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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生34巻2号

1970年02月発行

雑誌目次

特集 地域公衆衛生活動近代化のあゆみ

Ⅰ 過密地域における保健管理体制の現状と将来構想

著者: 須川豊

ページ範囲:P.71 - P.82

 保健管理の中心は保健所であるが,近時その保健所のあり方が問題となっている.これは衛生行政のあり方そのものの問題である.保健所は住民の健康管理のセンターであるが,その活動効果が十分でなく,従来の保健所では近代化に対応できないのみでなく,神奈川県では,特に都市化現象の及ぼす影響を考慮して衛生対策を樹立しなければならない.
 そこで,本県の立地条件を勘案して,神奈川方式ともいうべき特殊な構想をもって進めつつある.この基本は保健所を中心として,最高の技術と設備をもつ専門的機能センターと,都市化住民の地域活動の拠点である保健ステーション活動の組み合わせによって,最高の技術を住民に直結して,保健衛生行政の効果をあげようとするものである.

Ⅱ 対人保健サービスの組織的展開の例としての母子保健対策

著者: 前田実

ページ範囲:P.83 - P.87

1.母子保健対策の体系化
 母子保健対策は,子どもを健やかに生み育てるために,妊娠前すなわち婚姻前から結婚,妊娠,分娩をへて出生児が就学するまでの間一貫した体系のもとに,母子保健に関する教育活動,疾病の予防と早期発見,早期治療,必要な援護などが総合的に実施されることが必要である.
 神奈川県においては,昭和42年から母子保健対策の体系化に着手し,現在その推進をはかりつつある.

Ⅲ 医療行政の具体的な施策から

著者: 大谷昌美 ,   藤倉芳郎 ,   指田孝

ページ範囲:P.88 - P.91

1.看護婦確保対策
 1)本県における不足数
 看護婦必要数の算出はたいへんむずかしいことに違いないが,全国的に統一された算出基準がなく,各県独自の判断に任せられている現状であり,その最も基本となる医療法に定められた数も,また社会保険の基準看護の数も実情に合わないという声があり,事実この算出基準では2・8夜勤問題は解決できない.
 本県における不足数は4,000人から5,000人といわれているが,43年度の統計からいくつかを設定し不足数を算出した.

Ⅳ 生活環境施策の具体例から

著者: 安方魁人 ,   関本一雄 ,   吉田克已 ,   大木靖衛

ページ範囲:P.92 - P.99

1.たべものの保健行政
 都市化の波に対応する"たべもの行政"の基本方針としては,たべものを提供する側(食品業者など),たべる側(県民),衛生当局の3者が一体となって推進するのでなくては,望ましい成果をあげることはできない.また,その内容としては,食品衛生面と栄養面の調和をはかりつつ,その施策展開を行なわねばならない.
 このような目的達成のために,神奈川県においては,学識経験者,消費者,業界を主体とし,これに行政当局が参画して神奈川県食生活問題懇話会ならびに神奈川県食品衛生推進対策会議を設け,いわゆる共同企画(ジョイントプランニング)方式によりたべもの行政の総合的展開をはかっている.

グラフ

神奈川県の公衆衛生活動

ページ範囲:P.65 - P.68

 過密,過疎の現象は今や全国的にそれぞれ大きな問題をよんでいる.そして神奈川県は過密化,都市化の最たる県の1つである.
 よってこれらの問題に対処するために,新しい衛生行政のあり方が工夫され,展開されねばならない.すなわち,地域センターである保健所やステーションで,高度の技術,設備をもつ専門的機能センターとの組み合わせがそれである.さらにこのヨコ糸とタテ糸をつなぐ特殊自動車の整備—その総合的,体系的な運営—

人とことば

留学当時

著者: 緒方益雄

ページ範囲:P.69 - P.69

 私がベルリンの衛生学教室に留学した当時は,第一次大戦後でまだドイツは戦後困難の時で,石原房雄先生の紹介で入室でき矢崎慈大名誉教授もすでにHahn教授の指導で研究されていた.以来45年も経過したが,お二人とも元気で,なお学界のために研究しておられる.当時を思い出しながら教室の模様をご参考までに申し上げる.
 教室は有名なブランデンブルグ門の近くでドルテーン街にあり,医学部に属しているよりは,独立の研究所といった方が当てはまる.会計も講義も独立しているのが日本と違っている.所長はHahn教授で,細菌と血清学,私の先生は環境衛生のKorff-Petersen教授,他に細菌と皮膚温のHeymann教授,社会衛生のGroszean教授とOlsen講師とが主なStaffで,学生は自由に好きな講義を聞いて単位を取り国家試験を受け,一人前の医師となり6カ月自分の好きな基礎の教室で仕事をして発表すれば"ドクトル"の称号を与えられる.当時,研究所には留学生として中国人,南米人と集まり戦後とは思えぬ盛んな教室であった.

