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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生35巻7号

1971年07月発行

雑誌目次

特集 岡山県の公衆衛生活動

岡山県の戦後公衆衛生活動

著者: 伊達富久

ページ範囲:P.392 - P.397

 末尾に付した文献のなかに岡山県衛生部を中心とした公衆衛生活動の大要が記されていますが,詳細な点は十分な時間をかけてたくさんの資料を集め検討した上でなければ正確に近い公衆衛生活動史は書けないと思います.
 ここでは終戦以前から昭和43年3月末日まで岡山保健所長の職にあり,県内保健所長会の仕事をしていた関係でその間に起こった印象的で記憶に残っていることや,長い間岡山県衛生部長をしておられた大森誠氏,その下で働いておられた現石田環境衛生課長,河原西大寺保健所長,若林玉野保健所長その他の方々からルポして得た材料の一部を加えて不完全であるが書いてみます.

現状の問題点—行政から大学へ

著者: 板野猛虎

ページ範囲:P.398 - P.402

現状の問題点
 行政と大学という間での問題点としては,何といっても岡山県衛生部と岡大衛生学教室の特異な関係であろう.
 地域の公衆衛生を改善,進歩させるためには,両者が学問的にも行政的にも,緊密に連絡し合いたいところであるが,思想的な問題の介在が邪魔をしている現状である.

現状の問題点—大学から行政へ

著者: 大平昌彦

ページ範囲:P.403 - P.408

はじめに
 編集部からの注文は「岡山県の公衆衛生活動について,大学の立場から行政を批判すること」である.
 けだし読者が期待するものは,岡山という地域の諸条件の下で,しかも単にその特異性のみにとどまることなく,現在わが国の公衆衛生が当面している共通の課題を点検するということであろう.

新しい芽に期待しつつ—住民サイドから

著者: 小西なつ子

ページ範囲:P.409 - P.411

 現状の岡山県の公衆衛生活動を住民サイドに立って分析し,批判するようにとのテーマをいただいても,私自身行政の,しかも管理者的な位置にあるかぎり,批判そのものが,自分自身の反省にならざるをえないといえましょう.
 しかも,岡山県の公衆衛生活動という場合,県行政というよりは,岡山県という地理的な広がりをもつ地域の公衆衛生活動が主題である以上,私たちの受け持つ市の衛生行政も包括されているのですから,ますますこのテーマは,最近流行の「自己批判書」にならざるをえないことになりそうです.

大学と行政との相互批判—今後のあり方をもとめて

著者: 実成文彦 ,   和気健三 ,   橋本真紀

ページ範囲:P.412 - P.419

健康のシステムの一環としての大学と行政
 大学でウイルスの疫学などを扱う一方保健所では循環器検診などに走り回っているというように大学と行政の間を往来している私に,大学と行政の相互批判を通して今後のあり方を求めよとのことである.公衆衛生に入って日が浅く過去および現在を充分に把握し得ない私にとっては難問である.さらに困難な理由は最近の社会変動の激しいことである.そこで大学にとっても行政にとっても共通の目的は住民の健康であるはずだとの認識に立って考えを進めていきたい.
 現在,包括医療の必要性が説かれ,また環境保全が急務となっている例をみてもわかるように,今後は人間が人間としてより快適に生きるようにみんなの健康生活の保障と建設のためのシステムの完成と円滑な活動が公衆衛生活動の目指すべきところではないかと思われる.健康問題の解決には個人レベルから国家レベルのものまであることに対応して,このシステムには個人から国家までの全員参加が必要とされ,基本的単位としては公衆衛生と医療との合体した場であるところの地域社会ということになろう.このシステムがシステムとして円滑な活動を行なうには計画から評価,追跡までしうるところの情報網と制御機構および各種の実施機関を持たねばならない.機能的には各人の健康生活の向上をもたらすこと,および公衆衛生の使命としてより先見的であるようなものでなければならない.

座談会

これからの岡山県の公衆衛生活動

著者: 乙倉巍 ,   吉田健男 ,   小野昭雄 ,   天野康生 ,   石井寛 ,   加藤恒夫 ,   青山英康

ページ範囲:P.420 - P.431

 本誌では,神奈川県,秋田県,沖繩と地域公衆衛生活動を特集してきました.今月号はその一環として岡山県の公衆衛生活動を紹介します.特に今回は現実の活動の紹介だけでなく,岡山県を舞台に大学と行政との関係に焦点をあててみました.具体的には,公衆衛生医師の不足を行政は,さらに大学はどう考え,どう対処しているかを問題としていますが,そのなかで,真の住民主在の公衆衛生を模索する第一歩が踏み出されていると思います.この対立のなかから新しい芽が生み出されることを願っています.

