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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生33巻11号

1969年11月発行

雑誌目次

特集 トピックス

大学医学部の医学教育について

著者: 吉川春寿

ページ範囲:P.608 - P.613

 インターン制度廃止という問題を中心に数年前からくすぶりはじめていた大学医学部のごたごたは,新たな研修制度の施行をきっかけに医局制度,学位問題にまで及んだ.東大ではついに医学部学生の処分といういわば偶発的副次的な事件によって発火点に達し,これがさらに全学的な紛争にまでひろがった.70年安保を前にして,不安定な状態にあった全国の大学にも,この騒擾が連鎖反応的に波及して,今日の重大な社会問題となっていることは周知のとおりである.
 ことがここまで重大化すると,その発端となった医学教育の問題も,広汎な事象の中にうずもれてしまって,あまり目立たなくなってしまったようである.しかし,現下の大学問題が今後どのように推移しようとも,医学教育に関連する諸問題は,わが国の医療問題と不可分の関係にある.このことから,医学教育の問題は独自の方法で解決して行かなければならないと思う.

国民医療対策大綱に失望する—これは政策でなく作文である

著者: 石垣純二

ページ範囲:P.614 - P.619

 自民党政調会の中に医療基本問題調査会が設けられてから4年余,会長は賀屋興宣,灘尾弘吉,鈴木善幸,西村英一と4代にわたり委員には厚相経験者をはじめ自民党内の保健衛生に関する有識者を総動員したオール・スター・キャストで数10回の会合を重ね,ことに昭和43年10月25日小委員会の第1回会合が開かれてからは一そう頻繁に会合を重ね,"国民医療対策大綱"を調査会総会に提出するにいたった.
 と聞けば,これからの日本の医療のあり方を大きく変えるような,そしていまわれわれが目にしている医療の混乱や歪曲を根源的に改善するような,すばらしい政策が提案されているだろうと期待するのは人情であろう.

結核実態調査

著者: 島尾忠男

ページ範囲:P.620 - P.625

過去の調査の果たした役割
 第1回の結核実態調査は,結核予防法が大改正された昭和26年から2年を経た28年に実施された.結核死亡率の急速な低下によって,結核患者の実態を把握し,対策を進める必要性が増大したことが背景となり,標本調査法の進歩,保健所網の整備による技術水準の向上などが本調査の実施を可能とした.
 当時,結核は青年層に多いと考えられていたが,第1回調査によって結核は全国のあらゆる地域,階層に広くまん延していることが明らかにされ,この結果,30歳未満のものにのみ行なわれていた健康診断が,全国民に年1回無料で実施されるようになった.

油症—米ぬか油事件

著者: 倉恒匡徳

ページ範囲:P.626 - P.631

実態と追跡調査
 昭和43年6月以降10月10日までに,九州大学医学部皮膚科外来を,痤瘡様皮疹を主訴として,爪の黒変,毛孔に一致した黒点,皮膚色の変化,眼粘膜の充血,眼やに(マイボーム腺分泌過多)などを伴う4家族の患者13名が訪れた.同科においては臨床所見から塩素痤瘡が疑われ,その家族発生と食用油の使用状況から,油に起因するものではないかと考えられた.10月4日に患者から大牟田保健所に届け出があり,患者の使用したライスオイルの分析が依頼され,同月10日にはこれら"油症患者"の発生が新聞報道された.つづいて10月14日,九州大学医学部,薬学部,福岡県衛生部合同の研究班が組織され,同月19日には九大農学部,工学部,生産技術研究所の専門家と,久留米大学医学部公衆衛生学教室の参加を得て,研究班(班長勝木司馬之助)は臨床,疫学,分析の3部会に強化編成された.疫学部会は九大公衆衛生学講座,衛生学講座,久留米大公衆衛生学教室,福岡県衛生部,北九州市衛生局,福岡市衛生局,大牟田市衛生部を構成員とし,著者はその責任者としてこの特異な疾病の原因究明に参加したので,以下疫学部会の研究成果の概要を述べるとともに,問題点について考察を加え,ご批判を得たいと考える.なお上記3部会の研究成果は,すべて報告されているので,疫学的研究の精細についても引用文献1を参照されたい.また他県の患者については,特にふれない.

