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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生34巻6号

1970年06月発行

雑誌目次

人とことば

健康の定義について

著者: 塚原国雄

ページ範囲:P.325 - P.325

 1946年にWHOのつくった健康の定義は,ふつう"健康とは,単に疾病や虚弱でないというだけでなく,身体的・精神的ならびに社会的に(または,身体的にも精神的にも社会的にも)完全な良好な状態をいう"と訳されています.
 この定義によって,身体的・精神的の面のほかに,社会的の面が加えられて,これまでの健康の概念が深められました.われわれは社会生活から遊離して存在できるものでなく,健康を考えるとき,当然この面のよしあしが問題となります.たとえば,公害の問題,親のない幼児や家族のない老人の問題など,社会的のひずみによって生活が乱されてはならないし,身体的・精神的になにかの支障があるときは,これを社会的の措置によって補う必要があります.

座談会

集団給食の食品衛生

著者: 小谷新太郎 ,   高橋泰治 ,   川谷勝哉 ,   宮川哲子 ,   新沼悦子 ,   西川滇八 ,   山下章 ,   橋本正己

ページ範囲:P.326 - P.334

 食品公害ということばが生まれるほど,現代は食品衛生に問題がある.チクロや農薬の残留,さらには,万博における食品管理の問題など,重要な社会問題にまでなっている.一方,食生活の様式も変化し,特定の多数の人に継続的に食事を提供するところの集団給食も発展してきた.
 そこで,マンモス化しつつある集団給食の実際,問題点を事業所,病院,学校などのそれぞれの観点から検討してみた.

研究

工場給食における調理作業員の手指および調理器具の衛生管理

著者: 河野欽次 ,   高橋泰二

ページ範囲:P.335 - P.338

はしがき
 工場における生産性の向上,大幅な量産化の進む現在,工場給食における衛生管理も,食中毒などの被害の性質からみてきわめて重要である.特に機械化,流れ作業の進む工場においては,食中毒や消化器系伝染病の集団発生は,とかく,その規模が大きく,このために生産能率の低下,また大きくいえば,地域社会にある不安感,恐怖感をあたえることもある.このような工場給食において,直接たずさわる者として,栄養士,調理作業員などはそれぞれ自分の専門領域に重点をおいて給食を運営しているのが現状である.それゆえ,衛生的な給食のための知識の習得に,どれだけつとめているか,事故防止のための衛生態度をどれだけ身につけて実践しているかとなると,はなはだ疑問である.
 そこで"栄養"による体力の増強,生産性の向上の目的達成以前に,食中毒予防すなわち給食における衛生管理の確立が強く望まれる.

青年の健康状態に関する研究—金沢市G地域における満20歳時健康診断成績の検討

著者: 河野俊一 ,   河野光子

ページ範囲:P.375 - P.380

緒言
 戦後20余年をへた今日,国民の健康状態は各種の公衆衛生対策の充実により,その向上は著しいものがある.このことは青年期においても例外ではないが,現在,青年期における健康状態を示す資料としては,全国的には学校検診における成績と,栄養調査時の成績が公表されているに過ぎず,地域における青年の健康状態を示すものとしては,石川県が昭和24年以降,県条令により行なっている成年健康調査1)があるにすぎない.
 著者は,地域における青年期の健康状況の実態を明らかにするとともに,これに関与する要因を検討するため,金沢市彦三保健所管内に居住する満20歳の青年男女の健康診断成績を居住地区別,従業状況別に検討し,若干の知見を得たので報告する.

海外事情

欧米の集団給食とダイテシアンの活動

著者: 桑原丙午生

ページ範囲:P.339 - P.344

 アメリカのワシントン市で開かれた第5回国際栄養士会議に参加した日本栄養士44名の団長として同行し,会議5日間を中心とした前後36日間に下記の箇所の給食施設を見学した.
  オランダ KLM航空会社の機内食工場
  ロンドン マンデヴィルホテルの調理室
  アメリカ 生命保険会社の調理室
  アメリカ 半調理加工場
  アメリカ コンチネンタル機内食工場
  ドイツ  ウィルヒョークランケンハウス
  スイス  カントナル病院
  フランス ビシャ病院
  アメリカ コロンビヤウーマンス病院
  カナダ  トロント大学総合病院
  カナダ  トロント大学小児病院
  アメリカ セントルーク病院
 わずか36日間の旅行でかいま見たことを,"こうであった"というのは皮相な見方のそしりを免れないが,その大勢を見るという意味で報告したいと思う.

アメリカの学校給食

著者: 甲賀正亥

ページ範囲:P.345 - P.348

概観
 アメリカの学校給食は1985年ニューヨーク市で感化院の寄宿舎給食から始まっている.
 現在は,学校給食連邦法と農業法により行なわれ,5〜17歳の公私立学校(収益を目的とする私立を除く)の小,中学校の児童,生徒を対象とする.

講座 地域保健活動・2

宮黒保健所管内の僻地医療

著者: 小島武雄

ページ範囲:P.349 - P.354

 地域には,それぞれの特性があり,保健活動もまたそのニードによって対処されねばならないことはいうまでもない.ただどのような保健活動であろうとも,その根本理念として,住民の健康を守る基盤はは住民自体であり,地域住民の主体的活動こそ,地域保健活動を前進せしめる原動力であることには異論はないと思う.
 長野県佐久病院の若月先生は,健康管理がうまくゆけば,地域住民の死亡率を減らすことはできるし,また手遅れの病人もなくすことができる.しかし病気の発生率を減らすことはむずかしい.その原因として生活のあり方や,農民が自分の健康を守ろうとする意識の欠如にあると指摘しているが,まさにそのとおりであると思う.3割地方自治などといわれている限り,自治体自体による自主的な保健活動はきわめてむずかしい.しかしながら,少しなりとも,それに近づくためにはどうすべきか,それが保健所に課された大きな問題ではないだろうか.

学会印象記

山場をなしたCd中毒の演題

著者: 小机弘之

ページ範囲:P.355 - P.356

問題が残った保健所実習
 今年(昭和45年),日本衛生学会の総会は40回をかぞえ,春まだ浅い北陸の都・金沢で,金沢大衛生学教授・石崎有信博士を会長として開催された.会期は4月5,6,7日,会場は金沢市の南東部小立野にある金沢大学工学部の新築なった講義棟,窓からは深雪の白山山脈が望まれた.
 学会第1日の5日(日)は,研究発表はなく,汚物処理協議会,衛生学会幹事会,評議員会,衛生学公衆衛生学教育協議会などが催された.衛生学公衆衛生学教育協議会は,大学医学部・医科大学での衛生学公衆衛生学教育に関する協議会であって,春と秋,衛生学会および公衆衛生学会のおりに開催されている.

教室めぐり・17 群馬大・公衆衛生学教室

衛生教育の行動科学的革新を

著者: 辻達彦

ページ範囲:P.357 - P.357

 昭和29年3月に,私は前任柳沢利喜雄教授(現千葉大医,農山村研究施設)の後をうけて国立公衆衛生院から赴任してきた.その間めまぐるしい公衆衛生事情の変転はおどろくほどである.医専から医大,さらに群大医学部として発展した組織のなかで,とくに地方大学の公衆衛生学教室というものの役割りに考えさせられるものが多い.
 最近の大学紛争を契機として,ひろく叫ばれていることに,社会に窓をひらいた,開放された大学ということがある.その一端を受け持つのが公衆衛生学教室の仕事でもあると思っている.したがって研究者自身の個人的興味からはなれて,地域社会に出現する種々の公衆衛生的課題にいや応なしにまきこまれるのが現状である.安中市公害(東邦亜鉛工場による),渋川市公害(種々の化学工場による)など行政的に企画された,集団検診に協力参加してペースが乱されているのが,教室員全体の所感である.一方,外部からは地域社会の公害問題に,大学側の自主性のなさを非難する声があることもしらないわけではない.けれども,現実の地域社会のヘルスニードは多様であり,純粋に医学的見地から解決できるものはなにひとつないといえる.日本医師会が主張するごとく医学の教育,研究と社会的適用としての医療,実現手段としての医療保険という関連を考慮しなければ,単なる地域診断に終わってしまう可能性がある.

私たちの保健所・18 大阪府・西成保健所

大都市保健所の苦悩

著者: 橋本博

ページ範囲:P.358 - P.359

保健所の沿革と管内状況
 昭和18年5月20日に旧塚西健康相談所に始めて保健所として開所,昭和20年2月14日戦災により庁舎は焼失した.その後今宮市民病院内とか元衛生組合事務所に移転して昭和34年3月28日現庁舎の完成をみた.
 また日雇労務者の保健衛生の窓口として,大阪市民生局のもとで作られた愛隣会館内に保健所分室を設置することになった.(昭和36年10月20日)

厚生だより

公害にかかわる健康被害の救済に関する特別措置法

著者:

ページ範囲:P.360 - P.360

 本法は,昨44年12月の第62回国会において可決成立し,本年2月から本法に基づく医療費などの給付が開始されている.本法が制定された背景には,近年における産業経済の発展や都市への人口集中などに伴って,工場ばい煙・汚水,自動車排気ガス,家庭汚水,都市騒音などによる数多くの公害がわれわれの健康と環境に悪影響を与えているという事実がある.特に,水俣病,阿賀野川中毒事件,イタイイタイ病,四日市ぜんそくなどのいわゆる公害病の惨状とおそろしさが認識されるにつけ,これら公害患者に対する救済手段が,一日でも早くさしのべられることが切に望まれたのであった.また,このような公害による被害の救済に関しては,公害対策基本法において,その制度の確立がうたわれているところである.このような諸般の情勢が本法の制定を促す契機となったのである.

新経済社会発展計画と厚生行政

著者:

ページ範囲:P.361 - P.361

 すでに新聞紙上などで報道されたように,4月9日に経済審議会から佐藤首相に「新経済社会発展計画」が答申され,5月1日に閣議決定された.本計画の期間は,昭和45年から50年度までの6カ年である.
 我国の経済計画は,戦後いくつか作成されてきたが,なかでも記憶に新しいのは,昭和35年に発表された国民所得倍増計画であろう.その後,中期経済計画(39年度〜43年度),経済社会発展計画(42年度〜46年度)と中間的な修正がなされつつ今回の新計画の策定におよんだわけである.

資料

過密住居と蟯虫症の実態—保育所幼児を中心として

著者: 黒野俊弌 ,   水原完

ページ範囲:P.362 - P.365

はじめに
 寄生虫病は戦後回虫症を中心とした大流行をきたし,昭和24年には全国総保卵率70%以上をマークしている.その後衛生施設の改善,食生活における洗剤の普及,化学肥料,化学療法剤の発達と寄生虫予防に対する努力などにより減少した.回虫の減少につれて鈎虫が問題になり,鈎虫に重点がおかれたときもあったが,今日では大阪市でもほとんど回虫卵や鈎虫卵のみられない状態にまで至った.
 蟯虫については,セロファン検査紙による肛検法が普及するにつれ,寄生虫予防の重点が蟯虫対策におかれるようになったが,当時学童園児などでは蟯虫保有率40%くらいはしばしばみられ,大阪市においても昭和37年90%という陽性率も1部報告されている1).保育所においても昭和40年から寄生虫検査は蟯虫に重点を置くようになった.大阪市における保育所保育児の陽性率はその後年々減少しているが,当浪速保健所管内の保育所保育児の保卵率は,毎年平均して高率をしめし,昭和43年は陽性率26.3%で大阪市第1位であり,蟯虫対策の必要性に迫られた.そもそも保育所自体が公衆衛生上問題の多い地区に設置されており,また回虫における腹痛のごとき急激な症状もないので,つい無関心に放置されている例も多いと思われる.

ある検病調査から

著者: 小川和栄

ページ範囲:P.366 - P.369

 1957年から1958年にわたり東京都本郷において腸チフス流行の発生があった.B2型チフス菌による患者の多発で,当時ある豆腐屋の行商が原因とされ,流行例として疫学的に注目する所があった.その流行はやがて終息したものと思われたが,1965年および1968年から1969年に,再三若干の患者が同地区に発生するに至った.調査をしてみるとやはりB2型の流行である.必然的帰結として例の豆腐屋の保菌者が問題になった.
 本郷保健所を中心にして周囲の疫学調査がなされた.行政とは非情なものである.その防疫上の目的に邁進し,あるいは,科学的興味にひかれて種々その私事を暴露する.その行為が善意であろうとなかろうと,ある種の私事の暴露は当事者に迷惑を及ぼすことはなはだしい場合がある.しかも,その非情な行為を行なうのもまた人間である.

腸チフス・パラチフス管理報告—1969年の患者発生状況と分離菌株のファージ型別の結果から

著者: 腸チフス中央調査委員会

ページ範囲:P.370 - P.374

 1966年11月腸チフス・パラチフスの中央管理システムが発足してから,ちょうど3年が経過した.今回は1969年の腸チフス・パラチフスの発生状況を発生報告カードと分離菌株のファージ型別結果とから解析して,その概略をのべる.

私の意見

田舎開業医の見た基本大綱

著者: 津田順吉

ページ範囲:P.381 - P.381

 公衆衛生基本法がついに現われた.現在の"ムジュン"をなくすには,これしかないのだろう.人間を考えることは,その幸福を考えるということであり,1人1人の健康を考えることしかあるまい.それなのにどの国家の指導者も,結局別なことに気をとられている.だから正岡もいっているように新全国総合開発計画にも公衆衛生がうすれている.こういう計画を作る人が衛生専門家でないからにもよるし,衛生専門家こそ,国家計画の司会者たるべきであろう.こう考えるとこの公衆衛生大綱こそわが国の基本であろう.
 私には,国のことも県のことものべることができないが,周囲の小地域のことがいつも気にかかる.

北から南から

有毒じゃがいも

著者:

ページ範囲:P.348 - P.348

 有機水銀剤を粉衣した自家用種子じゃがいもが食品として1,080t余転売され,北海道民はもとより国民に大きな不安をいだかせ,道産品の信用を失墜せしめたいわゆる有毒じゃがいも事件はまだ耳あたらしい.
 幸い各都道府県などのご協力をえて9割以上を回収廃棄処分ができたことについて,ここにあらためてお詑びとご労苦に対し敬意とお礼を申上げる次第である.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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