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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生33巻1号

1969年01月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生分野におけるコンピューターの活用

コンピューターで活用される公衆衛生活動の技法

著者: 岡田晃 ,   三宅浩次

ページ範囲:P.5 - P.11

はじめに
 最近電子計算機(以下電算機と略記)が急激な速度で研究分野あるいは実践分野に導入され,数値計算から経営情報システムにいたるまで多方面で活用されている.
 公衆衛生活動でも,これが利用された場合に,多大の効果を期待することができる.すなわち,もっともわかりやすいことからいえば,大量の環境情報とか個体・集団レベルでの生体情報などを取り扱う作業で,計算を速やかにかつ効率よく遂行することができ,それによって活動能率を高めることができるからである.また従来,公衆衛生活動という実践面で応用することができなかったような情報処理が可能となり,それに対応した調査法,解析法,管理法などが導入されて技術革新をもたらし,高次の公衆衛生活動の展開方式が開発されて新局面を迎えることが予測されるのである.この場合にコンピューターによる日常活動の自動化をももくろむことによって,飛躍的な高能率を約束してくれる.さらにまた,電算機のもつ記憶という機能を利用することによって,住民の個人ごとの資料が蓄積されてデータを集中管理することができ,きめの細かい活動を推進することもむずかしくはない.前述の自動化にも関連することであるが,パターン認識が可能となれば集団検診にも威力を発揮し,自動診断,自動効果判定なども可能となり,かくして公衆衛生活動の近代化が急速に進められるであろうことが期待される.

厚生行政への電子計算機の導入について

著者: 折田貞雄 ,   加藤秀夫

ページ範囲:P.12 - P.17

 厚生行政の飛躍的発展に伴い,必要とされる統計資料は年々膨大となり,その資料作成も一層の精密さと迅速さが望まれるようになった.これらの発展要求に対処するため,厚生省統計調査部は,42年7月大型電子計算機(ユニバックⅢ型-32K)導入に踏み切り,処理能力の増強をはかった.
 導入以来1年3カ月,この間,生活総合調査という大調査を含め,数種の調査を無事に処理した利用者として,当部における電子計算機の利用状況を紹介することとしたい.

病院管理からみたコンピューター利用

著者: 倉田正一

ページ範囲:P.18 - P.22

 近年,企業経営者の間に経営情報システム(Management information system,MIS)の大波が渦巻いているが,このような情報革命の潮は病院にも打ち寄せようとしていることは明らかである.
 ところで,コンピューターはその使い方がまことに重要であって,これをいかにうまく使うかが導入の価値を決定するといわれている.給与計算とか,在庫の統計その他日常の部分的業務の処理,さらに一歩進んで,日常業務をより効果的にするための判断の機械化,さらに全体についての経営上の意志決定に必要な情報の獲得と,その利用は高度化していく.もし病院がコンピューターをソロバンがわりにのみ使ったり印刷機のかわりに使うということであれば,MISどころではなく,導入は大ミスとなろう.

アメリカの地域保健活動—PPBS特別研究報告事例を中心として

著者: 西三郎

ページ範囲:P.23 - P.27

はじめに
 アメリカ合衆国の公衆衛生・衛生行政は,ここ数年間に,多数の新法律の制定,改正,行政機構の改革,予算の拡大など急速な変化を見せている.すなわち,癌・心疾患・卒中法(地域医療プログラム)(1965年),総合保健計画法(1966),老人健康保険法(1965),ヘルスマンパワー法(提案)等々1953年以来50以上制定・改正されている.
 また行政機構も,公衆衛生事業庁(Public Health Service)の法定4局が8局に組み替えられ(1967年),その翌年である今年の4月さらに保健教育福祉省(HEW)の大改革により,公衆衛生事業庁が,食品薬事行政を加えて,食品薬品行政,保健サービスおよび精神衛生行政,国立保健研究所庁の3庁を含めて,保健教育福祉省副長官(その下にSurgeon Generalが専門官としている)の直属となった.予算については,公衆衛生事業庁では1953年の2億5千万ドルが1965年に24億ドル,その他の庁の保健関係では1953年4,400万ドルが1967年には54億ドル.1968年1月の予算教書を見ると,保健・労働・福祉の項目は1967年度実績395億ドル,1968年度見積額464億ドル,1969年度見積額519億ドルで,その伸び率が他の項目に比し最大となっている.

