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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生33巻5号

1969年05月発行

雑誌目次

特集 外因死の予防

都市化と交通事故—その実態と問題点

著者: 東田敏夫 ,   中平進一

ページ範囲:P.252 - P.258

はじめに
 1968年の全国交通事故発生数は63万件を越し,死傷者数84万人,うち死亡1万4000人,史上最高を記録した.前年に対する増加率は,件数で22%.死傷者で26%であり,3年間に倍増した(表1).
 太平洋戦争4年間の死傷者は186万人であったが,現代の交通戦争による国民の犠牲は68年までの4年間に250万人に達している.ある推計によると,今後10年間に交通事故により,同胞37万人(静岡市,あるいは新潟市の人口に相当する)が殺され,1000万人,全東京都民相当数が傷つくだろうという.交通事故によるおびただしい同胞の生命と健康の破壊,これに続く生活の破壊は,今後,はたして減少しうる見込みがあるだろうか.

農村における事故防止

著者: 松島松翠

ページ範囲:P.259 - P.263

はじめに
 最近農村においては事故や災害が急激に増加している.事故死の割合も,脳卒中や心疾患などの成人病についで多くなっている.これは,農村においても自動車が著しく普及し,それによる事故が増加してきたこと,また農作業の近代化にともなって,動力農機具や農薬が非常に多く使われるようになり,機械による災害や農薬事故が増加してきたことが大きな原因となっている.とくに後者は,近年著しく増加する傾向を示している.
 農村における災害は,大きく分けてせまい意味の"農村災害"と,もう1つ"農業災害"との2つに分けられる.農村災害というのは,現在農村に住んでいる人の一般的な災害であって交通事故や子供の溺死などが合まれる.また農業災害は,農業に従事している人に起こる災害であって,作業中に墜落したとか,農業機械による災害や農薬中毒などの場合である.しかし,農業従事者といっても,工場労働と異なって農業の場合には,農繁期の最中になれば,農家の子供や老人までもかり出されて働かされるのが普通である.したがって農業従事者の範囲は相当広くとらなければならないであろう.また農業災害の発生場所も,必ずしも農耕地における災害だけとは限らない.それは農場へ通ずる道路上においても,また農家の庭先における農機具の準備中においても起こりうる.耕耘機による交通事故,転落事故も増加しつつあるが,これらも広い意味では農業災害の中へ入れなければならないであろう.

乳幼児の家庭災害

著者: 館正知 ,   高橋秀雄

ページ範囲:P.264 - P.268

 家庭およびその周辺の不慮の事故を家庭災害と定義する.家庭生活と密着した災害と呼んでもよいかもしれない.家庭がその防止に重大な役割を果たすべき災害である.したがって交通災害や,産業災害などとは違った態度で取り扱わねばならないものと考える.
 わが国にはこのような目的で特別に家庭災害を分析した資料はない.実は全事故死の約15%が家庭災害のカテゴリーに含まれるものであり,その1/3は4歳以下の乳幼児,他の1/3は60歳以上の老人の事故である.両者ともその生活の大部分が家庭内であるからである.一方乳幼児の事故という観点からいうと,その大部分が家庭災害である.実数でいうと年間約2000名の乳幼児が家庭災害で死亡している.乳幼児の事故防止は家庭災害の防止である,といっても過言ではない.

自殺の実態—カウンセラーの記録

著者: 山崎千春

ページ範囲:P.269 - P.273

 フランスの社会学者,Durkheimによると,自殺は"死者自身によってなされた積極的・消極的行為から直接・間接に生ずる死であって,しかも死者がこの結果の生ずべきことを知っていた死の場合をいう"と定義されている.
 日本では,特に昭和30年に自殺死亡が急激な上昇をみせて世の注目をあびてきた.しかし,自殺の予防対策はたてられていない.したがって日本の自殺死亡統計は,予防手段の加えられていない自然の姿であるということができる.

救急医療体制—主として郡部における実状と対策

著者: 岩本正信

ページ範囲:P.274 - P.279

 患者の傷病はその発生が時間的,空間的にも不安で,どこで突発し,いつ偶発するかわからない.また傷病そのものの経過も通常ははなはだ予測しにくく変動しやすいものである.医師はこのような傷病に対して時間や場所を問わず敏速に応接し,積極的に奉仕しなければならない(東北大学医学部教授島内武文:病院管理学,医学書院).

人とことば

社会精神医学の建設

著者: 桐原葆見

ページ範囲:P.249 - P.249

 西欧はいうにおよばず,アメリカにも,精神病学に実存主義の影響がかなりうかがわれるが,この実在主義や現象論者は,環境と個体の主観的結合を強調し,環境に対する個人の経験の独自の解釈を強調しながら,そのような意味と環境との形成を誘導する文化の役割について,何も言わないのはどういうものか.
 筆者もパースナリティと環境との動的な個人的な関係を強調し,環境はひっきょう,各個人の独自の世界であることを認めることにおいては,人後に落ちないつもりであるが,さとりとてそのような環境を形成させる客観面の原存在を無視すべきでない.

