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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生37巻10号

1973年10月発行

雑誌目次

特集 危険な日用品

合成樹脂製品の問題点

著者: 和田裕

ページ範囲:P.665 - P.671

 この十年間,毎年のように食品,医薬品にまつわる問題や環境汚染問題が,公表され,その都度大きな社会問題となって,庶民を困惑させている.
 これが食品および医薬品または公害発生企業に対して不信感をいだかせる原因となり,ひいては行政への信頼感の喪失につながることは否めない事実であろう.

食品用容器包装の衛生問題

著者: 藤居瑛

ページ範囲:P.673 - P.681

 食品の容器包装としては,古くは,木の葉や,竹の皮その他木製,陶器,金属製品などが使われていたが,近代になって石油化学の発達にともない,プラスチック材料が私達の日常生活の中に広範囲に応用され,大きな有用性と有害性をもたらしてきた.
 食品包装についてみると,ポリエチレンフィルムとセロハンを積層したポリセロなどのようなすぐれた簡易軟包装ができたことによって,インスタントラーメンをはじめとする各種のインスタント食品が伸展普及したといっても過言ではない.また,かつては,小売店の店頭で小分け,秤り売りされていた味噌,塩,砂糖類もポリエチレンや塩化ビニルフィルムなどを利用して小分け包装を製造元や輸入先で直接するようになり,小売店における取扱いを簡便にするとともに人の手による細菌汚染あるいは,塵埃混入などによる汚染を防止することに役立っている.しかしながら,その一方で,新しい材料の出現とその応用は,それぞれの特性を活用しているとはいうものの,これが化学的合成品であるという点から,衛生的に有害性はないか,食品への移行性があるか,ないか,内容食品との反応はないであろうか,などが問題となる.万一配合添加剤や加工方法,使用方法などの適性,適格がえられないときには,衛生上の危害が発生するおそれがある.

繊維製品の安全性

著者: 青山光子

ページ範囲:P.682 - P.687

 衣服は容姿の美化などの社会的役割と同時に体温の調節,身体の保護清潔を保つなどの衛生的役割を有し,人間の健康保持増進上欠くことのできないものの一つである.
 古来,衣服は天然繊維が中心に使用されてきたが,化学繊維の目ざましい進出,衣料加工処理技術の著しい進歩により,現在では衣服材料の種類はきわめて豊富になり,またその性能も向上し,衣生活の合理化に大きく貢献している.しかし科学技術の進歩があまりにも新製品の開発にとらわれすぎ,その安全性に対する検討が十分行なわれなかったため,ここ数年,衣料加工処理に用いられる化学物質による皮膚障害あるいは慢性毒性など,その安全性が問題となり,人体への影響が憂慮されるようになった.

美容用製品による皮膚障害

著者: 石原勝

ページ範囲:P.688 - P.696

化粧品使用の目的
 化粧品にはそれをぬることによって皮表を整え,潤いのある状態にすることを本来の目的とする基礎化粧品と,皮膚や口唇,爪などを美しくみせるためのメーキャップ化粧品があり,このほか、紫外線吸収剤その他の化学物質を入れてこれらの効果を期待する製品もある.また化粧品としての性格をもっているが,その成分中の化学物質の皮膚や毛に対する影響がより大きいと考えられるもの,例えばヘアダイ,コールド液,薬用シャンプー,薬用トニック,薬用石けんなどは,本邦では医薬部外品として別に扱われている.
 皮脂腺からの皮脂の分泌が男性ホルモンに影響されるため,女性の皮表脂質量は男性のそれよりも一般に少なく,また30歳前後から経年的にその減少が目立つことが,今年の日本皮膚科学会総会でも新潟大学から報告されていたが,この皮表脂質量の性差のために女性がクリーム,乳液などの基礎化粧品を必要とし,とくに皮脂や汗の分泌量が減少,加えて外界湿度が低下する冬期にはより油性の基礎化粧品が多用されるようになると説明されている.他方メーキャップ化粧品は主観的,客観的に容貌を美化することを目的とする製品で,昨今の美容はこのメーキャップ化粧に重点がおかれている傾向があるが,太田母斑や顔面の単純性血管腫などを隠蔽し,精神的に好影響を与えることにも意義がある.

座談会

危険な日用品

著者: 豊川行平 ,   村中俊明 ,   西川滇八

ページ範囲:P.652 - P.664

 西川(司会)本日は"危険な日用品"ということで座談会を開かせていただきます.これはこの号の特集の表題ですが,各論的な面はともかく,総論的な面につきましては,なかなか難しくて,現在のところまとめていただく方もありませんし,しかも,いろいろな新しい危険な日用品がつぎつぎと出てまいりますし,知らぬ間に出回っていて,事故が起きて気がついたり,これからもまたあらわれてくるだろうと思います.というわけで座談会で取り上げることになりました.
 1972年の6月にストックホルムで初めて国連の人間環境会議が行なわれまして,環境汚染を防止する国民的な運動が,わが国でも始まったわけでございます.大気汚染,水質汚濁,騒音,振動,悪臭,地盤沈下,土壌汚染という7種類の公害問題に対する認識が一般的に定着してまいりました.しかし,先日来,テレビ,新聞などで報道されていますように,第三の水俣病が出てまいりまして,まだ公害病についてもいろいろな広がりを持ったもの,あるいはほかの種類の公害病も出てくる危険性が残されているわけでございます.

