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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生36巻4号

1972年04月発行

雑誌目次

特集 医療保険抜本改正 Editorial

公衆衛生と医療保険拔本改正

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.216 - P.217

 周知のように昨年秋,昭和44年8月の厚生大臣諮問に対して2年の審議の後,社会保障制度審議会(昭46・9・13答申)および社会保険審議会(昭46・10・12答申)が「医療保険制度の抜本改正」について答申を行なった.国民の生命と健康に重大な影響をもたらさずにはおかないこの問題が,厚生行政の重要課題として論議されるようになってすでに久しい.しかし今朝(昭46・12・26)の新聞は,赤字対策と抜本改正を分けてさし当たり47年度は赤字対策にとりくむという厚生省の方針を伝えている.厚相の「一元化構想」や諮問案の被用者家族の国保移管などを正面から否定した両答申を受けて,抜本改正の政府案がどのようなものになるか,またこの国民福祉の喫緊の重要課題が果たしていつどのような形で決着を見いだすのか,その前途はますます混迷の度を深めている感が深い.ともあれ抜本改正の問題は前記の公的な二答申によって,その行方は混沌としながらも今や政治の舞台の前面に押し出されるに至ったことは否定できない.医療の抜本改正については,とくに昭和44年6月の自民党による国民医療対策大綱の発表を契機として,関係諸団体,政党などからこれに対する批判とそれぞれの基本的な見解,政策などが世に問われており,また昨年秋の前記の二つの審議会の答申に対しても,各方面からのこれらに対する批判,論評はすでに枚挙に暇のないほどである.

国民保健と「医療保険」の限界—医療保険再編成構想にひそむもの

著者: 東田敏夫

ページ範囲:P.218 - P.225

Ⅰ.医療保険制度再編成案のねらい
 わが国における医療の現実はまことに分裂症的様相を示している.ここ数年間をみても,大学紛争,国公立病院スト,自治体病院閉鎖から,心臓移植,薬害,医療公害,人体実験,ニセ医師の横行などがあり,日本医学会総会も「医の倫理」をスローガンとしなければならなかったし,「医療を告発する」市民の会も拡がっている.昨年は,「中医協メモ」をきっかけに「保険医総辞退」に突入した.しかも農村へき地の医療の空白はつづいている.この時,国民医療問題に関連して,見逃すことができないのは,社会保障制度審議会(以下「制度審」)と社会保険審議会(以下「保険審」)の答申を「露払い」として,自民党の「国民医療対策大綱」の基本路線が着々と進められるだろうということである.
 昭和44年8月5日,厚生大臣は,制度審および保険審に,「現行医療保険制度を下記の方針のもとに再編成することについて」諮問した.①国民の健康管理体制に密着した医療保険制度を確立する.②社会保険方式を今後とも医療保障施策の中核とする.③保険料負担の均衡を図る.④給付の漸進的合理的改善とその格差是正を図る.⑤財政の長期的安定を図る.医療給付の適正化を図る措置を講ずる.そして,厚生省「医療保険制度改革要綱案」(以下「厚生省案」)を示し,具体的には,①勤労者保険と国民保険の二本立とし,健保家族を国保にくり入れる.②「社会保険公社」で管理運営する.

公衆衛生と医療保険抜本改革—とくに二つの審議会の答申を中心にして

著者: 吉田秀夫

ページ範囲:P.226 - P.229

大詰めにきた医療保険の抜本改正
 医療保険制度,そのなかでも中核ともいうべき政府管掌健康保険の尨大な赤字を理由とする医療保険の抜本改革が指向されてから久しい.約4年ぶりの難航でようやく強行採決成立実施をみた昭和42年8月の健保特例法そのものが,2年間の時限立法であり,そのあいだに政府は医療保険の抜本改正法案を国会に提出するという公約を果たせず,その2年目の44年8月,自民党の「国民医療対策大綱(44年6月)」をうけて作った厚生省の医療保険改革要綱案によって,社会保障制度審議会と社会保険審議会がそれぞれ審議を開始した.ところが46年7月,史上初の保険医総辞退突入という日医指令による抵抗が介入し,約1ヵ月文字通り社会不安をいろいろな形で全国各地にひき起こしながら,そのくすぶりがさめやらぬさなかに前記二つの審議会は9月,10月と相ついで懸案の答申を政府に提出公表したのである.とくに7月28日佐藤総理,斎藤厚相と武見日医会長のいわゆる妥結項目12のうち「つぎの通常国会に健康保険の抜本改正法案を提出する」とうい公約は重大である.まさに待ったなしに抜本改正案が登場するのであろうということである.