発言あり

保健行政における住民参加

著者: ,   ,   ,   ,   ,   赤星一郎 ,   青山英康 ,   石田宗治 ,   金子光 ,   仲村優一

ページ範囲:P.389 - P.391

参加可能の形態は住民運動
 住民参加ということばは,当世流にいえばいわゆる「カッコいい」ことばのひとつである.カッコいいことばは,とかく内容を伴なわないままで空虚なスローガンと化する危険性を常に内蔵している.「福祉国家の確立」,「社会保障の充実」等々,みんな同じことである.そのことば自体が繰りかえしお題目のように唱えられただけで,何か効能があったかの錯覚をおこさせるのである.
 しかし,他人事としてではなく,私という他ならぬひとりの住民が,私の住んでいる地域社会での保健行政との関係で,住民としてそれに参加するとはどういうことなのかと考えてみると,これほどわからないことはないし,これほど実体のない概念はないことに気がつく.住民参加ということばは,ひょっとすると,住民不参加にベールをかぶせるための合理化の手段でしかありえないかもしれないのである.

講座

婦人労働(2)

著者: 嶋津千利世 ,   原田二郎

ページ範囲:P.435 - P.438

 肉体的荒廃 機械制生産の発生と併行して婦人・児童労働があらわれると,ほかのすべての産業部門でも婦人や児童の労働がひろくあらわれる.しかも,機械の発達のおくれた産業部門,たとえば炭鉱などでは,婦人や年少者の労働は,機械とともにではなく,機械のかわりとしてつかわれる.婦人や年少者は機械よりもやすい自動機械として利用された.
 また,機械の利用によって実現した夜間労働という「あさましい制度」(この現代版が24時間都市構想であろう)のもとでの労働は,児童や少年の発育をとめたり,婦人労働者を実際の年齢よりも早くふけさせる.また,機械のもとでの労働強化にさらされた婦人労働者のあいだには,異常の出産や生理が大量にあらわれる.幼児の死亡率も増大する.マルクスは,『資本論』のなかで,イングランドその他の幼児死亡率を掲げたうえで,その理由をつぎのようにのべている.

症例による老人の精神医学—老人の痴呆

著者: 金子仁郎

ページ範囲:P.439 - P.442

 老年になるにしたがい脳は老化し,知能殊に記憶力は漸次減退し,活動性が低下するが,通常日常生活に支障をきたすほどにはならない.しかしなかには,ある者は知能の減退が強く,他人の世話にならなければ日常生活たとえば着衣,食事,排泄,洗面なども満足にできず,外出しても道がわからなくなり迷ってしまうというほどになる.このように他人に依存しなければ独立して生活できぬほどの知能の減退を示したものを「痴呆」のなかでも重症痴呆と呼ぶ.精神薄弱の場合は知能指数でもってIQ70以下を精神薄弱とし,さらに軽愚,痴愚,白痴と区別するが,老人の場合はこのような知能指数による明らかな区別あるいは限界はなく,現実生活のあり方で一応の区別をするよりほかはない.記憶力の中等度の低下のみられるのを軽症痴呆,理解力,判断力,計算力の低下がみられるのを中等度痴呆とする.
 このような痴呆をきたす原因は明らかでないが,ある程度遺伝的体質が関係しているようである.50〜60歳代にすでに痴呆がはじまるのを初老期痴呆と呼んでいるが,このうちピック病は遺伝関係が濃厚である.アルツハイマー病は老年痴呆と症状や病理所見も類似し,両者には移行があるものと考えられている.これらの初老期痴呆ことにアルツハイマー病は最近注目されるようになりだした結果,臨床例が多数発見されるようになった.

研究

能登地方における肺吸虫症

著者: 石田宗治 ,   真田繁子 ,   小林正 ,   西正美 ,   多賀宏子 ,   飯田成美 ,   坊久雄

ページ範囲:P.445 - P.448

緒言
 先に加納および著者の真田,石田らは,能登半島中部の志賀郷地区(現在,羽咋郡志賀町)において,肺吸虫症の分布状況の調査を集団検診で行ない,同地は肺吸虫症の流行地であり,患者発見率は受診者の0.4%に及び,なかでも特に地区では米町川流域に,年齢では小中学生を中心とした若年層に多いこと,しかも患者の6割は胸部にX線所見を呈し,また約1/3余は肺結核症として登録されていたことを明らかにし,この流行は結核対策との関連からも無視し得ないことを報告した1)(昭和41年).
 一方,横川らの調査により,能登半島の輪島市の小学生からも患者が発見されたことが報告されていた2)(昭和36年)ので,一般に生活様式のほぼ等しい羽咋郡羽咋市地方だけでなく,これと北に接する鳳至郡・輪島市でも本症の流行が潜在しているのではないかと考え,その分布状況の調査を行なった.

人にみる公衆衛生の歴史・4

森鷗外(1862〜1922年)と高木兼寛(1849〜1920年)—衛生学研究のあり方

著者: 川上武 ,   上林茂暢

ページ範囲:P.432 - P.433

衛生学者"鷗外"
 衛生学にとって,疫学的方法の重要性はいまさら問うまでもあるまい.スノウのコレラ流行調査(1854)とコッホのコレラ菌発見(1883)に代表される,疫学的方法と実証医学的方法の関係は衛生学の古典的事実とされている.
 ところが,疫学がコッホ的仕事の華やかさの陰におかれてきたこともあって,ともすれば軽視されがちである.疫学的方法が定着していないために,労災・職業病・公害の原因究明を歪め,あらたな被害者を防ぎきれない現状では,その意味があらためて強調されねばならない.このような角度から,脚気対策における,森鷗外と高木兼寛の場合を検討してみたい.

