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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生34巻11号

1970年11月発行

雑誌目次

特集 ビルの衛生管理

「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」の概要

著者: 小川博

ページ範囲:P.651 - P.656

はじめに
 近年,わが国における建築物は,人口および産業の都市集中,経済の飛躍的成長,建築技術の著しい進歩にともなって,その数は急激な増加を示し,同時にその高層化,巨大化あるいはデラックス化の傾向が顕著である.
 しかし,これらの建築物を環境衛生上からみるとき必らずしも十分な配慮がなされず,今もなお,なおざりにされているのが現状である.すなわち,空気環境,給水および排水,清掃,汚物処理,衛生害虫,その他,照明,騒音などの衛生的環境の改善は,既にこれら建築物を使用または利用している多数の者に諸種の健康上の障害を与えていることからも,また将来予測される環境衛生上の諸問題を防止するためにも,建築物の衛生的環境を確保するための法の成立が強く要望されているところである.

ビルの衛生工学

著者: 吉沢晋

ページ範囲:P.657 - P.663

はじめに
 建物を環境衛生的に好ましい状態に保つということは,基本的には,まずよい建物を建てることから始まる.そして,建てられた条件や意図にしたがって適正なる維持管理を行なってゆくことによって達成される.正しく作られなかった建物は,いかに維持管理の面で努力しても,良い環境を出現することは難かしいし,維持管理活動が正しく行なわれなければ,良い建物もその真価を発揮することはできない.この極めて自明と思われる事柄が,これまであまりにも看過されすぎていたようである.とくに,建てる側の建築技術関係者と,維持管理に注目しがちな衛生関係者の間に,理解と交流が少ない現在,本来ならば避け得られるはずの種々の問題があるように考えられる.
 衛生関係技術者としては,建設の過程そのものについても理解を深め,環境衛生上の問題点に関して,その原因と現状を把握しておくことは,維持管理活動の可能性と限界を知り,将来の方向を定めるのに役立つものと考えられる.

ビル環境と人体—空気調和を中心として

著者: 長田泰公

ページ範囲:P.664 - P.669

ビル環境と健康
 最近の技術革新と経済発展とは,建物にも目覚ましい変化をもたらした.事務所,ホテル,学校,病院,マンションなど,いわゆるビルと呼ばれる建物が都市再開発の波の中で続々と建設され,近代化され,高層化されつつある.この建設ブームの原動力はもちろん経済であるが,より良い働く環境住む環境を求める欲求に支えられていることも間違いない.人類は数千年来,住居という人工環境を作って厳しい自然環境を緩和し,居住地を地球全体に拡大してきた.それでも従来の住居は,日照,自然換気,外気に近い温度条件,立地条件などの点で,まだまだ自然に密着した環境であった.ところが最近つくられている近代的なビルは,桁違いに自然と隔絶した空間に人間を働かせ,住まわせることになった.
 人工照明,空調,給排水設備,昇降機などに装われたビルは,良かれ悪しかれ自然条件から人間を切り離している.しかもその立地条件は大気汚染や騒音に満ちた大都会であり,自然の景観はほとんど失われている.ビルは元来,より快適な労働と生活の場として作られながら,不適切な空調による冷房障害,インフルエンザなど呼吸器疾患の流行,汚れた空気による悪臭,頭痛などの苦情,高層閉鎖空間による愁訴など,さまざまな不健康状態が生まれ,また生まれる可能性が出てきている.

ビルの給排水

著者: 森村武雄

ページ範囲:P.670 - P.674

まえがき
 先般,ビルの管理に関する法律が公布されたが,こういうメンテナンスに関する法律は,世界でもあまり類例がないのではないかと思う.
 従来,日本では建物ができるまでは,その設計や施工についていろいろ研究や検討がなされ,随分立派なビルも数多く建てられているが,いったんできてしまうと,そのメンテナンスは,すっかりなおざりにされてしまっている例が多いように見受ける.また,世間の目も,新しくできるものに対しては関心を持つが,できてしまったものについては,そのメンテナンスについて大した関心がないようである.たとえば,新築されたものに対しては,建築学会賞(建築のデザインに関するもの)とか,空気調和・衛生工学賞(設備の設計や施工に関するもの),あるいはその他にもまだ賞があるようであるが,メンテナンスについては,その建物のメンテナンスがよくできていて,建物本来の機能をじゅうぶんに発揮している,ということを賞するような制度は,おそらくまだないのではないかと思う.