公衆衛生と医療保険抜本改正

著者: 地主重美

ページ範囲:P.230 - P.233

「答申の骨子」
 保険医総辞退のあとに出された社会保障制度審議会ならびに社会保険審議会の答申は,わが国のかかえている医療問題について,公的機関の考え方を表明したものとして注目されなければならない.
 二つの答申は,現行医療保険の財政安定のための抜本的改革案を諮問されたのに対してこたえたものであり,いわゆる医療問題じたいを直接に取り扱ったものではない.しかしながら,保険問題と医療制度は相互に密接に結びついており,保険財政の安定策も,医療制度,すなわち医療供給体制との関連を無視してはありえないはずである.答申もこの点を卒直に認め,保険制度の抜本改革を行なうためには,医療制度の改革を前提としなければならないことを明確に指摘している.

公衆衛生と医療保険抜本改正

著者: 朝倉新太郎

ページ範囲:P.234 - P.238

これまでの経過
 健保抜本改正の論議がおこってからすでに久しいが,去る9月14日,社会保障制度審議会(内閣総理大臣の諮問機関,以下「制度審」と略記)が,また10月8日には社会保険審議会(厚生大臣の諮問機関,以下「社保審」と略記)が本件に対する答申を出すに及んで,法改正のための準備手続きは一応完了した.しかしこの問題は,わが国の医療保障制度の根幹にかかわることであるから,たとえ法的な準備手続きがすんだとはいえ,実際に改正がすすむまでには,さらに困難な過程,たとえば各政党,各関係団体の了承など,いわば国民的同意をとりつけるための社会的,政治的手続きをふむ必要があり,一部改正ですら非常に難航したこれまでの経過からみて,今後どう推移するか予断はできない状況である.
 そもそも本問題がとりあげられたのは,昭和36年,国民皆保険体制が完成したときにさかのぼる(資料2参照).それまで,医療保険制度に内在あるいは外在するあらゆる矛盾,欠陥に目をつぶってきたのであるから,とにかく皆保険にこぎつけた段階で,わが国の公衆衛生と医療制度全体をもう一度見渡し,その中で保険の位置と役割を明確にし,内容を充実し,運営の改善をはかる方策をたてることにはだれしも異存のないところであった.

医療保険のゆくえ

著者: 水野肇

ページ範囲:P.239 - P.243

医療の危機
 7月一杯行なわれた日本医師会の総辞退は一応収拾され,そのさい,政府と日本医師会との間で決められた約束に従い,目下,中央社会保険医療協議会で診療報酬の引上げをめぐって議論がつづけられている.だが,いうまでもなく,こういったことだけで,医療問題が解決するのではない.いわゆる抜本改正がどうなるかによって,こんどの総辞退が,国民にとって,生きるか,死ぬかということになる.
 「医療の危機」ということがいわれはじめて,もう数年にもなる.もちろん,危機のとらえ方は人によって千差万別であろう.なるほど日本の医療制度,とくに社会保険は,形のうえではヨーロッパの各国のように整っている.国民皆保険であるし,診療機関も比較的整っているといえよう.それでいて,医療の危機が叫ばれるのは,その内容が,アンバランスであったり,貧困であるためだといえよう.

グラフ

トウキョウ '72—階段+階段+階段+

ページ範囲:P.211 - P.212

発言あり

予防給付

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.213 - P.215

健康の保持増進に不可欠
 健康の定義が従来の単に病気をしない状態といった消極的な考え方より,リハビリテーションまで含めた精神的,肉体的により良好な状態であるという広範囲な概念に拡大してきたことはいうまでもない.
 ところが一般通念としてはいまだに消極的な考えに止まっており,医療保障の中核をなす健康保険法自体においても大正15年に制定,施行になりその後改正はされているが,保険給付については大きな前進をみていないといえよう.したがって健康保険法の給付内容が医学の進歩に伴っていないことに問題があるわけである.

