icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生33巻9号

1969年09月発行

雑誌目次

特集 性病

性病予防法雑記

著者: 後藤伍郎

ページ範囲:P.490 - P.492

「……壮年ノ者ハ之ガ為遊情奢侈ニ流レ終ニ産業ヲ破リ一家退職シ,加之,黴毒ノ症ヲ受ケ身体支離相成候輩モ不少,剰ヘ其毒ヲ子孫ニ伝フルニ至ル実ニ………」
 これは,明治4年民部省達の一部である.私はたびたび新しい性病対策のあり方について聞かれもし私なりの模索もしてきた.しかし性病対策の技術的基本方策については今更こと新しい方法などあろうはずがない.国民の間に健康に対する正しい知識と性病撲滅への強い協力が得られれば,問題は自ら解決することは万人の認めるところであり,反面,その実現のきわめて困難であることも長い歴史がこれを証明してきた.

新しい性病予防のあり方

著者: 芦沢正見

ページ範囲:P.493 - P.496

古くて新しい問題
 与えられたテーマは疫学の立場から"新しい性病予防のあり方"をということであるが,疫学からみた性病予防の原則は別にこと新しいものではなく,むしろいとも簡単明瞭といえよう.
 伝染病予防の三原則といわれるⅰ)感受性者(宿主)対策,ⅱ)感染源対策,ⅲ)感染経路対策のなかで性病はその感染様式からも,またワクチンの本格的な研究はこれからという現状からいっても,感染源対策こそ最も重要であることはいうまでもない.そして感染源のなかでも,相手が特定(たとえば婚約者・配偶者)の場合は流行には至らないが,相手が不特定で多数の場合が問題であるというのは,フレッシュな感染源が存在し,しかもそのグループのメンバーが常に若年者層によって更新補充されている限り,性病の流行は決して熄むことはないからである.国情により比重に軽重はあるが,濃厚感染源としてまず指を屈せられるのが売春常習者グループと性的プロミスキュアス(無軌道乱交)グループである.

性病予防と梅毒血清反応

著者: 岡本昭二

ページ範囲:P.497 - P.500

はじめに
 梅毒はペニシリンをはじめとする抗生物質の進歩などにより,一時はghost diseaseと考えられたほど激減したが,昭和37,8年頃より顕症梅毒の新しい流行が報じられている1)
 梅毒はスピロヘータ・パリダ—近年ではトレポネマ・パリズムと呼ばれている—を病原体とする慢性伝染性疾患であり,おもに性交により人から人へと伝染する.トレポネマ・パリズムははじめに侵入した局所で増殖し,ついで全身にひろがっていくが,このさい生体の免疫防御機構を刺激して,この病原体に対する抗体を血清中に産生させる.この抗体を検出する方法が,いわゆる梅毒血清反応であり,この反応が陽性であることは,例外を除けば,梅毒に罹患しているか,または罹患したことのある人の血清であることが大半である.したがって梅毒の早期発見には梅毒血清反応による検査が,大きな役割を演じている.また,梅毒は他の性病(淋疾,軟性下疳,第四性病など)と異なり,十数年ないし,数十年後に心血管系や中枢神経系に梅毒性晩期病変を生じたり,母体の感染を介して先天梅毒児を発生させる.したがって,配偶者および新生児にいたるまで影響を及ぼす感染を起こす梅毒の有無を調べるために,婚姻時および妊娠時に梅毒血清反応を実施するよう,性病予防法に規定されている.また,最近献血運動が盛んになってきている折から,梅毒血清反応の重要性が強調されてきている.

性病の実態

著者: 斎藤誠

ページ範囲:P.501 - P.505

はじめに
 東京都における性病の実態は,行政および医療レベルの双方とも,その一断面を把えているにすぎない.しかし医療レベルにおける性病,なかんずく顕症梅毒の異常な増加を若年者にみいだし,危機感をもって対策を要求する一群の人達と,近年における性病の著しい減少を臨床面から探り,現在では重要な臨床的課題にならないという両群の医家がある.
 行政レベルでは届出または集団血液検査の両面から実態の把握に努力し,できうるならば医療レベルで観察されている諸事実の正否を裏付けし,これを卒直に反映させる方策を求めているといえよう.この現状直視の理由の一つは,1964年のWHOの資料が示しているように,梅毒,りん病はともに患者の増加,特に若年層の早期顕症梅毒の増加を指摘していることがあげられる.わが国でも,この国際的動向は1961年に現われ,九州,中国地区に早期顕症梅毒の再出現が報告され,1964年には東京にもかかる状態がみられるにいたっている.

