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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生34巻1号

1970年01月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生活動の将来像

公衆衛生政策の基本的課題

著者: 厚生科学研究班

ページ範囲:P.4 - P.12

課題の背景
 --ヘルス・ニーズの変化と公衆衛生の課題
 1.わが国の公衆衛生は,日本国憲法の理念に基づいて,戦後の国,地方を通ずる行政機構の改革,各種衛生法規の整備,全国的な保健所網の整備,充実などを基盤とし,医薬の進歩,国民の生活水準の回復などと相まって,とくに昭和20年代においては,急性伝染病の防遏,乳児および青年期における死亡率の急速な低下,結核死亡の激減などに,画期的な成果をあげたことは周知のとおりである.
 2.しかしながら,昭和30年代以降においては,社会的,経済的変動の急激な進行によって,国民の健康と生活には質的,構造的な変化が顕著となり,かつこれらの変化が過大都市における過密化と山村辺地などにおける過疎化を両極として,住民の傷病,死亡像についてもそれぞれの地域の特性を鋭く反映した多様な変化が進行しつつあるため,公衆衛生の諸活動については,従来の方法と態勢のみをもっては,健康水準の向上と保健問題の解決に有効に対処することが困難な状況に立ち至った.

公衆衛生基本法(大綱)をよんで(1)

著者: 谷修一

ページ範囲:P.13 - P.14

 すでに各方面で指摘されているように,現在のわが国の公衆衛生活動がまがり角にあり,またそれ故に,今後の公衆衛生,あるいは第一線機関である保健所問題を真剣に考えるべき時であろうと思う.私は今度"公衆衛生基本法について"をよんで,そのような時代の大きな流れを考えるとき,基本的にはこれになんら反対するものではないが,以下,現場にいる保健所長の立場から簡単な感想をのべさせていただく.

公衆衛生基本法(大綱)をよんで(2)—実務家の立場から

著者: 正岡和

ページ範囲:P.15 - P.16

激動する社会に対応する構想
 先頃,経済企画庁から"新全国総合開発計画"が発表され,わが国のこれからの将来20年間における総合的な開発計画構想とその水準とが提示された.構想の内容については,各界から種々の意見が開陳されていることは周知のことである.もちろん,この"新全総"に公衆衛生が重要な課題として取りあげられてはいるが,なにぶんにも全体の中の部分であって,公衆衛生の基本的方向づけについての詳細を欠いている.このような意味において,このたび西川滇八,橋本正己氏らのグループの共同研究によって"公衆衛生基本法"が構成され,試案が提示されたことは,時期的にも,またその必要性の点からも,きわめて有意義な成果といえる.基本法という性質からいって,内容の具体性よりも,むしろ今日の激動する社会において,きたるべき脱工業化社会あるいは情報化社会に向けての,公衆衛生の政策目標とこれを実現するための組織,およびこれの運営についての基本的な大枠の構想である.特に,総合的な目標設定とこれへの計画的,組織的アプローチを重視している点は重要である.戦後から今日までの公衆衛生活動が憲法や,WHO憲章の理念にもかかわらず,どちらかといえば種々の制約によって問題対応的あるいは対症療法的な活動に限定され,主として健康の回復と維持とに努力を集中せざるをえなかった.

住民運動と公衆衛生活動従事者の役割り

著者: 青山英康 ,   五島正規 ,   柳楽翼

ページ範囲:P.17 - P.21

はじめに
 公衆衛生活動の基本は衛生教育であることはだれしも指摘するところである.
 しかし,一方において衛生教育の成果をどのように評価するかという点で,今日の,特にわが国の公衆衛生活動に1つの大きな疑問が生じてくることは避けられない.

