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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生35巻12号

1971年12月発行

雑誌目次

特集 第12回社会医学研究会 巻頭言

第12回社医研の開催に当たって

著者: 大平昌彦 ,   青山英康

ページ範囲:P.720 - P.720

 第12回社会医学研究会の開催に当たって,これを準備してきた岡山社医研としての経過の報告と,参加者への期待を述べたいと思う.
 まず社医研も発足以来すでに12回という回数を重ね,会員数の飛躍的増加に伴って,取り組むべき課題も多方面に拡大してきたが,一方,社会医学会としての研究内容の充実についてはいまだ決して十分なものとはいえない.

基調報告

保健医療従事者は住民の暮らしをいかに守るか—学会および保健医療従事者の社会的責任

著者: 西尾雅七

ページ範囲:P.721 - P.726

 医師・歯科医師・薬剤師・保健婦・助産婦・看護婦・食品衛生,環境衛生監視員等々国民の保健の維持・向上に関係しそ活動している職種はきわめて多い.それらの保健医療従事者がそれぞれの職務にかせられた任務をはたすためには,どのような目標のもとに日常活動をすべきかという点について私の考えを述べてみたいと思います.

課題

労働衛生と保健医療従事者

著者: 原一郎 ,   太田武夫

ページ範囲:P.727 - P.731

 予定されていた報告のうち,「三池災害その後」(松沢病院金子)の報告がとりやめになったため,つぎの2題の発表にとどまり,やや淋しい感じをいだかせられた.

公害と保健医療従事者

著者: 大橋邦和 ,   吉田健男

ページ範囲:P.732 - P.746

保健所と公害—医師の責務—
 橋本周三(兵庫県衛生部)は,保健所で経験した"魚のあらを処理する工場"よりの悪臭といった公害問題を通して,行政の実情を発表した.昭和41年6月に,その処理工場がへい獣処理場等に関する法律により許可され,操業を開始すると同時に,周辺住民から悪臭が発生するということで苦情が絶えず起こった.しかし,苦情を受けとめる行政は,たとえば保健所は清掃を行なわせ,未処理の魚のあらの貯蔵庫を設けさせる.労使センターは,悪臭脱臭装置の設置の指導を,県担当課は,これらの事情と関係なく,企業独自の設備計画に融資するといった具合いに,それぞれの機関が無関係に,それぞれの立場で指導していた.そのため,企業さえも県の指導性に信頼を失いつつあるという実情を招いた.行政のセクショナリズムによる指導の失敗を是正する意味で,昭和42年8月に,魚あら処理に関係ある諸機関で連絡協議会を組織したが,協議会の代表機関の問題で,労使センターは,処理場法について権限をもつ保健所が担当すべきであるとし,保健所は処理場法に基づく基準を上まわってでるため,公害条令を担当する労使センターが代表者になるべきであるとして,相互に責任のなすり合いがなされた.

医療問題と保健医療従事者

著者: 前田信雄 ,   小野昭雄

ページ範囲:P.747 - P.755

 国民,患者による医学・医療の告発,医療従事者による内からの医学・医療の告発が全国にいたる所で,あらゆる階層から行なわれていることはすでに周知のごとくである.しかし,これらの告発を受けて,そこからいかに自己批判的な実践を行なっていくべきかということについての明確な方向性が医療従事者自身から出されているとはいえず,むしろ,告発者自身が自己批判した医療従事者に実践の道筋を再度提出せざるを得ない状況に至っているのが現状といえよう.
 昨年の社医研においても,医療問題が取り上げられたとはいえ,今後の実践について具体的な展望はほとんど提出されず,したがって,研究会の中で出された問題点が,ただ問題点としてしか認識されず,実践的な課題をそにから導き出すものとはいえない傾向があった.