座談会

公衆衛生活動におけるコンピューターの活用

著者: 方波見重兵衛 ,   大久保正一 ,   新井広朋 ,   松浦利次 ,   橋本正己

ページ範囲:P.28 - P.37

 コンピューターという言葉を聞かぬ日のない昨今だが,その受けとめ方に不安と期待がある.わが国の,その設置台数は世界第3位といわれるが,保健・公衆衛生活動の将来に大きく影響することは必至であり,量的・質的に課題が多い.そこで,その未来を,"夢"をまじえて大いに語っていただくことにする.

人とことば

追いかけの公衆衛生

著者: 藤本薫喜

ページ範囲:P.1 - P.1

 ライスオイルによる中毒らしいという患者が北九州地方に多発していると新聞が報道し,その原因は食用油に混入していた砒素化合物ではないかと,患者の使用していた油を分析した結果よりして,久留米大学医学部の山口教授が発表した.43年度における公衛畑での食中毒事件としては,社会の耳目をそばだたせた筆頭のものである.特に,そのライスオイルは販売ルートにのって西日本各地に広がり,使用した人口数が多く,使用期間も数カ月を重ねた者が多いとなってはことは重大である.油の性質,その使用方法,患者の症状よりして,細菌性の中毒ではないことが即断される.この油を用いて調理をする際は120℃以上の熱がかけられるのが一般であるから,何か熱によっても分解しない性質の毒性物質が混入していると考え,他方,皮脂腺,皮膚の色・光沢などの変化と肝障害などとが主な症状であるというところから,重金属中毒が考えられたのであろう.米ぬかを原料とした油に有毒物が混入するとすれば,米の生産過程中に殺虫防虫剤などに含まれていた物質が米,特にぬかに蓄えられており,これが油に移行したのか,米ぬかが作られて後に毒性物質が混入したか,油の製造過程で混入したか,特に精製の過程で用いられる化学工業薬品中に不純物として混在している毒性物が混入したのか(ビン詰の工程中に混入したと疑うのはおかしい)などの場合を考えるのが一般常識である.

主張

公衆衛生におけるコンピューターの用途

著者: 曽田長宗

ページ範囲:P.2 - P.4

 大量な資料に基づく計算が,人間の何十万倍も早く計算できるという,世界最初の電子計算機ENIACが,数万にのぼる真空管を用いて世に現われたのは戦後1946年のことであった.
 きわめてすぐれた能力をもつ機械であることはわかっても,その巨大な姿と高額な値段とのために,軍事用とかよほど特殊な場合を除き,とうてい一般の実用や研究に使われるしろ物ではなかったが,その後トランジスターが用いられ,さらにIC(Integrated Circuit集積回路)が利用されるようになって,電算機の能力や速度は著しく高まるとともに,その価額も低廉,一般の実用にたえうるものとなり,さらに近くLSI(Large Scale Integrator高密度集積回路)が用いられるようになれば,簡便なコンピューターがいっそう安価にわれわれの利用しうるものとなるであろう.

学会印象記 第26回日本公衆衛生学会・1

高度経済成長による社会の歪みにスポット

著者: 宮沢寿一郎

ページ範囲:P.38 - P.39

 第26回日本公衆衛生学会総会は,43年10月23-25日,秋色もようやく深まってきた京都市で開催された.参加会員2800余名,学会長は,斯界の長老・三浦運一京大名誉教授,副会長には,京大・西尾雅七教授(公衆衛生学)と,京都府・幸康一,京都市・松山雄吉の両衛生部局長.各分科会長には府市の衛生関係部局長や,保健所長と型のごときメンバー.付帯行事として,全国保健所長会,地方衛生研究所全国協議会,衛生学公衆衛生学教育協議会,全国衛生部局長会議,汚物処理対策全国協議会,会員懇親会などが会期中および,その前後(20-26)日にかけて行なわれたほか,正式プログラム以外の"自由集会"も,理論疫学,騒音防止,高血圧,へき地保健などの合計8テーマについて,夜間(18-21時),それぞれに関心を有する有志会員の参加を得て行なわれた.
 会場は岡崎公園内の,京都会館と京都市観業館で,いかにも学会にふさわしい,閑静典雅な雰囲気の中で行なわれた.第1日と第2日は,あいにく秋の細雨に見舞われたが,考えようによっては,一段と閑寂さを増しえたとも言えるであろう.第1日の午後,総会特別講演"今日の地方自治の問題"--京都府知事・蜷川経済学博士と,総会シンポジアム--"公衆衛生と地方自治"が行なわれ,第1日午前と第2第3日の午前午後に,4つの関連シンポジアムのほか443の一般演題が6つの分科会別に,同時に平行して行なわれた.