地域保健と医科大学との連繋についての問題点

著者: 乗木秀夫

ページ範囲:P.22 - P.24

まえがき
 地域保健と医科大学との繋りについては,その初期には,もっぱら,保健所および診療施設に対する医師の確保にあったと考えられる.
 私の教室のごとく,その研究目的に地域保健の分野をとりあげていた当時には,保健所に診療所に医師を送り,その研究目的のための人的配置が,地域保健に必要な医師の充実となり,お互いに利用し合うことができた.また,各医科大学では,その傘下の派遣病院,診療所を中心として,地域綜合保健の一分野に協力していることは確かである.

人とことば

公衆衛生は地域組織活動の核心

著者: 安倍弘毅

ページ範囲:P.1 - P.1

 お祭りなど古い伝統や習俗の残り受けつがれている村や町においては,地域における組織活動は比較的容易に行なわれるのではないだろうか.指導者があり,各種団体が協同するとき,そして一般住民の1人1人にまで行きわたるような啓蒙が行なわれるとき,地域における全組織の動員がなされるとき,政治,行政,教育の一体化がなされるとき,その間互いによく話し合いが行なわれるときなどである.
 社会福祉活動が今後その本来あるべき姿として発展して行くとすれば,従来のように救済的事業だけに止まらず,より広汎な予防的活動に重点をうつして行くべきであろう.予防的活動とは公衆衛生の活動目的と合致すること当然である.

主張

公衆衛生に望む

著者: 鈴木平三郎

ページ範囲:P.2 - P.3

 私は,昭和30年5月より今日まで4期14年余,東京都の23区に接続する人口15万のベッド・タウンである地方公共団体の長として,行政を担当してきた.その体験からして,その行政活動には,いかに公衆衛生の知識が必要であるかを痛感した.

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エドウィン・チャドウィックの業績とその今日的意義(1)—行政改革を中心として

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.25 - P.32

I.緒言
 エドウィン・チャドウィック卿Sir Edwin Chadwick(1800〜1890)の没後今年は満80年である.彼の死後,世紀の転換とともに欧米諸国は公衆衛生活動の輝かしい発展期を迎え,生活環境の整備,予防医学の進展,衛生行政制度の確立などによって,伝染性疾患を克服し平均寿命の注目すべき伸長をみた.
 "Prevention" と "Sanitary Idea" の父といわれるチャドウィックの恐るべき執念は,その母国イギリスをはじめ,先進諸国においては見事に達成されたといえる.この間,公衆衛生活動を志す者にとってチャドウィックはつねにその偉大な先達であり,洋の東西を問わず公衆衛生を学ぶ若い学徒に力強い励ましを与えてきた.

学会印象記

第4回国際農村医学会に参加して

著者: 上田喜一

ページ範囲:P.33 - P.34

献身的努力の成果
 堂々たる国際学会が,この臼田町のような人口1万5千の農村で開催されたのは,日本では空前のことで一部の人は心配の目で見守ったことと思う.しかし若月学会長はそれを見事にやりとげた.学問的な充実さでも,また夜の親睦を計る企画でも,海外からの会員の絶讃と感謝の中に終わることのできたのは,佐久総合病院を中心とする全国厚生連病院の会員諸氏の献身的努力の成果であった.
 従来もパリ,ボン,プラハのような首都を避けて,農村医学研究所の所在地が選ばれているので,今回も若月学会長の本拠地に決定され,開会式だけは9月30日東京の農協会館で行なわれて,会員はバスで軽井沢のホテルへ送られたが,外人の中には臼田に民宿した人もあった.

海外の医学教育

イタリアの医学教育(1)

著者: 保刈成男

ページ範囲:P.35 - P.40

 イタリアにおける一般医学教育というのが,本シリーズで私に課せられた題目である.私は,1966年より1967年にかけて北イタリアのPavia大学に滞在したが,もとより医学教育事情の視察が目的でもなかったし,そのほうの資料を積極的に集めたわけでもないので,医学教育のとくに行政面での位置づけという点では不満足な内容になってしまった.しかし,イタリアで学生や教員たちともろもろの話しあいを行なった体験やら,手許の資料から,とくにその実際面に焦点を合わせて以下述べてみたい.

