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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生32巻8号

1968年08月発行

雑誌目次

特集 都市化のなかの保健活動

都市生活とコミュニティー

著者: 園田恭一

ページ範囲:P.262 - P.268

コミュニティー概念の再検討
 "都市生活とコミュニティー"という問題にはいるまえに,まずコミュニティーという概念や用語について一応の検討をしておくことにしよう。というのは,コミュニティーという概念が多義的かつ不明確であり,また使用法も極めて混乱していることについては,外国の研究者によっても多く指摘されているからであり,しかもわが国のばあいには,これがその共同体・共同社会・地域社会等々の翻訳用語の不統一ということとも結びついて,さらにいっそうの混乱をひきおこしているからである。
 ところで,コミュニティーというコトバの多義性・不明確さの一因は,それが日常用語としてしばしば用いられることにより,多くの"世俗的観念"を含んでいるためであることは,すでに高田保馬などによって指摘されているところであるが,ここではこれらの日常的用法を一応除外して,コミュニティーそのものの本質なり規定なりを科学的に問題としているものということに限定すると,あいまいだ,多義的だといわれてきたコミュニティーという概念も,地域性と共同性という2つの要素を含んでいるということについては,多くの意見が一致をみているといえよう。

都市化による地域の変貌と保健問題—対策と活動のための方向づけ

著者: 柏熊岬二

ページ範囲:P.269 - P.274

都市化の概念とその内容
 都市化(urbanization)というコトバは学問的な説明概念としてだけでなく,一般用語としてもよく使われるようである。もっとも,その意味するところはまちまちであって,場合によってはまったく性格の異なるものを同じ語で表現する例さえないではない。
 では都市化とはいかなる内容をもっているのであろうか。一般的な用語としての意味はさておき,学問的に使われるさいにも,さまざまの概念が付与されているが,大別すると現象的,形態的な変化をいう場合と,構造的,体制的な移行をいう場合とがある。人口が増加したり,非農的職業の比率がふえたり,生活様式の合理化が進んだりする例は前者であるし,社会的分化が際立ってきて,機能集団が優越し,匿名化が進んで大衆社会としての構造特質をもつようになる過程は後者の性格をもった都市化である。より端的にいうならば,前者は非都市的な地域,つまり村落が都市的な様相を備えた地域に変貌していく過程をいい,後者は地域生活の変化というよりも,構造的基盤の推移を問題にする。したがって,前者の都市化はおもに農村なり漁村なりが都市的な性格をもつに至る道程に使われ,後者は村落の都市化というよりも,むしろ都市の都市化について使われることが多い。

都市と保健問題

著者: 田中恒男

ページ範囲:P.275 - P.280

 話の前に,"都市と保健問題"というタイトルの中で,皆さん方が公衆衛生行政という立場にたって,ご活躍なさっているという立場を考えますと,一体この公衆衛生行政の対象が,コミュニティーであるのか,それとも個々の,具体的にいえば,病人とか健康に悩みをもっている人間というインディビジュアルなのかを,明確にさせておく必要があるように思います。従来の公衆衛生活動,あるいは公衆衛生行政では,この定義がきわめてあいまいなまま過ごされてきたように思います。このこと自体,実は公衆衛生活動を明確に特徴ずけするために重要な論議であり,これだけでもいくらことばを費してもなお足りないことでもありましょう。
 今まで,公衆衛生という活動が,集団の健康を論ずる学問分野であり,活動であるとされながら,従来行なわれていた公衆衛生の大部分は,結局のところメディケア・システムに関するサイドワーク的な役割が中心であったのではないか,という感じがします。それを前提として今日の問題を論ずる場合と否とでは,大部方向が変わってきますが,一応私は今日より少し広い次元で考えるという立場にたって,話を進めてみたいと思います。

都市と保健問題

著者: 杉原正造

ページ範囲:P.281 - P.287

はじめに
 明治13年に日本の人口は1,300万人,最も人口の多かった県は新潟県で155万人,ついで兵庫139万人,愛知130万人,広島・千葉・福岡・大阪といった順で,東京は96万人,第12位だったと,佐貫利雄氏は「都市と人間」のなかで述べている。いうまでもなく,当時の人口集積のささえは農業であった。大正9年の第1回国勢調査によると,人口は5,500万人,東京は217万人,大阪125万人となったが,100万人以上の都市は他にない。それから45年たった昭和40年には人口は9,800万人と,1.8倍にふえ,100万人以上の都市は7市もある。この間にふえた4,300万人のうち約7割にあたる2,800万人は,関東・東海近畿を総称した大都市圏に集積している。また全人口のうち3,500万人,約3割6分の人口は東京都区部と大阪以下6指定市,川崎以下23政令市と浜松他26市の合計56地区が占めていることになる(表1)。都市への人口集中はとどまることを知らず続いている。このような急激な人口変動は否応なしに,各種の都市問題を惹起する。市民はいやでもこれにまきこまれて,その平和な生活と家族の健康は日夜阻害されてゆく。京浜工業地帯の中心として東京・大阪につぐ工業生産出荷額をあげ,人口100万人を目前に控えた川崎市をある著名な都市学者はこう評している。

