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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生33巻8号

1969年08月発行

雑誌目次

特集 サーベイランス てい談

公衆衛生とサーベイランス

著者: 児玉威 ,   重松逸造 ,   西川滇八

ページ範囲:P.432 - P.437

 "サーベイランス"という言葉は比較的耳新しいが,実際にはすでに実行されてきている.そこで,情報科学が重視される今日,いかなる意義・問題点があるのかを再評価・確認し,いかにしたら公衆衛生活動に役だつかを疫学環境衛生のエキスパートに論じていただく.

腸チフス・パラチフスの中央管理システム—1967年の患者発生状況とファージ型別分布の分析から

著者: 腸チフス中央調査委員会

ページ範囲:P.438 - P.445

 昭和40年厚生省に伝染病予防調査会が設立された時,まず最初に,腸チフス管理に関する問題が討議された.近年腸チフス患者の年間発生数は,はなはだ減少したがなお根絶するにいたらず,特に公衆衛生の盲点をつくかのように集団発生する。一方では,チフス菌のファージ型別法が著しく進歩し,チフス患者の感染源の追跡に大きな効果を発揮している.近年の患者の減少にファージ型別法を加味するならば,腸チフス患者をその感染源をよくマークすることによって,十分管理することができ,したがって少なくとも集団発生のようなことは防止できるのではないか,そういう考えから伝染病予防調査会では小委員会を作って,腸チフスの管理を確実にする方途を研究し,一定の様式を確立し,システムを作る案を立てて献言した.
 次に伝染病予防調査会では,腸チフスのワクチン問題に関する小委員会を作り,腸チフスワクチンを予防接種法に従って接種する場合の基本問題を討議し,その結果,現時点では腸チフスワクチンの注射は,その効果の不確実性をも考慮して,もし腸チフスの管理が全国的な視野で十分徹底して行なわれるならば必要なかろうという結論を出した.厚生省では,以上の伝染病予防調査会の答申ならびに献言に基づき,腸チフスワクチンの定期予防接種をはずすことに踏み切るとともに,腸チフス中央調査委員会を設置して伝染病予防調査会の立案に基づき,腸チフス発生を管理する体制を作った.

放射能汚染防止のサーベイランス

著者: 鈴木間左支

ページ範囲:P.446 - P.453

はしがき
 公衆衛生関係者のために放射能汚染防止に関するサーベイランスということについて書くようにということであった.はっきりいって,私は実はこの方面を専門にやっている者ではなく,原子力産業関係の職業衛生を専攻する者であるので,これをお引き受けすることを躊躇せざるをえなかったが,しばしばお会いする西川滇八先生が今回の企画をしておられるところから,先生に"適当な人が見当たらぬからたのむ"といわれてお引き受けせざるをえなくなってしまった.
 私としては時間さえ許せば,もっと専門の方へお願いすべきであったと今でも思っているが,一応この方面のことを全くご存じない方々のため,ほんの序説をご紹介するようなつもりで,ごく表面的にこの問題を公衆衛生の立場から書きたいと思う.したがってもっと詳しい点や十分な解説は後日,この方面の専門の方々に修正,補てんしていただくこととしたい.

公害防止のサーベイランス

著者: 仁連秀雄

ページ範囲:P.454 - P.458

はじめに
 現在の公害事象から,公害防止のサーベイランスには,発生源に対する監視と環境汚染に対する監視の2つの側面がある.これらのサーベイランスは,公害の法的規制の実効を高め,また,適確な防止対策を進める上にも,不可欠の条件として重要である.それだけに,単なる監視ではなく,公害種目についての実態調査ないし測定,試料の検査,分析などを伴う科学技術的なアプローチが要請される.
 大阪府では,昨年9月,公害行政の科学技術面の充実を図るため,監視体制の整備を重点に"大阪府公害監視センター"を発足させた,以下この公害監視センターを主題に,公害防止のサーベイランスについて記述していきたい.

グラフ

—公害とたたかう—大阪府公害監視センター

著者: 仁連秀雄

ページ範囲:P.425 - P.428

 空に,陸に,河に,昼夜をわかたず,限りなく浸透するゲリラのような公害.これに,サーベイランスの触角をもって防衛作戦を展開するのが,"大阪府公害監視センター"の姿である.
 この監視センターは,公害に悩む過密都市大阪に,青い空,静かな町,清い河をとりもどそう--との願いをこめて,昨年9月,大阪市東成区森町に,諸設備を含めて総額約8億円の巨費を投じて完成された.鉄筋コンクリート造(地上4階,地下1階)延面積5067m2この空調完備の近代的ビルに,最新の科学と技術の粋を結集して画期的な公害防止対策を推進しようとするものである.