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エドウィン・チャドウィックの業績とその今日的意義(2)—行政改革を中心として

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.100 - P.107

V.救貧法から公衆衛生へ(1838〜1847)
 いわゆるFever Report(1838)チャドウィックが正式に救貧法委員会を去るのは1847年9月であるが,すでに触れたように1847年には彼は委員会内部ではT. F. レヴィスと決定的に衝突し,外では救貧法反対とチャーチスト運動の矢面に立って,事実上救貧法の運営からは閉め出されていた.また彼が公衆衛生法成立により,中央衛生局The General Board of Healthの委員に正式に任命されるのは1848年9月であり,この間約10年間彼は救貧法委員会に在籍のまま,実質的には公衆衛生運動の推進力としてsanitary reformの道をまっしぐらに突き進んだのである.チャドウィックが疾病予防問題に全面的に没頭するようになったのは1838年であり,その契機は1837〜38年のロンドンにおけるインフルエンザとチフス流行に際し,彼が正式に上司の許可を得てロンドンの衛生状態に関する調査を行なったことである.
 この調査の目的は,首都における予防可能な疾病の有病率および原因を究明することにあった.彼は調査の一部を連合教区の医師たちに委ね,その残りを彼が予防医学のパイオニアと考えていた3人の医師に委ねた.

学会印象記 第27回日本公衆衛生学会

真実の追求の場としての学会を

著者: 川森正夫

ページ範囲:P.108 - P.111

総会の意義を生かす運営を
 赤木会長が"あいさつ"にのべているように,衛生行政から公害にわたる500題に近い一般演題と特別講演,総会シンポジウム各1題,分科会シンポジウム6題に7つの自由集会を加えて,岡山市内6会場にわかれて繰り拡げられたのであるから盛会というべきであろうか.
 本学会総会でおこった改革議案やある演題発表の過程でなされた破格な運営過程が,一ぱんを露呈していたように,演題数や規模からだけでなく,内容や運営を含めてより深い分析評価に基づく方向づけが,されなければならない時期にきているのではあるまいか.また,この学会の演題の多くが日常業務の報告にすぎないとして,アカデミズムの立場から軽視する見方もあるが,大衆の生活に密接した所で任務分担のちがう各パートの働き手が一堂に会し,研究と行政を総合的に論ずる学会は他に類のない特色あるものであり,その意義を生かす運営が,もっともっと考えられるべきであろう.すでに見られるように大学も第一線の保健機関も一ぱい問題をかかえており,これらへの解決の糸口がつかめなければ個人の技術や努力のみで歴史の要求する"よい研究"は,ますます行なわれにくくなっている.

問われる学会のあり方

著者: 相磯富士雄

ページ範囲:P.112 - P.113

 第27回日本公衆衛生学会は,10月28日から30日までの3日間,岡山市内の6つの会場で行なわれ,例年通り6つの分科会での研究発表のほかに,8つの自由集会がもたれた.
 最近の多くの医学会では,たくさんの研究論文が発表されながら,それぞれについてあまり討論がされず形式的な発表の場になりつつあることについて,多くの若い研究者から学会のもち方について疑問がだされていた.本公衆衛生学会においても,各分科会の研究発表について発表者にたいする活発な意見や質問が少なくやや低調であった.この低調さの原因はいろいろとあろうが,その1つとして学会がお祭りというか,大会のようなものになりつつあることでなかろうか.このような現状にあるため,いずれ学会のあり方についてなんらかの形で要求が出るだろうと考えられていたが,学会第1日目の午後の総会においてちょっとしたハプニングという形で学会運営にたいする不満が爆発した.この日の午前中に,学会員の有志による学会理事会,評議員会,本学会総会事務局にたいする要望書の写しが,各学会員に手わたされた.

海外の医学教育

イタリアの医学教育(2)

著者: 高島久

ページ範囲:P.114 - P.118

主に労働医学教育を中心として
 編集の方からイタリアの医学教育について書くよう依頼されたが,筆者はミラノ大学医学部の労働医学専門医課程を聴講した関係上,ミラノ大学医学部の課程と労働医学教育を中心としてのべてゆく.
 現在は世界各国で大学制度改革の嵐が吹いており,イタリアもその例外ではないと思われる.このため,あるいは今後かなりの変化が種々の教育制度におこってくるかもしれないが,今回は筆者の留学していた1964〜1965年の頃のカリキュラムによって紹介する.

