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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生32巻9号

1968年09月発行

雑誌目次

特集 老人の生活と健康

僻地の老人

著者: 渡辺孟

ページ範囲:P.334 - P.340

まえがき
 僻地老人の生活と健康について論ずるとき,そこには長い期間にわたり社会・経済・文化・労働など各要因の上に積み重ねられた大きなハンディキャップと,現下激しい勢いで進行する若年人口の都市集中の波によって,多くの問題が構成され,将来への切実な社会的課題をなげかけていることをまず指摘できよう。
 われわれは各種の社会的条件が老人の生活と健康とにどのように関連するかを把握し,今後の総合的老化および老人対策にいかに資するかの目的をもって,離島・農村・都市の65歳以上の居宅老人およびその家族に対し,種々の調査研究を行なってきたので,それらの資料に基づいて考察を加えたい。

都市老人の保健対策

著者: 大和田国夫

ページ範囲:P.341 - P.347

はじめに
 近年わが国における死亡率の改善は,若年層に大きく,老年層に小さいが,その結果,平均余命は延長し,65歳までの生存数(百分率で示す)は,たとえば,昭和10-11年,男子36.2%,女子43.6%であったのに対し,昭和40-41年では,それぞれ69.6%,80.5%に達し,特に女子の延び割合は著しい1)。したがって,人口の年齢構成は高い年齢層の占める割合が増加し,その移行は昭和30年頃より著明となってきた。このような傾向とともに,さらに出生数の減少は,人口の急速な老齢化を招き,それは欧米の先進国にやがて匹敵するようになるであろう。わが国における65歳以上の老年人口は,昭和40年に約618万を算定したが,現在の状態がつづけば,昭和55年には1,000万を越えるものと推定される1)
 他方,公衆衛生・医療の発達によって,疾病構造は変化し,細菌感染や,妊産婦,乳児期の疾患による死亡は著明に減少し,成人病による死亡が年々増加している。この事実は老人の慢性・退行性疾患の増加を意味し,老弱の状態で生きながらえる老人に対する養護を必要とするものが,今後ますます増加するものと予測される。

先進国にみられる老人問題の動向

著者: 五島雄一郎

ページ範囲:P.348 - P.352

 筆者は1963年コペンハーゲンの第6回国際老年学会と,1966年のウィーンで開かれた第7回国際老年学会に出席する機会を得,そのおり欧州各国の老人施設や病院をみたので,わが国の現状と比較しながらその印象について述べてみることにする。

老人福祉と公衆衛生

著者: 森幹郎

ページ範囲:P.353 - P.357

老人福祉法の概要
 戦後における拡大家族から核家族への変貌,昭和30年代の中ごろからようやくその兆を示し始めた人口の老化現象,そしてそれらの背後にある社会の近代化などに応えて,昭和33年国民健康保険法が制定され,翌34年国民年金法が制定されて,国民皆保険,国民皆年金の整備が図られたが,続いて昭和38年老人福祉法が制定されて,国および地方公共団体の老人福祉の増進に対する責務が明らかにされるにいたった。
 老人福祉法のサービスは居宅福祉対策と,施設収容対策とに分かれる。前者に属するものとしては,健康診査,老人家庭奉仕事業,老人クラブに対する助成,社会活動促進事業があり,後者に属するものとしては,養護老人ホーム・特別養護老人ホーム・軽費老人ホームがある。

都市化のなかの老人福祉(事例)—神奈川県

著者: 田辺忠久

ページ範囲:P.358 - P.363

はじめに
 老人と就労,老人とリハビリテーション,高齢者無料職業紹介所,老人と余暇,老人と孤独,老人の健康管理,老後の所得保障,老人家庭奉仕員……これは神奈川県社会福祉協議会(県社協)の機関紙が2年間に特集した老人問題シリーズのテーマである。今後もこのシリーズは続けていくことになっており,老人問題のタネはつきない。
 神奈川県の人口は昭和35年が3,443千人で昭和40年は4,430千人と約100万人の増加であり,この間の人口増加ぶりは全国第1である。

medicare—アメリカ老人健康保険法

著者: 西三郎

ページ範囲:P.338 - P.339

 公的健康保険制度を欠くアメリカにおいて,多年にわたる共和党,医師会などの政治的圧力をようやく押さえ,1965年7月30日ジョンソン大統領の署名によって,老人健康保険に関する法律が成立した。この法律は,アメリカ大恐慌のあと1935年に成立した社会保障法の1965年改正の中にもりこまれ,老人健康保険給付に関する規定は,老人健康保険制度(medicare),医療扶助制度を新たに18,19章として追加することを定めている。さて老人健康保険制度について簡単に内容を紹介しよう。