教室めぐり・12 横浜市立大・公衆衛生学教室

行政と研究との接点を

著者: 宍戸昌夫

ページ範囲:P.41 - P.41

教室の沿革
 当教室の設立から現在に至る経緯は若干変則的で複雑である.それは国立大学と異なって,講座制度が確立しないままに教育研究の体制が進められてきたことにもよるものである.
 1944年に設立された横浜市立医専が卒業生を出さないうちに,1947年には旧制医科大学が開設され,衛生学関係は医専,医大を通じて萩原兼文教授(現名誉教授)が教室を主宰されてきた.1950年に医大の本科生が2年目を迎えるに当たり,時の学長故高木逸磨博士は,公衆衛生学の講義を開くべきであるという主旨から国立公衆衛生院から宍戸をよび衛生学教室の助教授として萩原教授の下に就け,公衆衛生学としての独立した科目を担当させた.宍戸は研究体制としては衛生学教室に属し,教育面では講義実習を独自に実施し,いわゆる学士試験は独立に単一科目として実施採点に当たった.1952年に新制大学として横浜市立大学の設立が認可されると,医大はその医学部となり医大学長は便宜上医学部長を兼任された.学部長であれば教授である必要性から高木博士は公衆衛生学の教授に就任され,存続中の医大学長の職もある故,教育研究の責任をあげて公衆衛生学教室に移籍した宍戸助教授に委託された.

私たちの保健所・12 愛知県・刈谷保健所

健康は地域ぐるみで守ろう

著者: 藤岡浜夫

ページ範囲:P.42 - P.43

生まれて24年
 刈谷保健所の誕生は,昭和19年10月1日であるから今年で24年になる.ちょうど太平洋戦争最中の誕生であったため当時の建物,設備,人員などの不備不足は容易に想像される.
 その後,庁舎の移転,改築も3たびに及び,昭和39年3月に4代目庁舎として鉄筋コンクリート3階建延面積1,100m2の近代的保健所が竣工,今日に及んでいる.

特別連載

米国における保健医療体系の苦悩ならびに医師・歯科医師・看護婦の深刻な不足とその対策

著者: 館正知 ,   石戸利貞 ,   高橋英勝

ページ範囲:P.44 - P.47

2) 1つの地域においては,同じ量と質のサービスに対して,同じ量の報酬がすべての病院に支払われる事を,指導的,理論的原則とすべきである.この理論的理想が実現すると,同じ量のサービスを低いコストで提供する病院の純益は,高いコストの病院を上回るし,後者の純益は少ないか,または皆無の場合もありえよう.さらに,医療の標準が向上するにつれて,純益も増加するように,支払制度がなれば,最良の医療を提供する病院は,最大の純益をあげることになろう.高いコストの病院および,医療の貧弱な病院は,純益が小さく,時には,欠損も生じようし,時には,健康保険支払額以外に,割増料金を患者から徴収して,経営費をカバーせざるを得ない場合もでてくる.そのような病院は,医療の標準を改善し,経営費を引下げざるを得なくなるであろう.資金の流れの格差が,病院間に生ずる結果,最大の能率と最上の質を有するものが,結局は繁栄,拡大し,貧弱で最も望ましくないものは,姿を消して行くこととなるべきである.
 病院医療部会(the Panel on Hospital Care)は,病院に対する支払に奨励刺激を導入するアプローチのいくつかを詳細に力説している.これらの計画のすべてに共通する要素は,医療の質を体系的にモニターし,評価することである.

