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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生36巻2号

1972年02月発行

雑誌目次

特集 群馬県の総合保健活動

沿革と概況

著者: 辻達彦

ページ範囲:P.76 - P.80

 本県の保健衛生面で何が最も大切であるかを自問自答してみると,成人病ことに中枢神経系の血管損傷であることに異存がない.けれども県民の危機意識をかりたてるほどのたかまりが秋田県ではみられるようであるが,本県では明確にこれを指摘するひとはないようである.これは一面において仕合わせでもあり,とくに本県の特定疾病死亡率が全国の首位であるようなことがなく,つねに悪い方の上位であることにとどまっている点がやや積極性を欠いた理由であろう.
 また一県の保健対策が当初から完全な地域診断の下に行なわれることはむしろまれで,また,行政における部課別の当面する問題が必ずしも相互の連絡なくとりあげられるのが通例である.

衛生行政の現状と問題点

著者: 坂村堅太

ページ範囲:P.80 - P.82

 群馬県における戦後の衛生行政の推移をみると,全体的な傾向としては全国的なうごきのなかで歩んできたものと考えられる.すなわち第Ⅰ期は急性伝染病対策の重点のおかれた時期,第Ⅱ期は慢性伝染病特に結核撲滅の推進の時期,第Ⅲ期は生活環境施設整備と食品衛生行政の確立推進の時期とに別けられよう.さらに今後はこれらの基礎の上に立って,母子保健対策,成人病対策,精神衛生対策の向上推進がはかられなければならないであろう.このような見地から過去の本県の衛生行政をふりかえり,さらには今後の進むべき方向を考えてみたい.

活動の実際—公害

著者: 野見山一生

ページ範囲:P.83 - P.87

 産業の急速な発展は「環境破壊」というひずみをもたらしているが,農業県から工業県へと脱皮しようとしている群馬県も例外ではあり得なかった.
 群馬県下には,環境破壊をもたらすと考えられる事業場が,昭和46年9月現在6,400あると推定され,毎年公害苦情件数が増加してきている.

活動の実際—母子保健活動

著者: 松本清一

ページ範囲:P.88 - P.91

 群馬県における地域母子保健活動の特徴は,行政当局と群馬大学医学部の公衆衛生学教室,小児科学教室および産科婦人科学教室,それに県ならびに地区医師会が常に協力して,すなわち行政と大学と医師会の3者が緊密な連絡をとり,相互理解の上に立って推進がはかられていることである.
 群馬大学医学部の公衆衛生学教室は辻教授が母子衛生の専門家であるため,教室の研究テーマとしてしばしば地域母子保健に関する問題が取り上げられているし,毎年の学生のテーマにも必ずそれが加えられている.小児科学教室ではすでに昭和20年から松村教授が陣頭に立って,幾つかの村で乳幼児の検診や保健指導,赤ちゃん体操の指導などを行なっているし,昭和34年母子健康センターが設立され,昭和37年から県の母子保健特別対策事業として指定村を選び,そこでの妊産婦および乳幼児の健康診査と保健指導が実施されて以来,母子健康センターや指定村における健診に協力している.同様に産科婦人科学教室でも昭和34年以来母子健康センターや県指定村での健康診査や保健指導,保健所における母親学級の講義などに協力している.

活動の実際—成人病対策

著者: 藤井佐司

ページ範囲:P.92 - P.97

 最近におけるわが国の人口の年齢構成の老齢化の傾向,社会環境の変動,食生活の変化などにより,死因構造あるいは罹病傾向に大きな変貌をもたらしている.すなわち従来疾病の主要なものであった急性,慢性伝染病は減少し,一方成人病といわれる脳卒中・ガン・心臓病などが増加している.このことから,疾病予防対策のあり方が再検討され,社会防衛的施策から個人衛生的施策へと施策の変換が強く要請され,本県においても,さきに福祉群馬推進懇談会から"福祉群馬推進に関する意見書"が提出され,今後の健康増進対策の重点として,成人病対策・精神衛生対策の必要性が強調されている.特に脳卒中および心臓病対策については,県民の保健の実状および関心のたかまりに対応すべく地域における健康診断,保健指導体制の確立,脳卒中患者に対する療養指導体制およびリハビリテーション施設の整備拡充などが要望されている.さらにガンについては,検診事業の拡大をはかるとともに,医療施設の整備,ガンに対する正しい知識の普及などに対する配慮が望まれている.
 このようなことから県においては保健衛生対策の重点の一つとして成人病対策をとりあげ,その推進をはかっているところであり,その一端を紹介したい.

