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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生35巻1号

1971年01月発行

雑誌目次

特集 環境保健の提唱 座談会

「環境保健」—新しい革袋となりうるか?

著者: 鈴木武夫 ,   田波潤一郎 ,   外山敏夫 ,   原島進

ページ範囲:P.4 - P.11

 公害で呼びさまされた不安は広く人間と環境全般にわたる問題を動的に,根本的に,考え直さずには解消しえないものとなっています.本誌ではこの問題意識を「環境保健の推進」というかたちでとりあげ,これからの人間環境をどう考え,どう回復ないし確立したらいいかを本年の主要テーマとしました.そこで先ず年頭「環境保健」というこのことばで何を受けとめるべきか,ことばの実質をどこに求め生み出していくかについてお話しねがいました.

提言

環境保健活動と私

著者: 浅野牧茂 ,   芦沢正見 ,   小林金一 ,   助川信彦 ,   土田和夫 ,   はやし秀 ,   六鹿鶴雄

ページ範囲:P.12 - P.19

喫煙とのたたかい
 私にとっての環境保健の実践分野は,嗜好と健康の接点の上にあり,ごく限られた領域である.つまり,私は嗜好にもとづく有害な化学的環境に影響される人間の健康をまもる役割りの1つをつとめている.具体的には,喫煙や飲酒の循環系,とくに微細循環に及ぼす影響を調べて,その生理衛生学的意義を考え,かつ健康維持の方策に役立てるのが私の環境保健の実践である.
 かつて嗜好品は食料の範疇でのみ考えられたが,現在はその意味する範囲は非常に大きくなり,味覚・臭覚・視覚をたのしませる飲食物以外に,噛料・臭料などをも当然のこととして含み,健康維持とかかわりの深い,嗜好品に由来する化学的環境は著しく拡大された.しかし,何といっても「酒・たばこ」と一口にいわれるように,コーヒー(および茶)を含めた3つのものは,その消費人口と消費量の大きいことから常に注目を浴びてきた.なかでも最近のWHO総会決定にみるように,喫煙が健康におよぼす悪影響は重大である.

講座

「環境保健」の提唱(1)・【新連載】

著者: 長田泰公

ページ範囲:P.20 - P.21

 「環境保健」という表題を与えられてから約ひと月たつが,私はまだこの言葉の意味をつかみかねている.従来の環境衛生という言葉にかえて,新しく「環境保健」という言葉を使うからには,編集委員会でそれ相当の論議がかわされたこととおもわれるし,多少その折の空気をきかせてもらいもしたが,どうもまだ「環境保健」の輪郭がはっきりつかめない.おそらく編集委員会では,「環境保健」という新しい言葉を提唱することの今日的意義を認めあったうえで,その中身については編集委員の専門によって,多少とも異なったイメージをそれぞれ画かれたのではないかとおもう.「環境保健」という新しい言葉はまだ生れたばかりであり,これから多方面の専門家の意見を綜合して,その名にふさわしい内容を盛っていかなければならない段階にあるようだ.私のこの失礼な断定をお許しねがえるならば,私は私なりの「環境保健」を書かせていただくことにする.もとより私の書きうるのは,「環境保健」に期待される内容の一部にすぎず,引きつづき多方面の方がたの執筆があるものとして進めていきたい.

発言あり

かくあるべし「環境保健」

著者: 上村聖恵 ,   園田恭一 ,   館林宣夫 ,   辻正治 ,   中川米造

ページ範囲:P.1 - P.3

ゆとりある都市づくり
 公害に悩まされる過密地帯,医療不足に不安な毎日をおくる過疎地域,そして過密過疎の区別なく国民は食品の安全性に強い疑惑を感じている.東京都のカドミウム米,母乳からのBHCの検出,まさかと思われたことが,不意討ちに私らの頭上に襲いかかってくる.すべてが自ら播いた種だけに問題は深刻である.
 所得倍増,高度経済成長の旗印のもとに,驚異的な躍進をなしとげた日本の次の旗印は,健康で文化的な生活でなければならない.そのアプローチとして,私は次の2点を最も重要なものと考える.

講座 地域保健活動・5

沢内村の保健活動

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.23 - P.29

はじめに
 地域保健活動の各論として本稿では沢内村の事例をとりあげる.
 この村の保健活動は,すでに『自分たちで生命を守った村』(菊地武雄著)でもくわしく紹介されているので,私はこの講座の中心テーマの線で,実態と考え方を中心に書いてみたい.それを理解するのに必要なかぎりで,沢内村保健活動の背景・現状・今後の展望ないし問題点にふれることとする.

