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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生36巻11号

1972年11月発行

雑誌目次

特集 高知県の公衆衛生活動

風土と県民性—僻地とイゴッソウ

著者: 山本大

ページ範囲:P.678 - P.680

高知県の風土
 古い話だが,奈良時代に石上乙麿という人がいた.容貌が立派で礼儀正しく,秀才で学問を好み,とくに和歌がたくみで非のうちどころのない男性であった.この人がこともあろうに時の権力者であった藤原宇合の妻の久米連若売と通じたため,土佐へ流されることとなった.天平11年(739)のことであるが,このとき宇合は死んでいるので未亡人とできていたわけである.配流にあたって乙麿と乙麿の妻のよんだ歌が『万葉集』巻6にのっているが,土佐へ流されるのは大変なことで,何とか早く帰ってきてほしいとの思いを託した哀切の歌調が心をうつ.その歌詞の中に「天離る夷辺」「遠き土佐道」という言葉がよみこまれている.また『懐風藻』にみえる乙麿の伝記にも「南荒に飄寓す」と書いてある.つまり土佐は都から遠い夷辺の地で,南海というより南荒の表現がふさわしい土地として都人から意識されていたのであった.
 この事件のあったときから15年前の神亀元年(724)に,重罪人を流す遠流の国が定められた.伊豆・安房・常陸・佐渡・隠岐・土佐の6カ国である.佐渡・隠岐の島国はさておき,東国を除いて西国では土佐だけが遠流の国となっており,南荒の国といわれたのも当然であった.それだけに流人たちはたえがたい思いをいだいて謫居の日々を送ったことであろう.

風土と県民性—温暖な気候と独自の文化

著者: 安部幸夫

ページ範囲:P.681 - P.683

汽車で高知へ
 国鉄土讃本線が,トンネルをくぐり,鉄橋を渡って,徳島との県境を越え土佐路に入ると,両側の山並みが次第に狭まり,吉野川はいよいよ,その渓谷美を増してくる.これが大歩危(おおぼけ),小歩危(こぼけ)の奇勝である.両岸に聳え立つ山肌には,遙か頂の方まで人家が点在し,夜間,車窓から望見した旅人が,電灯の光を星と間違えたという話のあるほど,この溪谷は深い.
 かつては,崩災事故のため,40数日も不通となり,折り悪しく台風の影響もあって,空海路共に交通が遮断されたので,「陸の孤島高知県」と大いにマスコミに騒がれたこともあった.

衛生行政の問題点

著者: 関戸茂樹

ページ範囲:P.684 - P.686

 静かに目を閉じて,戦後の昭和20年代を回顧できる国民の数は,年とともに少なくなっているが,等しく無量め感を呼びおこすことは,当時,精神的,肉体的に消耗その極に達した国民が,よくも短年月に健康を回復し,驚異的ともいえる今日の繁栄を見たことである.戦前人生わずか50年といわれた国民の平均寿命も,現在では始めて70歳を越え,男70・17歳,女75・58歳となり,世界の長寿国に仲間入りすることができたのである.
 このことは,医学の進歩によることはもちろんであるが,正に公衆衛生の勝利であり,公衆衛生に挺身したすべての人,公衆衛生行政の最先端にあった,地域住民とともに,健康を阻外するあらゆる因子と戦い続けてきた保健所職員の努力の結果によるものである.

保健婦活動

著者: 上村聖恵 ,   山崎幸子 ,   岩崎丸

ページ範囲:P.687 - P.693

駐在保健婦と保健婦教育
 県内全地域の保健婦の配置
 本県の保健婦事業は全国の他の都道府県と異なり,保健所保健婦の県下各市町村に駐在する市町村地区駐在制を実施し,すでに25年を経過した.
 23年の当初は,わずか65人の保健婦であったため,平坦地区では数カ町村,山村地区でも2〜3カ町村を1人の保健婦が受持つといった現在では考えられない状態での出発であった.その後,計画的な増員を行ない,表1のとおり23年の保健婦1人の受持人口は,平均13,329人であったものが,47年では4,495人で,約1/3に,保健婦数は23年を100とした場合,47年には約2.7倍に増加している.

無医地区対策

著者: 中越幸男

ページ範囲:P.694 - P.696

現況
 本県の無医地区は,昭和46年1月,厚生省が調査した要領を基準にすると,109地区(該当市町村38市町村)あり,その多くは,東西に連なる四国山脈ぞいの山間部に点在している.また,同様に,無歯科医地区についても,130地区(39市町村)が,山間部に多く点在し,前述の厚生省調査の結果が,まだ発表されていないけれども,無医地区,無歯化医地区とも多い県といえると思う.
 昭和46年1月の調査は,当該無医地区の,中心的な場所を起点として,おおむね半径4kmの区域内に50人以上が,居住しており,かつ容易に,医療機関を利用することができない地区を対象としている.

