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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生33巻10号

1969年10月発行

雑誌目次

特集 地域保健計画

社会工学の方法—社会科学的方法と工学的方法の綜合に向って

著者: 鈴木光男

ページ範囲:P.548 - P.553

システムの概念
 最近の急激な地域の変化は,過去数百年の変化にも比すべきものである.この変化は地域の人間関係から,そのあり方,土地,空気,水,光まですべてを変えてしまったといってよい.時には,それは全く破壊的ですらある,その中で人間の健康は急速にむしばまれてゆく現状である.
 もはや単純に科学技術の進歩を信じてばかりはいられない.科学技術の進歩は,そのままでは,決して,人類の福祉にも保健にも貢献しないことはいまや全く明白である.地域の保健計画は,科学技術の進歩も含めた総合的な立場から計画立案されなければならないことは,いまさらいうまでもない.しかし,綜合的ということは,いうはやすく行なうは難しいことであり,現実には,それは不可能にも近いことである.

PPBSと保健活動

著者: 福島康人

ページ範囲:P.554 - P.559

PPBSとは何か
 まず"PPBSは何を狙うのか,それはなぜ必要か"という問題からはいっていきたい.ただし,ここで2つのお断わりをしておかねばならない.1つは,PPBSが全く新しい考えにみちみちた奇抜な科学的手法などではないこと,もう1つは"PPBSはコンピューターによる予算編成方式である"と理解しておられる方があるかもしれないが,その考えにあまり固執しないでいただきたいことである.もちろん,コンピューターがPPBSの効能を倍加させることは事実だが,PPBSの本質的な狙いは,意思決定の過程から恣意性を排し,そこにシステム化した選択の論理を注入しようとするところにあると思うからである.
 さて,PPBSは幾つかの機能を持っているが,基本的には予算(広くいえば国家資源)の配分を合理化するシステムとして工夫されたものである.というのは,従来の予算の組み方には重大な不備と欠陥があった.実は,これがPPBSの開発と導入を促がす主要な原因になっている.後掲の表2"従来の組み方"(①所管別予算)をご覧いただきたい.この欄は,保健予算をもっている米国連邦省庁を予算規模の順に挙げたもので,9位以下を省略したが,実際には全部で7省12機関に及んでいる.

地域保健計画におけるPERTの応用

著者: 新井宏朋

ページ範囲:P.560 - P.566

はじめに
 多くの人々が集まって,共通の目標達成のために共同で仕事をする時,目標のスケールが大きいほど,参加する人の数がふえ,その職種が多岐にわたるほど,仕事の性質が複雑で長い年月を要するほど,計画の立案,実施,統制,調整がむずかしくなることはいうまでもない.PERT(パートと発音する.),すなわちProgram Evaluation and Review Techniqueが,このような仕事の計画と管理に有用な技法であることが実証されたのは1958年,アメリカにおけるポラリス・ミサイルと,ポラリス潜水艦の開発プロジェクト(大きな事業計画をプロジェクトと呼んでいる.)においてであった.それから今日まで約10年,PERTは軍関係の事業だけでなく,ひろく企業内の各種活動の計画と管理に応用されるようになり,本邦で,たとえば最近の霞ケ関超高層ビルの工程管理がPERT手法によって行なわれ,工期を大幅に短縮することができたと報告されている.PERTが本当の実力を発揮するのは宇宙開発をはじめとする,大規模なプロジェクトにおいてであり,大型電子計算機の導入が欠くことのできない条件になっている.しかし一方において,PERTの基本的な考え方は決して難解なものではなく地域保健活動の計画と管理に"明日からでも,すぐ役に立つ"要素を多分に含んでいる.以下,PERTの基本的な仕組みからはじめて,地域活動における応用の実例について述べてみたい.

