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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生36巻5号

1972年05月発行

雑誌目次

特集 疲労

「社会」の疲労と「個人」の疲労

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.282 - P.292

生理的疲労と社会的疲労
 毎日続けている仕事でも,休憩せずに何時間も続けていれば疲れてきて,肩や脚の筋肉が固くなったり,痙攣をおこしてくる.このような疲労は,一種の生体の防衛反応であって,これを見過ごして,さらに継続して仕事を続けると,食欲はなくなり,体重は減少し,時には発熱して,疲労困憊におちいり,作業能率が著しく低下して,ついには作業ができなくなる.
 しかし,疲労の徴候があらわれるか現われない内に,しばらく休息してから再び仕事を始めるようにすれば,作業能率もおとさず,病気にもならず,災害や事故のおこる危険も少ない.

「疲労」と「疲労感」—疲労の今日的意味

著者: 橋本邦衛

ページ範囲:P.293 - P.300

 第2次大戦を契機とするエレクトロニクスのめざましい進歩によって,高性能の通信技術と情報処理技術が急速に開発され,短時日の間に情報化時代といわれる高度技術社会を作り出した.すでに戦前においても,第1次産業革命以来,動力機械が生産手段の中に導入され,苦役的な重筋労働は徐々に減ってきてはいたが,日本では1950年代からオートメーション化の進行とともに筋力依存,型の労働は急激に減り始めた.その上労働時間も短縮されてきたので,かつて問題になった産業疲労は今やほとんど解決されたかに見える.
 しかし,本当にそうであろうか.

疲労の保健

単調労働と疲労

著者: 森岡三生

ページ範囲:P.301 - P.304

1
 わが国の労働科学の開拓者である暉峻義等先生は,労働者を現実の貧窮と労働の苦痛や負担から解放することへのヒューマンな情熱とともに,労働活動が本来的にもっている美への憧憬こそ労働科学研究者のモチーフであることを,色々な著述に強調しておられる.先生のいう労働の美は外見的な快活な動作やリズム,生々とした顔や目差しのみでなく,社会的な生産組織に結合され,生き抜いてゆく人間的活動の意味における善意と協働をそこに見るからで,労働の美とは真実であり道徳的であるとさえいっておられる1).産業における労働を人間の権威と人格を基盤に打立てようとしたところに労働科学が方向づけられていると思う.
 今日,人間の叡智が科学技術の進歩を介して大きく社会を引っぱっている事実に,何人も目をそむけることができないと思うのだが,そういった人類社会の発展の基礎に,皮相的ないい方かも知れないが,人間のもつ怠惰と欲望の権化としての特性が作用しているように筆者には考えらられてならない.最も怠惰も欲望も表裏のもので,嫌なもの自己にプラスにならないことは怠け,好きなこと自分の欲しいものにはどんな努力も厭わない.しかし努力や苦労が目的ではないから,目的のための努力は最小限に,すなわち努力に対する目的の収量,いいかえれば効率を最大限にしようとするところに人間の智恵が働く.こういった人間の特性に人類社会の進歩と技術の発展があったのではなかろうか.

交替制と疲労

著者: 河合正武

ページ範囲:P.305 - P.308

 作業所においては連続作業(たとえば炉作業で作業を中断することができない場合など),あるいは設備を長時間(1日16時間以上)稼動させねばならない場合に交替勤務制が実施されている.一般に男子にありては三交替勤務が多く,女子にありては二交替勤務が普通である.三交替制の場合には昼勤,晩勤,夜勤の三直があり,3つのグループで各々勤務している(たとえばA組—昼勤,B組—晩勤,C組—夜勤).二交替制の場合は男子においては昼勤と晩勤または夜勤の二直があり,女子においては昼勤と晩勤の二直にして2つのグループが各々勤務している.各勤務番はわが国では固定することなく多くの場合3日あるいは1週間で交替しているのが現状である.
 交替制においては三交替であれ,二交替であれいずれにおいても夜間に労働しなければならないということ(夜間労働)と夜勤の場合には勤務が終って後,昼間に睡眠をとらねばならない(昼眠)という二つの宿命がある.ここではこの問題を中心として疲労防止の観点より交替性について申し述べる.

長距離運転と疲労

著者: 谷島一嘉 ,   池田研二 ,   大島正光

ページ範囲:P.309 - P.312

 自動車の運転免許を持つものが毎年増加し,自動車の保有台数もそれに伴って増え,46年度の10月末ですでに20,352,290台と2千万台を突破し,普及率が5人に1台を割ろうとしている現在,自動車そのものの性能や欠点を知ると同時に,運転者の諸特性を知ることは,自動車についての問題を論ずるに当たって欠くことのできないものである.一番身近でしかも重要な問題である交通事故についても,運転者に責任がある場合は非常に多く,見かけ上は不注意とかわき見運転であっても,その底には疲労が隠れている可能性は非常に強い.
 昭和45年度の警察庁資料によれば,1日に生ずる全事故の40%以上が,午後2時から8時までの6時間に起こり,しかも,その半分近くが,4時から6時までに集中しているという事実は何を示しているのであろうか.運転者が,運転を続けていたための疲労の状態とか,あるいは運転以外の作業に従事して,一日の蓄積された疲労の状態で運転したために,事故が起こりやすくなったのではなかろうか.

