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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生35巻4号

1971年04月発行

雑誌目次

特集 保健所再検討 主張

医療と保健所

著者: 若松栄一

ページ範囲:P.200 - P.201

 保健所はいま大きな曲り角にきている,などと悠長なことをいっている段階ではない.保健所はとうの昔に"既にとり残された"ものになってしまっている.このままでいけばさらに無用の長物にさえなりかねない.なぜだろう.保健所が世の中の急速に移り変っていくニードをつかまえそこねたからである.
 衛生行政のニードには2つの型がある.第一の型は専門家が専門的な学識や判断に基いて必要であることを主張し,啓蒙しながら推進していく性質のものであり,たとえば国民免疫の疫学的判断に基いて広汎な予防接種を企画実施していくようなものであり,これは場合によっては国民にいやがられるものであっても手を抜いてはならないものである.結核予防の仕事も一般国民の認識と関心が低下するにつれてそういう性質のものになっていくだろう.第2の型は国民感情が素朴に要求していることに答えてやるもので,すぐこないだまでは,がんの予防検診や専門医療機関の整備に対する要望であり,また交通戦争といわれる事態に直面しての救急医療をしっかりやってほしいという要望があった.最近は食品の安全対策や公害防止に関するすさまじいニードが高まっている.もちろん素朴な国民感情から発するものであるから,学問的立場からあるいは行政的な現実問題として実施の可能性に限界があり,また取捨選択に手順があることも当然である.

座談会

保健所改革に期待する—過去2回の改革の意義と実績をふまえて

著者: 野田正雄 ,   野村拓 ,   山下章 ,   西三郎

ページ範囲:P.214 - P.225

 住民不在,あってもなくてもよいものなどと評されている保健所が改革を迫られている.ではどのようにメスがいれられ,どのような方向性をもっているのか.過去2回の改革を顧みつつ,新しい保健所をさぐってみた.

保健所はどうあるべきか

著者: 岸壮一 ,   林秀雄 ,   西岡昭夫 ,   佐谷春隆 ,   大峡美代志 ,   川名吉ヱ門 ,   清宮寛

ページ範囲:P.202 - P.213

●提言1
政令市制度の推進を
 保健所法の第1条で保健所は「地方における公衆衛生の向上および増進をはかるため都道府県または政令で定める市」がこれを設置することに義務づけられている.また,同法の施行令で人口はおおむね10万人となっているがその実態はどうだろうか.
 千葉県の場合をみてみると政令都市は1市もないのですべて県が設置することになっている.

保健所根本改革の意義

著者: 松下廉蔵

ページ範囲:P.227 - P.229

いままでの保健所活動
 わが国の保健所は,昭和12年の旧保健所法によって49カ所が設置されたのに始まり,昭和19年には健康相談所,簡易保険健康相談所,健康保険相談所などの各種健康相談施設を統合して級別に編成,強化され,609カ所になった.同22年には新しい保健所法が施行され,675カ所が整備されていた.その後社会の変化に対応すべく,同35年にそれまでのA・B・Cの3階級区分を改めて,U(都市型),UR(都市・農村型),R(農村型),L(小規模型),S(支所型)の5種類に区分し,管轄区域の態様に即応し業務を行ない得るようにし,現在では全国に832カ所が設置されている.
 保健所の行なう事業は,衛生思想の普及,人口動態統計,栄養改善,食品衛生,環境衛生,保健婦事業,医療社会事業,母子衛生,老人衛生,歯科衛生,試験検査,精神衛生,結核・性病・伝染病などの疾病予防など,公衆衛生活動の第一線業務の全般にわたっているが,量的に見て目立って大きいのは健康診断や患者管理を中心とする結核対策であり,妊産婦保健指導,乳幼児保健指導などによる母子衛生事業がこれについでいる.

諸外国の保健センター

著者: 西三郎

ページ範囲:P.230 - P.234

 わが国の保健所は,一般にHealth Centerと英訳されているが,逆に英文のHealth Centerは,日本の保健所とは限らない.Health Centerは,国により,その活動の対象,活動の内容は必ずしも同じではなく,また同じ国であっても,HealthCenterによりまた差が認められている.この論文では,全国民を対象とし,国民保健事業を中心とした総合保健活動を制度として有する英国と,必ずしも公的施設の活動のみによらずに総合保健活動のための制度を導入しようとしている米国を中心とし,それらの国の政府報告書1,2,3,4,5,6)などに見られる.Health Center(Centre)について,その動向を紹介しよう.なおHealth Centerが時に米国の,地域医療プログラムのメディカルセンター(大学病院級の医療について治療・教育,研究のセンター)をさしている場合7)など,保健,医療などの健康に関するセンターをさす場合も見られるが,今回は,前記Health Centerに限りそれを保健センターと仮に訳した.
 英国では,Health Centreには国民保健事業法第21条によるHealth Centre(ヘルスセンター)と母子保健事業のChild Health Center(小児保健センター)(時にChild Welfare Centreなど)がある.