自由集会

保健所再編成をめぐって

著者: 木下安子

ページ範囲:P.759 - P.760

 数年継続して持たれた"革新首長下における保健行政"の自由集会は,本年保健所再編成をめぐる討論にきりかえられた.昨年秋以来,保健所の合理化,集中化をめざす動きが活発になり,厚生省が保健所問題懇談会を出発させ,全国衛生部長会,全国保健所長会,日本看護協会など,各々その見解をしめし,いよいよ大詰をむかえつつあるようだ.そうした状況から各地で,第1線にある保健衛生担当者はもちろん多くの心ある人はその成りゆきに不安を感じている.したがって社会医学研究会においても,この問題について討論をすることは時宜をえたものであろう.

労災職業病のとりくみと保健医療従事者

著者: 松下敏夫

ページ範囲:P.761 - P.761

 今回の労働衛生の自由集会は,一昨年の「職業病をどう掘り起こすか」昨年の「農村医学と労働医学の交流」といった一定のテーマにそって準備されなかったため,討論のまとまりを欠いた.
 会は「職業病を摘発することは容易だ.しかし摘発するだけなら取り上げない方がましだ」という大阪総評の労働者の言葉を口火にして,まず労災職業病に対する労働者や労働組合の対応の現状や問題点について意見がだされた.その中で,無権利な季節工・臨時工の問題,企業内労組の体質賃金奴隷という労働者の現実の姿などが話された.さらに,労災職業病についてのとらえ方やとりくみ方に関して,公害と職業病は共通の根から生じていること,今日の職業病は安保体制のもとで東南アジアを含めて職業病の侵略という問題を提起していること,日本の職業病闘争は政治闘争としての質をもった闘いであるのに補償の闘いに解消されつつあること,労災職業病闘争では医者を運動の中心にしないこと(ゼニ・カネの闘いに解消されがちだから),労災職業病は個別の企業内の問題としてとり上げる限り問題の解決にならぬこと,公害・災害・職業病の根源に対する闘いが基本的に必要であること,等々重要な問題の指摘がされた.

"スモン患者の救済"

著者: 青山英康

ページ範囲:P.762 - P.763

 全国スモンの会兵庫支部の春本幸子さんと全国スモン協議会の保健社会学研究班として井原の現地調査に参加した高木邦明氏の両氏が座長となり「スモン患者の救済」をめぐって自由集会が開催された.
 岡山県下のスモン患者25名の参加に対してマスコミ関係が10数名,一方社医研の会員および参加者は,東大の保健社会学科の現地調査班を除けば地元岡大関係者だけという淋しさで,ここにも社医研会員の関心と,社会的関心との間の距離が認められる.

総括討議

必要な日常活動の強化

著者: 朝倉新太郎 ,   大原啓志

ページ範囲:P.764 - P.766

 今回の社会医学研究会は「学会および保健医療従事者の社会的責任」のテーマのもとで.「労働衛生と保健医療従事者」「公害問題と保健医療従事者」「医療問題と保健医療従事者」の3セクションに分けて演題発表および討議を行ない,それぞれのセクションの中で立会人をまじえて十分な討論が行なわれるよう企画した.総括討議では,各セクションの総括と問題提起の中から,次回のテーマを中心に各地で取り組むべき問題を検討していきたいと考えていた.その点,各セクションの総括にあるように,森永ミルク中毒問題,スモン問題などを中心に,それぞれのセクションで活発な討議がなされ,また,森永ミルク中毒問題および保安処分についての研究会の見解を発表する件については総会で討論があったので.総括討議では残りの問題を検討する結果になった.
 予定時間を超過し遅く開始されたこともあって,参加者が若干減少していたが,総括討議では,まず各セクションの座長からその総括と問題提起を行ない,その後討議に入ったが,討議では,次回のテーマについて提案と,研究会での討議のあり方について若干の意見が述べられたので,それについて簡単にまとめておきたい.