主張

外因死に対する総合保健活動

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.250 - P.251

焼身自殺
 2月25日プラハ発UPIは,チェコスロバキア共産党政権発足21周年記念日に当たる25日,プラハ市内で一青年が"パラフ君の要求を支持し自殺する"との遺書を残し,自分を"人間たいまつ第2号"と呼び焼身自殺したと報じている(東京新聞昭和44年2月26日夕刊2ページ所載).
 この青年は,さきに祖国の体制に反対して焼身自殺したパラフ君と同じグループに属していて,パラフ君の要求が入れられなければ次々と焼身自殺をしていく青年たちの1人なのであろう.最近は国家社会の体制に反対することが流行しているが,その最も強烈な手段として焼身自殺が行なわれる.最初は南ベトナムの仏教徒であった.わが国でも老エスペランティストが首相官邸前で敢行したり,国会議事堂前で自殺した青年の事例が起こっている.

海外の医学教育

ソビエトの医学教育(2)—公衆衛生面について

著者: 藤森岳夫

ページ範囲:P.280 - P.285

はじめに
 モスクワ滞在中に経験したことだが,ホテル前の大通りは,毎日夜になると大撒水車が清掃していき,翌朝はきれいな道路になっていた.これは車が少ないこと,道幅が広いこと,小商店のないことなどにもよるが,新築アパート群には必ず集中暖房施設が付随していることとともに,うらやましく思われた.
 これに反して,1968年から採用された週5日労働制は,労働衛生的見地からよりも政治的見地からの実施の臭いが強かった.

講座 疫学・最終回

—てい談—今後における疫学の課題

著者: 金光正次 ,   岡田博 ,   重松逸造

ページ範囲:P.286 - P.290

 重松 今日はこの‘疫学講座’のしめくくりとして,今後における疫学の課題を自由にお話し合い願いたいと思います.まず金光先生からどうぞ.

教室めぐり・5 弘前大学・衛生学教室

高血圧の本場で研究を

著者: 佐々木直亮

ページ範囲:P.291 - P.291

教室の沿革と人
 将来,衛生学教室の開講記念日をつくるとしたら,6月19日がよいと思う.それは昭和20年6月19日が,当時青森市にあった青森医専で,東北大学の近藤正二先生によって,第1回めの衛生学の集中講義が行なわれた日にあたるからである.
 昭和22年弘前移転によって,青森医専はようやく存続が確保され,初代衛生学主任教授として高橋英次先生が任命された.以後31年に東北大学へ転任されるまでの10年間,創設の労をつぶさに経験されたのである.昭和29年に慶応義塾大学より助教授としてきた私が,31年9月に教授に昇任して現在に至っているのだが,その間,29年に東北大学の大学院学生であった武田壤寿が助手,講師,助教授をへて41年に弘前大学に新設された養護教諭養成所の教授(学校保健)として転出,そのあとをおって31年に助手としてはいった福士襄は講師,助教授をへて44年1月に養成所の教授(衛生学)として転出,そのあと大学院を出た蓮沼正明が講師になった.現在,助手3,大学院1,非常勤講師3,研究生10,事務官ら4の教室である.

私たちの保健所・5 静岡県・浜松保健所

0歳児の浜松保健所

著者: 平野多聞

ページ範囲:P.292 - P.293

新しい浜松保健所の誕生
 静岡県では従来から,保健所の食品衛生監視,畜犬指導,理化学試験などの業務を遂次統合,集中化して,能率の向上,設備整備の重点化,技術者の少数孤立化の防止,職位の拡張などの面に役だててきた.さらに昨年4月からは,行政能率の向上を目的とする知事の構想に基づいて,県出先機関の大幅な統合強化が断行され,衛生部については,2つの保健所の廃止統合と,食肉検査業務を保健所から分離独立させるなどの改革が行なわれた.
 この結果,従来の浜松中央保健所と,浜松北保健所が統合して,管内人口51万を抱えた新しい浜松保健所が誕生することとなったのである.