発言あり

保健所と保健所長

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.197 - P.199

保健所は誰のためのものか
 保健所に対する世間の批判はきびしい.ある人は犬の予防注射をするところ,ある人は理美容の認可や許可をするところが保健所であるなど保健所長は医師でなければならないと法的に決めるほどの技術センターでありながら…….その結果が基幹保健所構想となり,小さな保健所の統廃合が簡単に考えられたり,最近では,住民の身近なところが最もふさわしいとの意見のもとに対人保健業務を技術者のいない市町村に移管することを考えるなど,住民不在の意見が横行している.
 保健所業務のなかにどのように医学なり公衆衛生学がとり入れられているのであろうか.保健所は行政機関であるとの考えが先行しているが行政とは何か,医学や公衆衛生学が基盤とならなければならない行政とは……結核管理,乳幼児管理,最近では精神障害者の管理等々,管理業務が行政であろうか? さらに,管理とは現状把握をすることであろうか? 現状把握程度の業務ならば,医師でない保健所長であっても数の計算はできるはずである.

講座

環境保健の提唱(4)

著者: 長田泰公

ページ範囲:P.235 - P.238

 前回は,環境の人体に及ぼす影響が単純ではなく,環境側,人間側,それに環境と人間とのあいだのさまざまな条件によって修飾されることを,主として騒音を例にしてのべた.それにもかかわらず職場や地域の環境対策のために,許容値,環境基準,規制規準など数多くの基準が設定されている.今回は,これらの環境にかかわる基準のもつ問題点を整理してみたい.

症例による老人の精神医学—老人の精神病

著者: 金子仁郎

ページ範囲:P.239 - P.242

 老年期に最も多発する精神病は老年痴呆や脳動脈硬化性痴呆のように痴呆をきたす疾患であるがこれについては次の章で説明する.このような痴呆以外に老年期にもその他の精神病が発生し,精神分裂病,殊に妄想型やうつ病もかなりしばしば認められる.ことにうつ病は更年期以後に多く発生し,老人の自殺の主要要因となる.自殺はわが国では20歳代にかなりみられるが,一般に諸外国を通じて老人になるほど自殺率が高くなるものである.このほか老人は種々の原因で意識障害,もうろう状態,譫妄状態を呈することも多く,この処置が適切でないと死亡することも多い.

綜説

生活環境中の発ガン物—特に芳香族アミンを中心として

著者: 竹村望

ページ範囲:P.247 - P.253

エッピング黄疸事件
 数年前にロンドンのエッピング地区で,突然84名にのぼる黄疸患者が発生した.始めは流行性肝炎の発生と思われたが,よく調査していくと次のような事実がつきとめられた.すなわち,ある貨車の中に小麦粉と同時にエポキシ樹脂の硬化剤として使われる4.4'-diaminodiphenyl-methane(図1)が積んであったところ,この硬化剤を入れた箱がこわれたために,この化学物質によって小麦粉が汚染され,この小麦粉でつくったパンを食べた人たちに黄疸の発生があったことがわかった.そこでイギリスのMedical Research Council研究所のSchoental1)はこの硬化剤の毒性検査を行なったところ,雄のラットに肝障害のほかに肝ガンと腎の血管腫の発生をみ,雌のラットに子宮の腺腫の発生をみた.エッピングでの黄疸事件は,diaminodiphenyl-methaneがヒトに肝障害をおこさせ,また実験結果から発ガンの危険性もあることが示された.
 しかし,これまで芳香族アミン類には発ガン性のものがあることが知られており,図2に示したようなアミン類は過去の職業ガンの発生や動物実験の事実から発ガン性が証明されている.このなかのいわゆるベンチヂン(4.4'-diaminodiphenyl)の化学構造から考えると,diaminodiphenyl-methaneも一応発ガン性の危険がないかを疑ってみる必要があったであろう.

人にみる公衆衛生の歴史・3

後藤新平(1857〜1929年)—展望をもった医師

著者: 川上武 ,   上林茂暢

ページ範囲:P.243 - P.243

 現代くらい医療の将来像の要望されているときはない.ところが,現実にでてくるのは"社会保険の抜本改正"ていどにすぎず,将来像というにはあまりにお粗末である.
 ましてや,医療制度・医学教育となると,展望の前段階の長期計画さえはっきりしていない.この点は,医療行政を担当している厚生官僚のみならず,医療の遂行者である医療関係者においても例外ではない.

私の意見

福祉行政の出先からの"眼"

著者: 丸田秋男

ページ範囲:P.258 - P.259

 私たちの国には"保健の専門家"を養成するために保健学科とか健康学科というコースを設けている大学があります.また,Under GraduateとしてHealth Educatorを養成している国の機関もありますが,多くの自治体では"保健の専門家"として,公けのルートで行政に参加することは困難のようです.私自身,すべての人びとの健康生活化を志向する公衆衛生学徒の1人ですが,現実は福祉行政機関からの発言となっています.
 児童相談所というと,読者にそれほど鮮やかなイメージをもって展開されることを期待できませんが,端的にいって,子供たちに関することなら,どのような問題でも扱いますから,当然私たちは子どものこころの,からだの,そして社会生活上の健康問題を扱っていることになります.

