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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生36巻6号

1972年06月発行

雑誌目次

特集 性と公衆衛生

性と医学

著者: 村松博雄

ページ範囲:P.348 - P.359

 太古の昔から,あるひとつの秩序を志向するものは,人間の持つエロスやタナトスをどのようにコントロールするか,どのようなものとして認識するか,ということに最大の努力を払ったに違いない.
 が,不幸にして人類の歴史は,私たちにそのような記録を数多く遺すということをしなかった.文学・芸術・哲学その他の分野において,私たちは,人類のすばらしい遺産に接することはできる.人間の知恵と経験を集積したものとしてのしきたりや,語り伝えに接することもできる.しかし動物としての人間に内在する性に焦点をすえ,医学・生物学・心理学・社会学・文化人類学の分野で多角的に論ずるようになったのは,たかだかここ一世紀の間にすぎない.しかもそれらのもたらした多くの業積が,私たちの生活,たとえば法律や道徳やしきたり都市生活といったものに反映して,人間の生き方にひとつの志向性を与えるという段階までには至っていない.

性と家族

著者: 山根常男

ページ範囲:P.360 - P.369

 家族は性に関係をもつ重要な社会制度の一つである.したがって性と家族との間には重要かつ密接な関り合いがある.ここではまず制度としての家族が,性に対していかなる機能をもっているかということから,考察していくことにしよう.

性と性意識

著者: 篠崎信男

ページ範囲:P.370 - P.378

 昭和46年5月,総理府青少対策本部が本邦,始めての青少年に関する性意識の調査を行なった.筆者もこの調査企画の一員であったので,その結果についてやや詳細にその実状の一端を知ることができたのであるが本稿では,この全貌を画き,さらに問題点について若干指摘するに止めたいと思う.
 この調査は政府が性に関する事項を取扱うためかなりの配慮がなされた.つまり,果たして,このような調査が全国規模においてできるかどうか,また行なっても正しい結果が得られるかどうかということである.

座談会

性と現代

著者: 山下章 ,   渡辺信一 ,   祖父江孝男 ,   樋口恵子 ,   村松博雄

ページ範囲:P.379 - P.386

 様々な情報が飛翔し交う現代.「性」もその埓外ではない.しかも,余りにも商品化されすぎている.それは従来の「性」がタブー視され,抑圧されてきた反動なのかもしれない.公衆衛生でも「性」は,とかく性病とか人口問題といった分野に押しつけられてきたと見るのは誤まりであろうか.
 ここで,現代に占める「性」の位置を再見し,新しい観点での「性」へのアプローチを試みるのは徒労なのであろうか.

グラフ

トウキョウ '72—公衆便所—街のなかの個室

ページ範囲:P.343 - P.344

発言あり

性教育

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.345 - P.347

性教育組織のオルガナイザーとしての活動を
 最近の「性」についての考え方の変貌は著しく,私生児を堂々と生む歌手さえ出現する時代となった.10年も前には考えられなかった現象である.この性の開放はスカートの丈が短くなるとともに進歩してきたように思われるが,性を神秘なものとして扱う明治以降100年の教えに従順な30歳以上の公衆衛生従事者にとって,実際のところ,若いひとたちの性に対するものの考え方をすぐに理解することは難かしいように思われる.したがって,性教育をどうしたらよいのかという質問を受けるととまどってしまうのである.
 まわりを見まわせば,ポルノと称する扇情的な雑誌や映画の氾濫,性をいかに楽しむかを図解入りで詳細に説明する婦人雑誌の洪水.若いひとたちには性についての教育は必要ないようにも思われる.しかし,某電機器具メーカーの未婚女子従業員の性意識調査(前原大作博士)で,性交しても妊娠しなければ処女であると考える女性がかなり多数存在するという事実が判った.女性の「性」についての正確な理解もあまり持ちあわせていない.過多のように思われる性に関する情報も,若いひとたちに正しく伝わっているわけでないという事実こそ,公衆衛生従事者の「性教育」の出発点でなければなるまい.

研究

都市保健所のあり方と今後の展望

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.400 - P.403

 保健所は元来地域住民の生活の福祉と健康の保持増進のために設置せられたものであるが,その活動の歴史は常に社会の流動変遷とともに歩んできた.
 戦後の一時期には伝染病,結核,寄生虫などの防疫活動が重視された.

小児の慢性腎臓病

著者: 篠塚輝治

ページ範囲:P.404 - P.407

 近年小児の慢性長期にわたる疾病が社会問題になってきているが,とくに小児腎臓病は小児期慢性疾患の中で最も多く,かつ多種にわかれているので一般の関心を引くようになってきた.今日総合病院小児科病棟の腎疾患占有率は上昇し,日々多数の患児を診療しながらも脾肉の嘆をかこっているのが実情である.
 小児慢性腎疾患にはネフローゼ症候群,慢性糸球体腎炎,血管性紫斑病性腎炎,Lupus腎炎,先天性ネフローゼ症候群,Goodpasture症候群および結節性動脈周囲炎に伴う腎障害などがある.ここでは私ども臨床医が日常診療している前者とくにネフローゼ症候群を中心に述べて見たい.