活動の実際—地域精神衛生活動

著者: 中沢正夫 ,   江熊要一

ページ範囲:P.98 - P.102

 「群馬県における地域精神衛生活動」と一口にいっても,その活動の状況は地区により濃淡,凹凸がありけっして全県一様ではない.図1に示したものは,保健所別の精神障害者に対する訪問活動の状況(昭和44年)であるが,最も活発な伊勢崎保健所管内と最も動きの鈍い館林保健所管内では,訪問頻度にかくのごとき大きなひらきがあるのである.もちろん,全く精神衛生にとりくんでいない地区は群馬県にはない.図2に示すごとく,全国的にみても群馬県は,地域精神衛生活動の比較的活発な県の1つなのである.それにもかかわらず,全県的にほぼ同じペースで活動が行なわれないのは,そのスタートにおいて比較的少数の医師と保健婦の自主的,自覚的むすびつきが,中心的役割を果たしたためであろう.すなわちそのむすびつきの可能だった地区から蚕食的に発展していった歴史をもっているのである.そしてその発展の経過の中で最も当県に適した方式を模索するのに十分な時間を使っているのである.たとえば「精神障害者は原則として保健所保健婦が訪問を行なう」という国の方針について群馬県でも2,3の保健所で実行されたが活動が発展すればするほど不合理であることがわかり,現在では実践面で自治体保健婦とタイアップする必要にせまられているし,所により自治体保健婦の活動の比重の方がつよいのである.

活動の実際—学校保健

著者: 佐藤ち江

ページ範囲:P.103 - P.108

 教育の目的は心身ともに健全な国民の育成であると,教育基本法に明示されているが,将来平和的な国家および社会の形成者となる児童,生徒の健康管理をつかさどり,保健教育を推進している学校保健は重要な意義をもつものと考える.「科学的な保健知識を理解して,安全で健康な生き方の実践力や態度を養なう」ことを目的とした保健教育が,健康診断,健康管理などを中心とする心身の管理,環境衛生,安全の管理などという保健管理を基盤として推進されなければ学校保健の充実は望み得ないであろう.児童,生徒の保健管理体制は,昭和33年学校保健法の制定を機会に,その原則がうちたてられたが医学の進歩,公衆衛生の向上,ならびに高度経済成長,社会生活の変貌などの諸要素により新しい観点から検討された保健管理体制を樹立していかねばならない.そしてこれら保健管理を保健教育の展開にどうつなげていくかが,学校保健としての大きな課題である.

福祉と公衆衛生

著者: 羽生田進

ページ範囲:P.109 - P.111

 戦後20年を経てわが国の経済はめざましい発展を遂げ,60年代末には自由国家群の中でGNPは世界第2位にまでなった.この高度経済成長は60年ごろを転機として国の高度経済成長政策に基づく,工業立国の強力な推進を基盤として,急速なる発展過程を経て今日に至っている.
 しかしながら,この経済成長第1主義の政策は日本を経済大国たらしめた反面,多くの社会的ヒズミを生み,70年代を迎えてその反省期に入った.

座談会

地域保健活動と県民性をめぐって

著者: 坂村堅太 ,   萩原進 ,   金子裕 ,   箕輪真一 ,   池上直一 ,   内堀千代子 ,   辻達彦

ページ範囲:P.112 - P.121

 上州といえば「かかあ天下とからっ風」という言葉が即座に出る.果たしてこれは群馬県の特徴をいい得たものだろうか.山間部と平野部を抱えた群馬県のこと,県民性といっても一概に規定しえないかもしれない.今回の座談会では県民性の問題を基調として地域保健活動の問題点や将来などを語り起こしていただいた.