保健計画における地域と生活空間

著者: 華表宏有

ページ範囲:P.567 - P.574

 1970年代を迎えようとしているわが国では,現在全国各地で急速に進んでいる都市化現象が存在する一方,37万平方キロの全土が一体となっていわゆる"情報化社会"をむかえようとしている.本年5月に閣議決定された"新全国総合開発計画"(新全総)1)は,この新時代へ国として対処すべき基本政策のフレームを示したものといえる.この新全総では現在当面している過密,過疎および地域格差の地域課題への考え方を表明すると共に,基本的目標が高福祉社会を目ざして,人間のための豊かな環境を創造することであると,うたっている.
 ここで指摘しておきたいことは本稿の主題である"保健計画の立場からみた地域と生活空間"の問題点にも新全総に表明されている問題意識と共通するものが多分にあることである.しかし保健計画は社会開発の主要部分を構成しているものであり,経済開発にみられるマクロ的な分析とは異なり,日常生活に密着したミクロ的な発想と分析が必須のものであることは,あらためていうまでもない.

アメリカの総合保健計画および公衆衛生サービス法の動向

著者: 西三郎

ページ範囲:P.575 - P.577

 最近アメリカの公衆衛生分野において数多くの法律改正に新法制定がなされた中で,総合保健計画および公衆衛生サービス法は心臓病,がんおよび卒中法と共に,地域保健計画にとり重要な法律とされている.後者の法律は,Heart Disease,Cancer and Stroke Amendments of 1965(PL89〜239)と呼ばれ,公衆衛生サービス法(Public Health Service Act)の改正で,別名地域医療プログラム(Regional Medical Program)といわれている.なお本誌33巻3号に紹介されている.前者はComprehensive Health Planning and Public Health Service Amendments of 1966(PL 87〜794)と呼ばれ,公衆衛生サービス法の改正である.この法について簡単に紹介しよう.なお本法は,保健協力法〔Partnership for Health Amendments of 1967(PL 90〜174)〕1967年12月公衆衛生サービス法改正により一部修正されている.
 本法は,地域医療プログラムに約1年おくれて成立したもので,保健サービス,ヘルス・マンパワー,保健施設に関する総合計画はあらゆる段階の政府に必要であるとし,その援助のために連邦議会により制定されたものである.

主張

ヘルスユニットと保健計画態勢の確立を望む

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.546 - P.547

 都市化,産業高度化,人口老齢化,傷病像の質的変化,および医療の技術革新,病院医療の高度化などを背景として,第2次大戦後の世界各国に共通する保健の切実な課題は,社会的合理的な地域をユニットとした,予防,治療,リハビリテーションの一貫した水準と効率の高い地域保健活動の実現である.またこのような努力は,高邁な理念を実践に移したというよりは,前述のようなドラスティックな社会的変動によって,医療に対するニーズとサプライの関係が危機的な状況に立ち至ったことが,その主要な契機となっていることも否定できない.このような条件は,日本についても同様であり,とくに昭和30年代以降の急速な経済成長に伴う人口老齢化,傷病像の変化と時を同じくして皆医療保険が実現し,医療の需要が社会化されたため,実はこの課題は今日の日本にとってとりわけ切実なものといえる.ところが不幸なことに日本の現状をみると,総合的な地域保健活動の推進に必要な基本的条件に欠陥が多く,とくに医療制度,医学教育などについて前近代的な条件が温存されているため,類のない経済成長の半面で,国民の保健が危機的な問題性をはらんでいるといえる.医学教育のあり方が根源的に問われ,医療保険財政が危機に瀕し,健保抜本改正,国民医療対策が重大な政治問題となっているのは,このような社会的背景を有するものであることが正しく認識される必要があろう.

人とことば

偶感

著者: 大谷佐重郎

ページ範囲:P.545 - P.545

 さて,"公衆衛生" 誌の表紙を見て私は心をひかれた.それは "公衆衛生" のタイトルの下に,サブタイトルとして英語で,THE JOURNAL OF PUBLIC HEALTH PRACTICEとある.この "PRACTICE" という語に大変興味をひかれたのである.日本公衆衛生学会からも "日本公衆衛生雑誌" を出している.この雑誌名にも英語のサブタイトルがついているが,これには "JAPANESE JOURNAL OF PUBLIC HEALTH" とあって,"PRACTICE" はついていない.
 周知のごとく,公衆衛生の主眼は "PRACTICE" にあるので,Public Healthといえばその中に "PRACTICE" が含まれているはずである.しかし本誌では "PRACTICE" を用いているが,これは公衆衛生上の実際問題を主として取り扱うという意味を,強調するために用いたのではないかと臆測するが,興味を覚えたのは,およそなに事によらずpractiseすることは非常に困難なことであり,ことに公衆衛生の問題においてしかりであるから,この "PRACTICE" を強調した本誌の識見には敬意を表する.

