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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生33巻3号

1969年03月発行

雑誌目次

特集 循環器疾患管理

循環器集団検診の理論と実際

著者: 新井宏朋

ページ範囲:P.124 - P.130

日本循環協の "診断手技" 統一案から
 循環器管理研究者の全国的な組織である日本循環器管理研究協議会(略称:日循協,事務局:東大分院第4内科)では,厚生省の委託をうけて,昭和41年度に"循環器疾患の診断手技に関する統一案1)を作成した.これは高血圧,脳卒中ならびに動脈硬化による心臓病の健康管理に必要な検査法について,標準的な手技を具体的に示したもので,表1のごとく血圧,尿検査,心電図検査,眼底検査がその骨子となっている.血圧測定は水銀血圧計を用い膜型聴診器を使用すること.マンシェットの幅を12cm,長さ22cm以上とすること.血圧計の点検法について,
 ①水銀血圧計を垂直の位置において圧力を加えないとき,指針が常にゼロをさすこと.
 ②全部を連絡し送気を行ない,度目200mmに達したとき,送気を中止して弁を閉じ,そのまま3分間静置しても水銀柱が2mm以上降下しないこと.
 ③次に弁を全開したとき,すみやかに(2-3秒以内)指針がゼロにもどること.
 ④5分以上の安静の後,椅坐位で測定し,血圧値は第1点と第5点をとる.
などが決められている.尿検査については,試験紙によることを正式に規定し,潜血の検査も行なう(最近,ヘマコンビステックスのようにタンパク,糖,潜血が同時に検査できる試験紙がある).

東北地方農村における衣食住生活と循環器疾患管理

著者: 高橋英次

ページ範囲:P.131 - P.135

 循環器疾患管理といっても,その内容に2とおりの解釈がある.すなわち,高血圧者の服薬治療の持続や生活規制によって脳心事故を予防するという意味と,さらに根本的に健常者に対する生活の改善指導によって脳心事故のみならず高血圧そのものを未然に防ごうとする広義の解釈とである.著者の専門は衛生学であるので,いずれかというと前者よりは後者に重点が向けられる.
 われわれの教室では,その立地的条件から,東北地方における脳卒中多発を主要研究テーマとしている関係上,東北地方農山漁村にはいって循環器検診を行なう機会が多い.しかし,患者の管理について研究しているわけではなく,脳卒中,高血圧発生要因の追及に重点をおいているので,その予防的管理を中心にして述べたい.

職場の循環器管理

著者: 梅沢勉

ページ範囲:P.136 - P.142

まえがき
 わが国の死亡率と死因内容は,約10年前から大きく変化している.国民の死因順位は昭和33年から脳卒中が首位を占め,癌,心臓病が2位,3位を占めるようになった.職場についても同じ傾向にある.
 健康管理についての全国的な研究団体である結核管理研究全国会議の調査によれば,昭和35年,全国121事業所の総死亡数1248のうち,高血圧症,心臓病,脳卒中などの循環器系による死亡が22.4%,悪性新生物は21.6%,事故死が21.6%で死因の首位から第3位を占めていた.昭和41年には199事業所の総死亡数1568(全死亡率は10万対158)で,そのうち循環器系の死亡は26.5%,悪性新生物26%,事故死は21.4%である.この傾向は労働人口の高齢化と成人病の増加などによるものである.そのため,昭和35年ごろから循環器管理が急速に推進されるようになった.同会議の調査によれば,循環器管理を実施している事業所は昭和38年にすでに89%みられ,昭和42年は92%に上昇し,ほとんどの職場でなんらかの対策がとられている.(表1参照).しかも特に職員数の多い事業所に高率である.

秋田の脳卒中—大阪における成績と対比して

著者: 小町喜男 ,   飯田稔 ,   島本喬 ,   近山行夫 ,   富永祐民 ,   高橋弘 ,   小西正光 ,   瀬尾忠子 ,   小沢秀樹 ,   児島三郎 ,   児玉栄一郎 ,   今村久吉郎

ページ範囲:P.143 - P.147

はじめに
 脳卒中がわが国の死因の第1を占めることは,あまねく知れ渡ったことである.それにもかかわらず,国をあげてこの対策に取り組もうとする動きが鈍いのはなぜだろう.人によって,その理由はいろいろあげられている.いわく,癌に比し,疾病の恐怖感が少ない.じわじわと攻めよせる癌に比べて,瞬間的に勝負のつく脳卒中は,いさぎよくてわが国の国民性にも似かよい,こわさよりもいさぎよさを感じるという.しかし,私はそうは思わない.突発的に起こるので,後に残された人々の生活や仕事に関して具体的な指示が与えられず,非常に困る場合が多い.また瞬間的に決着のつく病気かというと逆にそうでない場合も多い.10年あるいはそれ以上,臥床している人,日常生活の不自由な人がたくさん存在している事実をなんとみるか.
 先にのべたいさぎよい病気などというのは,真にこの病気のこわさを知らない人の言い分ではないだろうか.私は,脳卒中が大きく取り上げられないのは,この病気の多発する地区が大都会ではなくて,むしろどちらかといえば農村に多い傾向のあることが,その最大の理由ではないかと思っている.

