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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生36巻1号

1972年01月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生活動と福祉の論理

公衆衛生活動と福祉の論理

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.6 - P.9

 激動の60年代は高度経済成長と都市化の半面で,国民大衆の生活のなかにおけるさまざまの矛盾があらわになり,きびしく問いかけられて余すところなくさらけ出された感が深い.そのなかでも保健・医療にとりくむわれわれにとって,医療・保険・医育・医学研究など医学・医療の諸制度が温存してきた諸矛盾が,大学問題を契機として根源的に激しく問われるようになったことは記憶に新しいところである.このような社会環境の激しい変化のなかで公衆衛生活動もまたきびしい試練に立たされたことは当然である.とくにいわゆる公害の激化,人口の老齢化,医療技術の革新などによる傷病,死亡像の質的変化と地域の諸特性のヘルスニーズへの鋭い反映など,対象とする問題自体の質的な変化によって,新しい方法論とその社会的実践は強い社会的要請となった.だが保健所問題に端的に示されているように,公衆衛生行政はほとんど何らの改革もなされぬままに推移したことは全く弁解の余地のないところである.もとよりこの間に関係者のそれなりの努力がなかったわけではない.また公衆衛生活動の改革を考える場合,日本に独特ともいえる医療・医育制度の基本的矛盾が厚い壁となって立ちふさがっていることも事実である.しかしこの間に理念的には国際的なすう勢のなかで,包括医療の必要性とpositive healthの重要性が強調され,関係者の間でかなり理解されるようになった.

福祉の論理

身体障害者

著者: 原田政美

ページ範囲:P.10 - P.14

「しあわせ」ということ
 筆者が勤務している東京都心身障害者福祉センターは,その名のごとく障害者の福祉を図る第一線機関であるが,実はその福祉というのが何であるのか,人により考え方がまちまちで,はっきりしない.
 もっとも素朴的な見解として,障害者がしあわせ(幸福)になるようにしてあげることだという.障害児を持つ親の切なる願いは「この子をしあわせにしたい」であり,選挙の折に立候補者が叫ぶのは「障害者のためにしあわせを実現します」である.

精神障害者

著者: 佐々木敏明

ページ範囲:P.15 - P.18

--本日は,精神病者の福祉はどうあるべきか,この点について日頃考えておられることをうかがいたいと思います.その場合に福祉を自分はこういうふうに考えるのだというところからはじめた方が,あとの話しの運びに都合がいいと思うのですが……
 そうですね.福祉という言葉が最近多少乱用されて曖昧になってしまった.これは暗黙のうちに,現実から遊離することが"望ましい"という意味だけを残す言葉として使われるようになったからだと思うんですよ.ところが,現実に福祉を必要とする状況は,日常生活において,その福祉・健康で文化的な最低限度の生活を営む権利がなんらかの障害によって実現できない時でしかないわけです.だから当面は,そうした状態そのものの解決策や,それをもたらした社会の仕組みを追求することにある.

老人

著者: 安藤貞雄

ページ範囲:P.19 - P.26

 老人福祉は,老人問題が発生した社会的,経済的等の背景の現状分析により,老人福祉のための諸対策が考えられた.しかし今後は,社会福祉全体の統一の中で老人福祉も考察されて,位置づけられてゆくと考える.
 この老人問題の背景は人口構造の変化,民法の改正にともなう家族制度の崩壊から核家族化が進みさらに産業の発展による老人の家族内での役割構造の変化があげられる.老人福祉のために中央社会福祉審議会が,昭和45年に「老人問題に関する総合的諸施策について」答申を出しました.このとき,老人福祉を考えるために現在の老人福祉の現状を素直にみて,その上で,老人福祉を考えてみたいと思う.

肢体不自由児

著者: 大塚隆二

ページ範囲:P.27 - P.31

 肢体不自由児施設や肢体不自由児養護学校を見学する人々の多くが,「こどもたちは予想外に明るく元気だ」と,見学後の印象を語る.またある見学者は自分のこどもの健康をよろこび,肢体不自由児に対して深い同情を表明する.

公衆衛生とのかかわり

著者: 首藤友彦

ページ範囲:P.33 - P.37

 昭和45年10月,第28回日本公衆衛生学会総会のシンポジウムでは"70年代の公衆衛生"がとり上げられ,変ぼうする社会情勢の中で新しい公衆衛生のあり方が論議されたが,とくに公衆衛生の第一線である保健所では,公衆衛生活動のなかで住民の福祉の増進をどのように推進するかが問題になってくる.本稿では指定都市の保健所の公衆衛生活動を記し,住民の福祉の増進をはかる方策について,保健所長として意見を述べることにする.

