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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生33巻2号

1969年02月発行

雑誌目次

特集 公害問題—その新しい考え方

大気汚染と判定基準

著者: 吉田克己

ページ範囲:P.64 - P.69

気管支喘息の増大
 先にGoldsmithは,図1に示したような米国カルフォルニア州の気道性疾患の死亡率の推移を示し,肺結核の急速な減退にかかわらず,新たに気管支炎,喘息,肺気腫といった,より治療の困難な疾患群の死亡が上昇していることを示し,これらの疾患のもつ呼吸生理学上の特性に基づいて,これを非特異性慢性閉塞性肺疾患(non-specific chronic obstructive lung diseases)として一括した.
 このような閉塞性肺疾患の疫学的増大は,大気汚染の問題とからんで,日本においても注目される内容をもってくるようになった.図2に示したのは,四日市市におけるこの閉塞性肺疾患死亡率の推移であるが,近年著明な上昇を示している.日本での閉塞性肺疾患死亡の状況は,気管支炎,喘息が相半ばしているが,気管支炎死亡が従来比較的農村部で高かったことから,閉塞性肺疾患死亡率はむしろ都市部の方が若干低い傾向にあり,また,全体として年々漸減傾向にあったのであるが,四日市の汚染地区では急上昇の傾向をもっていることが示される.同様な問題は,英国においても気管支炎死亡が常に都市部に高いことが示され,またその都市のSO2,濃度と気管支炎死亡率が相関関係にあることが報告されている.

水俣病の経過と当面の問題点

著者: 入鹿山且朗

ページ範囲:P.70 - P.76

はしがき
 昭和43年9月政府は水俣病が窒素水俣工場アセトアルデヒド設備から排出されたメチル水銀化合物が水俣湾魚介に蓄積し,これらの魚介を摂取することによって起こったメチル水銀中毒であるとし,これを公害病と認定した.これを契機に公害病としての本病の対策に大きな進展が期待されるとともに,水俣以外の各地で起こっているメチル水銀による環境汚染に対しても警告が発せられたことになる.以下,今日までの水俣病の経過を中心にメチル水銀による環境汚染に関する当面の問題点についてふれてみたい.

イタイイタイ病研究の経過

著者: 石崎有信

ページ範囲:P.77 - P.81

まえおき
 神通川は岐阜県の飛騨山地から源を発して富山県のほぼ中央を南から北へ流れ,富山市街の西端を通って富山湾へそそいでいるかなり大きい川である.
 その支流の1つ,高原川に近く鉛と亜鉛では日本一の産額を誇る神岡鉱山がある.その鉱山の歴史は古く天正17年(1589)に鉱脈が発見され,銀銅を産したという.大正年代にはいり選鉱法が近代化され大規模となるとともに,下流の神通川流域に稲作の被害が現われ農民が問題にした.鉱毒を含む細砂が多量に流入して稲は成熟が不完全になり,紫雲英は全く栽培が不能となったとして,農商務大臣および富山県知事に陳情書が出されているのが大正9年である.

新潟水銀中毒事件の反省

著者: 北野博一

ページ範囲:P.82 - P.87

事件の呼称について
 作家の水上勉氏が小説「海の牙」で熊本の水俣病をテーマにしたとき,架空都市"水潟市"としているが,水上氏自身は新潟にも水俣と同じように化学工場があったから,ひょっとしたら新潟にも同じ悲劇が予想されたのでと最近の手記に記している.地元のわれわれには全くといってもよいのであるが,そのような予感も危惧も持ち合わせなかった.
 新潟に有機水銀中毒患者が多数発生し,その原因探求と被災者対策を進めるにあたっての行政的措置として,研究本部なり対策本部を設置することは当然のことであるが,その際に何と名づけるかが問題であった.種々議論の末,新潟有機水銀中毒事件と呼称することを厚生省に具申した.

公害対策の国際的比較

著者: 橋本道夫

ページ範囲:P.88 - P.93

行政と立法
 公害対策基本法は日本の公害行政の原理・原則・仕組みを法律として規定している.国際的にみてこのような法形式のものは,フランスが日本でいう公害のみならず,産業活動に伴う近隣への危険や,不衛生(含ねずみの害)な環境を排除するための基本法を制定しているものがあるのみである.西ドイツの営業規制法と民法に根拠をおいた近隣への権利の侵害の規制は,日本の純粋な行政法の基礎としての基本法とは別の意味での基本法の性格を持つものと言えよう.これは営業の権利と市民の権利についての関係を,相互に規定しているものであり,これを行政上実施に移すための大気汚染防止法が,保健省所管の法律として制定され,その実施は州法によるという方式をとっており,これは連邦形態をとっているドイツとしての取り組み方を示している.イギリスの場合には,公衆衛生法の中に制定法による生活妨害の規制(Statutory Nuisance)の規定があり,それに基づいて大気清浄化法や騒音防止法が制定され,またアルカリ事業等規制法との関連をつけている.これは市民の生活妨害の防止という基本的立場から,公衆衛生の問題として順次とりあげていったイギリスとしての,立法および行政施策を示している.