長期療養における家庭医の役割

著者: 平山朝子

ページ範囲:P.148 - P.151

はじめに
 循環器疾患と家庭医との関連やそのあり方について総説や論議を行なうのではなく,患者の療養指導という立場から,国立国府台病院循環器科外来で実施している家庭医活用についてのこころみについて紹介したい.なお,本指導は高血圧症が主疾患となっている患者を対象として,担当医(山口昇一医長)・看護婦・保健婦(国立公衆衛生院)のチームワークにより実施されているものであり,積極的な家庭医の活用は昭和42年以来試みられている.

心臓病,癌および卒中に関する1965年の改正(資料)

著者: 相磯富士雄

ページ範囲:P.152 - P.155

 Comprehensive medicineという語が使われだしてから久しいが,米国においてはここ数年の実践,法改正にきわだった動きがみられる.わが国においても,公衆衛生における予防と医療の一体化の必要性は云々されているが,米国においては予防と医療との一体化の中での研究・教育の重要性,位置づけを明確にしている点が特徴的である.ここで取り上げた公衆衛生サービス法を改正して新たな項目として取り入れた "心臓病,癌および卒中に関する1965年の改正"("Heart Disease,Cancer and Stroke Amendment of 1965")やそれに引きつづいてのComprehensine Health Planning and Public Health Services Amendments of 1966である.
 前者について簡単に説明をする.心臓病,癌および卒中にたいする予防・治療の活動を促進し,国民に最高のレベルの診断・治療・看護などを受ける機会を与えるようにする一方,医師および関係医療従事者には,最新の治療・予防の技術が身につけうるような教育・訓練の機会を与える.さらに最高の技術を開発できるような研究組織や情報組織の確立を目ざしている.この3つが一定の人口を単位として総合化されるように広域医療計画を実践組織の柱としている.

座談会

地域における循環器疾患の管理をめぐて

著者: 村上秀親 ,   田中平三 ,   土屋真 ,   北川和歌子 ,   山下章 ,   橋本正己

ページ範囲:P.156 - P.164

 わが国では,癌とともに成人病の主体をなす脳心疾患は昭和27年以来,死亡順位の第1位を占めている.ここでは,特に地域ではどのように循環器疾患の管理がなされているか,またその成果は,あるいは直面している"壁"を発言していただく.

人とことば

戦争・自動車・病院全廃論

著者: 川上理一

ページ範囲:P.121 - P.121

 衛生学の範囲 いたずらに学問の範囲を拡張することには反対である.しかし,衛生学を極度に広いものと解釈したい.交通事故の防止,平和運動など,人間の生命に関することならば,何でも衛生学の対象である.否,衛生学者だけが正しい方針を立てることができる.その理由は,衛生学者は,
1.生命の尊さを真の意味で知っており,何ものにも換えがたいものと考える.
2.彼らは予防を科学的に行なうことにかけてはexpertである.

主張

循環器疾患管理のあり方

著者: 佐々木直亮

ページ範囲:P.122 - P.123

 循環器疾患管理のあり方について考えてみる前に,成人病対策のうち,循環器疾患対策について考えてみる必要がある.
 対策の前に問題があり,把握された問題に従って対策を立てるべきだと思うが,わが国における循環器疾患について,どのような問題があるのかが明確にされ,対策がとられ,管理がなさなければならない.新国際疾病分類による脳血管疾患,乏血性心疾患,高血圧性疾患が中心であり,病因論的に一連の疾患であると考えられるこれら疾患群についての対策であるが,健康水準向上をめざす中に,循環器疾患対策を考えたい.

講座 疫学・9

伝染病のサーベィランス

著者: 重松逸造

ページ範囲:P.165 - P.169

 最近,"サーベィランス"という語によく接する.
 それは,"Information for action"ともいわれるが,従来からの疫学的研究とはどう差異があるのか,そして伝染病予防体制という目標に向かった場合,どう位置づけたらよいか解説する.

教室めぐり・3 広島大学・公衆衛生学教室

深まる都市・農村衛生の研究

著者: 百々栄徳

ページ範囲:P.171 - P.171

沿革
 占領軍総司令部の覚書により各医科大学に公衆衛生学教室を新設することとなったが,広島県立医科大学では,一まず広島ABCCの日本側代表の田中正四先生を非常勤講師に招へいし,昭和23年9月25日公衆衛生学の講義を開始した.昭和26年6月1日田中先生が教授に就任されて,実質的にわが教室の歴史が始まった.昭和28年広島県立医科大学の国立移管が定まり,わが教室は昭和30年に広島大学医学部公衆衛生学教室となった.また昭和32年呉市阿賀町から現在の広島市霞町に医学部が移転された.現在,教室には田中教授,百々助教授,非常勤講師5名,務中講師,長谷川助手,研究員14名を擁し,教育・研究に着実な歩みを続けている.教室出身者は30名にも及び各界で活躍しておられるが,中でも前助教授の渡辺嶺男先生は,現在広島大学原医研教授として生物統計学教室を主宰されている.なお過去および現在の教室関係者で組織する同門会では,年1回の定例総会(写真)および教室の月例研究会において,互いに研鑽にはげんでいる.

