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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生32巻7号

1968年07月発行

雑誌目次

特集 伝染病予防

最近の感染症の様相とその予防対策

著者: 岡田博

ページ範囲:P.202 - P.207

はじめに
 現今わが国においては,欧米の先進国と同様第2次世界大戦前と比較して,多くの感染症の罹患率が著明に減少を示し,死亡率の減少はさらに著しくなっていることは周知であるが,これはもちろん,それらの感染症のわが国における侵淫の歴史が古くなるとともに,国民の間に集団免疫が高まったこと,先天的に感受性の高い素質を有する人達が自然淘汰されたこと,ある種の疾患では有効な予防接種が開発され普及したこと,有効な治療薬が創製されたことなどとともに,国民経済の進展によって生活条件や栄養状態が向上するとともに環境状態も改善され,また衛生知識も普及したことなど,多くの要因が考えられる。またそれらは侵淫の歴史の古い数多くの疾患においてその病原体の毒力の低下をもたらしているのである。そして感染症は単に罹患率や死亡率の減少だけではなくて,感染,発病から死亡に至る様相がもはや昔日とは著しく異なってきたのであって,今日罹患率のあまり減少を示さない赤痢にあっても,感染から臨床症状に至る様相が甚しく変化してきているのは周知であって,もはや,20年前の感染症の教科書は役にたたなくなっているのである。

わが国の衛生検査体制のありかた

著者: 児玉威

ページ範囲:P.208 - P.214

はじめに
 公衆衛生試験研究機関の組織化については昭和40年から42年にわたる予研副所長・日本公衆衛生協会理事柳沢謙博士を班長とする厚生科学研究の報告があり,さらに民間の検査機関を含めた研究も考えられている。ここでは,これらの実態調査の結果を参考とし,その他の文献も加えて公衆衛生試験研究の現状を分析し,将来のありかた,特にその組織体制について考えてみたい。
 わが国で,公衆衛生試験研究の組織化が問題になったのは,地方衛生研究所網および保健所検査網が整備されつつあったころからである。地研は昭和23年厚生省3局長の通達によって,従来,各都道府県にあった細菌検査所・衛生試験所などを整理統合し総合試験研究機関として発足したもので,現在,46都道府県・6大都市に設置され,一部の政令市で衛生試験所をもっているところもある。保健所検査室については昭和22年の新保健所法のなかに基本業務の1つとして試験検査業務があげられている。現在,大部分の保健所が検査室をもち第1線の検査を担当している。

地域防疫対策の再検討

著者: 斎藤誠

ページ範囲:P.215 - P.218

はじめに
 社会構造の複雑化と都市の過密化は,伝染病の潜在化を促進させると同時に,他の一面では流行の増幅を容易にしている,この相反した現象の上にたって,施策が実施されるが,現実には地域特異性に適合していないことも少なくない。
 地域防疫対策の対象は特定の疾患に限定されるものでないが,日本脳炎のように疾病が重篤であるため発生の把握が比較的容易で,人から人への伝染を考慮することなく,その主眼が予防接種による感受性対策におかれるものや,ジフテリア,ポリオのように感受性対策を重点とし,日脳と同様に地域内住民の予防接種率や,抗体保有状況によって,ある程度,流行予測が可能なものは特別である。それでは地域防疫対策の上で最も問題となるのは,赤痢,腸チフスなどの消化器系の伝染病であろう。なかでも赤痢は臨床診断の限界を越える軽症例の増加によって,感染源が潜在化している現況と,経路対策に欠くことのできない施設の普及が地域によっては早急に望めない状態を考慮すると,地域社会の病像を集団的に把握し,その対策を再検討する要があろう。そこで例を赤痢に求めて,地域防疫に対する考え方を,平常時と流行時にわけて考えてみたいと思う。

伝染病予防の問題点—主として法律を中心にして

著者: 春日斉

ページ範囲:P.219 - P.224

はじめに
 現在わが国の伝染病対策は基本的には3つの法律によって運営されている。すなわち,明治30年に制定された伝染病予防法,昭和23年に当時の占領軍の要請により作られた予防接種法および昭和26年に国連に加盟したことによりWHOの国際衛生規則(International Sanitary Regulations)を批准した結果,それをうけて作られた検疫法の3つである。検疫法は6つの外来伝染病を対象とした国際検疫についてであるから論外におくとして,他の2つの法律を中心に伝染病予防対策の問題点にふれてみたい。
 伝染病予防法の最大の欠陥は,立法当時,種痘を除いては有効な予防接種が確立されていなかったため,現在に至っても,感受性者対策がまったく取り入れられていないことにある。その意味で昭和23年の予防接種法の発足は種痘法を拡大したものであり,当然といえるが,なぜその時伝染病予防法を改正し,その一部として感受性者対策を立法化しなかったのか,疑問である。病原,環境,感受性の3要因対策が伝染病予防法の骨子であらねばならないのに,感受性者対策は,予防法制定後50年にして漸く取り上げられたものの,別個の予防接種法としてであり,かつまた国の都道府県,市町村に対する助成も,伝染病予防法が直接的な補助金行政であるのに対し,予防接種法は間接的な平衝交付金行政にすぎない。