人とことば

偶感二題

著者: 松村䏋

ページ範囲:P.605 - P.605

抗生物質は両刃の剣
 先日,私の知人の一医師が悪性貧血症のため逝去せられた.この人は今から約一年前,胆石摘出の手術後腹壁に胆汁の瘻管を残し,その処理のために同医師は相当長時日の間,抗生物質剤の使用を続けられたとのことである.この抗生物質剤の副作用で大切な身体の造血中枢を犯され,血球再生不能症に罹かり,遂に難治の悪性貧血症を招いたとのしだいである.
 近頃,薬原病と呼ばれるもののうち,サルファ剤やマイシン剤の副作用として人体の生活機能に必要な腸内固有菌叢に異変をきたし,有用なる普通大腸菌が消滅し,その虚に乗じてカンジダ菌が侵入し,腸管全体に繁殖し,そのために重篤なる交替菌症を誘発する,という例数が幾多報告せられている.

主張

環境汚染とスクリーニング—住民に期待する"環境衛生行動"

著者: 辻達彦

ページ範囲:P.606 - P.607

はじめに
 最近の環境衛生の問題は,水俣病やイタイイタイ病と公害を例にとっても,単に保健の問題であるばかりでなく,水産業,農業につながる生活保障の要求のウエイトが過大である.
 また社会の眼も必ずしも一次的に保健に向いているとは限らない.このような場合に,公衆衛生関係者にとって対処しにくいもどかしさを感ずる.たとえば養魚地に産業廃水が流入して被害を生じたり,農産物に有害物質が含まれる事態でも,これまでの予防医学を中心とする公衛従事者のできるのは,ある程度の環境測定と,人体影響への波及を防止する衛生教育に徹するほかはなさそうである.産業衛生の主題のひとつが職場環境悪化防止であり,これに従事する研究者,衛生管理者は多いが,地域環境の人為的汚染ないし悪化に対する専門家の育成が等閑視されていたきらいがある.化学的環境汚染ばかりでなく,放射能のような物理的汚染や騒音(sound pollutionという言葉もある),粉塵公害に対し,旧式な衛生学では手に負えないものがある.大部分の公害は発生源が明白であり,人体影響への因果関係は職場環境ではつきとめられても,現実の地域環境ではあまりに要因が多すぎ,単純な因果関係の確立は至難である.とくに疫学的にいえば,生活史が不分明ないわゆるイタイイタイ病とCdの関連についても,定説の登場にはもう少しの日時がいることと思われる.

海外の医学教育

イギリスの医学教育(2)

著者: 北川定謙

ページ範囲:P.633 - P.637

はじめに
 本稿の主題は英国の医学教育,なかんずく公衆衛生の分野についてということであるが,医学教育問題について体系的に勉強したわけではないので,全貌を論評できるわけではない.自分で履修したD.P.H.の課程を中心に苦干の経験をまとめてご紹介するに過ぎないが,おのづから偏見,独断のあやまちがあるかもしれないのでご批判ご指摘をいただければ幸いである.

教室めぐり・11 岡山大学・公衆衛生学教室

新しい方法論による公衆衛生

著者: 緒方正名

ページ範囲:P.639 - P.639

 教室の沿革 昭和28年公衆衛生教室が新設され,主任教授に大田原一祥博士の就任を見,その下に講師として私が共に衛生学教室より転じ,教室作りのお助けをした.設備,器具のないところから始まったので,不自由もあったが,愉快に研究ははかどった.しかるに37年1月教授が病歿され,当時助教授の私が同年6月後任教授に任ぜられ,1年Harvard Medical Schoolに留学し,今日に至っている.現在教授1,非常勤講師2,助手4,副手,大学院各6,専攻生18,技官1,技能,用務各1の大世帯となった.