グラフ

トウキョウ '72―ゴミ—あくまで見捨てられたもの

ページ範囲:P.1 - P.2

「ゴミ戦争宣言」以来スター的存在になった護美.1万数千トン,これが東京の1日のゴミ排出量,1週間も放置すれば霞ガ関ビルの3倍にも達するという.その行きつく先は処理工場か,はたまた"新夢の島"?

発言あり

国民総背番号制

著者: ,   ,   ,   ,   ,   田中恒夫 ,   阪上裕子 ,   野見山一生 ,   大島一良 ,   首藤友彦

ページ範囲:P.3 - P.5

十分な検討を
 総背番号制をめぐって,数多くの論議が交わされている.そのかなりの部分は批判的なものであり,ある部分は反体制的なものである.たしかに,情報科学の発達と,情報の洪水の中で,個人の有効なアイデンティフィケーションのためには,コーディングの必要性は十分にみとめられる.よく知られるように,スウェーデンの医療体系が,各個人のコードによってすすめられ,医療情報データ・バンクの活用が特徴となっている.いわゆるプライマリー・ケアーの質がそのために向上したとは,スウエーデン医療関係者が良く説くところである.
 しかし,同じようなコーディングで事務がすすめられているクレジット・カード・システムでは,現実にアメリカでしばしば誤りを生じ,少なからぬ加入者の被害となって現われている.おそらく情報科学者は,フィード・バック・システムさえ強化すればよいと,技術的な立場から,この問題をとりのぞこうとするかもしれない.しかし完全であると同時に不完全な人間と,まだまだ完全とはいかない機械の組合わせは,決して彼らのいう通りにはならないだろう.それを除くためには,当分の間膨大な経費を必要とし,安全性の十分な検証までその投資は続くであろう.

講座

婦人労働(6)

著者: 嶋津千利世 ,   原田二郎

ページ範囲:P.42 - P.45

女工の反抗と抑圧
 前にもふれたように,初期の女工はよく聯合=団結したらしい.というのは,『明治文化全集』第15巻に「工場巡覧記」というのがのつていることはすでにかいたが,そのなかの「鐘が淵紡績会社」の項にも「寄宿舎には…初めは各県別に女工を寄宿せしめたけれども,兎角聯合の弊あればとて今は各県混交(ごたま)ぜに入るることとせり」(253ページ)という記述もあるからである.おなじ書のエー・シビル署名の文中には,鐘紡の女工が教育をうけたこともなく,またうける機会もなかったので「不平苦痛あるも,之を言ひ現はすの道を有せず,獣類の如く無言に之を堪へ忍ぶべきものたるを明にせり.」(289ページ)とあるが,不平不満をいわないのは教育がなかった,という主体的理由ばかりではなく,資本の奸計によって「聯合の弊」をとりさられたからでもある.当時の女工たちには--世間一般にも--まだ身分観念が頭脳に固くはりついており,階級意識はまったくなかった.また,いわゆる国家観念もなく,団結の靱帯となるものは同郷=おくに意識だけだったのである(この当時発行された書物などに○○県人何某などと印刷されたものをしばしばみかける)。したがって各県混交ぜにするということは,同種のものが異国人同志となり,団結どころか日常の話題も共感もなくなってしまったのであろう.
 こうして孤立化された女工たちは,たちまち戦闘能力をうしなってしまったのである.

放射能と放射線(1)―放射線によるriskの正しい認識と防護への道程

著者: 山県登

ページ範囲:P.46 - P.50

 専門家でない人びとは,放射線影響の概念を主として新聞報道を通じて得ていると思う.そこには多くの誤解を生ずる要因がある.同じことは,他のさまざまな有害物質についてもいえるであろう.
 このような問題について,もっとも大切なことはriskの概念のとらえ方である.それは,日常生活のさまざまなriskをどう割り切って生きて行くかという人生観につながるし,また,社会の損失と利益のバランスを考えるときの価値観にもつながる基本的な認識である.

研究

フィリピンのポリオ対策—日本の医療協力を中心として

著者: 森本忠良 ,   曽田研二 ,   平山宗宏 ,   伊藤昭吾 ,   安川史郎 ,   石原佑弌 ,   寺松尚 ,   越後貫博 ,   橋爪壮 ,   本田正 ,   山形操六 ,   柳沢謙

ページ範囲:P.51 - P.60

 フィリピンにおけるポリオは他の疾患に比して,統計上,さほど大きな割合を占めるものではないが,漸増の傾向にあり,かつまひ型ポリオの社会に与える影響の大きいところから,フィリピン政府は,1967年8月から日本政府の協力をえて,首都圏を中心として大規模な生ポリワクチン投与を開始し,全国的な重要な防疫対策の1つとして,今日に至っている.フィリピンのポリオ対策を論ずるに当たって,この時点を基点とし,生ワクチン投与前の状況と,それ以後の状況にわけて述べる.