第26回日本公衆衛生学会・2

熱のこもった"公衆衛生と地方自治"

著者: 中川喜幹

ページ範囲:P.40 - P.41

 第26回日本公衆衛生学会は,去る10月23日から25日までの3日間,三浦運一学会長(京都公衆衛生協会長)のもとに,平安神宮近くの落ち着いた環境の中で,京都会館および京都市勧業会館を会場にして盛大に開催さた.
 学会は6分科会に分かれて行なわれた一般講演の他に,総会特別講演,総会シンポジウムおよび4つの関連シンポジウムから成り,8会場に分かれて行なわれたが,蜷川知事の特別講演"今日の地方自治の問題"に表徴されるとおり,公衆衛生と地方自治がメインテーマをなしており,現在および将来の公衆衛生の課題を,すべて地方自治のあり方と結びつけ,その背景にまでメスを入れつつ,幅広くとりあげたことが大きな特徴であろう.

講座 疫学・7

疫学研究における電子計算機の応用

著者: 柳川洋

ページ範囲:P.42 - P.50

 疫学調査におけるコンピューターの存在は,多大な可能性をはらんでいる。だが,それを活用する研究者側で分析に必要な数学的知識など,すなわち受け入れ体制が不備であると十分な成果をあげられない。2,3の経験例を示して,応用の手がかりとしたい。

教室めぐり・1 日本大学・公衆衛生学教室

職業衛生と地域総合保健活動に力を

著者: 白石陽治

ページ範囲:P.51 - P.51

 昭和22年,占領軍総司令部の覚書により文部省は各医科大学に公衆衛生学教室の新設を促した.日本大学医学部はその趣旨を諒とし,同年12月国立公衆院を辞任していた野辺地慶三先生を招へいし,公衆衛生学教室を創設した.昭和33年,野辺地教授は停年退職され,衛生学講座主任の及川周教授が兼務された.昭和35年,及川教授も停年となられたので,東京大学医学部公衆衛生学教室の助教授であり,日本大学医学部講師を兼ねておられた西川滇八先生を主任教授に迎えた.第3代の同教授に至って,日本大学の公衆衛生学教室が真に教育・研究の両面における開花をみたといっても過言ではない.現在,教室の陣容は,西川教授,有賀助教授,非常勤・兼任講師5名,牧,白石ほか4名の助手,研究員14名を擁し,教育・研究に着実な歩みを続けている.
 公衆衛生学の教育は,衛生学公衆衛生学教育協議会を介してえられる国内の教育情報や諸外国のそれを参照しつつ,衛生学教室(主任白石信尚教授)と緊密な連携を保ちつつ,本学の特殊性を生かす企画のもとに進められている.そのカリキュラムは,まず公衆衛生学への導入を1学年において行なっている.これは,教養課程の保健体育の一部であるが,衛生学公衆衛生学の歴史とその関連科学および概説の講義である.

私たちの保健所・1 長野県・岡谷保健所

チームワークでがんばろう

著者: 樋代匡平

ページ範囲:P.52 - P.53

諏訪湖畔にあるR4型
 長野県には保健所が17あるが,その中で2番めに古い歴史を持つのが岡谷保健所である.昭和14年10月1日,長野県岡谷市加茂町2丁目2番5号の地に設立されている.位置は長野県のほぼ中央,諏訪湖の湖北一帯を管内として,松本市,塩尻市,辰野町,諏訪市,和田村に接し,行政区域は岡谷市と下諏訪町の1市1町,面積142.48km2,人口8万2,338人のR4型の保健所である.区域には諏訪湖唯一の排水口があり,ここが天龍川の水源となり静岡県を経て太平洋に達している.
 地質は湖訪湖岸の一部に沖積層があり,その他は内部に集塊岩をもち,その表面がきわめて厚いローム層からなっている.