人工環境と疲労

著者: 三浦豊彦

ページ範囲:P.313 - P.316

人工環境
 人工環境というのは自然環境に対比させていう言葉であろう.
 自然環境という言葉には,自然そのままの,また自然ありのままの環境というひびきがあるが,考えてみると先進国の多くの環境は自然といっても,人工の手の加わっていることが多い.われわれは人工林のなかでも自然を感じている.

共働き妻と疲労

著者: 沼尻幸吉

ページ範囲:P.317 - P.322

 婦人への教育の普及と婦人自身の社会的な目ざめは婦人の職場進出を多くしている.そして結婚後も引き続き各職場にとどまり,かつてのように腰かけ的な職業従事者は少なくなってきた.
 農林関係をのぞいての雇用関係にある女子は昭和45年に1,086万で1),このうち有配者は450万の多きに達し,昭和40年の308万に対し42万の増加となっている.10年前の昭和35年169万に比すれば有配者の雇用は2.65倍の増加となり,あらゆる職種にわたっている.

農業と疲労

著者: 中村正

ページ範囲:P.323 - P.328

 著者は農業疲労を農業労働に主因する疲労と解した.しかし農民の疲労には単に農業労働のみならず家事労働による疲労も加わり,睡眠不足・栄養不足あるいは家庭生活での人間関係の精神負担などが疲労促進因子として働いていることが考えられる.しかしこれらの要因の影響を分析し除去した純粋に農業労働のみによる疲労を質的量的に浮きぼりすることは現代の疲労の科学をもってしては不可能であり,またそれは農民(人民)のための科学としてはナンセンスとの声さえ起こりかねまい.

グラフ

トウキョウ '72—看板—もう一つの情報源

ページ範囲:P.277 - P.278

発言あり

健康増進

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.279 - P.281

健康増進のための研究をさかんに
 最近,大きな事業所には,センパワーセンター,健康開発センターなどを設けるところが増えてきている.もともと,公衆衛生の終局の目標は,ひとびとを病気にかからないようにする,というのではなく,より健康な毎日を享受できるようにすることにあるのだから,健康を増進させようとするこのごろの風潮は好ましいことに違いない.
 しかし,具体的にどう健康増進させたらよいのかということになると,公衆衛生が案外無力であることに気づくのである.毎日の食物組成はどうあらねばならないのか,いわゆる体力づくりのための鍛錬はどうしたらよいのか,ミクロコスモスとしての衣服はどうあったらよいのか,日本人の快適作業温湿度はいくらで,季節によってどう調節したらよいのか,というような知識は,栄養,体操,家政,建築などの専門家の経験によるところ大で,深い研究はほとんどない有様である.公衆衛生という実践は厚い研究に支えられてこそ一層有用であり,実験室内の研究者にこの際,疾病防御の研究も大切であるが,健康増進のための研究に興味を持たれるよう訴えたい.

講座

婦人労働(10)

著者: 嶋津千利世 ,   原田二郎

ページ範囲:P.329 - P.332

 2「高度成長」と婦人労働
 1947年ころは,婦人労働者の産業別分布をみるとその大部分(47.7%)が紡織工業に集中していたことがわかる.この傾向は60年にもみえていた.繊維工業に働く婦人は,31.1%,「衣服,その他の繊維製品製造業」の5%をくわえると36.1%となる.69年になると,繊維工業に働く婦人は19.0%となり,「衣服,その他の繊維製品製造業」もくわえると25.7%,全体の4分の1以上をしめてはいるがこのような変化のなかで「金属製品製造業」「一般機械器具製造業」「電機器具製造業」「輸送用機械器具製造業」「精密機械器具製造業」の5業種にあつまる婦人の量は22.3%から31%にふえ,婦人労働者の産業構成がかわったことをしめしている.これを「労務者」女についてみると事情はいっそうはっきりする(ただし,ここでつかっているのは『工業統計表』60年と69年のものであるが,前者は4人以上を対象として集計され後者は20人以上と19人以下にわけて集計しているのでここでの比較はごくおおまかなところしかわからない).つまり,60年の調査では全繊維産業では39.6%,5業種合計は19.9%であったが,69年には前者が28%,後者が32.8%となった.
 また,この間に,男子労働者にたいする婦人労働者の比重も増加した.『工業統計表』によると,60年から69年までに全産業では34.8%から36.8%に増加した.