主張

サーベイランスの世界

著者: 曽田長宗

ページ範囲:P.430 - P.431

必要な不断の注意
 およそ10年ばかり前,"奇病"というものが新聞・雑誌の話題に上ったことがある.いわく"ポックリ病"いわく"綿ふき病""水俣病""イタイイタイ病""あざらし児"などいろいろな病気があげられたが,そのとき筆者も求められて,奇病総論とでもいうべき随筆をつづらされた.
 奇病なるものがめずらしい病気,不思議な病気で,ただ世間の興味をひくというだけのことでは筆者としても物足りない.奇病なるものは,われわれ公衆衛生関係者にはいうに及ばず,一般国民に対してもきわめて重要な社会的意義をもつものである.

人とことば

社会保障の進め方

著者: 八田貞義

ページ範囲:P.429 - P.429

立ち遅れた年金部門
 わが国の社会保障制度は,国際的にみるとまだまだ貧弱である.たとえば,国民1人当たり社会保障給付費を,公定為替レートで米ドルに換算すると,西欧では1960年に100ドルから200ドルに達しているのに,わが国は1963年でも33.6ドルで,1/3から1/6にすぎない.国民所得に対する社会保障給付費の割合,すなわち社会保障給付率をみても,わが国は6.4%程度であるが,西ドイツ,フランス,イタリアのようなEEC諸国は15%から20%の高さで,その開きは問題にならぬほど大きい.社会保障給付費がかなり伸びていながら,給付率がよくなっていないのは,経済の成長に社会保障が追いつけないからにほかならない.
 特に目だつのは,年金部門の立ち遅れである.わが国は,皆年金の実現によって全国民が年金保険の対象になったが,現に年金をもらっているものの比率は,他国に比べてずっと低く,無拠出の福祉年金対象者を除くと,107万人にすぎず,65歳以上の人口に対する比率は,せいぜい19%程度である.西欧の60%ないし90%とは比較にならない.これは年金制度の歴史が浅く,受給資格者がまだ少ないためだが,老後を不安定にしている重大な要因といえよう.

海外の医学教育

アメリカの医学教育(1)—2,3の大学の場合

著者: 土屋健三郎

ページ範囲:P.459 - P.464

 他の国の場合とちがって,アメリカにおける医学教育についてはこと改めて紹介の必要はないと思われる.戦後から今日に至るまで多くの医学教育者・研究者が渡米し,実際に医学教育を見聞し,多くの論文も書かれ,むしろ大幅にアメリカ式教育がわが国にとり入れられてきた.したがって本文を書くことも気がひけるのであるが,たまたま昨年4月1日から訪問教授として(シンシナティ大学でFacultyの1人として)医学生やMPH(Master of Public Health)およびPh. D(Doctor of Philosophy)のCandidate教育に関係したので,その経験の一部をここに紹介し読者の参考になれば幸いである.
 だいたい1年や2年アメリカに滞在したからといって,アメリカの医学教育の全貌がわかり,また細部を詳しく知ることは不可能といってよい.わが国の場合よりもそれぞれの大学における特色がずっとはっきりしているので,各大学によって医学教育の方針や方法が非常に異なっているからである.だからこの小文の題も"アメリカにおける2,3の大学の医学教育"としたほうがよいと私には思われる.とにかく以下述べることは私が感じた印象であって,それが事実であるとか,良いとか悪いとかというものでない.