研究

M海水浴場の公衆衛生学的研究

著者: 松井和夫

ページ範囲:P.55 - P.57

まえがき
 わが国における国民の健康づくり,体力づくりは重要な課題のひとつであり,夏期のプールおよび海は簡便な方法として盛んに利用されている.このうちプールについては,公衆衛生を保持する目的で維持管理の適正を図るよう県条例などによって規制されているが,海水浴場の場合は,その対象区域が広いこと汚染源が多岐にわたっていることから,これを規制しがたく,その衛生管理は非常に困難性を伴うことは明らかなことである.
 ひるがえって海水の公象衛生学的な調査研究をみると,大阪港1),横浜港2,3)および東京港4)など数多くの報告5,6,7,8,9,10)がある.しかしこれらは,広い視野の立場からみたものであり,保健所レベルにおける狭い視野からのものは,その事例があまりみられない.そこで著者は当センター保健所管内のM海水浴場において,浴客による海水の汚染状態を満潮時,中間時,干潮時の時間差および場所の差などに分けて調べたところ,2,3の知見を得たのでここに報告する.

厚生だより

牛乳の製造日の表示について

著者:

ページ範囲:P.58 - P.58

 牛乳・加工乳などの販売曜日の標示を製造日の表示に改めるよう,去る7月30日厚生省令(乳および乳製品の成分規格などに関する省令)が改正され,昭和44年4月1日から施行されることになった.

阿賀野川水銀中毒事件

著者:

ページ範囲:P.59 - P.59

 昭和43年9月26日,阿賀野川水銀中毒事件について,科学技術庁が発表した政府の技術的統一見解に基づいて,厚生省は"本疾患の発生には,昭和電工鹿瀬工場の事業活動に伴って排出されたメチル水銀化合物が大きく関与し,本中毒事件発生の基盤となっているものとみて,今後公害にかかる疾患として措置を行なうこととする"という見解を明らかにした.これは熊本県水俣市に発生した,いわゆる水俣病に対する見解と同時に行なわれたものであるが,同年5月のイタイイタイ病に関する見解についで,公害にかかる疾患として2度目のものである.熊本県水俣市に発生してから10余年,新潟からでも4年の歳月がたった.阿賀野川水銀中毒事件について統一見解が示されるまでの経過を追ってみよう.

抄録

大変な歓迎をうけている地域保健所

著者: 白石陽治

ページ範囲:P.37 - P.37

 アサチューセッツ州,ボストン市のタフツーコロンビヤ・ポイント保健所は,開所20カ月でその地域の住民の87%に当たる5300人の訪問を受けた。タフツ大学医学部予防医学科の主任Dr. D. Gibson, Jr.,とDr. H. J. Geiger教授は,地域社会が保健の問題に開心を高めたことを示しているという。過去25年間,医師は医療サービスの中心として,病院に接近する傾向が強く,それが医療問題における理念的でかつ支配的でありその目指すところは外来患者への医療を向上させようとするものであったが,実際は基本的な医療を必要としている地域社会から病院とその職員をしだいに遠ざけるという不幸な結果になった。それに対し地域保健所は,その地域社会の真中にあり,その地域の問題はそのまま保健所事業に影響を与える。
 地域保健所が担当する人口は6000-2万5000人程度であるから,検査室の自動分析機,小型X線装置,薬局など大病院で偉力を発揮した新技術はそのまま適用される。保健所の開設当初はコロンビア・ポイント保健協会とよく協力したが,しだいに忙しくなると連絡は疎遠になり,保健所の事業は発展を続け,しだいに独立性を増してきた。

モニターレポート

"婚前学級"岐阜市で開催

著者:

ページ範囲:P.57 - P.57

 さきに東京で開催された"結婚医学教室"の見学記を投稿したが,岐阜市でもさっそくこれを参考にさせていただいて,9月21日と28日の両日にわたって,午後1-3時半まで近く結婚式を迎える人を対象にした婚前学級なるものを試みた.この企ての目標は"新しい家庭の設計に必要な正しい基本的知識と心構え"をもってもらうためのものである.新しい仕事で,果たしてどれだけの受講希望者が得られるか,いささか心がかりであったが,フタをあけてみると,両日とも90名近い受講者で,第1回の試みとしてはまずまずの人数であった.もっとも,これまでの人員を集めるためには,結婚式場(市内の大きなところ5カ所)や大会社・役所(市役所,中部電力,電話局など)へのPRに係員は連日走り回った.
 東京ではカップルが大半で,女性のみの参加はほんのわずかのようにみうけられたが,当市では,男性は3名.予想されたことではあるが,やはりこの種の催しは女性の方が圧倒的に関心が強いといえる.この3名の男性はアベック出席でその勇気をたたえたいが,もっと多くの男性が関心をもって,素直な気持ちで受講してもらいたいものである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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