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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生34巻3号

1970年03月発行

雑誌目次

人とことば

公衆衛生担当者に一言

著者: 笹田衛

ページ範囲:P.133 - P.133

 公衆衛生,ことにその環境衛生や食品衛生などにおいて,最近特に種々の問題が起こっていることはご承知のとおりである.その個々のことは別として公衆衛生を大別して考えると日々学問的に追及研究する場合と,それを現実に即して公衆のために役立たしめ,生活を豊かにしてやる場合とに分けるべきであろうか.前者はとにかくとして,後者の方が,すなわち保健所行政となり全国において種々の形となって行なわれているが,そのことについて愚見を述べて見たい.
 現今,この行政は厚生省から府県をとおして,または各府県衛生担当者から独自にほぼ画一的に保健所長を通じて行なわれていることに注意すべきであろう.私の戦後約20年間の官界生活における経験によると,米国の占領時代はとにかく別として,その後は仕事が次第に統一され画一されて来たような気がせざるを得ない.このことはある場合においては進歩を示すが,場合によるとその逆とまではいわぬにせよ骨折り損の草臥れ儲けと思わざるを得ないことがある.かつて私の保健所長時代(米国占領時代)赤痢予防のため各保健所単位に500人ずつの糞便検査を行なったことがあった.当時,私は独自の考えから2000人分を県当局に要求し,その最も流行せる1区画に実施し20人近い保菌者を見いだした.おかげで翌年は非常な好結果を得たことを記憶する.

座談会

地域精神衛生活動と保健所

著者: 沼口深秋 ,   塩沢満 ,   真野元四郎 ,   上村聖恵 ,   橋本正己 ,   山下章

ページ範囲:P.134 - P.144

 精神障害者が年々増加の傾向を見せている昨今,保健所活動の一環として精神衛生活動が大きくクローズアップされている.保健所が行なっている精神衛生活動の実際,今後の問題点など.

海外事情

アメリカにおける地域精神衛生活動

著者: 増田陸郎

ページ範囲:P.145 - P.151

はしがき
 私は昭和43年度東京都海外研修要綱による試験に合格して,昭和44年3月から3ヵ月間地域精神衛生活動を主題に,アメリカ各地を見聞する機会に恵まれた.出発前約1年半NIMH(National Institute of Mental Health)と接触を保ち,多数の参考文書の送付をうけて基礎知識の吸収につとめ,研修地の選定については,Dr. Esquibel,Special Assistant,International Activities,NIMHの助言を仰いで,直接現地と納得のゆくまでcommunicationを行なって,向うの受け入れ態勢を考えた上で決定した.帰国後これら往復文書を整理したところ,100通以上出して70通以上を受け取っていた.
 この中には私が日本の精神衛生について英文にしたつたない8篇の論文も含まれている.とにかくあらかじめ人間関係ができ上がり,先方の活動状況を把握した上での訪問であるから,予想以上の研修実績があがったと自負している.帰国した今かえりみて,項目別に費した時間的重みを%で示すと次のようになろうか.(地域)精神衛生センター:(Community)Mental Health Center(以下CMHCと略す)60%,州立病院:State Hospital 30%,精神衛生行政機関,ゲットー地区対策,保健婦活動,ボランテーア活動:10%.

研究

農村婦人の貧血に関する研究

著者: 内田昭夫 ,   藤堂三男 ,   小倉敬一 ,   内田ふき ,   金子勇 ,   伊東重成 ,   柳沢利喜雄

ページ範囲:P.152 - P.159

はしがき
 わが国の高度経済成長施策に促されて,最近10余年間におこった農村の変貌は著しいものがある.生産構造の多角化,協業化などの変化,労働手段の機械化や農薬普及による省力化によって,労働の範囲は拡大し,強度が平準化されてきた.一方兼業化はあとつぎ,戸主にまで及び,男子労働力の離農流出は深刻なまでに進んで,主婦労働力は従来の補助的役割から農業の根幹労働力として比重が高まってきている.この急速の変化に伴う歪みはいまだ主体的に生きることのない主婦たちの肩にのしかかり,家事労働時間,生理的時間,自由時間を圧迫している.勢い過重労働におちいって,疲労や農夫症の多発が問題となってきている.われわれは従来から,農村主婦の健康障害について,現状の調査や問題の指摘をくり返してきたが,1965年長野県の地方都市に隣接する一農山村で,普通の労働に従事する主婦の健康診断にさいして,全般に血色素量の低下を認めた.特に賃金労働の主婦に貧血傾向がみられ,また農業従事婦人では,冬農閑期に日雇の土木工事に従事したり,季節臨時工として工場の単純労働に従事するものは,その間家事に従事するものにくらべて貧血傾向が高いことを知った.