海外の医学教育

イギリスの医学教育(1)

著者: 森亘 ,   北川正信

ページ範囲:P.578 - P.582

はじめに
 一国の,特に他国の医学教育について紹介し,あるいは意見を述べることはなかなか難しいものである.たとい,その土地にかなりの期間滞在していた人であっても,私どものようにそこでの主目的がむしろ研究であれば,実際に見聞する範囲も根拠地を中心としたきわめてわずかな,限られたものに過ぎなくなる.偏見,あるいは故意の歪曲は論外としても,このような個人の限られた経験では,たとい1つ2つの事例を挙げるには十分であっても,一国の医学教育全体の紹介文を書くにははなはだ不十分と考える所以である.かくして,2名の考えを綜合すれば,1名のそれに比べて多少ともましであろうかと,1966年から67年にかけての1年間をケンブリッジで過ごした森と,現在ロンドンに滞在中の北川両名の意見を合わせて,ここに簡単な紹介文を書くこととした.なんらかのご参考になれば幸いである.
 オクスフォード,ケンブリッジの両大学はある意味では英国における大学の代表である反面,別の意味では例外でもあるように思われる.中でも,しばらく前に臨床面を整備し終わったオクスフォードに比べて,いまだに臨床教育をほとんど行なわないケンブリッジは,さらに例外であろう.しかし,実はこれこそ英国における医学教育の真の姿であるのかも知れない--すなわち,基礎ならびに臨床教育の分離,あるいは独立とも考えうるであろう.

教室めぐり・10 三重県立大学・公衆衛生学教室

地域の問題を着実に研究

著者: 吉田克己

ページ範囲:P.587 - P.587

教室の沿革
 当大学は,昭和19年に三重県立医専として津市に設立され,ついで旧制単科医科大学に昇格し,昭和27年に水産学部の設置により2学部制の新制大学の医学部に変わりました.新制大学発足当初には衛生学教室のみで公衆衛生学教室はありませんでした.先輩格の衛生学教室は,阪巻教授,川端教授を経て,現在は松井教授が担当されています.
 公衆衛生学教室は,助教授1名,助手1名で昭和30年4月に発足,昭和33年9月に教授以下4名で正式講座になり,今年で11年になる訳です.講座の責任者は昭和30年来一貫して吉田が担当してきました.

私たちの保健所・10 高知県・本山保健所

結核予防と成人病対策

著者: 中村仁志

ページ範囲:P.588 - P.589

 高知といえば南国土佐を思い出されると思う.幕末から明治維新にかけて活躍した坂本龍馬,中岡慎太郎,後藤象二郎,板垣退助など多くの志士を生んだ土地である.近年土佐犬,長尾鶏をはじめ足摺岬,室戸岬,龍河洞の景観は年ごとに多くの観光客を呼んでいる.人口は約80万人,保健所は10カ所にある.本山保健所は四国を縦断して流れている吉野川の上流で,有名な大歩危,小歩危の景観の少し上手からの愛媛県境の流域一帯約970km2を管轄している.石槌山,剣山を両峰とする四国山脈は非常に急峻で,吉野川の水とよく調和し山紫水明の地といっても誇張ではない.おかげで南国とはいえ保健所は夏でも非常に涼しく,名物の吉野川のあゆも多くとれ,人情豊かな土地柄である.冬には10cmの積雪があることも2〜3回あり,春の桜は本山の桜として四国に鳴りひびいている.しかし,ご多聞にもれず過疎問題は深刻であり,昭和27年の開設当時世帯数約10290戸,人口約49800人であったものが年々減少し,昭和43年10月現在で世帯数9687戸,人口34148人となり,世帯数に比し人口の減少がめだっている.管内は1町4カ村で,L5型保健所である.