私たちの保健所・11 奈良県・葛城保健所

胃検診と療育相談を中心に

著者: 相良丈夫

ページ範囲:P.640 - P.641

本保健所の沿革
 本保健所は昭和19年10月奈良県高田保健所として発足,昭和26年6月増築され葛城保健所と改称,昭和44年7月奈良県高田綜合庁舎内葛城保健所として面目を一新した.綜合庁舎となった理由は,県民へのサービスの向上と,職員の執務環境の整備を図るためで,特に試験検査室に重点を置いている.従来,衛生研究所に依存していた試験検査のうち水質,結核菌,赤痢菌検査を保健所で行ない,衛生研究所は研究所でなければ行ない得ない検査に専念することにした.
 高田綜合庁舎は鉄筋コンクリート3階建,本館延3044m2,1階969m2,2階964m2,3階964m2で,保健所は1,2階の左側半分を占有している.庁舎内の他の機関としては県税事務所,福祉事務所,大和平野土地改良事務所,高田林業改良指導員駐在所,失対事務所などがある.

特別連載

米国における保健医療体系の苦悩ならびに医師・歯科医師・看護婦の深刻な不足とその対策

著者: 館正知 ,   石戸利貞 ,   高橋英勝

ページ範囲:P.642 - P.645

3・3 記録制度のオートメーション化
 保健要員の徴兵は特別な性格をもっているので,兵役につかせようとする人数や,場所についての決定は,一般住民や,徴兵される人にどのような結果をもたらすか,十分に検討した上で実施することが必要である.
 本報告は,選抜徴兵制度を次のように修正するように提案する.地方徴兵委員会が,自己の管轄下の専門技術者の選抜業務を実施することは従来通りである.ただ,これらの委員会がその任務を果たしやすくするために,その地域や,同一州の他の地域における保健専門技術者の分布や,利用に関する情報を得ることができるようにしたい.さらに,保健専門技術者の管轄権は,登録が最初に行なわれた地方委員会に残るとするなら,各委員会は,全国に散在する保健専門技術者の中から選抜を行なうので,国中の保健専門技術者に関する情報を必要とする.現行の制度では,このような情報源は存在せず,個々の委員会自身でそれを確保することは不可能に近い.

資料

ビルマにおける痘瘡の流行と根絶計画の進展について(1)

著者: 黒子武道

ページ範囲:P.646 - P.650

はじめに
 痘瘡はかつて全世界に流行をみたが,今世紀の前半には広範な種痘の実施によって欧州,北米および太洋州においてその根絶に成功した.しかし,アジア,アフリカの多数の国で依然常在流行を続けており,南米においても根絶をみるに至っていない.
 中・南米諸国においては1950年に痘瘡根絶計画が開始され,Brazil,Colombiaを除いて事実上撲滅された.またこの時期には北アフリカ,アジア,地中海東部諸国においても組織的な種痘計画によって痘瘡の防遏に成功している.1958年第11回WHO総会において,世界的規模による痘瘡根絶計画の実施が決議されて以来,多数の常在流行国で組織的な種痘計画が開始され,Ecuador,Iran,Ivory Coast,Senegal,Sudan,Thailandなどでは1962年から1966年の間,流行の発生が阻止された.しかしこの間India,Pakistanでは著明な発生増加をみている.またArgetin,Paraguay,Uruguay,peruでは流行または輸入例による発生があり,組織的な種痘計画を実施している国においても流行国からの侵入によって痘瘡の流行を繰り返している.