在宅脳卒中後遺症患者の実態調査とリハビリテーション指導

著者: 坂田澤司

ページ範囲:P.160 - P.163

はじめに
 脳卒中の発作後,幸い一命をとりとめても適当なリハビリテーションを行なわなかったため,後遺症に悩まされ不幸な余生を送る人々が少なくない.ことに老人疎外の家庭環境が多い昨今では,深刻な社会問題となっている.今回当保健所ではこうした家庭環境の中で,患者自身が自己の病気をどのように考え,家族がこれに対してどのように反応し対応しているかという点について,心理的な面から調査を行ない,あわせて主治医の指示のもとに,若干数の患者について保健婦によるリハビリテーションの実地指導を行ない,保健婦活動の新しい方向づけを試みたので,以下その概要について記載する.

新潟県における脳卒中後遺症の実態

著者: 長瀬十一太 ,   本間ムツ ,   坂上純二 ,   伊藤雅治

ページ範囲:P.164 - P.171

はじめに
 人口動態統計によれば近年結核をはじめとする感染性疾患の減少によって,脳卒中,悪性新生物,心臓病による死亡が上位を占めている.特に新潟県においては脳卒中死亡率が人口10万対約240という値を示しており,全国平均170を大きく上まわっている.脳卒中発作によって死亡に至らないまでも,後遺症者となった場合の本人および家族の有形無形の負担は大きく,これらの人たちに対するリハビリテーション,健康管理は緊急の課題である.脳卒中対策は高血圧予防対策,脳卒中発作予防対策,後遺症対策が一連のものとして実施されなくてはならない.脳卒中の実態把握の方法として,死亡統計の分析があるが後遺症については死亡統計では把握することができない.したがって後遺症対策の基礎的資料をうる目的で調査を行なった.脳卒中後遺症とは脳卒中発作によってもたらされた機能障害および精神障害であるが,本調査における脳卒中後遺症者とは脳卒中発作の既往歴のある人という意味である.

高血圧の疫学的研究(1)—統計学的観察

著者: 桑原丙午生 ,   浜野美代子

ページ範囲:P.189 - P.194

意図
 国の保健衛生対策の推進と国民の保健衛生思想の普及さらに国民経済の伸展,生活文化の向上により,国民の死亡率および罹病率が低減し国民の平均寿命1)が男子68.91歳,女子74.15歳(昭43)にのびたことは喜ばしいことである.
 しかるに他方,わが国の人口構成は高年齢層の増加をきたし2),成人病がますます増加の傾向をたどりつつあることは由々しき問題である.

海外の医学教育

韓国の医学教育

著者: 趙大喆

ページ範囲:P.172 - P.175

医学一般の教育
 医学教育の歴史 まず韓国の現代医学についての発達過程を回顧しよう.中国においては,18世紀の中頃から英国の東印度会社に属する医師などが,広東地域を中心として頻繁に往来があり,その後19世紀の中頃,上海を根拠とした美国(アメリカ)宣教会医師などの活動により,西洋医学に関する漢文訳書が相当数出版された.
 これらの漢訳医書が,1864年から韓国に輸入され,当時実際面で有為の人士などを通じて西洋医学が普及する機会ができたのであろう.

私たちの保健所・14 岡山県・玉野保健所

地区のニーズに応えて

著者: 若林昌平

ページ範囲:P.176 - P.177

保健所管内
 玉野は四国高松と本土を結ぶ海の玄関口である.国鉄連絡船をはじめ高松との間にフェリーボートが終夜運航され,海岸通りはバスや大型トラックで騒々しい.
 そして港はカナダやフィリッピンから木材を積んだ貨物船の出入で賑わっている.

