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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生34巻10号

1970年10月発行

雑誌目次

特集 衛生教育の転換

Editorial あすの衛生教育を模索して—社会と時代の要請にいかに応えるか

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.578 - P.578

 第2次大戦後の4半世紀は,世界的にも,また日本にとっても,かつてない激動と構造的変革の時代であった.日本における新しい衛生教育の理念,技術,方法は,保健所網の整備とその活動を軸とする公衆衛生活動とともに,先駆的な指導者や熱心な現場のワーカーたちによって発展せしめられてきた.とくに昭和20年代の半ば以降,宮坂忠夫氏をはじめアメリカで公衆衛生,衛生教育を学んだ先駆的な人たちによって,行動科学を基盤とする新しい衛生教育の理念と技法が積極的に導入され,日本の公衆衛生と衛生教育に新しい息吹きと進歩をもたらし,専門技術的な裏づけと魅力を加えたことは注目すべき成果であった.昭和20年代における公衆衛生の発展と国民の保健水準の改善は,わずか10年間で出生率,死亡率,乳児死亡率を半減し,結核死亡率を1/3に減少せしめたことに示されるように,世界の公衆衛生史に特筆されるべきものであり,全国の保健所とその衛生教育活動が大きくこれに貢献したことは万人の認めるところである.
 しかしながら,周知のようにおよそ昭和30年を境として,都市化,重化学工業化を軸とする社会変動がはじまり,そのなかで人口構造の質的変化,地域間移動,生活構造,生活意識の変革と相まって,公衆衛生活動の対象である地域の人びとの生活と健康また生活の意識に,かつてない質的,構造的な変化が進行していった.

衛生教育の国際情勢

著者: 山本幹夫

ページ範囲:P.579 - P.584

 衛生教育の国際情勢を展望すること,特に学術的の批判にたえる報告を行なうことは,筆者にとって容易のことではない.ソ連を含めた欧米の諸国に数回の歴訪をしたといっても,いずれも短期間で十分の時間をかけたそのための訪問でもなく,衛生教育国際ユニオンの主催する健康と衛生教育の国際会議には,1912年以来引続き3回出席したが,それぞれの国ぐにの人びとから,手短かに大体の模様を聞いているにすぎないからである.
 このような不十分な知見にもかかわらず,この仕事をお引受けしたのは,この方面におけるわが国の立ちおくれを少しでも回復するために役立てばと念じてのことである.あらかじめ読者諸氏の忌憚のない御斧正を期待する次第である.

急激に工業化した大都市の衛生教育

著者: 伊予部倫司

ページ範囲:P.585 - P.592

 川崎市は,大正13年7月1日に市制施行以来,今年で46年を迎えた比較的歴史の浅い都市である.
 この間・明治末年頃から始まった市の積極的な工場誘致方針によって,一途に工業生産都市として発展を続け,第2次世界大戦による大きな被害にもかかわらず今日では製造品出荷額などにおいて年間1兆6,000億円を越す全国でも第3位の工業生産都市として成長したのである.

離島・へき地をかかえる地方の衛生教育

著者: 添川忠芳

ページ範囲:P.593 - P.597

 標題について長崎県の衛生教育を述べる前に,本県のもつ地勢や種々の条件についてふれてみたい.
 長崎県の地勢は東の1面だけが佐賀県との陸続きで,他の3面は北は玄海,西は東シナ海,南は天草灘,有明海に面していて海岸線は迂曲はなはだしく数多くの半島や岬,湾や入江を形づくり延長3,699キロメートルに及んで全国随一の長さである.

提言70年代の衛生教育

著者: 石垣純二 ,   金永安弘 ,   佐藤恒信 ,   辻達彦 ,   原田正二 ,   樋代匡平 ,   宮坂忠夫 ,   村江通之 ,   山根常世 ,   蓬田丑治

ページ範囲:P.598 - P.611

民衆の自主防衛意識のうえに
万博と公害の象徴するもの
 70年代が万博と公害で幕をあけたというのは全く象徴的だと思う.博覧会などというものは本来,村祭りののぞきみたいなものだ.いやカレイドスコープといったほうがもっと適切だろう.けんらんとしているが舞台裏からみると子ども欺しもいいところで,一向に実体を伴わないものだ.そしてはかなく消えていって何も残らない.虚像の堆積だ.
 日本はこの10年間,GNPの年伸長率13%,エコノミック・アニマルと笑われようがどうしようが一向に介意せず,ひたすら繁栄へ繁栄へとつっ走ってきた.愚かしい戦争で元も子もなくした8千万国民が心を入れ代えて,カネだカネだと食うや食わずに稼ぎまくった.