シンガポール便り・2

新しい国づくりと公衆衛生

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.212 - P.213

 今日,シンガポールは東南アジア地域において,その保健水準の高いことで特異な地歩を占めている.とくに最近10年におけるその発展はめざましい.1959年と69年を比較すると,国民総生産では約20億シンガポール・ドル(S$)から約50億S$(1S$は約120円)と約2.5倍に,1人当たり国民所得では1,262S$から2,437S$と約2倍の伸びがみられる.しかもこのあいだ物価の上昇が僅少である事実は特筆に値しよう.
 シンガポールは若い国,新しい国である.全人口の54%が20歳以下で,60歳以上は5%弱に過ぎない.大臣も国会議員も30歳台の人が多い.さらに大きな特色はこの若さに溢れた人びとが,その人種構成の多様性にもかかわらず,新しいシンガポール人としての誇りをもって国づくりに精いっぱいの努力を払っていることである.そしてこのたくましい国づくりの基盤となっているのが,この国の保健水準のめざましい向上であり,公衆衛生の推進に対する政府のきわだった努力であるといってよい.

私たちの保健所・28 大阪市・浪速保健所

都心部保健所の隘路に挑む

著者: 水原完

ページ範囲:P.244 - P.245

地域の概況
 大阪の古い地名"なにわ"を冠している当保健所管内は,大阪市のほぼ中央部にあり,明治31年の第1次市域拡張で大阪市に編入され,第2次市域拡張の大正14年南区より分区して浪速区が誕生した.その後昭和18年22区制がとられた際,現地域となった.昭和19年浪速保健所創設,戦災により管内の90%以上が焼失し,一時閉鎖,その後西成ついで南保健所の支所となり,昭和30年4月昇格独立し,15周年を越えた.
 当地の東部には,全国的に名を知られる日本橋筋の電機問屋・履物問屋街があり,大阪で昭和初期につくられた日本最初の公営鉄筋住宅が残存している.区の西部には,西成と続いている全国一規模の大きい同和地区があり,また全国本部を有する部落解放センターがある.南東部は通天閣で名高い新世界,中央部なんば近くに,私設卸売市場として旧い歴史をもつ木津市場や,大阪球場・府立体育館など全国的に知られたスポーツ施設が多く,また十日戎でにぎわう,今宮戎神社をはじめ八坂神社大国神社など,由緒ある神社仏閣の名所旧跡も多い.

教室めぐり・24 長崎大学公衆衛生学教室

教育研究面に医学のもつ社会的側面を重視

著者: 相沢龍

ページ範囲:P.246 - P.246

教室の沿革
 安政4年(1855),幕府の招きで長崎に医学伝習所を開いたオランダ海軍軍医ポンペは,その任を終えての帰国直前ここで衛生学の講義を行なっている.以後,長崎医学校(明治時代),長崎医専(明34〜大12)で衛生学が法医学,細菌学などとともに講じられてきたが,衛生学教室の完全独立は長崎医大昇格の翌年(大正13年)である.
 当公衆衛生学教室が長崎大学に新設され,筆者が大阪女子医大(現関西医大)から赴任したのは昭和28年4月である.原爆で灰燼に帰した長崎医大は,当時ようやく復興がその緒につき,わずかに基礎医学教室の一部新築が完成したところであって,なお大部分の教室は応急修理された旧病院外来の建物に集っていた.したがってその一隅をかりて講座を開設した当教室は,研究の場を教室外に求め,研究の主体を実態調査において出発した.当初着手した研究は,乳児死亡の実態調査と住居の広さに関する基準論のための住宅調査であった.基礎医学教室の建設が進み,実験室的研究が行なえるようになったのはなお数年後であった.

厚生だより

第64回国会成立公害関係法律について

ページ範囲:P.254 - P.257

 第64回国会では多くの公害関係法が成立した.そこで,今回の厚生だよりは,この公害関係法の法律名,担当省および要点のまとめを掲載した.

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斎藤潔先生を偲んで

著者: 林路彰

ページ範囲:P.226 - P.226

 斎藤 潔先生は昭和46年2月21日午後10時30分東京都目黒区の自宅で脳軟化症のため逝去された.享年77歳.
 先生は大正9年東京大学医学部を卒業されてから50年の長きにわたり,公衆衛生の教育と研究を通じてわが国公衆衛生の発展に寄与された.とくに公衆衛生技術者の養成訓練機関である公衆衛生院の創設に努力するとともに,母子保健,保健婦事業,公害問題などについて,先駆者として指導的立場をとり,わが国公衆衛生の進展に貢献された.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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