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特集 ビルの衛生管理
ビル環境と人体—空気調和を中心として
著者: 長田泰公1
所属機関: 1国立公衆衛生院生理衛生学部
ページ範囲:P.664 - P.669
文献購入ページに移動最近の技術革新と経済発展とは,建物にも目覚ましい変化をもたらした.事務所,ホテル,学校,病院,マンションなど,いわゆるビルと呼ばれる建物が都市再開発の波の中で続々と建設され,近代化され,高層化されつつある.この建設ブームの原動力はもちろん経済であるが,より良い働く環境住む環境を求める欲求に支えられていることも間違いない.人類は数千年来,住居という人工環境を作って厳しい自然環境を緩和し,居住地を地球全体に拡大してきた.それでも従来の住居は,日照,自然換気,外気に近い温度条件,立地条件などの点で,まだまだ自然に密着した環境であった.ところが最近つくられている近代的なビルは,桁違いに自然と隔絶した空間に人間を働かせ,住まわせることになった.
人工照明,空調,給排水設備,昇降機などに装われたビルは,良かれ悪しかれ自然条件から人間を切り離している.しかもその立地条件は大気汚染や騒音に満ちた大都会であり,自然の景観はほとんど失われている.ビルは元来,より快適な労働と生活の場として作られながら,不適切な空調による冷房障害,インフルエンザなど呼吸器疾患の流行,汚れた空気による悪臭,頭痛などの苦情,高層閉鎖空間による愁訴など,さまざまな不健康状態が生まれ,また生まれる可能性が出てきている.
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