フィンランドの衛生教育—青少年問題が中心

著者: 相磯富士雄

ページ範囲:P.612 - P.616

 昨年春,WHOのフェローシップにより2カ月余の期間,欧州諸国における健康増進対策を学ぶ機会を得ました.しかしHealth Promotionということで,私のために用意された訪問先はリハビリテーション関係施設や体力医学施設および関係者が多く,わが国でいっている健康増進対策に関するようなことは余り見聞できませんでした.運働・栄養・休養の綜合的対策については行政組織上のセクショナリズムがわが国同様わざわいしているようです.それ以上に,学問的にも綜合的な健康増進という形で取りくんでいる研究所はほとんどなく,デンマークのDr.Molbechによれば欧州ではチェコスロバキヤのKARLOVYVARYにあるKALS大学の附属研究所だけであり,そこへ立寄ることをすすめられましたが機会を得ることができませんでした.
 健康増進対策が主テーマであるため,衛生教育については多く見聞するチャンスがありませんでしたが,比較的長期にわたって滞在していたフィンランドについての印象を,紹介することとします.

人とことば

衛生教育発達の"壁"

著者: 福田邦三

ページ範囲:P.577 - P.577

 衛生教育は公衆衛生の中核的な柱であると言われながら,今まで厚生行政に十分の浸透を遂げていない.その限界の由来を考える.

講座 地域保健活動・4

自主的活動に支えられた地域保健活動—岡山県山陽町

著者: 園田恭一

ページ範囲:P.618 - P.622

山陽町の概況
 岡山県山陽町は岡山市の東北約10キロの位置にあり,そして全戸数の75%程度が農家という都市近郊農村である.今日の山陽町は,昭和28年に,旧高陽,西山,高月(一部落を除く)の3村が合併して成立した.
 44年4月1日現在の世帯数は1906戸,人口は7975人であるが,ここ数年間の動きをみると,人口は減少し,戸数は増加するという傾向が示されており,また岡山行きバスが1日60往復も出ているという地域的環境もあって都市化の趨勢は著しいものがある.そして,この地域にさらに大きな変動をもたらす要因として考えられるのが,これまでの町の世帯数や人口を上廻る3000戸の住宅に1万〜1万2千人を収容するという県下最大のマンモス団地が県営住宅団地造成計画として今後6カ年のうちに作られようとしているということなのである.これらは,農村的基盤のうえになりたってきた,これまでの山陽町の地域保健活動の態勢にとっても大きな問題を投げかけることになると思われる.

海外の医学教育

西ドイツの医学教育

著者: 柳沢文憲

ページ範囲:P.623 - P.628

 医学教育は医師の本質上,卒前教育,卒後教育,再教育のすべてを含むと理解されるが,その全部を書くことは紙面が許さないので,今回は改革の途上にある西ドイツの卒前教育(学部教育)の問題を中心に紹介したい.その前に,すでに一足先に片づきあゆみ出した2つの重要な大学改革,卒後教育の改革についてもふれてみたい.西ドイツ医学教育の改革は徹底的におこなわれようとしている.

私たちの保健所・24 岩手県・宮古保健所

生活環境を守る拠点

著者: 庄司三郎

ページ範囲:P.629 - P.630

はじめに
 宮古保健所は岩手県の東海岸の中心に位置する人口5万8千の宮古市にあり盛岡市や秋田市よりやや南で本州の最東端にあたる太平洋に面し暖流(黒潮)と寒流(親潮)の交流する世界3大漁場の1つ三陸漁場を控え,南は釜石,塩釜,北は八戸,函館港の中間にあり,鮭鱒さんま漁業の基地港で輸出入港でもある.観光の面では国立公園陸中海岸の中心地である.

教室めぐり・21 東邦大学・公衆衛生学教室

予防接種改革のために

著者: 金子義徳

ページ範囲:P.631 - P.631

教室の沿革
 現在の公衆衛生学教室は昭和42年4月から筆者が担当者として発足した.東邦大学においてはそれまで衛生学公衆衛生学講座として運営され,萩原兼文,石川知福,横堀栄の諸教授によってひきつがれ昭和39年1月に筆者が着任したが,昭和42年4月に衛生学講座と公衆衛生学講座をそれぞれ独立させ,衛生学講座には額田粲教授をむかえて今日に到っている.定員は教授,助教授,講師,助手2名,研究補助者1名であるが,現在は助教授,講師が欠員で助手3名がそのスタッフである.ともかく筆者が最初に着任している関係もあり,研究テーマを同じくする人たちが集まっているので,豊かでない教室研究費は効果的に運営されていると考える.