講座

婦人労働(9)

著者: 嶋津千利世 ,   原田二郎

ページ範囲:P.258 - P.261

戦後日本の婦人労働
 第2次世界大戦は「総力戦」としてたたかわれ,経済体制も文化制度も,すべてのものが戦争遂行に照準された.そして,男も女も大人も子供もこの目的へむかって駆りたてられた.東北地方からは,小学校--当時の国民学校--をでたばかりの子供で満席の列車が日に幾本となく到着した.資本家は国家とむすびついて暴利をむさぼりつつ戦時下を口実にあの欺瞞的な工場法をも停止し,婦人や年少者の労働時間や夜業を無制限にした.そして,前にもふれたように,婦人の労働領域をひろげ,生産現場や事務員として大量の婦人が動員され,徴用された.この結果,戦時下の婦人は搾取され,搾取を原生的労働関係のもとであられわるような形で強化され労働災害をこうむり,肉体の荒廃を強制される反面で,時間をまもることを教えられ--現在では想像もつかないかもしれないが,むかしは,講演会などでも,たとえば浦和時間とか○○時間というのがあって30分や1時間くらいおくれるのはざらであった--一定の目的にしたがって一定時間,規則正しく,前後の工程の人と調和をたもちながら働くことをおしえられ,労働者は男女の別なく労働そのものにおいて訓練され,組織され,きたえあげられた.近代科学の粋をあつめた工場ではたらいた成果を婦人たちは自覚するかしないかにかかわらず身につけたにちがいない.

教室めぐり・31 久留米大学衛生学環境衛生学教室

健康を守る運動に科学的指針を

著者: 高松誠

ページ範囲:P.255 - P.255

沿 革
 昭和24年12月,学制改革にともない,衛生学教室は,衛生学・環境衛生学講座と衛生学・公衆衛生学講座とにわかれた.他の医学部にみられるように,衛生学と公衆衛生学とにわかれなかったのは,特に意味があるわけではなく,多分に語呂あわせの感があった.従来からの衛生学の担任者であった岡野丈雄教授は,公衆衛生学の講座主任となり,環境衛生学教室には安倍弘毅教授が招かれた.このとき寄生虫学教室もできて,衛生三講座がそろった.安倍教授は20年間にわたり教室を主宰され,その間,関係の業績論文数は142篇の多きにたっしている.昭和44年,安倍教授停年退職のあと,熊本大学から高松が招かれて,二代目の環境衛生学講座をひきうけることになった.昭和45年,すなわちいわゆる'70年代の重要な学問上の研究課題として,国士の環境破壊に対して人間の健康を守る仕事が要求されるようになったとき,かつては単に語呂あわせにすぎなかった環境衛生学教室の名称が,なにか生きいきと新鮮な感じをあたえ,多くの人々の期待をうけるようになったことは不思議なものである.

人にみる公衆衛生の歴史・12

国崎定洞(1894〜1937?)—社会衛生学より革命運動へ—(2)革命家への道

著者: 川上武 ,   上林茂暢

ページ範囲:P.256 - P.257

ドイツ留学
 1926年9月,国崎はドイツ留学の途についた.ドイツ留学→教授という明治いらいの東大の慣行よりみれば,医学者としての将来を保証されたのも同然であった.このような世間的な評価はともかく,カーエスの社会衛生学,マルクス・エンゲルスの国,レーニンの社会主義革命のソ連を見聞できるのは,彼にとっても大きな喜びだったはずである.
 だが,無条件に留学を喜ぶわけにはいかない事情が国崎をとりまいていた.一つには洋行の手続を警視庁でなかなか許可しなかったためともいわれ,また個人的には妻斎藤ともの病が前途に暗い影をおとしていた.伝研時代ラボランチンであった斎藤との結婚は,当時の社会通念からすれば破格のことであろう.家庭の反対もつよかったが,助教授として本郷にうつるや,国崎は同棲にふみきっている.妊娠腎より腎臓病を悪化させ実家の六畳間に臥している妻の存在は彼に出発を躊躇させていたという.