私たちの保健所・3 宮城県・気仙沼保健所

魚の残滓処理に悩まされる

著者: 土屋真

ページ範囲:P.172 - P.173

観光と水産の細長い管内
 三陸津波で有名な宮城県の最東北端に位置し,西部は山間地で平地少なく,東部は太平洋に面してリアス式海岸の自然美を誇り海岸線の延長は約150kmに及んでいる.また人口5000の離島大島を擁する気仙沼市および唐桑町の一部は,陸中海岸国立公園に指定されている観光地である.ことに年間89億円の水揚げがあり5000トン級岸壁をもつ気仙沼市は,小さいながらも活気にあふれた水産都市である.
 当保健所は昭和19年10月に設置され,気仙沼市・志津川町・本吉町・唐桑町・歌津町の1市4町を管轄し,人口10万8000のR4型保健所で,面積は498km2の細長い管内であるので南端の志津川町に保健所の派出所がある.職員の定数は37名であるが,実人員は33名で欠員が補充されず困っている.また庁舎内に結核予防会の支所がある.管内の病院は14,診療所は43であるが医師が不足している.

特別連載

米国における保健医療体系の苦悩ならびに医師・歯科医師・看護婦の深刻な不足とその対策—保健要員に関する米国諮問委員会報告第1巻(1969年11月)の全訳

著者: 館正知 ,   石戸利貞 ,   高橋英勝

ページ範囲:P.175 - P.178

Health Manpower(保健要員)の問題は,単に人員増加のみによってでなく,医療体制全般の改善のうえに解決の道がある.米国では約40年前から,医療・保健サービスの向上をめざし,要員需要に関する種々の研究・委員会報告がなされているが,ここに米大統領諮問委員会の報告を1年にわたって連載する.(本誌第32巻10号参照)
訳者まえがき
 1966年5月8日付ニューヨークタイムズ紙は,その第1部第1ページにおいて,「ジョンソン,医師不足緩和のため委員会を発足,また保健要員活用改善運動を内閣に指示」という見出しで,次のように大きく報じている.
『ジョンソン大統領は,7日,医師・看護婦およびその他の保健従事者の"危機的不足"に対処する措置をとると言明した.

厚生だより

昭和44年度公衆衛生局関係予算

ページ範囲:P.179 - P.179

 昭和44年度政府予算原案の編成作業は,1月7日の大蔵省原案の内示以来1週間の接渉経過を経て,1月14日閣議決定された.この政府原案における公衆衛生局関係予算は,43年度の786億円から44年度に866億円へと80億円,率にして10.2%の増加となっている.また,このうち検疫所および国立公衆衛生院,国立予防衛生研究所などの試験研究機関の予算額を除いた本省分のみでみると,43年度の764億円から44年度には840億円へと76億円,率にして9.9%の増加となっている.
 これを事項別にみると,予算額では,結核医療費(394億円)が最高で,次いで精神衛生費(277億円),保健所費(69億円),原爆障害対策費(60億円),疾病予防費(20億円)などが主要なものとなっている.また,43年度に対する増加額でみると,精神衛生費(28億円)を最高に,次いで結核医療費(22億円),原爆障害対策費(16億円),保健所費(8億円)などが続いている.これらの予算を通じて特徴的なことは,医療費公費負担のための費用がきわめて大きなウェイトを占めていることである.ちなみに,結核予防,精神衛生,原爆医療の3つの公費負担制度についてみると,43年度の653億円から44年度には713億円へと60億円増加し,44年度の公衆衛生局関係予算のうちに占める割合も80%をこえるに至っている.

モニターレポート 北海道

保健所職員の現任訓練

著者:

ページ範囲:P.178 - P.178

 北海道では全国にさきがけて昭和43年度から,保健所職員の現任訓練が"北海道総合開発計画に基づく地域開発の中で,住民生活に密着した保健所活動を,より積極的におしすすめるため,地域保健活動を通じて必要な知識・技能・問題解決能力および態度について教育訓練を実施する"ことを目的として行なっている.実施主体は衛生部で,本庁と保健所長の代表による運営委員会によって運営されている,訓練の場所は,道立45保健所の約7割を占めるL型の北海道当別保健所の改築を機会に教育施設を併設し,教育保健所として管内に実習町村を選定,保健所活動と教育訓練とが一体的に行なわれるよう運営上配慮されている.
 教育訓練は,各専門技術職員と事務職員とを組み合わせたチームを編成し,教員技法としてはプロジェクト法を中心に,1コース20名とし,7日間の臨地合宿訓練を講師とともに行ない,その自主的学習活動を通じ,特に,(1)Public health mindedの再発見,(2)組織能率の発揮増進;チームワーク〈組織の中で自己を実現する〉(3)地域保健への科学的アプローチ;地域保健活動全体を効果的にみとめる計画的思考と評価の立場にたってのアプローチの諸段階,の3点を体得してもうらうことをねらいとしている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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