ビルのネズミ・害虫

著者: 緒方一喜

ページ範囲:P.675 - P.678

 自動ドアーをはいると,どんな真夏でも,サッと汗が引っこむような涼しさ.ピカピカ光る床.スピーディーなエレベーター.庶民の家からやってくると,宮殿とまごうばかりである.年ごとにビルはりっぱになっていく.
 ところで,このピカピカの近代的ビルに,いぜんネズミとか,ゴキブリ,蚊のような害虫がいるとは,外から見ただけでは想像もつかないことである.この意外性が,ビルの建築構造の盲点といえるであろう.一見して,豪華で,便利そうで,清潔そうに見えるが,本質的には,害虫やネズミのことは,全く眼中にない設計であり,構造である.

ビルのごみの処理

著者: 河西晃

ページ範囲:P.679 - P.685

ごみ処理の重要性
 限られた床面積を有効に利用して,ビルの機能を十分に発揮させるためには,建物の構造や配置もさることながら,設備や機材,器具の充実をはかることが,さらに大切です.
 最近のビルには,こうした傾向があらわれてはいるけれども,同じ建築設備であっても空気調和,給排水設備などに較べると,ごみの始末はいまだ,おろそかに扱かわれています.生活に関与した老廃物ごみは,し尿とともに身近かな存在であり,これらを離れた生活はありえません.しかも液体汚物であるし尿の排出量は将来にわたっても排出量や質が格段に変ることは考えられませんが,ごみは文化の向上,生活様式の変化など周囲条件に応じて差異を生じ,現に増加の一途をたどっています.

人とことば

衛生学の意義

著者: 吉岡博人

ページ範囲:P.641 - P.641

 昭和43年3月に衛生学教授を定年退職したので,衛生学の第一線からはなれてすでに2年以上経過しておる.その間,理事長・学長の雑務に専念したので,私の述べようとすることは,もはや時代錯誤で,諸者諸賢のご参考にならないことを恐れるが,こわれるままに拙文を書くことともる.
 従来の経験的俗説を排して,衛生という事象を科学的に「衛生学」という学問にまで樹立したのは,ご承知のようにペッテンコーヘルにほかならない.そのときの彼の考え方は,ある意味で「平均的人間」を考えて,その人の理想的環境がどんなものであるかを追究しようとしたのである.いいかえると,「平均人」の自然環境の理想像がどんなものであるかを研究しようとしたわけである.

座談会

環境汚染への挑戦—公害行政10年を省みて

著者: 橋本道夫 ,   山下章 ,   西川滇八 ,   長谷川泉

ページ範囲:P.642 - P.650

 田子の浦のヘドロ,安中のカドミウムなど,公害の話題は絶えない.厚生省も来年度は公害予算を一挙に4倍近くに増やすなど,公害問題はこれからの最大の焦点として大きく浮かび上がってきている。その中で,10年近く,日本の公害行政を担われてきた橋本道夫氏が,世界の公害に挑むため,OECD環境管理計画官に就任された.そこで,これまでのご苦労話とこれからの公害対策のあり方をうかがってみた.

私たちの保健所・25 京都府・伏見保健所

地域諸団体との連繋のなかで

著者: 合田博

ページ範囲:P.686 - P.686

沿革
 伏見は京都市南部に位置し,往昔豊太閤が巨城を築いた由緒の地であり,明治維新の寺田屋,桃山御陵,乃木神社の所在地でもある.伏見の南部には合戦で名高い宇治川が貫流している.伏見はまた灘とともに酒どころとして有名であり,平安時代以来の伝統を受継ぐ酒造会社が44社ある.中心部は工商業地帯,周辺部には農家が多いが,京都市の副都心として栄えている.人口約20万に及び,ドーナツ化現象の影響を強くうけて最近の人口増加は著しい.
 現在の庁舎は昭和26年8月建築された木造で,ウグイス張りの階段もあり,くちなしの垣根をめぐらす大変クラシックな建物である.現在3課1室9係,および支所を合せて58名の職員が,区民の健康とくらしを高めるために張り切って仕事をしている.

