに地域的にまんべんなくあるのは音響機器音と動作音(声音を含む)作業音などの生活にともなう騒音である。

厚生だより

国立療養所の特別会計制移行

著者:

ページ範囲:P.296 - P.296

 4月27日参議院本会議を通過成立した『国立病院特別会計法の一部を改正する法律案』によって,昭和43年度の予算から国立療養所も国立病院と同じく特別会計制の下に運営されることになった。国立病院特別会計法の中に病院勘定と療養所勘定を設け,それぞれ異った予算の枠で経営される。これは病院といっても急性・慢性の患者を収容することによる性格の相違を明らかにするためである。
 特別会計といっても独立採算を目途とするものでなく,正常の運営の結果生ずる収支差額は一般会計からの繰り入れを建て前としている。

イタイイタイ病に関する国の見解

著者:

ページ範囲:P.297 - P.297

 厚生省は5月8日,富山県神通川流域のイタイイタイ病について見解を発表した。
 これは日本公衆衛生協会イタイイタイ病研究班報告(班長・重松逸造)などを基礎としたもので,これによってイタイイタイ病の原因究明に関する調査研究には終止符をうち,イタイイタイ病の医療および予防など新たな行政措置を展開することを述べている。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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