グラフ

トウキョウ '72—日かげ—奪われゆく日光

ページ範囲:P.71 - P.72

発言あり

環境庁長官殿

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.73 - P.75

人間の生活に視座を
 今日,環境問題といえば,ほとんどの人がすぐに公害に想いをよせる.たしかに地球に無限の資源があるわけではなく,宇宙船経済論から見ても,汚染され破壊された地球の明日は,まさに憂うべき状況であろう.地球以外の系に移動する人類の姿は,現在のところSF以外の領域では扱われない.そうした中ての環境汚染を阻み,破壊をくいとめるには,ひろく地球科学的スコープに立った見識が必要であろう.
 ところが,今日のわが国の公害論は,科学以前の段階で留まっているように思う.すなわち過去の科学の体系の中で重視されてきた,現象の発見に資本はよりすがろうとする.予測を主要な関心とする近代科学の論理は通用しない.そして公害は加害者—被害者の対応,善玉と悪玉という単純化された形で論じられる.たしかに水俣や阿賀野川,神通川などの例は,そうした観点から割り切れる内容をふくんでいる.しかしこの論理は,私害にあてはまるものであって,今日おもな関心をよせられている光化学スモッグなどにはあてはまらない.すべての生産活動に普遍的に通じる原因では,善悪の単純対応はなり立たないのである.しかも,その被害が,しばしば老幼,貧困者に集中するだけに話はよけい悲惨なことになる.

講座

放射能と放射線(2)―放射線によるriskの正しい認識と防護への道程

著者: 山県登

ページ範囲:P.125 - P.128

被ばくの現状
 わが国における放射線被ばくの現状をみるについては,もちろん個人々々ではなく,また放射線作業従事者とか患者という個々の集団でもなく,国民全体に対する危険度がどのような放射線源からどのくらい見込まれるかという見地をとる.そして,国民全体に対する危険度をはかるには,積算値ではなく平均値すなわち国民線量を評価の基準にする.
 個人々々の被ばくを合計したうえで,全国民にならしたものを国民線量(population dose)という.これはさらに,遺伝および身体的効果に分け,前者については生殖腺の,後者については造血を行なっている赤色骨髄の被ばく線量が算出の根拠になるが,それぞれ国民(有意)遺伝線量および国民(有意)身体線量という.

婦人労働(7)

著者: 嶋津千利世 ,   原田二郎

ページ範囲:P.129 - P.132

3.天皇制的労働関係の成立
 日本の機械制生産も,マルクスが『資本論』によって一般化したような搾取の手段としての機能を遺憾なく発揮しながら,さらに日本的特色をおのずからそなえていた.すでにふれたように,日本では,マニュファクチュアは,みずからを否定することによって機械と大工業を成立させるという程度までには達していなかったし,また,資本が自由に利用できるようなプロレタリアートの集積もなかった.西ヨーロッパでは,機械制生産の成立によって,労働者は「妻子を売る」奴隷商人となったのであるが,日本では,この役割を口入や,桂庵がひきうけることになった.また,日本の資本家は,製品にたいする責任感よりは自分の懐にたまる剰余価値にいっそうの関心をもっていたので,より柔順な年少者だけを雇用しようとした.したがって未婚者がおおく,3年くらいで嫁入りのために退職してゆくことがいわば習慣として成立しており,資本家はこのあいだにできるだけの労働を搾りあげることに腐心することになる.慣習と資本家の欲望が習合して短い勤続年数という慣習,あるいは工場労働の実績をつくったのである.
 資本主義社会における発展の不均等性はいわゆる第1部門すなわち生産手段生産部門と第2部門,つまり消費部門とのあいだで決定的であり,不可避的であったが,この法則は工業と農業のあいだでもあきらかにみられる.