海外事情

英国の医療公衆衛生事情—WHOの研修を中心として

著者: 小畑美知夫

ページ範囲:P.690 - P.694

はじめに
 WHOのフェローとして1969年9月21日から1970年4月13日までの約7か月間,英国を中心としてヨーロッパ4か国,ブラジルで研修を受けてきた.当初フェローのテーマは「傷病調査の方法論的研究」ということで,主としてわが国で行なっている各種傷病調査,とくに「国民健康調査」あるいは「患者調査」などの国民の傷病状況を量的および質的に把握する調査手法を改善するための方法論を研究することを目的としたものであったが最終的にWHOが調整してきたプログラムはLondon School of Hygine and Tropical Medicineが主催する "Combined Course in Medical Statistics and Epidemiology" の6か月コースにおける疫学と衛生統計の研修コースへの参加であった.したがって本稿も主としてこのコースでの6か月間の生活を中心として,この目で実際に見,聞きした最近の英国の医療事情,公衆衛生事情について述べることにしたい.

原著

眼底所見による高血圧対策の効果—特に脳卒中の予測について

著者: 新井宏朋 ,   秋山雅晴 ,   畑徹 ,   亀岡智子 ,   小野寺公子 ,   本木正勝 ,   市原龍子 ,   村山美千代 ,   磯崎徳男 ,   藤池久子 ,   杉浦武男

ページ範囲:P.695 - P.703

はじめに
 日本循環器管理研究協議会(会長,小林太刀夫東大教授)では昭和43年度に厚生省の委託をうけて高血圧,動脈硬化性疾患の管理に関する研究を全国的な規模で実施した.この共同研究は管理ニード調査,重症度判定基準,管理方式,管理効果,の4つの小委員会に分かれておこなわれたが,著者らは,このうちの高血圧,動脈硬化性疾患の管理ニードに関する小委員会(委員長,関悌四郎阪大教授)に所属して地域における脳卒中の発生率,有病率の調査を担当した.この調査は,あらかじめ40歳以上の住民全員を対象に血圧,眼底,心電図,尿検査による検診がなされている全国10府県13地区について検診後数年にわたる脳心事故の発生状況と検診時所見との関係を追求したもので,共通の所見判定基準,脳・心事故調査方式による全国的調査としては本邦で最初の試みである.
 この共同研究の報告は,すでに2回にわたって公表されているが1,2),特に著者らが担当した静岡県西伊豆地方においては,眼底所見と脳・心事故の関係について,共同研究で計画された範囲をこえたさらに詳細な調査成績がえられている.本報では,これを主題として,高血圧対策における眼底検査の意義について述べてみたい.

資料のページ

医療施設の動向

ページ範囲:P.687 - P.688

 本誌では最近の情報の氾濫と整理のむずかしさを考えて,信頼できる本格的な資料を提供したいと思います.そこで,今月号から厚生省統計調査部の小畑美知夫技官に毎月,統計資料をいただくことにしました。ご愛用下さい.

厚生だより

予防接種事故に関する措置について

著者:

ページ範囲:P.689 - P.689

 本年6月15日,厚生大臣の諮問機関である伝染病予防調査会の中間答申が発表された.この答申は,同調査会が43年5月以来約2年間にわたって急性伝染病予防対策全般について審議を行なってきたもので,その中には予防接種対策についてものべられている.この答申発表と前後して報じられた種痘後におこった何例かの副反応の症例が新聞紙上などに報じられ,これらを契機にして,種痘をはじめとする各種の予防接種の副反応に対する不安が強くなり,これに対する施策を求める世論が急速にたかまってきた.
 予防接種の事故対策については,上記答申の中にも重要な問題としてとりあげられており,民法または国家賠償法で救済される場合を除いて,国が被害者を簡易な手続きにより敏速に救済し得る制度を,早急に確立すべきであるとしている.もともと予防接種事故に対する対策としては,使用するワクチンの改良と接種時期を含めた接種方法などの改善をはかることがその根本であり,とりあえず種痘については,今年度1,400万円の予算をもって弱毒ワクチンの研究に着手するとともに,接種方法や接種時の注意などについては,6月と8月に各都道府県に通知したところである.

北から南から

第19回北海道公衆衛生大会開かれる,他

著者:

ページ範囲:P.656 - P.656

 去る8月24・25日苫小牧市において,第19回北海道公衆衛生大会が開かれた.全道から行政,地区組織,関係団体の関係者1,700名が集まり盛会であった.
 特別講演は,北海道大学安倍三史教授が,「これだけはやめよう」と題して,日常生活の中で保健上その害を理解していながらやめられない行動,無害だと信じている誤った考え方について,タバコ,酒,くすり,テレビなど身近な例をやさしく述べられ,生活の中で科学する心の必要性を強調された.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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