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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生34巻5号

1970年05月発行

雑誌目次

特集 勤労婦人の保健

勤労婦人の健康障害と問題点

著者: 山下章

ページ範囲:P.264 - P.269

母性保健と勤労婦人
 もともと,母性というのは,女性の一部分や一時期をさすものではなく,むしろ女性そのものが母性に通ずると解すべきである.女児が成長するにつれて,女らしくなり,女性として成熟し,結婚し出産して母となる.みずからの子を育て終えると,さらに孫の世話をする.女性の一生は,母であることに終始しているといってよい.
 しかしながら,なんといっても母性の第1の使命は,妊娠,分娩,そして育児であるといってよい.母子保健法の第2条にも"母性は,すべての児童がすこやかに生まれ,かつ,育てられる基盤であることにかんがみ,尊重され,かつ,保護されなければならない"と述べられている.したがって,母性の健康は,ひとり女性自身のしあわせのためばかりではない.健康な子を出産するためには,結婚前からこの使命に耐えうるに十分な,余裕のある高い健康度をつくりあげ,保持していなければならない.また,妊娠中の母体の健康に障害があれば,妊婦自身の生命をおびやかされるだけでなく,胎児の健康もおかされ,流産,死産早産,それに先天性障害や奇型の原因にもなるだろうことが推察される.

勤労婦人の妊娠・分娩障害

著者: 佐道正彦

ページ範囲:P.270 - P.276

はじめに
 勤労婦人といっても,産業労働の中におけるそのあり方は,時代とともに変わってきた.戦前の日本においては,農業家族従事者としての"農婦"と,少女労働者としての"女工"が婦人労働の主要な形態であり,かれらはともに天皇制国家の富国強兵を実現するため,過酷な労働条件の下で,健康を破壊されながら,産業労働の最も低辺をささえてきた.
 第2次大戦の終結,新憲法の制定を境に婦人を含めすべての国民が,国家の主権者となり,労働保護法規も整備され,国民は男女平等,文化的生活を権利として確保した.婦人労働の形態は,都市の賃金労働者が数の上で,農業家族従事者にとってかわり,農村婦人の労働自体,農業機械,農薬などの化学薬品の導入,男子の出稼ぎ増加によって,その内容もかわりつつある.

事業所における勤労婦人の健康管理

著者: 前原大作

ページ範囲:P.277 - P.280

はじめに
 勤労婦人が急激に増加している今日,事業所における勤労婦人の健康管理に対する責任は,重大になってきている.いうまでもなく,婦人特有の母性機能を健全に育て,守ることが,勤労婦人の健康管理のおもな勤めである.
 母性機能は労働によって影響を受けやすいが,勤労婦人のなかでも,年齢,体質,未婚,既婚,労働内容によって受ける影響の度合,種類が異なるので,それぞれの条件に合った管理,指導が必要である.とくに既婚婦人においては,職場環境の他に家事労働,育児の負担がかかり,家庭環境の影響も加わってくるので,この点を留意したきめ細かい管理,指導が望まれる.

単調労働と健康障害の問題点

著者: 小山内博

ページ範囲:P.281 - P.284

はじめに
 労働の歴史的な変遷の過程の中で,人間の体と労働との相互関係から,健康障害の問題を考えてゆくことが必要である.
 初期における人間の労働は,おそらくは,自然の中における食物の採集,狩猟などの形態をとっていたものと考えられ,人間が最も自然な状態で生きていた時代である.そして,この時期は,人類の発生以来,農耕生活に移行するまでの,数万年に及ぶ長さをもっていたので,人類の歴史の中で,今までに最も長い期間を,このような生活形態の中で,人類が最もよく順応した生活形態のように思われるのである.おそらくは,生活ないしは労働の形態としては,他の条件を別とすれば,最も健康的であるといえる状態は,このようなものであるかもしれないと思われるほどである.

婦人の貧血

著者: 古谷博

ページ範囲:P.285 - P.288

はじめに
 貧血とは一定量の血液中にある赤血球数または血色素量が,正常値より低下している場合をいう.赤血球は平均120日の寿命をもつと交代し,体重70kgの成人では1時間ごとに9×109個の赤血球が消失し,また,新生されていて,旺盛な細胞分裂を伴った赤血球産生が営まれている.造血の行なわれる骨髄では正常時の6〜8倍の造赤血球予備能力があるから,一時的に少量の出血があっても永続的な貧血としては現われてこないものである.
 しかし今日,婦人の血液性状を広く調べてみると,貧血者が男子の数倍もみいだされているが,これははたして婦人としての正常な状態なのであろうか.またはよってくる原因があるのであろうかが問題である.

