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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生34巻4号

1970年04月発行

雑誌目次

特集 学童の保健

学童の保健管理—その問題点と将来

著者: 船川幡夫

ページ範囲:P.200 - P.204

学校保健法の制定
 学童の健康管理も,工場における健康管理も,それによって学校教育や,工場生産の能率をあげるという点で,本質的に大きな相異はないが,学童の健康管理の場合のもっとも大きな特質といえば,単なる外からの管理だけでなく,管理を通じて教育を行なう,すなわち,管理と教育が車の両輪のごとく行なわれることが不可欠であって,これが実は,教育目的の基本ともなるということであろう.
 しかし,過去における学童の健康管理は,どちらかといえば,医学的専門知識をもった人たちによる単なる管理に終わってしまっているきらいがあった.

団地と子ども

著者: 高橋悦二郎

ページ範囲:P.205 - P.208

はじめに
 都市人口の増加と住宅難に対処して,大都市の周辺に団地が急増し,それとともに,団地と子どもに関する問題がいろいろいわれてきた.
 団地の4階,5階に住む妊婦にとって階段の昇降が影響して流早産,低出生体重児が多いとか,子どもは子どもで,4階,5階にすむと,下に降りる回数が少なく,したがって運動不足から,肥満の傾向や,夜泣き,食欲不振などが多くなるといわれている.また鍵ひとつで閉鎖的な生活をしている母親は,家の中のことばかり集中して,子どもと1日中接し,子どもの行動を監視し,干渉し,手をかけすぎるということもいわれる.

登校拒否児

著者: 玉井収介

ページ範囲:P.209 - P.212

登校拒否児の概念
 現在,登校拒否児という名前で呼ばれている子どもは,およそ次の条件にはまるものである.相当長期にわたって学校へ行かないことはいうまでもない.が,本人に,身体的,知能的な欠陥や病気がないこと,および家庭に無理解,貧困といった事情がないこと,がその必要な条件とされている.だから,たとえば精神薄弱でついていけないから休むとか,慢性の病気にかかっているとか,貧困だから働きに出ているとか,そのような長欠児はふくまれない.
 そして,もう1つ,非行による怠学もふくまれない.非行ないしはそれに近い怠学というものは昔から存在した.それとも違うところにこの問題の特殊性がみとめられる.この意味を別の言葉で表現すると,親ないしは本人,あるいはその双方に,登校できないことに対する問題意識がある,といってもよいかもしれない.

近隣づきあいと子どものしつけ

著者: 山根薫

ページ範囲:P.213 - P.216

しつけの本義
 しつけの意味について新村出の辞苑に,3とおりの定義があげられている.すなわち1)こらしめること,2)仕立てあげること,3)習いおぼえさせることであるという.
 しつけをするとは,ただ叱りこらしめるという教育方法だけのことではないはずである.それによって目指す目的が達成できなければならない.しつけの方法としては,なお,ほめること,ほうびを与えることも有効であることを忘れてはなるまい.

大気汚染の児童への影響とその対策

著者: 吉田亮 ,   本宮建 ,   安達元明

ページ範囲:P.217 - P.225

はじめに
 大気汚染が健康に悪影響を及ぼすことは,もはや疑いのない事実である.時間的に考えると,いくつかの急性エピソードにみられたような,高濃度汚染による急性影響,数週から数ヵ月続く大気汚染による亜急性影響,数年間の汚染による慢性影響に分けられるが,最近の研究の方向は,比較的低濃度の汚染の慢性影響に向けられているようである.この場合,小児,特に学童を調査対象とすることの利点は,成人の場合に問題となる喫煙および職業の影響を除外できること,大気汚染の影響を早期に発見しうること,すなわち1つの疾病の前段階ないしは,発病初期から観察しうること,一定期間の連続的観察が可能であること,対象の動員,把握が容易であること等々があげられよう.さらに学童の健康状態の評価は,その居住する地域住民の健康度をよく代表しうると考えれば,学童についての調査研究の価値はきわめて大きいものであると考えられる.逆に問題となる点は,慢性気管支炎のような大気汚染の影響と思われる疾病を,その完成された極限の姿でとらえることはむずかしく,主として機能面でしか影響がとらえられないことである.

農村地域の子どもと学校保健—とくに僻地を中心として

著者: 吉田瑩一郎

ページ範囲:P.226 - P.233

 農村地域といってもきわめて幅の広い概念である.公衆衛生の領域では一般に農山漁村,僻地までも含めてとらえている.しかし,学校保健という観点から考えてみると,同じ農村地域でも僻地といわれている地域といわゆる農村地域とでは質的にかなりの格差がある.そこで,本稿は,地域のポイントを僻地にしぼって僻地の子どもの健康状態を概観し,これに学校保健の立場から若干の考察を加え,参考に供する次第である.