船員総合検診の問題点とその検討

著者: 土屋真 ,   岡本久蔵 ,   鈴木勉 ,   佐藤徳助 ,   佐々木テル子

ページ範囲:P.61 - P.65

 さきにわれわれは船員法により年1回の検診が義務づけられながらも,船員の開放性結核患者が乗船している事実や,医療中の患者の乗船を阻止できなかったことを指摘1)した.これは人手不足の上に,健康検査合格標準が開放性肺結核のみを不合格としていること2)や,船員に急がされて透視による診断が多いこと,また他港からの乗船が可能であることなどによる.
 三陸沿岸の有数な漁港である気仙沼港においても,船員の健康管理の問題は重要な課題であって従来保健所も結核の患者管理のみならず栄養指導などにあたってきた.

人にみる公衆衛生の歴史・9

暉峻義等(1889-1966)—わが国における労働科学の誕生

著者: 川上武 ,   上林茂暢

ページ範囲:P.40 - P.41

 労働科学といえば,まず思いおこされるのは暉峻義等の名前である.治療偏重の日本医学のなかに,暉峻は,はじめて労働を対象とする学問を導入し,その確立をはかった.
 しかし,暉峻および彼の生涯の大事業である労働科学研究所の評価となると,必ずしも一致をみていない.肯定的にみる人たちは,暉峻の活動が産業の実際面,社会政策,労働政策にたいする科学的根拠をあたえた点で積極的に評価している.他方,批判的な人たちは,暉峻の意図理念はともかく労働科学のはたしてきた社会的役割より,活動ぜんぱんに批判的である.

教室めぐり・29 鳥取大学衛生学教室

医学における私の夢

著者: 村江通之

ページ範囲:P.38 - P.39

 戦争準備期の人手不足からくる過労と物質欠乏の非衛生な生活からして,ついに伝染病研究所(現在の医科学研究所)の5年目の秋から,リウマチを患うようになった.すでに闘病生活30年がすぎた.ここに至って医学,ことに日本の医学は案外貧弱なものではないかと思う.そして医師が(庶民の上にあるべき医師が)あたかも工場労働者のような行動を,集団の形で取らねばならぬようになってきては,もはや医師,ことに治療医学は行きづまってきているのではないかと,ひそかに心配している.そして現代医学の医療体制がつまらぬと叫ぶ若き医師やその卵が,あまり勉強もしないで目前の利潤を追うすがた.そして一大病院の設立を夢みてこれに走る.さて大きな借金で大病院を作る,ところが現実はこれに働く医師や看護婦や技術員の確保がむずかしいので,大きな無理をする.よって折角の大病院もやがて機能不全におちいる.
 今や医は仁術ともいうべきでなく,医は不健康人を相手の修理を目標にした,一大企業化してきているといっても過言でない.医師は一種の職工にすぎない.それがなりたてのものも,何10年の経験のもち主も平等にとりあつかわれるので,不均衡といわざるを得ないのである.

厚生だより

老人福祉関係予算要求のポイント(昭和47年度)

著者:

ページ範囲:P.67 - P.67

 社会経済の急激な変動と,急速な老齢人口の増加に当面して,老人問題はますます深刻化し,老人福祉の推進は今や全国民的な課題になった観がする.
 厚生省はその重要性に着目し,47年度予算要求の中で最重点事項として取り上げ検討を行なっているところであるが,その概算要求の概略を紹介してみることにする.

資料

厚生行政基礎調査から

著者: 中原孚

ページ範囲:P.68 - P.69

本資料は昭和45年までの厚生行政基礎調査を集計したものである.

北から南から

岐阜市のクロム汚染無気味に進行

著者:

ページ範囲:P.65 - P.65

 岐阜市の家庭井戸のクロム汚染は5月上旬明るみにでました.全市的に井戸水検査をすすめた結果,3地区で285戸の井戸からクロムを検出.うち67戸は飲用基準0.05PPMを越え,飲用禁止措置がとられました.この汚染源は,岐阜県,岐阜市などの調べで,各地区にある3つのメッキ工場と断定,県が工場の排水設備などの改善命令を出すとともに,汚染井戸は企業負担で水道にきりかえることで一応落着をみた.
 しかし,市公害課としては汚染地区住民の健康診断と汚染井戸の調査を保健所と協力して継続的に行なうこととし,健康診断は毎月1回すでに4回実施されました.さいわい現在クロムによる健康障害と思われるものはみあたらない.一方,飲用基準をこえていた汚染井戸の2回目の調査をし,このほどまとまった検査成績では,4月当時,飲用基準をこえた井戸65本のうち,前回のクロム濃度を上回ったもの21本,下回ったもの43本,変化のなかったもの1本で,前回濃度を下回った井戸の方が多かったが,基準値0.05PPMより低く,飲用してもさしつかえない井戸は全体で10本にすぎない.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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