主張

働く妊産婦の保健対策

著者: 森山豊

ページ範囲:P.262 - P.263

 広く勤労婦人といえば,都市のみならず,農山村婦人も含まれ,また都市においても,中小企業などの自営業婦人なども含まれる.しかし一般に勤労婦人といえば,農業労働婦人や自営業婦人などを除いた,企業体などの勤務婦人をいうので,ここには,そのような勤労婦人のうち,妊産婦保健についての問題点をあげてみたいと思う.
 労働妊産婦の問題はけっして新しい問題ではないが,わが国では生活環境が大きく変化しつつあるということ,さらに働く家庭婦人が急増し,そのため勤労妊産婦の保健対策としては,種々新たな問題が発生してきている.

資料

婦人労働の動向と保護の実情

著者: 福原昭

ページ範囲:P.289 - P.292

はじめに
 1960年代のわが国における,経済の高度成長の過程で,産業構造,就業構造も大きな変化をとげてきた.たとえば,第2次産業,第3次産業の著しい発展と,第1次産業就業者の絶対数の減少,また就業者中に占める雇用労働者の比重の著しい増大などがあげられる.
 こうした傾向の中で,婦人労働がもつ地位,評価などについても大きな変化が生じており,農業における家族従業者,軽工業・商業・サービス業における若年・短期雇用者としての就業のタイプから,産業の各分野で本格的な労働のにない手となりつつある.

人とことば

公衆衛生活動における民間団体の位置

著者: 森下薫

ページ範囲:P.261 - P.261

 わが国における公衆衛生への認識は,欧米のそれに比し著しくたちおくれたとはいえ,今日では,少なくともその理念について,学界はもちろん,行政方面でもかなり明確に把握され,また一般社会における理解も進みつつあることは事実である.そして,その理論づけはいよいよ複雑となり,概念も漸次拡大され,すべての医学的活動と結びつけようとする傾向さえみられる.理論は実際活動の方向づけの基盤となるものであるので,その展開は大いに尊重すべきであるが,問題はそれと実践とをいかに結びつけるかにあろう.
 公衆衛生活動は,むしろ素朴なニードの実践を積み重ねることから始めるべきでないか.実践の責は,国,地方公共団体,民間団体および国民がそれぞれの立場で負うべきものとされるが,それらの実際活動に適切な体系が考えられねばならない.実践を効果的にするためには,形態的には有機的な組織,機能的には企画,情報処理,実施などについてのシステム化が要求される.国全体としては政府機関を頂点として,下部に至る行政体系が存在しうるが,実際的には保健所を中心とした活動となるであろう.すでにそのような体系で,実施されている公衆衛生活動も少なくないはずだ.ただ保健所は,性格上あるいは使命上,機能的に一定の制限を受けることがあるので,集団を対象とした活動に必要なサービス業務にあまり多くを期待し得ない場合がある.また,その人員配置の上からも,同様なことがいえる.

海外の医学教育

エチオピアの医学教育

著者: 鈴木了司

ページ範囲:P.293 - P.296

はじめに
 1969年から1カ年にわたって,エチオピア帝国の首都Addis AbabaにあるImperial Central Laboratory & Research Instituteに寄生虫部創設のために滞在したが,もとより医学教育の事情の視察が目的ではないし,そのほうの資料を積極的に集めたわけではない.
 したがって表題の内容を記載するに当たっては筆者は不適当であるかもしれないが,医療制度,特に医療従事者の養成には多少の興味を有していたのでその方の資料とあわせて,エチオピア帝国の医学教育について書いてみたい.

教室めぐり・16 順天堂大・公衆衛生学教室

身近な保健問題とその解決にむかって

著者: 千葉裕典

ページ範囲:P.297 - P.297

教室の沿革
 昭和26年,山本幹夫氏が労働省より,公衆衛生担当助教授として就任し,産業医学,特に珪肺および肺機能に関してユニークな研究を続けてきた.昭和31年,東京都衛生局より塚原国雄氏が教授として就任し,山本幹夫氏は本学体育学部教授として出向した.塚原氏は,間もなく,東大医学部教授として転出され,昭和33年,厚生省より,小谷新太郎氏が教授として着任した.千葉は東大公衆衛生研究生より,国立公衆衛生院正規医学科を経て,本学の助手となり,のち助教授に昇任した.
 現在は,教授1,助教授1,助手2,技術員2,他に兼任講師2,技術補助員1という構成で,教育,研究を担当している.

私たちの保健所・16 青森県・八戸保健所

問題山積のURⅡ型保健所

著者: 天野正也

ページ範囲:P.298 - P.298

管内状況
 当所は東京から鉄路北へ660キロ,太平洋岸の八戸市を中心とした1市1町5カ村,人口26万のURⅡ型保健所である.八戸市は人口21万,年間水揚量約40万トンの日本1,2位を争う漁港であるとともにセメント,石灰,化学肥料,鉄鋼,製紙,火力発電,非鉄金属,水産加工などの操業する新産業都市でもある.そして,周辺には僻地と労力不足に悩む農山村地帯がある.気象は緯度の割合に降雪量は少ないが,冬期北西の寒風で体感温度は身にしみて厳しい.保健所機構は総務,環境衛生,保健,予防,保健婦の5課制で職員は常勤41,村派遣保健婦5,計46名で,適正配置基準の約55%に当たる.