性病の実態—病原性トレポネーマ感染症の疫学

著者: 津上久弥 ,   尾山静夫 ,   松永欣也

ページ範囲:P.506 - P.510

まえがき
 大阪府では昭和38年より性病予防対策の一環として毎年10数万人の集団梅毒血清反応検査を実施している.また昭和40年から大阪府医師会の協力を得て府下の医療機関に受診した性病患者の実態調査を実施している.集団梅毒血清反応検査については対象は児童,生徒,学生,婚前者,妊婦,妊婦の夫,会社事業所従業者,公務員,また一般府民である.これらの結果については,毎年日本公衆衛生学会,日本皮膚科学会などで報告してきたが,それらを総括して述べてみた.

性病の予防と治療

著者: 小野田洋一

ページ範囲:P.511 - P.514

はじめに
 性病は別表のような病原菌からおきる法律に規制された伝染病である.伝染病ならばその対策を立てることは簡単なようであるが,その伝染のしかたが直接人から人へ,悪いことに男性または女性個人から異性の個人へ,その人の秘密とされている性行為によって伝染するために事実がかくされたり,治療の時期を失したりするので防疫の実が上がらないことが多い.
 人類の繁殖を阻害し人類を破滅に追いこむ亡国病として恐れられていた性病も,その治療に画期的な治効を示す抗生物質が用いられるようになって急激に患者が減少し,それほど恐ろしいものと考えなくなった風潮がかえって災いし,性病の知識がうすれ,性病が絶滅しない状態を作っているとWHOも指摘している.以前は国内でも全般的に蔓延し,20%前後の蔓延率だった淋病や梅毒も現在は1/10に減少しているが,0に達するにはまだ遠く,かえって再流行まで見られる状態である.

主張

性教育と性病予防

著者: 木下正一

ページ範囲:P.486 - P.489

性の問題は人間—生涯の問題である
 男が生まれたか? 女が生まれたか? 誰でも出産のしらせをきくと,第一に尋ねるのは,赤ちゃんの性別がどちらかということである.それほど,これは人々の関心事なのである.それというのは,男か女かということが,その子のこれからの人生行路に,どうしても何か宿命的な色彩を予想させないではおかぬからであろう.
 ところが,男女の性別は実は出産以前からすでにきまっているのである.赤ちゃんはすでに決まった性を生まれもって,この世に人生の第一歩をふみだすのである.もちろん,赤ちゃんや幼児は,自分の性別なんか一向無関心でただひたむきに日々成長していくのである.しかし大人たちが放っておかないのである.たとえば,名前のつけかた,衣類の着せかたなど何からなにまでその子の性別を意識して育てはじめるのである.まったく白紙のような赤ちゃんの心身には,いつのまにか,いやおうなしに性別の意識が染みついてしまうのである.(私は,こうして赤ちゃんのころから広い意味の性教育--男女のしつけ--がはじまっているのだと考えたい.)

人とことば

公害問題と労働衛生

著者: 山口正義

ページ範囲:P.485 - P.485

 公害--これは最近の公衆衛生の分野で最も頻繁に取り上げられる問題の一つである.重化学工業によって代表される近代産業の著しい発展と,人口集中による都市の巨大化など社会生活の変革とが絡み合って,大気汚染や水質汚濁,それに起因する人間の健康障害,農作物や水産物に対する影響など,いわゆる公害は,今や科学的にも,行政的にも,あるいはまた政治的にも,根本的な解決を迫られている最も大きな社会問題の一つである.
 私が始めて公害という言葉を耳にしたのは,今から約30年前,昭和13年,厚生省が誕生して間もなく,当時の労働局の監督課に入って,労働衛生の仕事に携わるようになった時のことである.足尾銅山を始めとして,各地の鉱山の鉱毒問題は知られていたが,私が厚生省に入った頃,ようやく満州事変を契機として急激に発達していたわが国の化学工業の影響を受けて,各地の化学工場の活動が活発になり,そこから排出される廃液によって農作物や水産物に被害が起こり,その因果関係の究明や対策樹立のために,化学専攻の技師が忙しい思いをしていたことを思い出す.元来,監督課の化学専攻の技師の任務は,工場における化学災害の防止や有害作業環境の改善の監督指導が主たる仕事であったが,当時急激に増加しつつあったこの公害問題の処理にかなりの時間を費やさざるを得なかった.