教室めぐり・14 千葉大・公衆衛生学教室

臨床家との協力による公衆衛生を

著者: 吉田亮

ページ範囲:P.178 - P.178

教室の沿革
 終戦後,本学においても公衆衛生学教育の必要性が認められ,渡辺定博士,曽田長宗博士(現公衆衛生院院長)らの非常勤講師により,学生の講義が行なわれていたが,昭和28年公衆衛生学教室が開講され,初代教授として柳沢利喜雄博士が群馬大学から赴任された.柳沢教授は水野哲夫(現中央大学経済学部教授),内田昭夫(現本学農山村医学研究施設助教授),金子勇(同講師),新井宏朋(現本学養護教諭養成所教授)その他の有能な教室員多数とともに,寄生虫ことに鈎虫の予防撲滅に関する研究,成人病(循環器疾患,糖尿病,肝疾患)の健康管理に関する研究,農村衛生に関する研究等々において輝かしい成果をあげられた.
 また柳沢教授は着任早々から,学生のための公衆衛生実習場の開拓に努められ,長野県阿南地方や静岡県佐久間町にその場を求められたが,これを母体として昭和34年以来,教授会の申し合わせ事項として農山村医学研究施設がもうけられ,昭和39年に官制化された.昭和42年,柳沢教授は同研究施設教授として専念されることとなり,43年1月私が第2代の教授として任命され,現在にいたっている.

特別連載

米国における保健医療体系の苦悩ならびに医師・歯科医師・看護婦の深刻な不足とその対策

著者: 館正知 ,   石戸利貞 ,   高橋英勝

ページ範囲:P.179 - P.183

第3節 組織的体制を改善すること
 本報告で論じた重大問題の多くは,医療を提供する多数の異なった要素について,組織的体制(organizational framework)が欠けているために起こっている.それらの間には,緊密な協力と調整がほとんどなく,重複した努力がなされ,現実的衝突がごく普通である.不幸なことに,保健医療の消費者には,市場経営が効果的に行なわれているかどうかを確かめるだけの十分な判断をすることができないし,また,大部分の保健専門技術者の責任感は,個々の患者に対する関心という形をとるが,社会全体に対しては希薄である.その結果,保健医療の資源を効果的に調整して,最も有用な場所に確実に適用する努力に乏しい.
 現代医療は非常に複雑であるにもかかわらず,独立の開業医と施設が相変わらずはばをきかせている.個人開業が医学の分野に存続するのは,医師と患者の両者に魅力のある特色を持つためである.独立開業の利点を認めるのにやぶさかではないが,われわれの懸念は,それに関連するいくつかの欠点に関してである.すなわち,開業医と施設の間の,連絡,調整,および統制が不十分なため,医療費が膨張すると同時に,質と分布のギャップをきたしている.

資料

過去10年間フィールドの実績からみた大都市結核の展望—住民検診高率受診の効果判定

著者: 水原完

ページ範囲:P.184 - P.188

はじめに
 結核住民検診制度が確立されてから,結核減少への大きな効果をみていることは,周知のとおりである.しかし高受診率をあげているのは,ほとんどすべてが大都市を除いた農村ないし地方小都市にみられる現象である.大都会においては,その住民形態の複雑さと,過大人口,流動人口をかかえて,住民検診受診率はきわめて低く,その実績は僅少にとどまっている.
 ここに全国的にみて結核の多い大阪市を例として,過去10年間フィールドで経験してきた大都市結核のたどった道の功罪をふりかえり,反省材料とし,今後の大都市結核の展望の一助としたい.

私の意見

住民検査センターの考え

著者: 津田順吉

ページ範囲:P.195 - P.195

 公衆衛生は個に発し,個にもどると思うので,あえて投書した.この雑誌のただし書の"保健活動のパイロット"というのも日本医師会流に"増健または強健"に改むべきものと観念的な提案もしたい.
 ずっと以前から,人間ドックのやり方が行なわれ,ガン,成人病,小児病,腎臓,心臓などのセンターもできて,いわば病的自覚のない健康人を取り扱うものがたくさんできている.もう1つ医師会病院の構想から臨床検査センターができた.これは主として開業医の取り扱う病人の検査である.だから臨床がつく.ところで,寄生虫予防協会が拡大し,各県に検査センターができつつあり,私立のこれと似たものもあるときく.最近,秋田市に県立の検査センターができたとか.これも臨床検査センターというらしいが,予防協会のものは単に医師から依頼される主として病人の検体だけでなくドック的な検体がおもなもののように理解する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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