特別連載

米国における保健医療体系の苦悩ならびに医師・歯科医師・看護婦の深刻な不足とその対策

著者: 館正知 ,   石戸利貞 ,   高橋英勝

ページ範囲:P.294 - P.299

第2節 医師の供給
1.医師の不足
 本委員会は,医師の不足が現在存在し,しかもこの医師不足は,今後医師の供給増加が予想されるにもかかわらず,需要の増大に伴い,いっそう悪化するものと確信する.医師不足がなぜ起こるかを理解するためにたいせつなものは,医師が直接行なう患者サービスと,その指示の下に行なわれるものとに区別することである.医師が活用する医療補助者,診断装置,検査施設設備などが急速に増加したため,医師の指示下で行なわれるサービスのふえ方は,医師のふえ方よりはるかに急速である.医師1人当たりの医療サービス生産高(the output of medical services per physician)は,過去10年間の "生産性" の趨勢("productivity" trends)が今後も続くと仮定すると,1965年から1975年の間に50%方ふえるであろう.
 最も悲観にみても,現在から1975年までの医師供給の増加率は,人口なみと予想される."医師1人当たりの医療サービス生産高" の増加が予想どおりとすると,"医師の指示による医療サービス(physician-directed medical services)" の1人当たりの供給量も,少なくとも50%の増加をみるであろう.さらに,医師サービスを補い,時にはその代理ともなる "病院サービス" の増加の速度は人口増加より大きいであろう.

研究

地域における循環器管理の1方法とその検討

著者: 土屋真 ,   岡嶋泰子 ,   阿部勝一 ,   関口東一 ,   佐藤タエ子

ページ範囲:P.301 - P.304

はじめに
 近年,一般住民に対する循環器検診が各地で行なわれるようになった.しかし,質的には必ずしも十分ではなく,ことに地域における患者管理はいまだ軌道にのらず1),せっかくの検診成績も活用されていない現状である.園民死因の上位をしめる循環器疾患に対する,予防・早期発見・治療・患者管理・社会復帰の一連の体系を早急に確立することが必要である.著者らは地域において実際に住民の総合的な健康管理に従事しているので,ことにそのうち循環器管理の1方法について報告する.

厚生だより

海外医療協力

著者:

ページ範囲:P.307 - P.307

おくれているアジア・アフリカ諸国の医療の現状
 第2次大戦後,アジア,アフリカでは多くの新興諸国が誕生したが,指導者の政治的な努力にかかわらず,経済開発のおくれとともに,医療の後進性が著しく,貧困と疾病の状態が続いている.乳児死亡率1つをとってみても,わが国の数倍,あるいは10倍以上の高い乳児死亡率を示す国がほとんどである.
 これらのいわゆる発展途上にある国々に対して,旧宗主国であった英・仏などのヨーロッパ諸国やアメリカ,ソ連などの医療の先進国が,それぞれの国の立場から,その動機は政治的・経済的・人道的とさまざまであるが,医療協力,援助を行なっている.日本政府もおくればせながら昭和34年から実施を始めたが,歴史が浅いので,諸外国ほどの対象国の広さや厚みに欠けているのはぜひもないしだいである.

抄録

地域医療計画のための脳卒中患者登録の可能性と評価/テンプル大学病院における総合保健計画

著者: 白石陽治

ページ範囲:P.258 - P.258

 脳卒中患者登録についての副委員会の実行委員は,脳血管系疾患に関する関連会議委員会と,地域医療計画の公衆衛生活動を援助するように任命された.
 脳卒中の前兆に関する知識,予防医学的ならびに診断上の補助,そして発作の医学的注意事項が一般人に普及し,国民の第3の死因を強力に抑制している.以来,多くの人が脳卒中では死ななくなったが,代わりに経過が長くなり,しばしば深刻な肢体不自由者になり,リハビリテーション施設の世話をうけ,健康を回復させ,社会に新しい責任をもった仕事の場をもたせるようにさせている.

北から南から 北海道

多房住包虫症(エヒノコックス)根室市に発生

著者:

ページ範囲:P.285 - P.285

 昭和40年12月21日,この日まで,人々は多房性包虫が北海道の礼文島にだけ存在すると信じて疑わなかった.ところがその日,千島にも礼文島にも居住歴のない根室市民が続いて同症患者と判明したのである.
 だが,いっこうに不思議なことではなかろう.礼文島が大正12年ごろ,森林保護のため中部千島より紅狐を移入したため同症を持ち込んだのと同様,根室が千島諸島と近接しているためらしい.漁業基地として,養狐業として,戦前戦後,人畜の往来は激しかった.現在,これら諸島からの引揚者は市内に1442世帯(14.4%)いる.

ニュース

昭和42年人口動態実数(都道府県別)

ページ範囲:P.305 - P.305

 出生・死産・婚姻および離婚という5種類の"人口動態事数"について,調査した資料をまとめて統計にしたのが"人口動態統計"である.
 「人口動態統計毎月概数」と「人口動態統計(年報)」などを資料にした統計で,毎年,調査年より約1年半おくれて公表される年報である.(厚生省大臣官房統計調査部「最近の人口動態」昭和43年より)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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