海外の医学教育

アメリカの医学教育(2)—2,3の大学における公衆衛生教育

著者: 土屋健三郎

ページ範囲:P.515 - P.519

 前号に述べた"医学教育"と同様に公衆衛生教育についてもすでに先人が随所に紹介しておられるので,こと新しいものはないかも知れない.しかし,10年前にCalifornia大学においてSchool of Public Healthの学生として勉強し,今回は反対の立場すなわち教える側に立ってアメリカの2,3の大学の公衆衛生教育に関係したので,浅い経験ではあるが,その所感について述べることとする.
 大体,公衆衛生教育と一概にいうが,医学生やSchool of Public HealthのPostgraduate Studentの他にいろいろな学部やコースで公衆衛生教育がなされており,最近ではSchool of Health Plannerなどという学校もできて,たった一年間の滞米生活で公衆衛生教育全般を語る資格はないと思われる.そこで主として医学部におけるそれを中心として私なりの経験を述べてみよう.

私たちの保健所・9 北海道・広尾保健所

町村と保健所の一体的活動

著者: 厚谷純吉

ページ範囲:P.520 - P.521

北海道のL5型保健所
 国鉄根室本線で札幌より約4時間,狩勝峠をこえ,十勝平野の中心帯広駅で乗り換え,南にローカル線で2時間の旅.終着駅広尾に,北海道広尾保健所が昭和28年に開設された.
 日高山脈を背にし,東南は広く太平洋を望む管内は2町1村で,人口約2万7,000,面積1,560km2,人口密度17.2の人口希薄な北海道のL5型保健所である.

教室めぐり・9

九州大学衛生学教室

著者: 猿田南海雄

ページ範囲:P.522 - P.522

教室の沿革
 明治36年に勅命第54号をもって京都帝国大学第二医科大学を福岡におき,京都帝国大学福岡医科大学と命名することが決定されてから本年で69年になり,翌37年に勅命第151号をもって衛生学講座が新設されて初代教授として宮入慶之助先生が任命されたので,わが衛生学講座が誕生してから今年は68年に当たる.当時全九州の政治,教育,交通,貿易の中心は長崎および熊本であったので,この決定をみるまでには,この帝大誘置のために3県の間に猛烈な競争が展開されたことは当然であるが,福岡県は現在のわが医学部の敷地である96,000坪におよぶ広大な千代の松原を無償提供することによって強豪二県を抑えて勝利を獲得したわけであるが,そのためわが大学敷地内にはその昔大公秀吉が朝鮮征伐の時,茶聖千利久をして点茶せしめたお茶掛けの松が遺跡として保存され,無言のうちに昔を物語っている.
 初代宮入教授は人も知る寄生虫学の大家であったが,宮入教授が停年退職後は大平得三先生がその後を継ぎ,代々寄生虫学を専攻された.大平先生退職後は大坪,水島,宮崎の3教授がそれぞれ一時衛生学講座の教授となったが,昭和26年に不肖猿田が衛生学講座の専任教授となって現在に至った.その間わが衛生学講座は3回の分娩を行ない細菌学,公衆衛生学,寄生虫学の3講座の分家を作るという輝かしい歴史を造った.

特別連載

米国における保健医療体系の苦悩ならびに医師・歯科医師・看護婦の深刻な不足とその対策

著者: 館正知 ,   石戸利貞 ,   高橋英勝

ページ範囲:P.523 - P.526

2.2.質の欠陥を是正すること
(ⅰ)保健専門技術者の免許制度
 医療の質が,可能な限り優秀であることを保証する第一要件は,免許制度を最大限に効果的なものとすることである.少なくとも,免許制度は全国どこでも,最少限の要件を基礎とすべきであり,その要件とは,市民がどこで病気になっても,常に一定の基礎的標準(basic standards)の質を持つ医療をうけられることを保証するようなものをいうのである.さらに各州の政府はそれぞれの権限の範囲で,より高度な医療の質のコントロールに必要な標準を追加するように努力すべきである.かかる法規は州によってその内容は一様ではなかろうが,その相異が理解されやすく,評価しやすいように,比較のできる構成とすべきである.
 また,医学的責任の委任,免許を各州の間で認めあうこと(interstate recognition),および懲戒処分の事由や,手続きなどのような,免許制度の特殊問題に関する"モデル"条項("model" provisions)を開発するための研究が緊要である.