対談

これからの老人—臨床医学と社会医学から

著者: 吉川政己 ,   吉田寿三郎

ページ範囲:P.326 - P.333

 近年の人口構造の変化,すなわち中高年齢層の増加は,社会的な重要問題となっている。加齢と寿命との関係,退行性慢性疾患への考え方,リハビリテーション,さらには,これからの老人のあり方に言及していただく。

人とことば

長寿の研究に想う

著者: 近藤正二

ページ範囲:P.323 - P.323

 健康長寿は万人の願いであるが,公衆衛生の目指すところも,結局は国民の健康長寿であろう。長寿といっても私は,少数の人の100歳突破というような英雄的長寿よりも,少なくとも70歳以上まで健康で働ける人が多くなることが大切だと思う。ところが,満70歳以上の長寿者が人口に対する率(長寿者率)をみると,日本はヨーロッパの文明諸国と比べて約半分である。平均寿命は戦前と比べて20年も伸びたが,それは主として戦前,非常に多かった乳幼児や青年の死亡が激減したためであって,長寿者は今も国際的にみて断然少ない。これはいうまでもなく,成人が70歳未満で多数死ぬからである。現在は特に胸卒中・ガン・心臓疾患による若死が多い。少なくとも70歳を越えてからならばやむを得ないかも知れないが,70歳未満の若死が多いのである。これでは一身一家の不幸だけでなく,国家社会の大損害でもある。この若死を減らすことが国の急務であると思う。
 それには,これら疾患の早期発見治療が必要なことはいうまでもないが,私はできる限り未然に予防する根本策も必要だと思う。ところが今までの国の対策は,予防対策といいながら早期発見治療が主で,真の予防が手薄であった。最近ようやく真の予防にも着目されてきたのはよろこばしい。ところで真の予防にはまず疾患の原因を知ることが必要である。

談話室

老人福祉に対する感想と所感

著者: 渡辺定

ページ範囲:P.324 - P.325

 大正6年,東大医科を卒業して入沢内科に入局,外来の患者を診ていたある日,48歳の肺結核の労働者に休養をすすめたところ,落涙して"1週間も休んだらクビになり一家が餓死するから,高くとも薬を…"と悲しまれ,私は,何のための医学ぞとショックを受けたが,大正15年,2カ年の欧米留学に,ドイツで,どこの病院でも入院料が3.5マルクで同じなので調べたら,1883年以来ドイツ国民の労働者は社会保険があり,疾病・失業・老年・遺族への給与があり,当時は月給取にも及んでいた。当時はイギリスのほうがおくれており,入院は自費払いであった。
 そのころ,第8回国際アクチュアリー(保険数学)会議がロンドンに開かれたので参加したが,疾病保険・廃疾保険などが議題になり,ことに身体に欠陥のある弱体の生命保険の可能性がすでに小規模ながら行なわている米国・北欧から発表された。つまり1927年ごろの人類のこの方面に対する福祉の暁の時代ともいえよう。そのころ昭和元年日本では,健康保険が約200万の労働者にやっと実施が始まっていた程度で,やっと,私の帰朝した昭和4年,10万人の欠陥体についての寿命の調査がすんで,日本にも,弱体保険の端緒のできた程度であり,総じて国民の福祉活動方面は約40年くらい立遅れていたわけである。

講座 疫学・5

慢性疾患に対する疫学的アプローチ

著者: 芦沢正見

ページ範囲:P.364 - P.369

 医学の進歩,環境衛生の向上にともなって,急性伝染病の流行は制圧され,その流行のすがたも著しく変わってきた。一方,老年・壮年期の新しい問題として,高血圧症,がん,心臓病などのいわゆる慢性疾患がクローズアップされてきた。今月は,これら慢性疾患の疫学的アプローチの取り組みかたについて解説する。

研究

東京都の20年計画における医療・保健面での提案

著者: 岩佐潔

ページ範囲:P.371 - P.376

はじめに
 都市への人口集中は医療・保健の面で多くの重大な問題を生んでいるが,これは現に急激に進行中の現象であるので,将来の課題に答えるだけでなく,現在の問題を解決するためにも都市の将来計画を科学的,合理的に樹立することが大切である。したがって,地域および都市に関する多くの将来ビジョンが研究され発表されているのは,時宜に適した努力といわねばならない。
 さきごろ名古屋の第17回日本医学会総会に続いて開催された衛生関係6分科会連合学会のシンポジウムでも,"健康からみた都市計画の問題"が取上げられた。私は昭和37年,38年に"岡山県南広域都市の生活環境の造成に関する研究"(主任研究者斎藤潔氏)において原島進,大平昌彦両教授などとその医療・保健計画について研究1)したことがあるが,今回は"東京人の生活の長期展望に関する研究"2)のうち医療・保健の部分を担当したのでその概要を本誌に発表する。本研究は東京都を対象としたものであるが,都はわが国の人口の1割を擁し日本の中心であるから,都の問題は日本全体の問題でもある。将来計画はたんなる夢ではなく現状を踏まえ諸条件を加味した科学的根拠にたったものでなければならない。その意味から将来計画は本来あらゆる知識を動員した総合的なものでなければ役立たないであろう。本稿はもちろんそうした整った形のものではないが,それゆえにこそ諸先生の大方の批判を受けたいと思う。

非常時の保健活動(2)

非常時における医療と保健サービスの監督について

著者: ,   森本忠良

ページ範囲:P.377 - P.379

 今日,私に与えられた題目は"非常事態における医療と保健サービスの監督"である。
 もしも,Taal火山の爆発がなかったならば,おそらく本日の演者となる資格は与えられなかったであろう。理論的には,この主題は一介の演者にすぎない私ごときAssistant Pronincial Health Officerよりも,むしろ公衆衛生行政学者,または権威の点からも,保健省のより高い地位にある方々に与えられるのが適当であろう。しかしながら,諸君が興味をもってお聞きになりたいのは,非常事態に際しての医療と保健サービスの監督についての理論面よりも,Taal火山の悲劇についてのわれわれの経験であろうと思われる。もちろん,これらの経験は限られた範囲のものであり,州衛生部職員およびわれわれの監督統制下にあった,他からの関係者についてのBatangas州のProvincial Health OfficerおよびAssistant Health Officerの監督機能に属するものが主である。われわれの直面した事態をよりよく知ってもらうために,この非常の期間中におけるTaal火山被災地の真相を簡単に述べておくことが必要であろう。

厚生だより

医師の臨床研修制度実施にはいる

著者:

ページ範囲:P.380 - P.380

改正医師法国会通過後の経過
 医師法一部改正案は,3月29日衆議院で修正可決された後,5月10日参議院で可決成立をみた。
 この法案は第57国会に政府より提案されて継続審議となり,第58国会で可決をみたものであるが,その前,第55,56国会にも提案されて審議未了となっており,その間1年という長期間を経過して,医育者・学生の間に激しい論議をまきおこしてきたものである。

公衆衛生修学生制度

ページ範囲:P.381 - P.381

 保健所勤務医師を確保する対策の1つとして,公衆衛生修学生制度がある。
 正式には公衆衛生修学資金貸与法(昭32.4.15・法65)という。制度は,将来,保健所に勤務しようとする医学生および歯学生に無利息で修学資金を貸与(現行月額6000円)するものである。

抄録

呼吸器感染に対する喫煙の影響

著者: 牧宏暢

ページ範囲:P.347 - P.347

 タバコの煙が,呼吸器の感染に対する抵抗力を減ずるらしいということは知られていた。しかし,感染の防御機構の障害と,呼吸器感染の抵抗力の減少とを結びつけた実験的研究はなかった。著者はタバコの煙に,ただ1回暴露させるだけでも,呼吸器感染の抵抗力を減少させることを,実験的に明らかにした。
 実験には18-22gのマウスを使用した。1つの実験に60-80匹を用いている。エアーゾルにしたKlebsiella pneumoniae,Diplococcus pneumoniae,Staphylococcus aureus,Influenza virus type Aにより呼吸器感染を起こさせたマウスを,タバコの煙に暴露してから呼吸器感染を起こさせた。対照にはタバコの煙の代わりに空気に暴露した。また,タバコの煙の暴露と呼吸器感染との時間的なずれを1,3,24あるいは48時間に変えたり,タバコの煙の暴露時間を1,3あるいは6時間に変えて実験している。その結果,K. pneumoniaeとD. pneumoniaeにより侵襲されたマウスは,侵襲がタバコの煙の暴露前でも後でも死亡率が増加し,生存日数が減少している。このことは一時的なもので,タバコの煙の暴露と細菌感染の間隔が,48時間になると死亡率は減少し,生存日数は増加して,対照群と変わりなくなる。以上の結果はタバコの煙の暴露時間を延長しても同様であった。

モニターレポート

第7回岐阜県公衆衛生大会開かる

著者: M・K

ページ範囲:P.363 - P.363

 7第回岐阜県公衆衛生大会は,7月25日午後1時より県庁大会議室で開かれた。
 会長あいさつに続いて,公衆衛生事業に功労のあった個人29名,団体9の表彰や,37年以来会長をつとめられた棚橋憲吾前会長に感謝状が贈呈された。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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