研究

医師の移動状況—北海道に従業地を有する医師

著者: 西三郎

ページ範囲:P.133 - P.137

 わが国の公衆衛生の向上および増進のために保健医療従事者の役割は今後ますます大きくなり,さらにその需給計画の策定の重要性も高まっている.保健医療従事者のなかでも医師については,その不足について数多くの報告がなされ,また国として,医科大学または大学医学部の新設を認めるなど,ようやく医師不足対策に向けて動きだしてきた.しかし,それら医師養成の新大学は,その多くが私立系であり,また医師の移動についての実態も必ずしも十分には明らかにされてはいないなど,医師不足対策について今後に多くの課題が残されているといえよう.このような医師不足の現状に対して,医師の移動状況の実態を明らかにし,計画策定の資料に資する目的で本研究を行なった.なお,医師の個別的移動に関し,横浜市立大学医学部卒業生の追跡調査を行なった古屋野らの報告(教育社会学研究23集,43〜59頁,1968)が見られるが,いまだその数も多くはない.さいわい厚生省科学研究費補助を受け,厚生省医師調査の資料に基づいて分析をする機会を得,個別的に医師の移動について追跡を行なったので報告する.なお今回の報告は,北海道に従業地を有する医師に関し昭和40年12月末日現在および昭和41年12月末日現在の資料に限った.

人にみる公衆衛生の歴史・10

福原 義柄(1875〜1927)—社会衛生学の移植

著者: 川上武 ,   上林茂暢

ページ範囲:P.122 - P.123

 日本の衛生学は,社会衛生学・社会医学と自らの関係を本格的に検討したことがなかった.社会衛生学と社会医学の異同は別に論じるとして,これらの学問をどううけとめるかは衛生学の発達のうえで欠くことのできない重要な課題である.この点をあいまいにしてきたために,戦後アメリカ医学の導入とともに公衆衛生学が衛生学より分離されたものの,その概念・方法は中途半端といわざるをえない.
 もちろん社会衛生学といってもその性格は多様で,同じ言葉ですべてを包含するには無理がある.ここでは,福原義柄を介して紹介された社会衛生学の内容をふりかえってみたい.

根をおろす医師会活動

群馬県・高崎市医師会

著者: 箕輪真一

ページ範囲:P.124 - P.124

 高崎市は人口20万.北関東の交通要所の商業都市で,最近は市郊外に工業化が進み,人口密度はドーナツ化の現象を示しはじめている.医療機関は病院21,診療所160,当医師会員228名である.
 当医師会の地域保健活動は,昭和22年新生医師会が誕生したとき,引揚者の救護について会員から話題が出され,高崎駅構内に出張救護班が出動することになったのが発端である.その後時代の変遷とともに,会員の中から幾多の地域社会の保健問題が提起され,それらに対応する組織活動が積まれていった.たとえば,農村出身の核家族の若妻の指導から始った母子保健指導,非行少年の補導に端を発した純血教育,交通事故急増に対応するたあの学校安全教育や交通災害救助訓練,工業化に伴う公害対策等々である.何れも地域ニードに対応するための素直な地域活動がなされて今日に至った.つまり当医師会の地域保健活動の特徴は,意識的な重点対策ではなくて,"ソツのない地域ニードに即応した常時活動"であるといえよう.これが日本医師会に認められ,本年秋,最高優功賞をうけた.以下,当医師会が現在行なっている主な活動を紹介しよう.

読者だより

足尾見聞記

著者: 林えいだい

ページ範囲:P.138 - P.139

足尾へ行くため大きなリュックにカメラの三脚をさげて両毛線を桐生駅で降りた.するとホームにいた駅員が走り寄って来て,「もう足尾線はジーゼルになったから蒸気機関車の撮影は駄目ですよ.惜しかったですね,ほんのこの間まで通っていたのですがね」
 「いや,蒸気機関車の撮影ではなくて銅山の公害……」

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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