教室めぐり・8 昭和大学・衛生学教室

成人衛生と産業衛生と

著者: 小池重夫

ページ範囲:P.465 - P.465

 当教室は昭和21年に初代白井伊三郎教授によって開設された.当時はまだ昭和医専の時代で本学の創設者である上条秀介先生の招聘によってバラック建ての衛生学教室を開設した白井教授は,持ち前のエネルギッシュの馬力でエネルギー代謝関係の仕事を次々に「体力医学」誌上に発表し,教室の基礎を固められた.昭和29年には小池助教授が公衆衛生学講座を担当して分家していったが,昭和33年小池教授の労衛研への転任に伴い,両講座を合併し,白井教授,脇阪助教授(現鹿児島大公衛教授),速見助教授(現本学教養保健学教授)助手3,介輔2で衛生学公衆衛生学教室となった.また衛生管理研究所を教室に併設し,主として労働衛生の調査を行なって京浜地区の工場の要望にこたえた.教室創設以来,白井教授の指導を受けて学位を獲得した者は45名に及んでいる.昭和37年白井教授の徳島大学への転任に伴い,教室は事実上解散に近い状態となり,昭和38年4月に小池教授が労衛研から出戻って来た時には教員室は1人もいなかった.以後,ぼつぼつと教室員を集め教室としての一応の体裁を整え終わったのは昭和40年である.昭和42年に公衆衛生院から石川教授が着任され公衆衛生学講座を再開するまでは2年生から5年生までの衛生学公衆衛生学の教育を引き受けて孤軍奮闘した.現在の陣容は小池教授,山口助教授,助手3介輔2である.

私たちの保健所・8 広島県・三次保健所

健康な町づくり,村づくり運動

著者: 中村照彦

ページ範囲:P.466 - P.467

 三次保健所は,広島市から芸備線で約2時間,中国山脈の入り口に位する人口約4万の三次市にあります.三次市といっても,すぐにはピンとこない方が多いと思いますが,天下の景観といわれる霧の海の本場で,かつ古墳3000余基を数える古代文化の中心地であり,徳川時代から300数十年も続いた鵜飼で有名で,倉田百三や中村憲吉の学んだ地であるといえば,少しはおわかりいただけると存じます.しかし,何と申しましても,県南の諸都市と違って,すべての発展は遅れており,後進的な様相は争えませんが,最近,中国縦貫自動車道路の工事が始まり,遠く京阪神と結ぶとともに,現在国道54号線の整備が行なわれ,島根,鳥取方面と広島とを結ぶ陰陽連絡の要衝としての活躍が期待されています.

特別連載

米国における保健医療体系の苦悩ならびに医師・歯科医師・看護婦の深刻な不足とその対策

著者: 館正知 ,   石戸利貞 ,   高橋英勝

ページ範囲:P.468 - P.471

第III章 保健医療体系を改善すること
 保健医療の需要およびそれに応ずる財源の配分は,医療を提供する体系によって大きく左右される.この体系を改善することによって,不必要に財源を要するような医療需要を減少させることができ,他の必要な需要をみたすための財源を増加させることができる.
 体系(System)という用語を使うことは,本当は,誤解を招くおそれがある.なぜならば,それは,保健医療活動のすべてを含む1つの組織があって,それが,総合調整された1単位として,働いていることを意味するからである.現実の保健医療は,多くの,しかも,あるものは互いに全く関連を持たないような,十分に統制のとれていない,サブシステム(Subsystems)によって行なわれるという特性を持っている.だれでもが,個人的な医師を持ち,その医師が,うまく組織づくられた保健医療体系の受け入れ口となってくれ,しかも,すべての医師が,病院,ナーシングホーム,あるいは紹介をうける専門医などの医療各要素と適切な接触を保つようにすることが,理想的なアレンジメントであるが,これは必ずしも実現されていない.患者を直接診療する26万人の医師のうち,16万人は,実質上,単独開業医であり,相互間の紹介網は緊密ではない.今なお,家族ぐるみの医療を行なう一般医は,これらオフィス開業医の1/3にすぎず,しかも前述のごとく,今日,医学校を卒業する者で,一般医になるのは2%弱にすぎない.

研究

月経に関する研究(第5報)—自己の月経周期認知と心理的側面との関係

著者: 杉浦静子 ,   松井清夫 ,   坂本弘

ページ範囲:P.472 - P.474

 月経にまつわる諸現象を生産年齢層女子の健康指標の1つとしてとらえ,身体的・心理的・社会的側面から検討を加えてきた.すなわち,中学卒者に比し高校卒者は初潮時の印象が否定的なものが多く,月経障害も多い.また,障害の種類はその個人の精神生活史と関連のあることを明らかにし,第1報で報告した1).また第2報では,企業における生理休暇の利用率は,月経障害の頻度や程度によって影響されるよりも,職場の雇用条件や,労働組合の生理休暇に対する活動などのような社会経済的要因との関係が大きいことを述べた2).第3報では3),月経の持続期間と周期の信頼性を検討し,持続期間より周期に変動が大きく,信頼性がうすいことを明らかにした。
 さらに,第4報では4),周期安定性および月経障害の移動性と心理的側面との関連について検討を加え,月経周期不安定者は多訴傾向をもち,内省傾向うすく,非活動的で,社会的内向傾向をもち,愛想はよいが支配性が強い傾向がみられた.また障害移動性と周期安定性とは関連がみられず,それぞれ異なった心理的因子により影響されていることについて述べた.