主張

偶感—東南アジアより帰って

著者: はやし秀

ページ範囲:P.198 - P.199

きびしすぎる日本人
 昨年の12月,マニラでWHOの西太平洋地域局主催の第2回保健教育セミナーがあり,それに参加する機会を得た.そして終了後短期間であったが,シンガポール,バンコク,香港,台北と回ってあわただしい暮れの21日に帰ってきた.
 たった20日たらずの短い旅であったが,季節感のうすい風土,のんびりした,悪くいえばルーズな国民性に接していたせいか,帰国第1歩の日本の印象には強烈なものがあった.

人とことば

人命尊重について思うこと

著者: 三浦運一

ページ範囲:P.197 - P.197

 人間尊重とか人命尊重という言葉は,戦時中のはなはだしい人命軽視に対し,新憲法の根本精神としてよくいわれる言葉であって,公衆衛生の基本的理念もまさにそこにある.しかしこの言葉が,近来しばしばわれわれの耳目に触れるのは,それだけ人間や人命が尊重されない事実の多いことを物語っているものと思う.
 すなわち現在,水質汚濁,大気汚染その他の公害を始め,種々の薬品禍,食品有害添加物の問題等々,企業と商業主義の激しい利潤追求のために人間の健康や生命が軽視されている事実が相次いでいる.不慮の災害もまたしかりで,ことに自動車による事故死は,年々増加して1年18,000人と結核死亡を凌駕する勢いであり,特に15〜30歳の青壮年期では全死因中の第1位,5〜14歳の児童期には溺死に次いで第2位を占めている.

北から南から

第14回岐阜県公衆衛生研修会開かる/森永ミルク中毒事件のその後

ページ範囲:P.212 - P.212

 第14回岐阜県公衆衛生研修会は2月28日,小雪まじりの中で,第1会場養心会館,第2会場岐阜県医師会館で9時よりそれぞれ開かれた.昨年までは岐阜県衛生研究所がもっぱら世話係をひきうけていたが,本年より県下各保健所がもちまわることになり,第1回は岐阜市が担当することになった.
 午前中の一般演題は第1会場15題(その他に紙上発表2題)第2会場14題が発表された.内容は母子衛生に関するもの7題,結核,成人病関係6題,伝染病4題,工場廃水,屎尿浄化槽関係8題,食品衛生4題その他2題であった.

講座 地域保健活動・1 総論

地域保健活動の考え方・進め方

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.234 - P.238

1.その考え方—従来の公衆衛生との相違—
 ここ数年来,地域保健活動ということばが公衆衛生あるいは医療の関係者によって,しきりに用いられるようになった.とくに公衆衛生関係者が,従来の公衆衛生という戦後なじみの深い用語にかえて,あえてこの新しいことばを用いるようになったことはけっして偶然ではない.すなわち,昭和30年代以降の社会的経済的な激しい変動のもとで,公衆衛生の対象そのものである国民の健康像,死亡像にかってない質的な変化が進行し,しかもそれが地域の諸特性を鋭く反映しているという現実のなかで,新しい方法論の開発と確立を迫られ,従来の公衆衛生のあり方の評価反省に立って,意識的にこの新しい用語を用いるようになったといえる,"新しい酒は新しい皮袋に"という切実な要請は,筆者自身最も痛切にこれを実感しているひとりであるが,この問題の国際的な動向と内外の歴史的視点に立つ総論的な部分は,すでに小著"地域保健活動--公衆衛生と行政学の立場から--"(医学書院,1968)に述べたので,ここではなるべく重複することをさけるが,講座の第1回として,その若干の基本的な点について述べたい.そこで,最初にこの用語の概念を従来の公衆衛生との対比において整理することからはじめたいと思う.

海外の医学教育

台湾の医学教育

著者: 柯源郷

ページ範囲:P.239 - P.243

はじめに
 台湾の医学教育は基礎を日本統治時代に置いたということができる.しかし戦後24年の間に,そのたどった路は日本のそれとは同じでなく,その現在の姿は日本のそれとかなり違ったものになっていると思う.
 台湾に西洋医学を導入し,人民の生活を向上させようとして開設された,台北医学校が台北医専になり,さらに台北大学の医学部に発展して行った過程は,非常に順調なものであった.しかし,この事実の背後には,植民地統治という事実のために組織ある機関では将来性がないという台湾青年の宿命の自覚があずかって力があった.医は仁術であり,いかなる場合でも,最も直接に人々に奉仕できるということと,生業として比較的に経済的安定が得られることと相まって,多くの青年は医を志した.それで,戦争中まで台湾内の学校ばかりでなく,およそ医師資格が得られる学校であれば,日本内地ばかりでなく,朝鮮,満洲でも必ず台湾青年の姿が見られた.