学会印象記

やや教科書的だが充実した内容—第45回東京都衛生局学会(第1日)の印象

著者: 荻村正男

ページ範囲:P.632 - P.633

 第1日(6月25日)は小山記念賞授与式につづいて一般演題18題とシンポジウム「地域保健活動」である.一般演題は最初の7題が母子衛生,つづいて栄養3題,成人病および老人衛生5題,精神衛生3題と分けて4名の座長のもとに発表が行なわれた.田無保健所小山は健診に対する期待度などについて述べたが,今後いかにして期待に答えるかが問題であるし,小児科医師による育児指導がもっと多く行なわれるような行政措置も望ましい.荏原保健所村川らが3歳児健診に当ってユニークな母子分離による小グループ討議を試みている点に参会者の興味が集中した.日本橋山下所長が健診の目的をしっかりつかめと注意したのは妥当な発言であったが,このような集団指導もまた意義深い試みである.下谷の高橋所長は乳健内容の質的向上を試みて一案を示した.
 麹町保健所五十嵐,千住保健所小川,碑文谷保健所前らの発表した3題にわたる老人健康に関する調査は保健婦が訪問によってとらえた老人の生態で,老人診査は民生局関係のため今まで余り問題としていなかっただけに,今後保健所でこの問題とどう取り組むかを考えるひとつの示唆を与えるものといえよう.

論稿

健康の定義について—方法論試論

著者: 内海和雄

ページ範囲:P.634 - P.636

 「健康とは何か」ということはこれまでも数多くの人びとによって論じられてきましたが,その人なりの思想・信条を反映し,多義にわたっておりますが,大要は,身体的・精神的ならびに社会的にも良好で,毎日が楽しく暮らせることである,といえると思います.私は現象の解釈を否定するものではありませんが,現在では,より深くとらえたうえでの概念規定を行なう必要があるのではないでしょうか.私はここでひとつの方法論的な試みをしてみたいと思いますが,なにせ,「健康」とはその含蓄が広範囲ですし,特に精神的な問題は,いまの私には荷が重すぎますので,それらについて十分に網羅することはできませんでした.

私の意見

田舎開業医のみた若松氏の論文

著者: 津田順吉

ページ範囲:P.638 - P.639

 公衆衛生7月号の若松栄一氏の「衛生行政のトピックスを拾う」を有益に読んだ.若い病理学者として,病理学を中心とした今の病院中央検査的科長としての軍医.終戦の絶望からの出発.一時病理解剖をマンネリと見た時代もあったと思うが,衛生行政にとびこんだことから本誌7月号の論文ができたと思う.若松の論文はほかにもたくさん出ているのかもしれないが,ザイゴモンの私には病院誌上の海外見聞記みたいなものと,この論文だけしか知らない.別なことだが,勝沼東大教授のなげた質問に若松は答えているだろうか.あれば見たいものである.

厚生だより

第3回歯科疾患実態調査の概要について

著者:

ページ範囲:P.637 - P.637

 この調査は,昭和44年5月栄養調査の際に行なったもので,昭和32年第1回,38年第2回についで3回目のものである.この調査の目的は,歯科保健対策の推進のための基礎資料として,わが国における歯科衛生の現状を把握し,過去2回にわたって行なった調査結果と比較検討しようとするものである.この調査は,全国にわたり無作為抽出によって165地区を選定し,全世帯および全世帯員を調査客体としたものである.この調査の専門的な事項については,歯科医師が行なったものであるが,主な調査事項は下記のとおりである.
 現在歯の状況,喪失歯および補てつの状況,歯肉の状況,歯並びの状態,フツ化物塗布の状況,歯ブラシの使用状況.この調査結果の概要は,下記のとおりである.

北から南から

山口県公衆衛生協会長野瀬氏に決定—第17回山口県公衆衛生学会の印象,他

著者:

ページ範囲:P.592 - P.592

 去る7月11日(土),下関市文化会館にて第17回山口県公衆衛生学会開催.学会長は下関市保健所長中村建史博士で,初めて県下唯一の政令市開催地とあって,公衆衛生協会会員をはじめ公衆衛生関係者およそ500名参集.午前9時開始,第1会場・第2会場はいずれも超満員であった.
 午前中の研究発表では,第1会場は母子衛生に関する諸発表があり,ことに婦人の農漁村をとわず貧血調査の結果成績が集中し,参加者一同をして栄養士・保健婦による保健指導・食生活指導・生活指導などに対する関心と認識を一層新たにし,第2会場では昨今クローズアップされている公害問題について,多角的な調査結果が発表され,極めて活発な質疑・意見がなされた.殊に大気汚染と3歳児検診・児童・成人との呼吸器疾患との関係が,それぞれ山口大医学部公衆衛生学教室員の方々により発表せられたところ,県下大気汚染3地域を有するだけに,非常に興味深い所見が得られた.また山口県地区衛生組織活動の分析と考察について,山口県環境衛生課岡崎係長によって紹介されたが,レポートモニター制と,56市町村衛生担当職員のアンケートの両面から考察された地区衛生組織活動は,必ずしも容易に組織を維持し,活動を続けることは困難である事実を語り,奉仕活動の限界と,社会連帯性の遮断の様相を告げ,将来のあるべき姿を知ることができた.以上43題の研究発表を午前中で有意裡に終了し,午後は総会に移った.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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