大都市における地区衛生組織活動の展開とそれに伴う諸問題(事例)

著者: 橋本博

ページ範囲:P.288 - P.294

まえがき
 住民の健康と生活を守っていくのには,住民自身の自覚と団結がなければその発展を望みえない。かかる意味で,大都市といえども地区組織活動は,公衆衛生の進歩発展のためにはどうしても欠く事のできない大黒柱である。
 大都市では保健衛生面に対する不満がますます増大しつつあるにかかわらず,住民の組織活動はむしろ衰退してきているようにみうけられる。これらの問題点をさぐる意味で,昭和41年,第22回日本公衆衛生学会総会において"地区衛生組織活動の特性と行政の接点について"というテーマでシンポジウムが開かれた。これらの討議のなかで都市住民の生活環境の急速な変化,都市人口集中化に伴う人口構造の問題,行政機関のマンモス化によるコミュニケーションの不徹底などが原因して,地区住民と地域社会との結合稀薄化が起こり,地域活動に対する関心の低下,地域での少数活動家への業務の集中と,それに伴う地区指導者のボス化という現象が発生し,結局,地域組織活動の展開も都市改造との関連において検討されねばならないとしている。しかしながら,現実の社会でこれらの点をどこからどう打開して行くべきであるか。特に従来から困難視されていた大都市における住民の組織活動展開への諸条件などについて現在まで検討してきた点を報告したい。

都市における保健行動(資料)—妊娠・分娩・育児に関する保健行動

著者: 西三郎

ページ範囲:P.295 - P.298

 保健行動は,保健に関する動機づけによってその人間の性質,その人間のおかれた社会的条件などによって規定されて起こされてくると考えられる。われわれは,保健行動を規定するものを明らかにし,それに対応した保健サービスのあり方を調査研究する一環として,都市の住民の妊娠・分娩・育児に関する保健行動に関して調査を行なったので報告する。

人とことば

取り越し苦労だったか

著者: 水島治夫

ページ範囲:P.259 - P.259

 かつてわが国で帝国主義・軍国主義が幅をきかせていた時代には,大なる人口は大なる国力を示すと考えられ,多産多子が奨励され,多子家庭は国家に貢献するところ大なりとして,表彰されたりした。しかし領土がせまいので,過剰人口が憂えられ,人口問題とともに食糧が重大問題とされた。しかも大戦で領土を失い,引揚げにより人口は増し,人口問題はいっそう深刻になった。
 戦争により延ばされていた結婚は増し,夫婦生活は元のようになり,当然出生は急にふえ,ベビーブームが起こった。しかしわが国では,出生抑制策がとられ,ベビーブームは長くつづかず,出生率は急激に下がった。その下がり方は,他に例がないほど急激で,人びとの目を見はらせた。この出生率の急低下とともに,人口学的に出生力を示す指標とされている人口の再生産力が,いちじるしく下がった。生殖期にある1,000名の女が,平均して1,000名の次代の女を生めば,人口の再生産率は1.0で,人口は現状を維持できる。しかし,それが1.0以下では赤字で,人口は縮少する。わが国では1956年に純再生産率(女の生残率を勘定に入れた率)が1.0を割り,赤字になり,翌年から連年赤字がつづき,1961年には0.90まで下がり最低記録を示した。この状態が永続すれば,日本人口は1代(約28年)ごとに10%ずつ減少するわけで,この問題に関心をもつ人びとをひどく驚ろかせた。

談話室

都市生活とコミニュティー

著者: 磯村英一

ページ範囲:P.260 - P.261

 近ごろは,何か問題がおこると都市問題との関連がいわれる。しかし,いざ都市生活とはいったい何が基本になるかというと,きわめてあいまいである。都市生活は,都市に住んでいる者にとって,共通にいえるかというと,私は必ずしもそう考えない。都市といわれる地域社会に住んでいても,都市生活といえない状態がいくらもある。私は,その専門の立場からして都市生活を次のような条件で認めたい。

研究

開拓地の人口問題(2)—開拓地将来の人口問題

著者: 三浦悌二

ページ範囲:P.299 - P.303

千振の特殊性と一般性
 われわれは千振の将来人口について前節のような結果を得た。その結果が開拓地一般についても言い得るかどうかは,千振が開拓団中の特殊なものであるか,あるいは一般的なものであるかにより決定される。

若年者の高血圧に関する研究—各種要因よりみた若年者の高血圧に関する実態調査

著者: 佐渡一郎 ,   石館敬三 ,   渋谷修 ,   竹内一豊 ,   大橋常安 ,   昼間善継 ,   千葉裕典 ,   内田和子 ,   北川富雄 ,   若井美子 ,   田中平夫 ,   佐渡一郎 ,   角田泰造 ,   千葉昭典 ,   名渡山愛雄 ,   渡辺真言 ,   宮崎利雄