私たちの保健所・15 沖縄・那覇保健所

地域の保健センターとして

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.244 - P.245

はじめに
 かつては日本の一県であった沖縄(琉球)は,第2次大戦中に米軍に占領され,平和条約によって米国支配下に入った.1952年4月1日琉球政府が創立され,自治体としての体制は整えられたが,市町村の自治能力は財政的に無力であったため,中央政府が各種公衆衛生事業を直接行なわざるを得ない状態であったし,またその方が最も経済的,かつ効果的であったので,その形態が現在まで発展しつつ存続しているのである.したがって,日本本土とかなり異なった業務を持つ保健所となっており,むしろ結核その他の重要疾病を診療することを主とし,その他が従となっている傾向がある.
 琉球列島は約72の島(23は無人島)からなり,総面積は2388平方キロメートル,人口は約百万.沖縄本島は列島最大の島で,人口の8割はここに住んでいて,保健所が4つあり,首都那覇市にあるわが那覇保健所は人口28万の那覇市と本島南部および周辺の離島を管轄し,対象人口は約43万人となっている.その他に,コザ,石川,名護(以上は本島にある),八重山,宮古の5つの保健所があり,それぞれの地域住民の保健衛生を守り,環境食品などの衛生行政を行なっている.保健所の機構は全部同型で図のとおりである.

教室めぐり・15 阪大・公衆衛生学教室

現実から出発した保健・医療体系の追求

著者: 木村慶

ページ範囲:P.246 - P.246

 当公衆衛生学教室は,昭和23年10月,当時衛生学講座を担当しておられた,梶原三郎教授の兼任教授就任によって発足しました.もっとも,助教授(現在の関悌四郎教授)以下専任の教室員の発令がそろったのは,昭和24年度に入ってからですから,今年でちょうど20年を歩んできたことになります.
 当初のスタッフのほとんどが,阪大微生物病研究所の出身であったことからも,発足以来数年間の研究の重点は,細菌毒素の作用機序,感染症の免疫といったラボラトリー・ワークにありました.しかし一方では,結核や溶連菌感染症などの疫学的研究が,保健所,事業所,学校などをフィールドとしてはじめられ,発展させられてきました.

海外事情

ラテンアメリカ式保健計画について

著者: 長谷川豊

ページ範囲:P.247 - P.251

はじめに
 私は昨年9月から11月末まで3ヵ月,マニラのWHO西太平洋地域事務局主催,国の保健計画に関する第2回講習会に出席する機会を得た.第1回目は1964年に行なわれ,これには厚生省の金光環境衛生局長(当時保健所課長)が出席されている.この時は2週間であったが,今回は3ヵ月とかなり長期で実習を主としてすすめられた.参加者は日本,沖繩,韓国,台湾,フィリッピン,南ベトナム,フィジー,パプア・ニューギニアからとWHO職員など計13名であった.
 コースは大ざっぱにいって前期,中期,後期の3期に分かたれ,前期約4週間においては経済学,社会学,人口学,都市計画,オペレーションズリサーチなど,保健計画に重要な関連性をもついくつかの学問分野のそのさわりが,主としてフィリッピン大学の教授陣によって講ぜられた.その内容は大学の一般教養講座程度であり,本報告の主要な目的ではないので省略する.

シカゴ市衛生局(Chicago Board of Health)について

著者: 藤野保次

ページ範囲:P.252 - P.258

はじめに
 私は第10回全日本病院欧米視察団の一員として,昭和44年6月1日から7月26日まで,主として欧米の病院を視察したが,そのさい7月18日にChicago Board of Healthを見学する機会を得たので,これについてのべる.
 はじめはChicago Board of Healthは日本の衛生部のようなものと考えていたが,行って見て驚いたことには,なるほど衛生行政のすべてを管理していることは日本と同様であるが,その仕事の広範なこと,市民の健康を守るためにきめのこまかい心使いが感じられること,および大学医学部などと密接な協同態勢の下にあることなどは,お役所的な日本の衛生部とは根本的な相違があることが感じられ,参考とすべきことが多々あるように思われたので筆をとることにしたしだいである.

厚生だより

医療費引き上げについて

著者:

ページ範囲:P.259 - P.259

 医療保険における診療報酬の額(診療報酬点数表)が去る2月1日から,一部引き上げられた.
 診療報酬点数表(甲表,乙表,歯科,保険薬局の調剤)を定めたり,改定したりするのは厚生大臣の権限であるが,これが国民医療に及ぼす影響の大きさにかんがみ,法律によって,中央社会保険医療協議会(会長,東畑精一氏,以下 "中医協" という)に諮問することを義務づけている.なお,近年は,中医協の自主的な建議をまって,厚生大臣が諮問するのがならわしになっている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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