研究

手洗いの疫学的考察と保健指導

著者: 小林みち

ページ範囲:P.262 - P.264

 最近赤痢は急激に減少した.昭和27年,111,709人口10万り患率130.1にも達した赤痢発生は,その後,年ごとに減少の一途をたどり,44年は12,883人(12.5)と戦後最低を記録し最盛時の1/10以下に減少した.これは国の防疫対策の充実,とくに食品および環境衛生の向上などの諸対策の成果であろう.しかし激減したとはいっても,いまだ法定伝染病のうちでは首位をしめしており,学校の集団赤痢も皆無ではない.今後さらに平常時の防疫対策の強化が期待されている.

都市型保健所の予約方式による胃がん検診の試案

著者: 園田真人 ,   中川幸彦 ,   西田雄一 ,   井上久雄

ページ範囲:P.265 - P.267

 わが国の結核患者は,昭和38年以来,急速に減少してきた.これは,抗結核剤による患者の治癒ということも大きいが,結核対策に真剣にとり組んだ,わが国の患者管理方式が,成果をおさめたものであるといえよう.
 しかし,現在の結核対策は,患者の減少傾向が鈍化するなどの現象がみられ,反省期に入っており,さらに強力な方法を推進する必要がある.

正常値範囲の低脂肪食および高脂肪食によるラットの長期飼育と高コレステリン含有高脂肪食に及ぼす影響について

著者: 佐伯芳子 ,   高山光太郎 ,   佐伯篤

ページ範囲:P.268 - P.270

 低栄養や異常栄養が人や動物の成長,体組織および機能に及ぼす影響について1,2,3)食餌中の脂肪やコレステリンと血中コレステリンレベル,動脈硬化症などとの関係についても諸家による多くの研究がある.しかし,栄養学的に正常値範囲の食餌を比較してもその結果もまた正常値範囲であると予想されている.さらにまた,成長期の食餌の影響が,ことに正常値範囲にある場合,その後の時期に与えられる食餌に及ぶか否かについてはまだ研究されていない.
 この実験は,正常値範囲の食餌中の脂肪含有率の差が,ラットの離乳直後からの長期飼育における結果,および,その後の時期に与えられた高コレステリン含有の高脂肪食に対しいかなる影響を与えるかを知ろうとして行なったものである.

異なった餌によるラットの電気飼育後,高コレステリン食投与時のACTH刺激に対する反応について

著者: 佐伯篤 ,   鈴木義昭 ,   高山光太郎 ,   佐伯芳子

ページ範囲:P.271 - P.272

 著者らはラットの正常値範囲の低脂肪食と高脂肪食による離乳期よりの長期飼育の差が,後期飼育の高コレステリン含有高脂肪食に異なる影響を及ぼすことをみとめたが,そのさいACTH刺激に対する反応および生体成分について両群間の比較を行なったので報告したいと思う.

螢光染料の皮膚に対する影響について(第1報)

著者: 藤原喜久夫 ,   宮治誠 ,   黒田文子

ページ範囲:P.273 - P.275

 螢光染料(Fluorescent Dye)**は1950年以降,衣料処理剤として急速に需要を増し,現在ではほとんどの衣料および紙類の増白に使用され,また,洗濯物の増白効果を狙ってほとんどの粉末洗剤にも混用されている.このようにその使用量および使用範囲が増大しているのにもかかわらず,人体に対する影響についての検討はあまり行なわれていない.螢光染料の毒性の研究として本邦では谷川ら1)の研究をまずあげることができる.谷川ら1)は"ケイコールなる製品はほとんど無毒なるも,加熱酸水解などの操作を加えられる時は有毒なる物質を若干産生するものと考えられる"と述べている.最近衣類や紙および洗剤中に混用されている螢光染料によって皮膚炎を起こすという報告2,3,4,5),また,マウスの皮下に長期にわたって螢光染料を注射し,同時に紫外線を照射すると,皮膚癌が発症したとの報告6)も現われてきた.このような状況の下に著者らは螢光染料の人体に対する影響を再検討する必要を感じ,今回はまず皮膚に対する影響をモルモットおよび人体について研究したので報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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