演題一覧

ページ範囲:P.767 - P.767

基調報告 学会および保健医療従事者の社会的責任―これまでの総括と今後の方向

発言あり

保険医総辞退以後

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.709 - P.711

誰のために
 医療費が絶対的にも相対的にも高くなってきたのはわが国だけのことではないようだ.先頃,その医療費の負担制度として全国民をその中に包み込んでいた皆保険制度の破綻が日本医師会員の保険医総辞退という局面を招いた.その時多くの議論があったし,その収拾も異例のテレビ対談に彩られはしたが,どうも国民にとっては難解なまま,保険医療費の値上げ,つまり保険料の値上げで一段落となりそうな気配である.
 しかしそれで問題は忘れてしまってもいいくらいに解決するのだろうか.よほどの楽観論者でない限りそうは思うまい.それほどにわが国の医療制度と健康保険制度の持ちこしてきた矛盾は大きく,さらにかつての大学騒動の発端が医学部にあったことを思えば,医者を含めて「医」そのものと変動する社会とのギャップは広く,これをウヤムヤにしておくことは,結局は国民を不幸にすることになるだろう.

特別寄稿

阿賀野川水銀中毒事件の判決をみて

著者: 村松博雄

ページ範囲:P.712 - P.713

(1)
 「ネコでも,イヌでも,せつのうなれば相手にかぶりつく.金もない,職もない,働きたくても身体をこわされている.そのうえ政府はあのザマ.黙っていたら国民のいのちはいくつあっても足りない.ひと握りの財閥にみんな殺されてしまうんだ.これをこのままにすれば,日本はくらやみになる.第三の水俣病を起こさないように,どうか公正な,本当の判決を出していただきたい」
 新潟地裁で開かれた阿賀野川有機水銀中毒事件(新潟水俣病)の最終弁論で,原告の桑野忠吾さんはこう訴えていた(9月23日 朝日新聞).

講座

社会福祉論—第4回 社会福祉の理念とその具体化(その2)—社会福祉の日本的特性

著者: 阪上裕子 ,   深沢道子

ページ範囲:P.715 - P.719

 社会福祉の法的理念
 現行の社会福祉法制は憲法を頂点とし,健康で文化的な最低限度の生活を営む国民の権利を国が保障するための立法の一環をなすものとして位置づけられている.主要な法律はいずれも第二次世界大戦後に整備されたもので,個人の尊重,平等そして国や社会の責任をその基本理念としている.たとえば身体障害者福祉法の目的は「身体障害者の更生を援助し,その更生に必要な保護をおこない,もって身体障害者の福祉を図ること」(同法第1条)である.そして身体障害自身の更生への努力を要求する(第2条)ことと並んで,国や地方公共団体および国民に,身体障害者に対してその障害ゆえに不当な差別的取扱いをすることを禁じている(第3条).また生活保護法の原理は,公的責任の原則(第1条),無差別平等の原側(第2条),最低生活保障の原則(第3条),自立助長の原則(第4条)である.児童福祉法では,児童の健全育成が全国民の義務であり,すべての児童がひとしく生活保障と愛護をうける権利を有すること(第1条)を児童福祉の基本理念と規定している.そして国や地方公共団体が児童の健全育成に対して責任を有するにとを明らかにしている(第2条).さらに上記の基本理念が児童の福祉に関係する法令の施行において常に尊重されねばならないとしている(第3条).老人福祉法における老人福祉の基本理念は,老人は敬愛され,生活を保障されること(第2条),社会への寄与を期待されること(第3条1項),社会的活動や就労の機会を与えられること(第3条2項),そして国と地方公共団体が老人福祉の増進の責務を負うこと(第4条1項)である.

北から南から

岐阜市の歯科薬物塗布について

著者:

ページ範囲:P.719 - P.719

 現在乳歯の85.8%がう蝕になっているのに対して,幼児の歯科治療は困難な状態である.これらの幼児に対して,う蝕の予防と進行を抑制するため,岐阜市中央保健所では,毎週月,水曜日に薬物塗布を実施しているが,ここ3〜4年の間に薬物塗布者が漸増している.健康な歯牙に対しては酸性弗素リン酸溶液を,う蝕歯牙に対して硝酸銀による鍍銀法を行なっているが,693人についてその効果をみてみた.
 弗化物の効果は対象群にくらべ17.7%の相違で有意の差がみとめられた.

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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