世界各国における衛生検査機構の現状とわが国

著者: 甲野礼作

ページ範囲:P.225 - P.231

わが国の現状
 わが国の伝染病予防対策の根幹をなす法律「伝染病予防法」は,明治35年に制定されてその改廃がたびたび論議されながら今日に至っている。この中に,実験室診断または検査,およびこれに基づく疫学が予防対策の基礎であるという思想が盛られていないのは,当時の医学とくに微生物学の進歩の水準から考えて怪しむに足りない。しかしこの現行法がある以上,予防対策の思想もこれに規制されるのは止むを得ないところであろう。極論すれば,わが国の伝染病予防対策には試験検査に基づく疫学が欠けているともいえる。もちろん,現実に中心機関である国立予防衛生研究所では,この種の疫学的業務が行なわれ,防疫上に多くの貢献をなしているが,それは十分組織化されておらず,個人的な点と線でつながっているに過ぎない。検査を表看板にしている部門は,4年前に発足した私どものウイルス中央検査部のみである。予研における疫学的検査のために計上されている予算額は,ワクチンの検定のための予算の数分の一という現状で,いかに疫学的検査が軽視されてきたかが分かるであろう。

座談会

これからの伝染病予防はどうあるべきか

著者: 甲野礼作 ,   斎藤誠 ,   児玉威 ,   山下章 ,   染谷四郎

ページ範囲:P.232 - P.240

 染谷 戦後20年,その間に医学の進歩,ことに抗生物質やそのほか各種の化学療法剤の発見,あるいは環境衛生の改善などで多くの伝染病が,非常に減少してきています。
 最近の流行状況,発生状況,あるいは臨床的な所見などがどうかわったか,細菌性の感染症では,どうでしょうか。

人とことば

疫学と現象論

著者: 高橋晄正

ページ範囲:P.199 - P.199

 わたくしたちの当面する社会医学の問題は,現象論的な解析を必要とするものが多い。十分に広い範囲にわたって要因をとりあげ,科学的にこれを追究していくことが有用でもあり,必要でもあることはタバコと肺ガンの関係の場合にも実証されたということができよう。
 しかし,いわゆる疫学の専門家といわれる人たちのなかには,解析と推理の科学を現象論として低く評価しようとする考えの人が少なくない。現実についての認識が,現象論的な帰納とその極限における仮説の提起およびその実証を通して深められていくものであることは,科学における認識の問題として一般的に述べてあるとおりである。

談話室

今後の伝染病の課題

著者: 金光正次

ページ範囲:P.200 - P.201

 伝染病対策の将来を語るに先だって,その生い立ちと現在に至るまでの歩みを展望してみよう。中世期までは悪疫が流行すると,人々はそこから逃げ出すほかにそれを免れる方法がなかった。デカメロンはそのころ欧州をおそったペストの大流行から逃避して,城館にたてこもった人たちの物語といわれている。たび重なる悪疫の来襲から,人々は流行地と患者の隔離,病因に汚染された船の入港禁止が流行の侵入を阻止することを学んだ。この方法は,どんな伝染病にも有効というわけではなかったが,ペストやハンセン病の予防には確かに役だった。伝染病対策は,この時に始まったといってよい。

講座 疫学・4

感染症の流行調査

著者: 湯浅秀

ページ範囲:P.241 - P.247

 急性感染症の集団発生の疫学調査方法は,その疾病の種類,発生した社会集団の種類,季節,地域,発生規模などによって相違することが多く,また例外もあるので標準の方法を決めることはむずかしいが,疫学調査を要領よく行なうには原則をよく記憶することが必要である。
 疫学調査方法の原則は,一般に米国のRosenau,Maxcyらの著書から引用されているので,これに私自身の経験も加えて説明することにする。

特別レポート

医師充足対策の諸問題

著者: 須川豊

ページ範囲:P.251 - P.257

はじめに
 近時とみに各方面で医師不足が訴えられている。この実態を分析すると
 (1)へき地や離島の医療を確保するため,また都市周辺では住宅団地などで医療機関や医師を欲している。
 (2)保健所など公衆衛生に従事する医師の不足。
 (3)公的病院の医師充足困難(最近は私的病院も同様な状態を訴えているところが多い)。
 (4)頭部や心臓の外科,精神科その他専門医師の不足。
 などであって,各々の部門や地域で,医師確保対策協議会的なものが発足している。

厚生だより

救急医療体制

著者:

ページ範囲:P.248 - P.248

 交通事故による死傷者は近年急激に増加しており,救急医療体制を整備充実することが強く要請されている。人口動態統計によれば,昭和41年の自動車事故による死亡者は全国で17,979人におよび,10年前に比較し約2.7倍に達している。負傷者も年々増加しており,警察庁の資料では,昭和42年が642,277人で,1日当たり1,760人をこえるという憂うべき実態である。

公害2法(大気汚染防止法・騒音規制法)の成立

著者:

ページ範囲:P.249 - P.249

 5月24日の参議院本会議において大気汚染防止・騒音規制の両法案が可決,成立した。
 両法とも,6月10日公布,12月1日施行の予定である。昭和42年8月に,公害対策基本法が施行されたが,これにのっとった実施法の第1弾としての意義をもつものである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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