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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生35巻2号

1971年02月発行

文献概要

発言あり

森永ヒ素ミルク中毒事件—公害と科学者の役割

著者:

所属機関:

ページ範囲:P.69 - P.71

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後遺症を長く追求せよ
 生後1年未満の乳幼児,つまり,その多くが,それだけを栄養源とせざるをえない乳児に致死量に達するヒ素(その他の毒物,いわゆる第2リン酸ソーダとして原料に投入されたもののなかにはバナジウムも入っている)を含むミルクを2〜3カ月にわたって与え続ければどうなるか.その解答は誰も正確には知らない.しかし,かならずなんらかの根跡を止めるであろうと考えるのが医学的な常識というものであろう.すくなくない数の医学者はそう考えた.岡山県で編集された公式記録にも,「成人後の再判定を要す」とか「長期観察が必要」という考察を付しているものがある.患者の親たちも,せめて学齢期までの医学的監視を切望した.
 それが,わずか1〜2分の「精密検診」で後遺症なしと判定された理由はどこにあったのか.そのように簡単な精密検診の基準をつくった小児科学の6人の権威者たちの企業への密着姿勢は,疑うまいとしても疑わざるをえない.これはこれとして大きな問題であるが,一般論として考えられると,今日といえども,まだ充分に克服しきっていない医学的認識の停滞性ないし小児病的性格を重視しなければならない.大事件であった.激烈な症状であった.原因が判明した.そして,それ以後急速に表面的症状は消退した.それで後遺症はないと自らも安心し,それを患者にも納得させる.これは19世紀的医学が依拠する急性病モデルによる認識なのである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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