私たちの保健所・34 岐阜県・加茂保健所

管内で相つぎ保健文化賞の栄誉

著者: 長尾長男

ページ範囲:P.333 - P.333

沿 革
 昭和12年4月保健所法が公布され,翌13年11月岐阜県最初のまた唯一の保健所として当所が創建された.おそらく全国的にもいちばん古い部類に属することだろう.これは当所の位置する美濃加茂市が,県下交通網の要衝を占め,飛弾山間部を除けば,地域的にもほぼその中央に当たるという地理的条件によったのであろう.当時の建築費は国庫補助金10,000円,県費27,000円,地元寄付金4,500円の計41,500円だったという.
 現在の大学卒の初任給,あるいは白黒テレビ1台分の額である.敷地は地元の提供であり,発足当初の職員数は所長以下11名.

人にみる公衆衛生の歴史・13

加藤時次郎(1858〜1930)と鈴木梅四郎(1862〜1940)—実費診療所の設立

著者: 川上武 ,   上林茂暢

ページ範囲:P.334 - P.335

 今日"医療の社会化"といっても,多くの人にとってごく当たり前のこととしてうけとめられるであろう.しかし,この考え方も定着をみるには,いくたの闘いを必要としてきた.その口火をきったのが実費診療所設立の運動である.
 ところで現在では,鈴木梅四郎とならんで実費診療所とむすびつけて思いおこされる加藤時次郎も,その生涯は波乱の多いものであった.

研究

北海道における肺結核罹患率の推移—最近5年間の統計から

著者: 兵藤矩夫 ,   石原辰雄

ページ範囲:P.337 - P.340

 結核による死亡を昭和45年の統計でみると,全国15,873人で死因順位の第8位を占め,人口10万対15.4となり,北海道は死亡数826人,10万対15.8でほとんど差はない.新登録患者数は昭和45年全国178,940人,10万対172.3で,北海道は9,845人,188.0と高率である.
 過去の精力的な結核対策により,死亡率,罹患率は激減したが,昭和43年の結核実態調査によると,ここ数年の減少速度はやや緩慢となり,感染性患者の減少も著しいとはいえない.全国でまだ年間17万人の発生をみている結核は依然として国民の健康を脅す重大な疾病と考えられる.

日本列島

ベトナム向け米軍用化学物質(5%PCP油剤)による上水道汚染—沖縄県

著者: 伊波

ページ範囲:P.316 - P.316

 1971年5月19日早朝,沖縄本島南部の具志頭村字仲座にあるヨモチ川でウナギが死んでいるのを発見,また5月21日12時半頃,隣村の東風平村と大里村の学校給食センターで水道水からシンナー様の異臭があったという通報を受けた南部地区東部水道組合長(東風平村長兼務)は直ちに給水をストップし,沖縄公害衛生研究所に調査を依頼した.
 5月22日環境調査と同上水道の水源および付近の井戸などからサンプルをとり分析したところ.水源からとったサンプルからは6ppmのペンタクロールフェノールを定量した.同上水道は沖縄本島最南部の6町村にわたる2万4千人に給水しており,汚染が早く発見されたのが不幸中の幸いであった.汚染源の調査をしたところ,かねて政府薬務課が問題としていた一商事会社が,南風原村に保管中の米軍から入札によって払い下げられた5%PCP油剤約11500ガロンを,具志頭村字仲座の採石場跡の大穴の中に捨ててあるバガス(砂糖きびのしぼりかす)に流し込んだことが判明した.

ニュース

AMO,SEAMHOと改称—第1回作業部会開く

ページ範囲:P.304 - P.304

 アジア医療機構(AMO)が,さる2月8日から10日まで,東京,霞ヶ関の外務省で開かれた第1回作業部会の席上,名称を東南アジア医療・保健機構(SEAMHO=South East Asia Medical and Health Organization)と改めた.これは広範囲な医療情報サービス・ネットワークなどの設置などを決め,今夏,サイゴンで開催予定の第7回東南アジア経済開発閣僚会議に,日本政府から正式に報告される.
 昨年5月,クアラルンプールで開かれた第6回東南アジア発閣僚会議で合意に達したAMO(アジア医療機構)は,東南アジア地域の医療・保健の向上を図るための協力,援助機関という趣旨で,日本が主唱し,その構成国はインドネシア,クメール,ラオス,マレーシア,フィリッピン,シンガポール,タイ,南ヴェトナム,日本の9ヵ国である.今回の作業部会で,予防医学,公衆衛生面の活動が欠けているとして,活動拡充,および拡大のため,名称を,東南アジア医療・保健機構(SEAMHO)と改め,医師・医療従事者の教育,訓練,疾病,公衆衛生問題解決のための調査研究,医学医療情報サービスネットワークの設置を決めた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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