腸チフス・パラチフスの管理報告—1967年の管理カードの分析から

著者: 腸チフス中央調査委員会

ページ範囲:P.651 - P.656

はじめに
 腸チフス中央調査委員会は1966年11月以降全国の腸チフス・パラチフス発生状況を,患者発生時に提出される患者発生速報カードおよび管理カードに基づいて具体的に把握し,その防疫に資するよう努力を続けている.すなわち,速報カードと分離菌株のファージ型別結果とを基礎として,全国的視野で患者発生の系統を調査分析し,必要によってはその結果を感染源・伝播経路の追求や防疫対策に役立て,現地の活動に協力してきた.そして,その状況はすでに"公衆衛生"33巻8号(1969)に紹介し,それ以降流行事例なども本誌上に継続して報告している.
 一方,管理カードは隔離された患者・保菌者が退院した時点で記録作成されるもので,発病から診定,隔離にいたる状況の他に,治療状況や諸検査成績なども記載される.これは患者発生時の実態を知るためのみでなく,患者から永続保菌者への移行を監視するための経過者検査の便宜や,平素から永続保菌者の分布を知って,防疫に役立てるために利用しようという意図のものである.

研究

某離島住民における梅毒血清反応陽性率の検討

著者: 土屋真 ,   佐藤徳助 ,   小野敬 ,   池田雄治 ,   関口東一 ,   佐藤昭光 ,   佐藤タエ子

ページ範囲:P.657 - P.659

はじめに
 売春防止法施行以来,現在の性病予防法では性病の実態がつかめなくなり,顕症梅毒増加の傾向を指摘した報告1)などからも国民の不安が増大している.著者らは,さきに宮城県衛生研究所が県内医療機関より依頼されて実施した,最近のワッセルマン反応緒方法陽性者335名の定量成績を検討した2)が,緒方法陽性者の83.5%は抗体価が40倍以下にすぎなかった.そこで一般住民における実情把握の目的から,10年程前に梅毒血清反応検査と治療を行なった某離島住民3)に対し,このたび結核および循環器検診などの総合検診の一環として梅毒血清反応検査を行なったので報告する.

学会印象記 第16回国際労働衛生会議

各国の代表者を集めて

著者: 木島昂

ページ範囲:P.632 - P.632

会の沿革など
 労働衛生(OCCUPATIONAL HEALTH)に関しては世界最高のレベルといわれる本会議の母体は,1906年(明治39年)ミラノに設立された国際労働衛生協会である.この協会は文字どおり労働衛生の向上を図る国際団体で,設立と同時に第1回目の国際会議(ICOH)が開かれ,以来3年ごとに世界のどこかで開催されている.もっともその間,第1次大戦によって歩調は乱れたこともあったが,これまでの15回の開催地のうち,14回まではヨーロッパで,1回だけがアメリカである.協会には世界50カ国が加入し,631名の会員がいるが,日本が参加したのは1931年(昭和6年)の第6回目からで,今日では主要メンバー国になっている.本16回では,日本組織委員会の会長に,中央労災防止協会会長・三村起一氏,実行本部長に日本経団連常任顧問の前田一氏があたっている.

北から南から 岐阜市

"婚前学級"発足して1年/技術研修会での若いエネルギー

著者:

ページ範囲:P.613 - P.613

 "結婚前に明るい家族計画を‥‥" と,岐阜市中央保健所が昨年9月から始めた "婚前学級" も満1年を迎えたが,大きな成果をあげ,婚約者や両親からも喜ばれている.
 婚前学級は,結婚によるしあわせはただ2人が結ばれるだけではなく,お互いに協力しあい,励まし合い,苦しみを分かち合う生活の中から築きあげてゆくもの‥‥このためには,結婚についての基本的な正しい知識と心構えをもってもらおうと,同保健所の肝入りで開級した.同学級は,とくに結婚シーズンを前に年4回開いているが,1年間に受講した人は342人,うち男子は40人だった.中には婚約したカップル30組の姿もあり,婚前の若いカップルが真剣に結婚問題を考え,しあわせな家庭を築こうとする努力がみられる.また受講者の50%が家事手伝い,ついで洋裁学校生徒22%,OL 13%,公務員10%,技術者5%の順になっている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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