根をおろす医師会活動

福岡県医師会

著者: 清沢又四郎

ページ範囲:P.434 - P.434

 わが福岡県医師会では昭和42年に健康開発委員会を設置し,地域公衆衛生活動の参謀本部とした.その委員構成は県医師会より村上副会長(現参与)以下担当理事者および郡市医師会のエキスパート12名,これに九大および久大の公衆衛生諸教授の参加を得て総員17名である.なお必要に応じて行政関係その他を参考人として参画願っている.
 本委員会においては随時県民の保健上の立場から各種予防接種の推進などに関し,その疾病の流行の事前において当局に要請,警告などを行なったりしてきたが,主なる業績は次の各項に要約できる.

私たちの保健所・31 静岡県・富士保健所

地域共同保健活動をすすめて

著者: 大枝十兵衛

ページ範囲:P.443 - P.443

衛生教育の重要性
 保健活動が地域の人たちに理解され,公衆衛生の思想が日常生活の中で実践されるためには衛生教育ほど大事なものはありません.特に民衆組織活動として律動的な展開をすすめるためには地域共同保健活動が必要と信じ私たちの保健所のあゆみをお話し致します.

研究所総点検・3

国立精神衛生研究所―重視されぬ?精神衛生対策

著者: 村松常雄

ページ範囲:P.444 - P.444

 沿革 昭和27年1月,現在の場所,すなわち千葉県市川市国府台病院の南隣りの場所に設立された.その理由は同病院が一般科約400床と,精神神経科約400床とを備えた特殊性をもつ国立病院であるところから,臨床研究の面でも,精神衛生技術者の実地研修の面でも,密接な協力関係が得やすいことが主であって,そのために初代所長は病院長と併任であったのである.
 目的 精神衛生の目的としては,精神障害の予防,早期発見,治療体系,社会復帰,地域ケーアなどの臨床面の諸問題の研究,開発もその主要な任務の1つであるが,さらに育児,教育,産業,青少年問題,老人福祉,などと関連する諸問題もあり,その他交通事故,アルコール中毒,薬物嗜癖などの対策と関係する問題もある.しかも精神の健康なる発達,成熟を妨げる諸原因を防ぐための諸研究とともに,その健康なる発達,成熟を増進するための積極面も含まれねばならない.その上これらの諸問題に関する基礎的な研究も含まれることはいうまでもない.

厚生だより

厚生統計地域傾向精密調査について

著者:

ページ範囲:P.451 - P.451

 厚生省の統計調査部で実施している諸統計調査のなかで,人口動態統計調査のほか2,3の調査を除くと,都道府県単位あるいは地域別の観察にたえる衛生統計は非常に数が少ない.
 統計調査部としては調査統計のなかに地域別の観察ができるものをとり入れることは永年の課題であったが,45年度に表題のテーマで予算がはいり,実施にうつされることとなった.

意見

石黒忠悳と徴兵検査

著者: 津田順吉

ページ範囲:P.448 - P.448

 川上武氏らの石黒忠悳小伝(本誌5月号299頁)は有益であり,軍衛生機構確立の解釈は有難いものだった.「懐旧九十年」を持ち合わしていないので,はっきりしないが,徴兵検査の規準を作ったのは石黒だったときいている。果してそうか。筆者に誌上で答えていただければ,大方のためになると思う。
 外国の統計が日本に用をなさぬことは明かなことであり,石黒は夫人と2人で,東京の風呂屋で,適齢期の青年の身体計測をやらしてもらったときく。江戸っ子は気がはやいので「うるさいな」というようななかで辞を低くして夫人とともに計測したという。恐らく身長体重胸囲くらいのものだったと思うが,この計測から甲,乙,丙が作られた。

資料のページ

医師数の現状

著者: 小畑美和夫

ページ範囲:P.449 - P.451

 最近,各地で医師不足が指摘されており,また,新しい医科大学の設置気運が活発になってきています.そこで,今回の資料は医師数の現状です.
 なお,ここでいう医師は,毎年届出られる医師届出票をもとにしています.

北から南から

食品分析器機整備さる(北海道)

著者:

ページ範囲:P.408 - P.408

 昨年は,もみじこ,かずのこなど水産加工品の発色剤,漂白剤による違反事例をはじめ,有機水銀粉衣のいわゆる「毒じゃが事件」,乳肉食品の抗生物質,BHCなど残留農薬,カドミウム汚染米等々保健衛生上危惧される新たな問題が提起されており,これらに対応した監視体制,機能の高度化が急務なところである.また,全国的にも稀な規模をもつ北海道消費者センターにおけるチクロ食品をはじめ食品添加物等のチェックテストの強化により,不正食品が発見される事例も少なくない.
 このような現状のなかで,消費者保護の立場から安全な食品を供給すべきこと,さらには寸分の危惧をも排除すべきことはいうまでもなく,これがためにもとりわけ試験検査機能の高度化が急がれている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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