私たちの保健所・17 大阪府・富田林保健所

地域保健活動の中心として

著者: 井田直美

ページ範囲:P.299 - P.299

沿革
 昭和12年保健所法が制定されたので,大阪府では南河内郡町村長会の強い要望と,保健活動の成果をあげるには,この地域が最適と考え,同郡5町39村を管轄地域として,昭和13年5月に富田林保健所を開設し,今日まで32年になる.現在の管轄地域は富田林市,河内長野市,太子町,河南町および千早赤阪村の2市2町1村であり,面積226km2,人口140.387人(昭和44年末現在)である.
 これまでの地域保健活動のおもなものは,戦前の改良便所の普及,戦後は生活環境整備計画の市町村指導,および結核・成人病予防対策の推進に顕著な成果をのこしている.

研究

甲状腺機能亢進症に関する疫学的調査研究

著者: 丸地信弘 ,   降旗力男 ,   牧内正夫

ページ範囲:P.310 - P.315

 甲状腺機能充進症の地域における疫学的実態把握を試みるため,長野県において全県下より15地区を抽出し,そこの全住民73,045名を対象に調査を行なった.その結果,次の成績を得た.
 1)本症の地域的な有病率は調査1,000対0.8(男0.4:女1.1)であり,これは甲状腺がんのそれより低頻度である.
 2)本症の地区別有病率では,有意に高いところが1地区認められたので,その要因について種々検討を加えてみたが,それは明確になし得なかった.
 3)本症の年齢階層別有病率では,男は年齢差をとくに見出せなかったが,女では若年層に少なく,中年層とりわけ50歳代に多く発見された.しかし,これもその理由づけは本調査の範囲ではできなかった.
 4)臨床専門機関で相対的に多くをしめる甲状腺機能亢進症も,地域調査の場合では,発見される甲状腺疾患の1〜3%をしめるに止まる.
 5)本調査で確認された甲状腺機能亢進症は全部で47例であったが,全例がびまん性の甲状腺腫大でToxicnodular typeはみられず,またその約2/3は要治療の段階であった.さらに,本症例の約1/3は臨床症状が顕著にもかかわらずその異常に気づいていなかった.
 6)本症の発生率は相当ひくい頻度と考えられるが,その確定には相当数の調査の心要なことを知った.

第2回日本都市医学会総会 パネルディスカッション

大気汚染と肺外疾患

著者: 江波戸俊爾 ,   蒲山久弥 ,   高山乙彦 ,   山田文則 ,   新美成二

ページ範囲:P.300 - P.309

序論
 昨年行なわれた第1回日本都市医学会総会では大気汚染と肺疾患の問題がとり上げられたが,今回はその続編ともいうべき大気汚染と肺外疾患との関係がとり上げられることになった.
 当然汚染された大気は肺に到達する以前に上気道を通過し,そこになんらかの影響を与えるわけである.また長期間外界に対し開かれている眼,常にふれている皮膚なども影響を受けるはずである.しかしこのような場所は,その性質上刺激に対して,他の臓器に比べて抵抗力が強いのも事実である.その抵抗力の強い部分にも,なおかつ変化を起こさせるほどの大気の汚染が,都市においてはすでに存在することが問題なのである.

資料

長崎県対島における腸チフス流行

著者: 腸チフス中央調査委員会

ページ範囲:P.316 - P.323

 1967年9月,長崎県上県郡峰村吉田部落に腸チフス患者が多発した.流行の認知以降迅速的確な対策がとられ,幸いに届出された患者・保菌者数は28にとどまり,流行は短時日のうちに終熄した.しかし,同時に行なわれた数カ月前にまで遡及する疑似患者の探究調査の結果,この流行は同年4月に端を発したものであり,その後,しだいに拡大遷延して,9月になってようやく認知されるに至った経過が明らかにされた.腸チフス流行の認知がいかに困難なものかを再認識させられた事例である.しかし,離島という不利な条件を克服して遂行された,厳原保健所の防疫活動と流行調査からは教えられるところが多い.また同時に,この流行経過の分析から,腸チフスという伝染病を理解するために有益な多くの知見を学ぶことができる.
 以下本流行の経過の概略を述べ,疫学調査の結果について解析する.資料は長崎県厳原保健所,同県衛生部環境衛生課,同県衛生研究所作成のものにもとづいた.また本調査の一部については本委員会の大橋誠委員が現地に行き協力した.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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