教室めぐり・13 新潟大・公衆衛生学教室

地域住民の健康増進に地道な努力を

著者: 須永寛

ページ範囲:P.119 - P.119

教室の沿革
 旧制新潟医科大学が総合大学としての新潟大学医学部となった昭和24年5月に本教室が誕生した.初代教授としては,日本大学医学部衛生学の小坂隆雄教授を迎えた.設立当時は物資の乏しいときであったが,教授を中心に教室員が団結して教室の基盤を確立した.
 昭和42年3月に小坂教授が定年退職されたので,同年9月名古屋大学医学部予防医学教室から須永寛が教授として就任した.

私たちの保健所・13 千葉県・松尾保健所

結核と破傷風予防の推進

著者: 谷修一 ,   坂正紀

ページ範囲:P.120 - P.121

保健所の沿革と機構
 当所は昭和27年6月に東金保健所の松尾支所として創立され,その後29年4月に独立して松尾保健所となった.
 管内は山武郡の北部五町一村(成東町,山武町,松尾町,横芝町,芝山町,蓮沼村)からなり,南部は九十九里浜に面した海岸地帯,中部は平坦な農耕地帯,北にむかうにつれ山林を有する台地となり山武杉の名産地として知られている.成田市に隣接した芝山町は,新国際空港の建設地として脚光をあび,九十九里浜沿岸一帯は新しい観光地として,特に夏のシーズンにはにぎわいを見せるようになってきた.

特別連載

米国における保健医療体系の苦悩ならびに医師・歯科医師・看護婦の深刻な不足とその対策

著者: 館正知 ,   石戸利貞 ,   高橋英勝

ページ範囲:P.122 - P.126

2.利用をコントロールすること
 保健医療費の急増に関する最近の関心の焦点は,主に病院費(hospital costs)ならびに医師の料金(physicians' fee)の増加にしぼられている.保健サービスの利用の増加も,保健医療費請求総額(total bill for health care)を増加させる重要な要因となっている.1955年から1965年の間に,医師の料金は35パーセント上昇したが,1人当り医師サービス量(per capita quantity of phsicians' services)は54パーセント増加した.同期間に,短期病院における診療費(expenditures for care)は166パーセント上昇した.この上昇のうち,価格の増加で説明されるのは,3分の1ちょっとにすぎない.上昇の残りの半分ずつは,病院の利用の増加,および病院で患者に与えられるサービスの増加によるものである14).不適当なまたは不必要な医療サービス,および不必要に高価な医療サービスを減少させることにより,利用をコントロールすれば,保健医療費および保健要員の需要の全面的上昇を有意義に緩和することができる.
 改善しなければならない分野は次の3つである.

資料

流行病調査演習の一事例—特に保健所における情報の収集と処理を中心にして

著者: 谷修一 ,   林忠 ,   高島剛次 ,   堀川彰臣 ,   秋葉保忠

ページ範囲:P.127 - P.131

はじめに
 近年わが国の消化器系伝染病は減少の一途をたどっており,保健所における伝染病予防事業も一時の防疫活動主体のものから,予防接種指導や集団施設における保菌者検索が主たる業務となってきている.しかし一方では,赤痢・食中毒の集団発生はたえずどこかでおこっており,当保健所管内でも43年6月某中学において,水道水による病原性大腸菌中毒の事例(患者351人)を経験した.当所ではこの事件以後,防疫に関する訓練の必要性を再認識し関係職員相互で学習してきたが,疫学関係の図書などに書かれている事例は,すでに各調査をしたあとの資料の解析が主な内容となっている.しかし保健所における防疫活動では,職員の動き方,情報の収集の仕方,そしてその情報を解析した上での行動の決定,という問題解決の過程全体について把握が必要である.その意味では,各調査項目の罹列ではなく,各調査の順位づけ,重みづけが必要だし,また各種情報と実際の行動(対策)との結びつきを把握することが必要だと考えられる.当所における関係職員の話しあいの中では,実際に経験した事例について,それを問答形式にあらため討論の資料としてみた.これはその1例である.
 事件発生地の概況 K村は純農山村で人口約12000,T地区はK村の中央部に位し人口1805(367世帯),80%以上が農業である.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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