資料

ビルマにおける痘瘡の流行と根絶計画の進展について(2)

著者: 黒子武道

ページ範囲:P.48 - P.52

はじめに
 全世界における痘瘡の流行,根絶計画の進展状況については,前号にその概要を述べた.痘瘡の根絶(smallpox eradication)ということは,Variola virusによる感染,発病を消滅させることであるが,痘瘡が容易に一国から他の国に伝播することから,根絶という用語は,通常,1つの大陸から痘瘡を完全に除去するという意味に用いられている.個々の国については,ことにその国が本病の常在流行国に近接している場合には,この表現は適用されない.この場合には,むしろ,防遏という表現を用いるべきであろう.痘瘡根絶計画の目的は,痘瘡の伝播を阻止しうるレベルまで本病の発生を減少せしめることにあり,流行国において,引き続き2カ年以上痘瘡の発生がなく,また輸入例による流行の発生した場合でも迅速にその蔓延を制圧しうる場合には,"smallpox free"といい,国レベルの防遏に成功したことを意味する.したがって,その大陸に属するすべての国々が,国レベルの防遏に成功したときに始めて根絶が達成されるわけである.いずれにしても,痘瘡はその疫学的特性と防遏技術,さらに多くの国々における従来の経験に徴しても,痘瘡の根絶ということは十分可能性のあることである.

仙台市に多発した腸チフスについて

著者: 腸チフス中央調査委員会

ページ範囲:P.53 - P.55

 1967年8月から9月にかけ,仙台市東八番丁を中心として,腸チフスの多発をみた.南保健所を中心として,その防遏解明にあたった結果,某中華料理店を伝播源として多発したことが確認された.よって,同店利用者にひろく検診を呼びかけ,相談に応じたもの800余名,その中から採血,採便によって数名のものから菌の発見をみたという特記すべき対策がとられた事例である.
 本委員会が入手した報告書その他の資料により,その概要を紹介すると共に,その解析を試み,委員会としての意見を述べる.

研究

自動車排気ガス汚染防止対策について—自動車排気ガスTesterを用いたスロー調整による自動車排気ガス中のCOの除去効果

著者: 関敏彦 ,   星川秀彦 ,   管野直

ページ範囲:P.56 - P.59

はじめに
 わが国における自動車排気ガスによる大気汚染,特に路上汚染は自動車数の増加と道路交通の渋滞により,急激に悪化しつつある.従来,自動車排気ガスの防止については,道路運送車両の保安基準(同法保安基準第31条第1項)に規定されていたが,遵守されることが少なかった.
 しかし自動車排気ガスによる公害問題が大きくなり,昭和41年9月から新型車の排気ガス中の主要有害成分であるCO濃度を3.0%以下にするという数的な規定事項が明確にされ,さらに昭和44年9月1日からは,新型車(ガソリン燃料の普通自動車と小型自動車)が2.5%に基準が強化され,引きつづき現在ある新車の乗用車は昭和45年1月1日から,トラック,バスについては昭和45年4月1日から,それぞれ2.5%にひき下げることになっている.

船員の肺結核の現状と問題点

著者: 土屋真 ,   相沢慎吉 ,   笠原たつ子 ,   千葉婕子 ,   関口東一

ページ範囲:P.60 - P.62

はじめに
 国民死因の第1位から第7位に下がった結核は,保健所の登録管理もかなり軌道にのっている.しかし宮城県北部の水産都市である気仙沼市を含めて,海岸地域を管轄する気仙沼保健所の結核診査協議会には,時々,重症な船員のレントゲン写真が公費負担申請書とともに提出されてくる.また登録管理中の開放性患者の乗船が,後を絶たない.重症者には新発見の患者も多い.かかる現状から,著者らは登録中の船員の結核について検討を加えたので報告する.

北から南から

第3回岐阜市衛生部職員研修会開かる

著者: M・K

ページ範囲:P.12 - P.12

 岐阜市には現在,中央,南,北,の3保健所があり,それぞれの地域に即した保健衛生事業を実施しているが,職員が一堂に集まり,意見の交換をする場がなかなかもたれないので,昨年より衛生部職員(環境整備課を含む)の研修会を開催し,日常業務のまとめと改善に役立てている.
 今回11月29日には第3回目を北保健所において実施した.演題は14題で,1人持ち時間8分,土曜日午前中,もり沢山の演題がぎっしりつまり,終始熱心に発表,質疑応答がなされた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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