特別連載

米国における保健医療体系の苦悩ならびに医師・歯科医師・看護婦の深刻な不足とその対策

著者: 館正知 ,   石戸利貞 ,   高橋英勝

ページ範囲:P.583 - P.586

(V)相互審査によって,専門技術行為に責任を持つこと 医学的情報を手に入れやすくすること,および継続教育を受けやすくすることは,可能性のある診療(potential care)と,実際の診療(actual care)との間のギャップを埋める有効な措置ではあるが,専門技術活動が最新の標準に即して行なわれるということを保証する手段とはなり得ない.また,それだけでは自分の能力を過信する医師が,その能力を越えた治療や,処置をすることを防ぐことはできないであろうし,さらにごく少数の医師ではあるが,患者に不必要な薬を処方したり,正当と認められない処置を行なうことを防止することにもならないであろう.
 これらの特別な問題を処理する最善の道は,医学的専門技術活動が練達した識能の下に,適切に行なわれていることを,医師が責任を持つように助長してやることであり,それはすなわち,医療行為を医師仲間の審査と評価の下におくことである.患者およびしろうと達は自分達が受ける医療サービスの質を評価できる知識と訓練を持ち合わせていないので,医師の相互審査によって責任を持つことは特に重要である.

資料

新しい浄化そう—建築基準法改正による構造基準と管理体制

著者: 岩戸武雄

ページ範囲:P.590 - P.598

政省令改正の背景
 生活環境を改善する一環としての便所の水洗化の推進は,し尿浄化そうの普及に著しい開発を示した.公共下水道の建設は,遅々として進まず,またその恩恵を被むる水洗化は10年間に60%を下まわる現状である.昭和42年度の公共下水道水洗化人口692万人に対して浄化そう水洗化人口は,878万人に達し設置数49万7千を越えている.
 これらの浄化そうの形式は,200種以上も出回っているが,そのうち従来,基準形として唯一の性能が規定されたものは案外少なく,大部分のものは特殊形として認定されたものであった.これらの機能は低下していて,良好なものはきわめて少なかった.

東京都大田区立羽田旭小学校における腸チフス集団発生について

著者: 腸チフス中央調査委員会

ページ範囲:P.599 - P.602

事件の認知
 昭和43年10月12日,かねて発熱のため入院中の羽田旭小学校の1学童の糞便からチフス菌が検出されたという届出があり,所轄保健所は調査に入った.
 たまたま同地区で香港かぜの流行が重なったこともあり(ウイルス分離),また事件を認知した時点は,すでに伝播をうけてから1ヵ月あるいはそれ以上を経過していたためもあって,非常に困難な逆追跡調査を行なわなければならなかった.
 しかし関係者の努力によって本事件の全貌が明らかにされた.その間,数度にわたって本委員会とも検討会がもたれた.

厚生だより

"日本人の栄養所要量"答申について

著者:

ページ範囲:P.603 - P.603

 昭和44年8月18日,厚生大臣の諮問機関である栄養審議会が "日本人の栄養所要量" について答申を行なったので,ここで答申の経緯,およびその概要について簡単にのべてみたい.

北から南から 山口県

話題多い第16回山口県公衆衛生学会,他

著者: S・D

ページ範囲:P.559 - P.559

 6月28日(土),山口県医師会館で,山口県,山口県公衆県衛生協会主催のもとに,第16回山口県公衆衛生学会が開かれました.
 会館内を2分科会場にわかち,第1会場では狂犬病予防,食品衛生,環境衛生,公害,その他.第2会場は健康調査,母子衛生,成人病,伝染病,栄養などの演説計23題が行なわれるほか,メインエーベントとして"高血圧症をめぐって"のシンポジウムがあり,発見患者や疑患者を公衆衛生活動の上でどのように進めるべきか,また高血圧症対策にいかなる配慮をなすべきか,特に"その管理"についてなど,きわめて有意な討論があって,本学会は話題多く,次の2つは非常に興味がもたれた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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