ページ範囲:P.304 - P.312

はじめに
 近年各事業所や地域集団において,成人病対策の一環として循環器疾患とくに高血圧を中心とする調査研究が進められ,その管理方式もようやく軌道にのりはじめようとしている。しかし,これらの管理対象はいわゆる成人層であり,若年者における実態とその対策については若干の報告1,2)があるのみである。これらの疾患が40歳以上の成人により多く出現し,その死亡率も高い3)ことは事実である。ところが高年齢者を対象として行なわれてきた成人病検査を若年者にまで広げて実施すると,成人病に属する所見や疾患が若年者にも稀でないことが明らかになってきた4)
 したがって成人病対策をより充実するためには,その管理対象の年齢幅を広げて若年時よりの継続管理することが必要であり,このことが成人病の予防および早期発見に資することにもなると考えられる。

在宅身障児集団訓練指導について

著者: 居村茂徳 ,   細川昌義 ,   奥山紀美子 ,   宮崎貞江 ,   村上まさの ,   米田満子 ,   人見一枝 ,   河嶋まさ ,   今井暁子

ページ範囲:P.313 - P.315

はじめに
 中央公論誌上にて作家水上勉1,2)が投じた「拝啓総理大臣殿」の一石は,まさに心身不自由児援護施策がもり上がらんとする時勢と相まって,わが国の施策の貧困さをまざまざと世人に知らせることになった。これを契機として,各番で心身不自由児援護施設の増設が行なわれるようになり,また心身不自由児についての世人の認識を新たにするようになったのは喜ばしいことである。
 しかし,全国の重度障害児施設をとりあげてもいまだ5指を屈するにすぎず,ことに現今問題になりつつあるのは,在宅の身障児を家施ぐるみでいかに取扱うかということである。これに関する指導の公的なものは,各県の整肢施設による地区巡回相談に頼る以外にはなかったような状態である。

非常時の保健活動(1)

非常時における州段階の医療と保健サービスの組織

著者: ,   森本忠良

ページ範囲:P.317 - P.319

今号より3回にわたり"非常時における保健活動"をフィリピンの実例でご紹介する。
いずれも,1965年9月のTaa1火山爆発時におけるBatangas州衛生部関係者の活動についてのレポートであり,それぞれProvinceおよびMunicipalityの段階のものである。

厚生だより

伝染病予防調査会

著者:

ページ範囲:P.320 - P.320

 戦後の予防医学の進展と社会の変動に対応して,有効で適切な伝染病予防行政を進めるために,昭和31年厚生大臣の諮問機関として,伝染病予防調査会が発足した。本調査会は細菌学・ウイルス学・免疫学・疫学・臨床医学・公衆衛生学・衛生学・衛生行政などの諸分野の学識経験者を構成委員として防疫行政の重要事項について調査審議を行なってきた。
 調査会の活動は,まず昭和31年予防接種の技術的諸問題を集大成し,予防接種実施規則の制定に寄与し,昭和32年のインフルエンザ流行(アジアカゼ)に際し,対策の審議を行ない厚生省の対策策定に貢献した。さらに昭和32年度以降におけるポリオ問題,昭和35年ウイルス検査の組織態勢整備,昭和36年以降のコレラ対策,その他赤痢,日本脳炎対策などについても,種々技術的助言を行なってきた。

消費者保護本基法

ページ範囲:P.321 - P.321

 近年,わが国の経済は目ざましい成長をとげつつあるが,国民生活の健全な発展を度外視した経済の成長はありえない。一方,明治以来,わが国の諸施策が生産力の拡大,経済の優先を基盤として進められてきたことは,多くの人によって指摘されており,消費者不在ということもしばしばいわれてきた。
 故ケネデイ大統領が議会に送った消費者利益保護についての教書の中で,消費者の権利として"安全である権利""知らされる権利""選択できる権利""意志が反映される権利"の4つをあげ,消費者保護行政の基本的態度としている。

モニターレポート

岐阜県高山市で産業医の研修会ひらかる

ページ範囲:P.315 - P.315

 事業所の嘱託になっている産業衛生管理の医師を対象にした"産業医実地研修会"が,6月13日午後2時から,岐阜県高山市名田町の飛弾産業株式会社で開かれた。岐阜県医師会の主催で,飛弾地方1市3郡から産業医など約60名が出席した。労基法の労働安全衛生規則によると,工業・運輸など従業員30名以上の事業所・商業・会社など従業員50名以上の事業所では,衛生管理の医師をおく規則になっている。この産業医は,定期に従業員の健康診断や職場環境衛生の指導をすることになっているが,ほとんど実施されず,単に医師の名前だけを労基署に届けるだけの事業所が多い。
 こうした傾向は全国的にみられるので,県医師会は各県にさきがけ,この制度の活用に乗り出すことにした。まず産業医部会を設置,専門外の医師でも産業医学を知って,料金のとれる管理医になろうと,5ブロックごとに実地研修会を開くことにした。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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