ハウス病などの対策

著者: 伊野等

ページ範囲:P.697 - P.699

 近年日本各地で野菜のビニールハウスによる栽培が冬から春にかけての端境期をねらって行なわれている.しかし栽培管理に当たる農民は,生産に主力が注がれるあまり,健康についてはややもすると疎かにする感があった.しかし健康を害する者がみられるようになり「いわゆるハウス病」として関係農民に不安を与えるようになってきたわけである.
 本県でもこのハウス病の発生要因に対処するため,調査を徳島大学医学部白井伊三郎教授に依頼し,1967〜68年3回にわたり県下で最も先進地であり,しかも有数のハウス地帯である県東部の安芸郡安田町で農家の健康状態を調査した結果,大要次のような結果が判明した.

脳血管疾患とその対策

著者: 土居正洋

ページ範囲:P.700 - P.703

 すべて対策はその地域の実情や特性に対応して立案されていなければ,絵にかいた餅に終りやすい.したがって以下紹介する本県の対策は,本県のような立地条件をもつ地域の中で,どのようにすすめ,またどのように問題点や悩みに取組んでいるかを述べたものである.

高知県の公衆衛生活動への反省と期待

著者: 青山英康

ページ範囲:P.704 - P.707

 高知県の公衆衛生活動を第三者の立場で論ずるには,決して適切な立場にあるとは思えないが,かといって教室内の誰に依頼しても大同小異である以上,かえって一番関係が深いといささかでも自負している者の一人が,その責任を果たしたいと考えた.それほど高知県の公衆衛生活動に対しては,教授以下教室員一同,教室ぐるみで「自らのもの」という自覚をもって取り組んでいるつもりである.
 このような関係ができてすでに10年余りの日数も経過し,教室関係者が,常勤あるいは非常勤の形で現在でも10名以上が高知県の公衆衛生従事者として働いている一方,研究生として,県職員め方々が教室で勉強をして下さったり,教室の研究活動の一つの特色を作っている「保健婦研究グループ」の供給源の大部分は,高知県立保健婦専門学院と高知女子大であり,このグループも今では,10名以上もの一大世帯になっている.

グラフ

トウキョウ '72—過密

ページ範囲:P.673 - P.674

発言あり

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.675 - P.677

"文明病" といかに手を結ぶか
 酒は単に栄養源としてのみではなくて,それが中枢神経の麻痺作用を呼び起こし,疲労感の消失,壮快感,満足感をまねくために,古来より "哀歓の泉" として飲用されてきた.
 しかし,酒が「人生の破壊者」としての力をあらわす契機をつくったのは,産業革命であるといわれている.それは多くの労働者が低賃金で長時間労働した後,帰る住居はスラムであり,彼らの苦痛をなぐさめ,一時的の安らぎを与えるのは.強い酒以外には考えられなかったことによるものであろう.このことは,日本でも同様で,スラム街には焼耐,粕取りが大量に出まわり.アルコール中毒の発生に大きな役割りを,はたしている.今日,世界の文明国では,ほとんどすべてアルコールが大きな社会問題となっているし,アルコール中毒は,文明病ともいうべき様相を呈している.とくに,産業構造の高度化近代化につれて,人間の生理機能を無視した交替制勤務や不規則制勤務が増加し,また,単調労働の増加による労働からの疎外感の増大,組織の合理化にともなう組織の統制力の強化が,個々の労働者をより抑圧している状況では,人生の破壊者としての酒は,単に社会の底辺をささえる労働者のみの問題ではなくなってきている.

特別連載

沖縄の医療事情(2)—介輔制度とその背景

著者: 田中恒男

ページ範囲:P.716 - P.720

 沖縄の住民が,戦後1/4世紀にわたる米統治下において,主体的に獲得し得なかった社会的要素の一つに医療があることは,前回の指摘ですでに明らかである.統治主体であった米民政府(USCAR:United States Cival Administration of the Ryukus)は,琉球行政府をして琉球政府認定による医師検定試験を通じて医師を養成し,政府立中部病院(石川市)に,ハワイ大学からの派遣医師を中心とした卒後研修計画を実施した他,physician assistantより許容枠をひろげた医師介輔および歯科医師介輔制度を整備して,一般医療の不足を補うこととした4)5).これらについても,現象自体はすでにふれたところである.
 本稿では該制度の出発とその特質について考えて見たい.