人とことば

公害行政を担当するにあたって

著者: 金光克己

ページ範囲:P.61 - P.61

 現代のわが国における公害問題の解決は,困難ではあるが緊急に対処しなければならない国民的課題の1つといえる.私は,昨年6月以来,厚生省における公害行政を担当しているが,公害行政はきわめてむずかしい分野の行政であることを痛感している.その困難性を行政的にみると,公害はまことに広範な分野の活動と関連し,しかもその活動は,いずれも現代の人間生活にとって必要不可欠なものであるということにある.たとえば,大気汚染の主な原因の1つとされる火力発電をとってみても,経済的かつ効率的な水力発電用のダムサイトを求めることが,困難となってきた現在にあっては,逐年増大していく電力需要に応ずるためには,社会的な要請としてもその建設や増設を拡充していかなければならないし,また,排気ガスによって都会の空気をよごしている自動車の増大にしても生活水準向上の象徴ともいうべきマイカーや,生産や流通の拡大に伴う輸送量の増大など,社会的,経済的な要求に基因していると考えざるをえない.
 さらに保健福祉の見地からみた都市の市民の生活水準は,生活環境整備の立ちおくれの事情とも相まって相対的な低下の傾向を示しているにもかかわらず,都市への人口や産業の集中はなお依然として持続しており,それがいわゆる都市公害発生の主な要因の1つともなっている.

主張

公害問題—その新しい考え方

著者: 庄司光

ページ範囲:P.62 - P.63

ようやく芽生えだした公害行政
 厚生省の公害行政に変化がみられる.すなわち,昭和43年5月8日に厚生省は富山県におけるイタイイタイ病に関する見解を明らかにし,イタイイタイ病の本態はカドミウムの慢性中毒であり,その原因物質としてのカドミウムは,神通川上流の三井金属鉱業株式会社神岡鉱業所の事業活動に伴って排出されたものであるとした.
 新潟県水銀中毒については,昭和43年9月26日に科学技術庁が政府の技術的見解を発表している.このとりまとめの前段階で厚生省の見解が出されているが,これは厚生大臣の諮問機関である食品衛生調査会の答申によるものである.この答申は昭和電工鹿瀬工場のメチル水銀を含む排水が,本水銀中毒発生の基盤をなしたというあいまいな表現であり,直接研究にあたった疫学班の次の結論とくらべると対照的である.疫学班の報告では,本事件は阿賀野川のメチル水銀化合物汚染を受けたり川魚を多食して発生したメチル水銀中毒事例で,第2の水俣病というべきであり,その汚染源は昭和電工鹿瀬工場の排水であると.科学技術庁のまとめた政府の技術的見解では,発生原因者についての表現はたいへんあいまいになっている.このように疫学班の結論がしだいにあいまいなものになったのは,横浜国立大学北川徹三教授が農薬説を出し,通産省がこれを支持しているからである.これについては「科学朝日」(昭和43年12月)のp.96-100に紹介したから参照されたい.

講座 疫学・8

慢性疾患の疫学調査における診断と測定の諸問題

著者: 松下寛

ページ範囲:P.95 - P.100

 成人病を中心とする慢性疾患は,最近特に重要視されてきた.その疾病はいかなる基準で診断されるのか,またスクリーニング検査はいかに行なったらよいのか,疫学的アプローチの問題点をあげてみる.

学会印象記 第17回日本農村医学会

研究者の情熱があふれていた発表

著者: 鈴木功

ページ範囲:P.101 - P.101

 ほとんど風のない秋晴れの好天続きに恵まれて,第17回の日本農村医学会は10月19,20日の2日間,山口県小郡町で開かれた.会場は県農協会館,小郡駅から歩いて15分ぐらいの国道2号線を横切った小高い丘の上の,なかなかデラックスな建物である.国道から折れて,並木の植わっただらだら坂をしばらく登った建物の前庭が芝生で広くとられ,そこから一望のもとに見おろせる静かな小郡の町なみは,いかにも学会にふさわしい環境であった.建物のうしろに連なる山々の紅葉はまだ早い.
 4階建の会館の4階の大ホールと3階の2部屋が会場に使われ,4階には広いロビー展示場,それにコーヒースタンドもあって,さして規模は大きくない本学会にふさわしい落ちついた雰囲気にあふれていた.