海外事情

これからの対人保健活動の方向を求めて—北欧各国およびイギリスの公衆衛生活動

著者: 西三郎

ページ範囲:P.31 - P.35

 「地域保健計画」「地域や住民のニードにあった活動」とかいう言葉がよく用いられ,またそれらについての論文も数多く発表されています.しかし,それらの内容についてもうすこし考えなおして見てもよいように思います.幸いにも最近WHOのフエローとして,「都市近郊における保健計画」のテーマで欧州を約3カ月訪問する機会を得ましたので,多少なりとも再考の素材になればと2,3の事項について紹介しましょう.ただし訪問した国はイギリス(3週間),スエーデン(4週間),フィンランド(3週間),オランダ(2週間)と限られ,期間も短かく,さらに訪問した施設,機関,話し合えた人びとも,訪問国によりあらかじめ定められていたなどの理由により,国によって見てきた側面も多少異なっていました.なおスエーデンでは「疫学で地域医療ケア計画のシンポジウム」(5月21〜23日於マルメ)に参加し,北欧各国および英,独,米からの参加した研究者より話しを聞くことができました.
 はじめに,現在の公衆衛生活動特に対人保健について,母子保健を例として現状とその問題点を見て,つぎに研究の面から多少とも将来の活動の方向について考察をし,最後に社会の動きと対人保健活動の対応についての問題点を考えてみたいと思います.

研究

幼児の事故の安全教育学的研究

著者: 小村欣司

ページ範囲:P.41 - P.47

 幼児の事故は,その死亡原因の第1位を占めること,後遺症などを残し子供のその後の発達に悪影響を与えることなどのために,いまや小児保健,幼児教育の上からも見過すわけにはいかないものとなってきている.
 安全教育学的見地から子供の事故をみる場合には,事故を誘発する環境要因,子供の心身の特性などの人的要因,および,直接事故を起こす引きがねとなる物的要因という要素から事故要因を解明しようとする疫学的手法が一般的な方法である.

健康管理の効率化

著者: 北沢幸夫 ,   浦屋経宇

ページ範囲:P.53 - P.58

 昭和38年以来,われわれは成人病検診(以下検診)を健康保険の被保険者に行なってきたが,その成績をハンド,ソート,パンチカードをへて,コンピューター用のマークシートカードに記入して保存した.これで疾病統計をとることはできたが,個人に番号をつけていないため前年までの成績を個人ごとにアウトプットすることはできなかった.したがって潜在する成人病を発見するのには役立ったが発見された者がその後医療を受けているか否かを知ることは不可能であった.これを把握する目的で本研究を行ない,次の成績をえたので報告する.

資料

40歳以上のN市職員の糖尿病検診成績

著者: 牧野勝雄

ページ範囲:P.49 - P.51

 成人病対策の一環として,糖尿病が健康管理の重要な部門をしめており,日本人の糖尿病は軽症のものが多いといわれるが,その死因が種々の血管合併症でしめられる比率が多く,その発生,進行を防ぐには集団検診により早期に発見し,治療を開始し良好なコントロールを保っていくことが大切なこととされている.筆者らは40歳以上の職員に糖尿病検診を実施したので報告する.

学会印象記

住民サイドへの決意をせまる—第28回日本公衆衛生学会印象記

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.36 - P.37

 今回の学会は,総合シンポジウム「70年代の公衆衛生−60年代における社会構造の変化が国民の健康におよぼしたものをふまえて」の標題が示すとおり,60年代の反省と70年代の方向を主題として,他の6シンポジウムと6特別演題群が組まれた.
 この主題に応じたのは,第1日目のシンポジウム「有害食品」であり,2日目午後の総会であった.また3日目のシンポジウム「住民との接点における保健活動」もつけ加えられるべきであろう.

教室めぐり・22 山口大学公衆衛生学教室

環境破壊防止—公衆衛生学の果たすべき役割

著者: 野瀬善勝

ページ範囲:P.39 - P.39

 本学は,1944年山口県立医専として創立,1947年山口県立医大に昇格,1964年に山大医学部として国立に移管された.その間,1946年に故大石省三教授によって,衛生学講座が開設され,私が公衆衛生学講座を開設したのが1950年で,本年度は開講20周年に当っている.

私たちの保健所・26 香川県・丸亀保健所

離島における衛生教育の推進

著者: 奥田巧

ページ範囲:P.38 - P.38

 丸亀保健所は昭和19年10月1日丸亀簡易保険健康相談所の廃止にともない,旧簡易保険健康相談所跡を庁舎として発足した.
 当時は1市6カ村を管轄し,人口は59,185人職員は所長以下医師1名,主事1名,保健婦2名同心得1名,X線技師1名,用務員1名の総勢8名からなる構成であった.ついで昭和27年2月丸亀市二番町に新庁舎を新築移転したが,道路整備にかかり昭和41年9月16日旧丸亀市立図書館跡を仮庁舎として現在地に移り,発足以来26年が経過した.この45年度において丸亀城大手門前に993.94平方米の用地に1,416.80平方米塔屋5階建の新庁舎建設計画が進捗中である.