研究

これからの腸チフス対策—本郷保健所管内の腸チフスに関する考察から

著者: 中川喜幹

ページ範囲:P.527 - P.533

はじめに
 腸チフス患者がいちじるしく減少した現在,腸チフス対策の根幹は早期に散発例に対しても疫学調査を的確に行ない,感染源を究明し,その除去または長期排菌者にあっては,徹底した継続的管理にあるといわれている.
 本郷保健所管内には昭和32年以来,時折腸チフスの集団発生がみられ,しかもそれが同一地区に反復して発生していること,また隣接保健所に概して患者が少ないにもかかわらず,毎年の罹患率が高いことに注目し,過去10余年の患者の発生状況を詳細に観察し,今後の防疫活動に資することとした.

京都市に発生した腸チフス多発例について

著者: 腸チフス中央調査委員会

ページ範囲:P.534 - P.537

事件の認知
 昭和43年3月12日,腸チフス中央委員会は,京都市上京区を住所とする腸チフス患者が,この1ヵ月程の間に,11件を数えているのを問題とした.
 発生報告によると,男子3名(12歳,15歳,58歳),女子8名(14歳2名,他は家庭の主婦層と考える)で,その内容から,
 1.この多発は,家庭内伝播によるものと考えられない.
 2.昼間,家庭にいるものが食べるものに汚染の疑いがもてる.
 3.小児が少ないのは,世帯内小児数が少ないという推定より,小児用食品でないと考えた方がよい.
 4.この状況では,昼食用飲食物,たとえばてんやものなどを中心として,汚染が続き,患者の増加の気配がある.
 と結論し,現地に連絡,その調査と万全の対策を依頼した.すでに,この時点で,現地では対策中であった.

海外事情

ガーナ国の医学事情

著者: 辻義人

ページ範囲:P.538 - P.539

はじめに
 昨年末,急にガーナ国に使いするにとになった.それは福島医大が中心となって,ガーナ医科大学に対して技術援助を行なうことが決まったので,現地における建物その他の調整を行なうためである.
 ガーナは西アフリカにあたり,北緯5-10°に位置し,面積は日本の約3/4で,人口は750万といわれている.長く英国の植民地であったが,約10年前に独立し,エンクルマ大統領のもとで開発が進められてきた.現在,エンクルマ大統領は失脚し,軍事政権となっているが,近く民政に移される予定である.

スエーデンの王立カロリン研究所社会医学部を訪れて

著者: 芦沢正見

ページ範囲:P.540 - P.542

はじめに
 若い人たちの間で性病がまん延してきたことは世界的傾向です.筆者は若い人たちが,なぜ性病にそれほど侵されるのか,その心理的条件や社会的背景に向ってアプローチを進めているストックホルム近郊のこの研究室を訪れてみました.
 1967年9月,ストックホルム近郊Solnaの王立カロリンスカ研究所社会医学部(Social-medicinask institutionen vid Karolinska Institutet)を訪れる機会がありました.邦人の来訪ははじめての由,印象の一端を述べてみたいと思います.

厚生だより

性病予防週間にあたって

著者: A・M

ページ範囲:P.543 - P.543

 昭和23,4年頃40万人以上の届出患者数のあった性病も,その後減少し,とくに昭和32年の売春防止法の制定以降は感染機会の減少もあってか,その傾向に拍車をかけた観があった.昭和39年には梅毒5540名,りん病4041名,総性病患者数9540名と戦後最低の数字を記録した.ところが昭和36年頃より早期顕症梅毒の再出現が報告され,届出患者の内容から見ても20歳台の男子の初期および二期の梅毒罹患率は36年以降急上昇を続けている.届出総性病患者数も昭和40年以降増加傾向に転じた.
 近年におけるような性病の様相の変化に対処するため,昭和40年衛生教育推進のための重点地区対策,41年の性病予防法の一部改正,さらに42年より性病予防思想普及の民間団体である三悪追放協会への助成など諸施策が進められてきた.昭和41年における性病予防法の一部改正の主なる点は,第1に医師による届出制度の合則化,第2に婚姻時における梅毒血清反応検査の義務づけ,および婚姻時,妊娠時の血清反応検査に要する費用の公費負担であった.

北から南から 北海道

動く試験室

著者:

ページ範囲:P.519 - P.519

 本道においては,昭和42年6月食品衛生検査車(ニッサンエコーマイクロ改造車)を設置,機動性を利した "動く試験室" として,広域にわたる道内の食品衛生行政を効率的に推進する役割のもとに活動を続けている.
 現在までの検査内容は,総検査件数2002件,違反件数114件,違反率5.70%であり,高率の違反が発見されそれぞれ行政処置を講じている.なかでもソルビン酸の過量使用,デヒドロ酢酸の不正使用,着色料製剤,亜硫酸など食品添加物の違反が目立って見受けられる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら