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特集 60年代から70年代へ 主張
公衆衛生活動の反省と展望—60年代から70年代へ
著者: 橋本正己1
所属機関: 1国立公衆衛生院衛生行政学部
ページ範囲:P.386 - P.387
文献購入ページに移動国連がdevelopment decadeとして,経済と社会の均衡ある発展を全世界にアピールした1960年代は,わが国にとっても正に激動の10年であった.60年安保にはじまり70年安保に至るこの10年は,60年(昭35)秋に発表された国民所得倍増計画に象徴されるように,高度経済成長政策によって50年代後半から顕在化した社会変動がいっそう加速され,生産力のめざましい伸長の半面で都市における過密の弊害と農山村における福祉の貧困が急速に進んだ時代であった.60年代のこのような特質は公衆衛生活動ないしは衛生行政に対しても,かつてない影響を及ぼした.まず戦後10余年の間に達成された伝染性疾患の制圧による寿命の延長と人口老齢化によって,公衆衛生の対象である国民の健康像,傷病像に質的な変化が急速に進行した.このような対象の変化は,当然のことながら新しい方法論の開発を要請するものであった.加えてこの時期の変化は,従来の都市化,産業化の未熟な時代とは異なり,それぞれの地域の諸特性がそのヘルスニーズに鋭く反映する傾向を強めた.すなわち公衆衛生活動は,二重の意味で新しい方法論の確立を迫られたといってよい.さらに公衆衛生活動にとってのきびしい条件は,公衆衛生に従事する各種の技術者の確保が困難となり,とくに保健所医師について典型的に示されているように若い世代が縮少したため職員の年齢構成の老齢化が進んでいることである.
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