大都市衛生行政への一提案

著者: 黒河内好彦

ページ範囲:P.475 - P.478

日本の都市
 第2次世界大戦後,大家族主義の崩壊は核家族の増加となり,小住宅の増加となってきた.
 都市そのものの基本的な特徴は(1)人口量は非常に大きく,(2)人口密度が高く,(3)住宅と職場の分離しているの3点である.

海外事情

南アフリカ共和国の医療社会福祉

著者: 菊野麟太郎

ページ範囲:P.479 - P.482

 昨年12月から本年3月まで,約4カ月間の船による旅行の機会を得て,アフリカの南部・西部海岸の各国をまわって来た.この方面を選んだのは,未開発地域居住の黒人の人間生活と白人による経済開発の高度成長に対する社会開発の立ちおくれの程度を知りたいためであった.アフリカの自然国立公園の動物の報告,東部・北部地域の報告など数多く見られるが,南部・西部地域の報告はあまりない.あってもほんとの実態とは若干相違がある.
 まず,南アフリカの共和国の実態にふれて,後に一括して西海岸地域の各黒人独立国について書くことにする.

厚生だより

看護婦問題

著者:

ページ範囲:P.483 - P.483

 看護婦の不足は今日世界的な問題となっており,わが国においても2人月8日以内の夜勤体制をめざして全国各地で病院ストが相ついでいる現状である.
 供給面からみると,本年3月約8,300名の看護婦および27,000名の准看護婦が卒業しておりおのおのその90%以上が看護婦または准看護婦として就職しているという現状で,その養成数は諸外国に比して決して少ないとはいえない.それにもかかわらず看護婦不足は近年ますます深刻化の様相を呈している.その理由は,受診量および病床数の急増,脳外科,心臓外科など医療の複雑高度化,看護婦の勤務条件の改善要求ことに2人月8日以内の夜勤体制の実施による人員増など様々に述べられている.これらの需要にこたえるためにもちろん「量」は絶対的な要件であり,その確保のための対策が検討されているが,看護婦養成施設の大幅な増設,定員の増加などプラスの因子を増強するとともに看護婦数の増加をはばむ因子に対する検討も加える必要がある.

抄録

公衆衛生における人材養成の危機対策

著者: 白石陽治

ページ範囲:P.482 - P.482

 従来,医師は1人で看護婦の仕事もあわせ行なえたが,これからは医師ひとりでできる仕事の範囲は限られ,看護婦その他の介助者の手を借りて,種々の環境に注意し,かつ複雑な計器類をも利用しなければならなくなっていく.
 個人的な問題からは離れていた公衆衛生ももっと患者個人に接近していき,疾病に重点をおいた今までに比して,疾病よりもむしろ社会的立場が健康水準に密接に関連していることとして理解されていくようになるであろう.

北から南から 岐阜市

公害Gメン,岐阜市がバックアップ体制へ,他

著者:

ページ範囲:P.445 - P.445

 町工場の騒音やドブ川の悪臭などを追放しよう--と,このほど厚生省では全国的にみて公害の多発地域33カ所に "公害Gメン" を置くことを決めたが,この一カ所に抽出された岐阜市は,市内の公害多発地帯を無くすためにもGメンによる徹底した取り締まりは必要であり,協力すすべきだと,近く衛生部環境整備課,企画調査室,中央保健所の三者が合同会議を開き,こんごの基本方針をたてることにした.
 公害Gメンの役目は,これまで県や市が担当した広範囲にわたる公害問題ではなく,地区の住民たちからいつも苦情が出ている小さな川の汚濁や,町工場の騒音など町の "小公害" の解決が主な仕事である.しかしこのほかに公害知識や衛生教育の正しい徹底や環境汚染の実態調査も手がける.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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