文献詳細
文献概要
特集 国際衛生 国際衛生を考えるとき
天くだるコレラ
著者: 小張一峰1
所属機関: 1長崎大・熱帯医学研究所
ページ範囲:P.199 - P.200
文献購入ページに移動コレラ顔貌という言葉がある.定型的なコレラ患者の顔つきは1度見たら忘れない印象的なものである.土気色にくすんだ顔,くぼんだ眼窩,眼球がつり上がった半開の瞼,とがった鼻とほほ骨,チアノーゼの濃い口唇,そして痴呆のような表情が形成する特異な顔貌である.こうした顔つきをして頻死の状態で横たわっているのがコレラである.ところが,最近東南アジアに流行し,さらにインドにまで蔓延しているエルトールコレラは,このような定型的重症例はもちろんあるが,軽症者が著しく多い.
かつて台湾にエルトールコレラが流行していた時,高雄港に碇泊中の貨物船御影丸の乗組員ほとんど全員が感染した.その27名のうち下痢回数が1日15回あり,軽度の脱水症状を示した者はただ1名で,他はほとんど1日2,3回の軽症下痢の程度であり,脱水その他のコレラらしい症状は全く見られなかった.しかしながら,この27名はいずれもコレラ菌を便中に排泄していたのである.このような軽症者は細菌学的検査を行なうことなしに臨床診断のみによってコレラと決定することは不可能である.コレラがコレラ顔貌をしないで,いくらでも日本にはいってくる,ということである.
掲載誌情報