特別寄稿

老人ケアの考え方

著者: 森幹郎

ページ範囲:P.387 - P.392

 ヨーロッパの高開発国では,老人ケアは「誰が」,「どこで」,「どのように」,行なっているのであろうか.これは,昭和44年のまる1年に近いヨーロッパ滞在のときにも,また,昨46年の2カ月にわたるヨーロッパ旅行のときにも,常に,私にとって最大の問題であったが,そのことについて少しく考えてみたいと思う.まず,なによりも大事なことは,老人ケアの考え方が「病院ケアからホームケア」の方向に大きく転回している,ということの指摘である.

人にみる公衆衛生の歴史・14

馬島 僴(1893〜1970)—産児節運動と労働者診療所

著者: 川上武 ,   上林茂暢

ページ範囲:P.394 - P.395

 "性"の解放と公衆衛生学とは,一見つながりをもたないようにみえるかもしれない.しかし,"性"は自然現象としての一面をもつと同時に,すぐれて社会現象であり,その意味で,"性"の問題は,公衆衛生学の重要な課題でなくてはならないはずである.
 ところで,"性"のもつ2つの側面をめぐって,体制側と人民の側では,きびしい対立抗争がつづけられてきた.今日,われわれが享受している"性"の自由も,この斗いを経てかちとられたものにほかならない.体制側は,"性"を自然現象(生殖・人口問題)の面からコントロールすると同時に社会現象(セックス)の面においても,抑圧・管理をおしすすめてきた.戦前における姦通罪,妾の公認,人工中絶の厳罰などはその一端を示している.

研究所総点検

人口問題研究所

著者: 館稔

ページ範囲:P.396 - P.397

 沿革と問題史的背景 日本はすでに近代化以前から,国土に対して,またその人口を養う経済に対して,過大で濃密な人口をもってきた.しかし近代的人口問題が社会の問題意識にのぼったのはようやく1916(大正5)年,内務省の保健衛生調査会においてであった.その問題のとらえ方は,どうして死亡率を改善し,人口の質的向上を図るかということであった.その意義は別の機会にゆずり,ここでは,日本の近代的人口問題が公衆衛生の分野から発足したことを指摘するにとどめる.ついで問題意識にいちじるしく訴えた事件は1918(大正7)年の「米騒動」であった.さらに,1920年,はじめて国勢調査が行なわれ,人口増加に関する正確な情報が得られるようになったが,1927(昭和2)年5月,内閣統計局は人口増加年100万突破と公表した.こうして,マス・メディアは人口問題を大きく取り上げ,学界や政界における論戦は拍車が加えられた.1927年7月,政府は内閣に「人口食糧問題調査会」を設置して人口問題の解決策を審議したが,その名称が示すごとく,問題は人口と食糧との関係の問題として取り上げられた.1930(昭和5)年ころから世界恐慌の波及によって,問題は人口と職業,失業問題に転換した.1930年,政府はこの調査会を廃止したが,人口問題に関する恒久的調査研究機関の必要が痛感され,調査会は政府にこれを建議して解散した.

資料

グアム島衛生予算

著者: 西三郎

ページ範囲:P.398 - P.399

 グアム島は1521年マゼランにより発見され,1898年より米国の領有となり,1970年まで米海軍の管理下にあった.現在は米国の准州で,選挙によって選ばれた知事,一院制の議会による民主政治が行なわれている.面積543.7km2,ほぼ淡路島大で南北48km,東西6.5〜13kmの細長い形をし,人口11万人(内政府,軍関係の短期滞在者4万人)観光を主産業としている.
 衛生統計は,乳児死亡率24(1967)と高いが,結核新発生人口10万対90(1969)同有病率250と低い.成人病では,心臓の疾患,高血圧症,糖尿病が重要な疾患となっている.病院は軍病院がある.

私の意見

五人の騎士と田舎老医

著者: 津田順吉

ページ範囲:P.393 - P.393

 保険医辞退の批判は保険医新聞や評論家をのぞいて医側からの発言の尠ないのは当然だという気がするが,本誌'71年12月号の「総辞退以後」は,だから唯一といってもよいと思われるし,その手きびしさも唯一と思った.だが私には5人の方々のものをごちゃでちゃと考えるしか能がない.それでも投書したい.

日本列島

母乳のPCB汚染幅ひろく浸透—PCBの製造および使用禁止の住民運動発生—京都市,大阪府/高校生の性意識について—岐阜県

著者: 山本

ページ範囲:P.399 - P.399

 カネミ油症の原因物質として知られているPCB(ポリ塩化ビフェニール)による公害や環境汚染が注目やれている折,大阪府衛生部および京都市衛生局は,あいついで,3月16日,29日に,PCBの母乳汚染がはっきりと進行していることを発表しました.
 それによると,大阪では,15人の母親の母乳から0.1〜0.7ppm,平均0.3ppm,京都では10人の母親の母乳から0.06〜0.31ppm,平均0.12ppmのPCBが検出されています.

特集をふりかえる

田舎老医の見た群馬県特集

著者: 津田順吉

ページ範囲:P.369 - P.369

 特集はまとまりのないものが多いが,この特集は真に有難かった.いっときの仕事でなく,永続させようとする意志の強さがみなぎっていた.県民性さえも考慮しているのは日本一の県だと思った.それはとりもなおさず,県民(図書館長もふくめて)大学,医師会,県,市町村自治体,保健婦,保健所の全てが日本一ということだ.新しさがなくも,順よくまとまっていた.
 老呆は本をななめにしか読めないので,理解が不十分だ.ぶつ切りに申上げたい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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