寄稿

感染症サーベイランスをめぐる諸問題

著者: 重松逸造 ,   乗木秀夫 ,   平石浩 ,   杉山茂彦 ,   井上裕正 ,   甲野礼作

ページ範囲:P.729 - P.737

 QuarantineよりSurveillanceへ―これが最近における感染症対策のあり方の相い言葉になっているといってよい.その意味は,感染症患者の強制隔離や行動制限といった,いうなれば警察行政的な措置(Quarantine)よりは,個人の自由をしばることなく,患者の発生していない普段より十分の情報を継続的に収集,解析および配布すること(Surveillance)によって,感染症対策の目的を達しようということで,人権尊重の立場に立った考え方ということができよう.
 Surveillanceという言葉は「監視」という意味であり,「患者」の監視と間違われ易いが,その真意は「感染症」そのもの,あるいは「病原体」自身を常時に監視しようということである.したがって,Surveillanceをただ「監視」というと誤解される恐れがあるので,ここでは「サーベイランス」と仮名書きにすることにした.

研究

過疎地帯における出稼ぎ労働者の実態

著者: 関龍太郎 ,   山根洋右 ,   新田則之 ,   薬師寺利明 ,   岡田尚久 ,   永見宏行

ページ範囲:P.721 - P.728

 日本資本主義の高度成長政策は,その必然として住民の生活に多くの犠牲をもたらしている.都市には公害,過密,交通事故などの多くの問題を,農山村には農業だけでは生活できないため,いわゆる「過疎現象」が進行し,地域住民の生活,経済,教育,文化,保健,医療に著しい影響をあたえている.
 日本資本主義の高度成長政策の必然としての出稼ぎ労働者は,年々増加し,その数は60万人とも100万人ともいわれている1)

講座

生態学序論(4)—エネルギーの流れと物質循環

著者: 手塚泰彦

ページ範囲:P.708 - P.713

4.生態系におけるエネルギーの流れと物質循環
 エネルギーの流れ(energy flow)と物質循環(circulation of matter)は生態系のもつもっとも基本的な機能である.生態系というシステムはエネルギーの流転からみれば解放的なシステムであり,物質の循環からみれば閉鎖的なシステムである.しかし,この2つの機能は独立に作動するものではない.物質の運動はエネルギーの消費をともなうからである.
 生態系の生物的構成要素としては,太陽の光工ネルギーを利用して無機物から有機物を合成する緑色植物(生産者)と他の生物を食う動物(消費者),生物遺体を無機物に分解する微生物(分解者または還元者)の3群があり,動物はさらに植物を食う植食動物と動物を食う肉食動物に2分されることはすでに述べた.生態系におけるエネルギーの流れと物質循環は上の群の生物の存在下で起こるのであるが,それをまとめて図示すると図1のようになる.すなわち,エネルギーの面からみると,すべての生物は太陽の光エネルギーに依存して生きている.というのは,緑色植物は太陽の光エネルギーを化学的エネルギーとして固定し,この化学エネルギーを動物や微生物が利用して生きているからである.しかし,この化学エネルギーも生物によって利用されると,最終的には熱エネルギーとなって系外に失われ,ふたたび生物によって利用されることはない.すなわち,生熊系ではエネルギーは一方的な流れである.

人にみる公衆衛生の歴史・19

社会医学研究会の活動家2.小宮義孝(1900〜)—「よろけ」より寄生虫予防へ

著者: 川上武 ,   上林茂暢

ページ範囲:P.714 - P.715

 東大社会医学研究会の代表的な調査活動として,今日,「医療の社会化」,「よろけ」がのこされている.「よろけ」は,表むき全日本鉱夫総連合会,産業労働調査所共著のかたちをとっているが,実際に調査・執筆したのは小宮義孝である.そして,これは小宮が社会医学研究会をつくっていく過程でうまれてきたといえる.
 1921年,旧制一高を卒業し東京帝大医学部に入学した小宮は新人会の活動に大きな関心をよせた.みずから新人会に入るとともに,医学部のなかにも社会科学的なサークルをつくることを考えた.彼のよびかけにこたえて勝木新次,近藤忠雄のちに曽田長宗のあいだで計画がたてられることになる.

日本列島

犬と公衆衛生—石川県・小松市/年長児に初種痘—岐阜市

著者: 西

ページ範囲:P.699 - P.699

 昭和47年6月15日,石川県小松市で飼い犬(秋田犬,2歳,オス)が飼い主の長男(1年11月)を咬み殺すという事件が起こった.通常はおとなしい犬で,坊やとも仲良しだったようだが,人間と犬では意志疎通が十分というわけにはいかないようである.
 犬が公衆衛生とかかわりを持つのは狂犬病という人畜共通伝染病の予防からと聞いているが,狂犬病が二十数年発生をみないわが国では別の犬による危害の防止に重点があるのだろう.石川県でも「犬の危害防止条例」を制定しその対策を講じているが,野犬捕獲技術員の確保や処分犬の処置など,各県でも同様とは思われる問題に悩み,必ずしも有効な結果にはなっていない.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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