研究所総点検・1

労働省労働衛生研究所―複雑化した労働者の健康問題にあわせて

著者: 山口正義

ページ範囲:P.30 - P.30

研究所の沿革
 労働衛生研究所は,労働衛生行政の推進に寄与するため,行政に直結した立場から,労働衛生上の諸問題について調査研究を行なう目的をもって,昭和31年4月,労働省の附属機関として設置された.
 開所当初は専ら職業病の予防の研究に重点をおき,しかも職業病を単に労働者の疾患としてでなく,労働環境--人間という関係の中に把握し,職業病の発生機転,診断,予防などに関する研究を行ない,さらに進んで労働者をこれら職業病からまもる技術の具体的な方策の開発の研究,特に従来わが国では非常に立ちおくれていた労働衛生工学的な研究の推進に力を注いだ.

根をおろす医師会活動

群馬県医師会

著者: 池上直一

ページ範囲:P.22 - P.22

 驥足を延ばして充分な活動をするためには組織と縦横の連繋が必要である.昭和23年3月郡市医師会長会議が招集され,爾来毎月18日が定例会長会議と決められた.また官庁連絡会議が25年4月に開かれその後毎月3日を開催日と定めて今日に至っている.参加者は次第に増加し現在では県衛生民生部,企画局,労働基準局,衛生研究所,教育委員会,関係団体としては支払基金,国保連合会など7団体50余名で数課に跨がる関連事項もこの会議において一挙に解決でき,外部に向っての活動にも有機的に連繋が保たれる.郡市医師会もこの例にならいおのおの関係機関と月1回の合同協議会をもっている.昭和20年代は税対策,社保に関する基本的問題が山積したが30年代に及びようやく医師会本来の面目を発揮できるまでに基礎が固まってきた.すなわち33年には成人病対策委員会が,県,大学,医師会,県議会のメンバーにより発足し羽生田県医師会長その委員長となって35年には,県対ガン協会を設立し,その会長に推され全県にわたり活発な活動を展開した.郡市には支部を設け郡市医師会長を支部長に,保健所長を副支部長に委嘱し,さらに支部傘下の町村に分会を設けて会員の獲得,検診時の周旋に協力を願っている.検診実務には群馬大学4教室の協力がありまた年2回協会主催の研修会には市町村,事業所の職員,保健婦が参加し常に200名を超え年ごとに盛大に赴いている.

資料のページ

伝染病の動向

ページ範囲:P.60 - P.61

シンガポール便り・1

シンガポール発展の父ラフルズ

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.28 - P.29

"60年前の7月のある輝いた朝,私は鉄棚をめぐらせたいかめしい門の前に立っていた.赤いターバンを巻いた守衛が何やら大声でどなると,門はおもむろに開かれた.この古めかしい建物は,女の精神病院(Female Lunatic Asylum)であり,植民地政府が僅かの費用で医学校に転用したものである.窓には鉄格子,また建物をとりまく白壁の塀のうえには多くの先の尖った鉄片が患者の逃亡に備えていた.一歩ふみこんだ私の第一印象は,これは学問をする場所ではなく,監獄だということであった………."
 1905年7月3日,シンガポールにおいて最初の医学教育が23人の若者に対して始められた日の思い出をそのひとりであったDr.Chen Su Lanは大学の創立60周年記念日にこのように回顧している.1962年にシンガポール大学医学部となるまで,この医学校が辿った道は,シンガポールそのものの激しい移りかわりのなかで誠に曲折多難の歳月であった.

厚生だより

厚生行政の長期構想

著者:

ページ範囲:P.48 - P.48

 45年9月28日に,厚生省プロジェクトチームによる「厚生行政の長期構想」が発表された.従来厚生行政に関する長期のプランの示されることが各方面から要望されていたが,このように全体的な観点から示されたのは,はじめての試みである.その大要は,45年春経済企画庁によって作定された新経済社会発展計画による昭和50年を目標年次とした振り替え所得と社会資本整備費の大ワクのなかで構成されており,次のような4つのねらいを持たせている.
 1)社会保障水準を前進させて,昭和50年の振り替え所得の対国民所得比を現在の5.2%から7%に引き上げる.

北から南から

保健婦の果すべき役割は何か

著者:

ページ範囲:P.19 - P.19

 第22回北海道公衆衛生学会総会は,去る11月13,14日新装の函館市民会館で開催された.参加者800名,今回からスライド使用を廃止,講演集による発表に変更.
 一般演題は51題で,「北海道における種痘後脳炎の死亡例」(演者道衛生部保健予防課長),温泉の飲用に関連して「道内温泉の微量成分分析結果」(演者道衛研都築技師)などのほか,3歳児健康診査を中心にした母子衛生に関する発表が多かった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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