教室めぐり・2 北海道大学・衛生学教室

独創的な疲労研究をすすめる

著者: 斉藤和雄

ページ範囲:P.103 - P.103

教室の沿革
 エルムの学園北大の医学部に衛生学教室が設置されたのは大正12年のことである.開設当時は細菌学の中村豊教授(現在名誉教授)が兼任されていたが,その後,毛利高一先生がドイツ留学を終えられて初代専任教授に就任されたが,病を得て十分その学才を発揮されずに辞職された.昭和4年に至り,パリ帰りの新進学者井上善十郎先生が専任教授として赴任され,この時から真の衛生学教室の歩みが始まったといえよう.井上先生は恩師ベスレドカ教授のanti-virusから出発した異種細菌免疫やBCGの免疫効果など伝染病予防に関する研究,あるいは絶縁環境,労力衛生など各分野にアイデアを発揮され,多数の業績が発表されている.門下生から大学・研究所・行政などの予防医学分野に幾多の偉材が輩出し,わが国における予防医学を向上させる大きな原動力の1つになったことはあまりにも有名である.
 昭和32年井上先生が定年退官され,助教授の高桑栄松先生が第3代めの教授に就任された.教室の推進力となるスタッフは教授を筆頭に斉藤助教授,小野・飯田の両非常勤講師,加森助手,大中・小峰・本間・本谷の大学院の他19名の研究生,1名の外国留学生がおり,日夜研究にいそしんでいる.

私たちの保健所・2 埼玉県・草加保健所

盛んな母子衛生活動

著者: 荻野淑郎

ページ範囲:P.104 - P.105

第829番めの保健所
 "草加・越ガ谷,千住の先".江戸をあとに,日光街道を北に向かうと,まず通るのが草加の松並木である.東京都に隣接した埼玉県草加市は,東武線沿線第2のマンモス団地の日本住宅公団松原団地を含めて,最近急速に人口が増加してきた.従来は川口保健所の管内であったが,そこからは10km以上も離れており,保健所行政の遠隔地という感じであった.昭和42年5月,その草加市に,わが国で第829番めの保健所がオープンした.
 管轄は草加市と八潮町の2つ.はじめは草加市だけという話もあったが,結局は2つの市町になった.県の保健所としては,この方がよいと思う.県の保健所が1つの市だけしか管轄していない場合,両者の間の連携がうまくないと,特にサービス部門で調整に苦労することがある.たとえば,国保保健婦と保健所保健婦との関係である.開設当初の管内人口は約11万人であったが,1年間に1万人以上ふえており,この傾向がまだ当分の間続くことは疑いのないところ.管内面積は約4600km2で,むかしはそのほとんどが水田だった.それがだんだん埋め立てられている.といっても近くに丘もないので,遠くは千葉あたりから山土を運んでくる.が,ときには東京都のゴミを埋め立てに使っているのがある.そのトラックに"東京を清潔に"と書いてあるが,"埼玉もキレイに"と書き加えてもらいたいものではある.

研究

北九州市およびその各区の健康度について—昭和40年

著者: 坂田守 ,   西敏之 ,   永江美代子

ページ範囲:P.106 - P.115

緒言
 公衆衛生行政をやってゆく立場上,その地区の住民の健康度を知ることは興味深いことであり,また必要なことである.健康度の指標としてはいろいろあるが,生命表を利用することも1つの方法である.今回,昭和40年の資料をもとに,北九州市および各区の簡略生命表を作製し,市民の健康度を比較してみた.

厚生だより

米ぬか油中毒事件

著者:

ページ範囲:P.118 - P.118

1.事件の端緒
 昨年10月4日,大牟田保健所から福岡県衛生部に,油によると思われる中毒患者の発生が連絡された.その後,同保健所の調査により患者が九大付属病院で治療を受けていることが判明し,県衛生部が情況を聴取したところ,北九州市からも同様の患者が治療を受けにきたことが判明し,食中毒事件として調査を開始した.
 一方,同月9日,同保健所は患者宅に残っていた米ぬか油の検査を県衛生部に依頼し,同部は県下各保健所,政令市に対して患者発生の状況を至急調査するよう指示した.また,製造元であるカネミ倉庫株式会社製油部に対しては,所轄の北九州市と打ち合わせのうえ,自主的に販売を中止するよう報告した.

清掃事業の近代化

著者:

ページ範囲:P.119 - P.119

 日本経済の高度成長に伴う急速な都市化現象は,従来の清掃事業では対応しきれないほどの多様,かつ膨大な都市廃物を生み出し,生活圏からの排除や処理・処分の困難なこともあって,都市機能の正常化にとって重大な挑戦となりつつある.
 すなわち,耐久消費材廃物・建設廃材・産業廃物・汚泥(家畜糞尿も組成上は汚泥に近い)などの固形状廃物の増大がこれである.

モニターレポート

第7回精神衛生岐阜県大会,盛大に行なわる

著者:

ページ範囲:P.117 - P.117

 岐阜県精神衛生協会が発足して以来8年,その間いろいろの事業をなしてきたが,今回の第7回精神衛生岐阜県大会では,新たな機構で,午後からの分科会が開かれることになった.菊の香かおる10月31日午前10時から,岐阜県医師会館で開催された.会場には約300名ほどの会員が参集し,立すいの余地もないほどの満員ぶりであった.
 会長のあいさつでは,現代の子供が怪獣のマンガに熱中し,若者がヒッピー族にあこがれ全学連に傾倒するのも,精神の不安からくる現われであると述べられ,知事のお祝いのことばでは,いかに道路がよくなり,交通規制がなされても,人間の精神衛生に欠陥があれば,交通事故は減少しない.現代の医学は人格医学にあると強調された.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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