発言あり

「公衆衛生と私」に(本誌37巻8号)

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.649 - P.651

抜け出した悲憤慷慨,絶叫型
 人の歩む道とはさまざまではあるが,一生のうち何回か選択の岐路にたたされ,それがその後の生きかたを規定しがちなものである.苦難の森に迷いこみただ大木の周囲を歩いているにすぎなかったり,また広い大洋のなかにただ一人浮び何らなすことのできないはがゆさを感じさせ,あるいは立ちはだかる巨獣との格闘に疲れ果ててしまうこともある.公衆衛生と取り組む,あるいはそれにとりつかれてしまう契機となるものについてそれぞれ述べられはするが,実際には複数の要因が働いていてそのうちの1つ,2つが大きく抽出されはしても案外他の要因が決定的な役割をしていることもあって,そう単純ではないとは考えられるけれども,自分をみつめ,世の中をみつめての卓越した動機を聞くにつれ,慢然としてこの道を歩んできたわが身はただ恥じ入るばかりである.
 医師についていえば,大部分が臨床医として巣立ってゆくことを考えると,公衆衛生領域に足を踏みいれた人は,いわばはぐれた少数といえなくもないが,それに関係あるかどうかは判らぬけれども,従来よくあった悲憤慷慨するという絶叫型が最近ないことは何となく心の安らぐおもいである.よく自分のおかれた状態を自分自身にいい聞かせて気をとりなおすかのように強調することがあるが,それが何となくうらさびしく感じられるからである.これがないのも公衆衛生の占める地歩が周囲に認識されてきたからではなかろうか.

寄稿

保健所問題懇談会基調報告について

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.699 - P.702

 昭和47年7月はだされた保健所問題懇談会の基調報告(以下「報告」と略す)は,その前文で「今日における健康問題と保健所のあり方について(中略)基本点につき結論を得た」と声明した.この「報告」はその声明どおり38年以来行なわれてきた保健所の将来像の検討のしめくくりのひとつを示すものとして,保健所にいる私にとってきわめて関心の深いものである.
 何よりもはじめに,この「報告」は,17人の学識経験者が2年間にわたって,ぼう大な資料と現地視察を基にして検討を重ねられた成果であり,その努力に対して心からの敬意と感謝を表明するものである.

海外印象記

効果的な保健サービスを目指して—世界保健機関「保健経済学セミナー」に出席して

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.703 - P.706

 セミナーの目的
 世界保健機関が「保健経済学」と銘うったテーマで地域間のセミナーをもったのは,今回が始めてである.公衆衛生行政を担当している上級医官と公衆衛生学校教師(保健経済専攻)とが一堂に会したのも始めてである.各国とも単に研究分野としてだけでなく,実際に保健サービスの経済分析ならびに資源の財政的合理的配分などが具体的に必要となってきたことが背景としてある.
 もっとも世界保健機関としては,広い意味での保健サービスの経済的分析(医療と経済学との学際的研究)についての討論は,かなり以前から行なってきた.世界保健総会でのテーマのうち,保健経済に関連するものは次のものであった.

調査報告

社会文化的レベルを異にするグループ別精神衛生に関する理解度の調査

著者: 増田陸郎 ,   長谷川佳以子

ページ範囲:P.708 - P.712

 保健所の公衆衛生活動実践にさいしては,今日のごとき急激な社会変遷や,産業構造の変化,年齢層別の人口移動,異常刺激の多発等により,その対応するneedsに歪み生ずることがしばしばある.特に地域に密着した精神衛生活動を考える時,地域特性,社会的背景,住民のneeds認識度等の理解なくしては,この推進は困難である.目黒保健所では,今後の精神衛生活動の基礎的資料として,次のような調査をこころみた.
 昭和46年内閣総理大臣官房広報室より発表された無作為抽出による全国民対象の調査の集計報告が,性,学歴,職業別に考察されていたので,今回の調査は,同じ項目を文化レベルを異にする者と比較することに主眼をおいて行なった.

資料

ひのえうまと経口避妊薬—在米日系人の出生率の推移

著者: 角加苗

ページ範囲:P.714 - P.717

 1966年における日本の出生数は,前年度の182万から46万減少し,それはひのえうまの迷信の国民生活に及ぼす影響を反映したものとされている.
 ひのえうまはいうまでもなく60年に1回めぐって来るわけであるが,この年の出生率減少は,女児に,ひのえうま生れという不幸な運命を負わせまいとする日本の母親らしい念願の具体的な現われと見られる.著者はこの点に興味をおぼえ,さきに,日本に於ける1966年の出生減少に伴う性比の変動を調べた.その結果"ひのえうまの前年および翌年は性比が例年(0.5143)に比べ顕著に低く(両年とも0.5128),当年はきわめて高く,(0.5183),ことに前年の12月,(0.5013),翌年の1月(0.4971),当年の1月(0.5283)12月(0.5390)に変動が集中している"ことを明らかにし,その理由を"女児の1966年出生をまぎらわすための届出の作為によるもの"と推定した(1972),続いて,今回は,アメリカ合衆国ハワイ,カリフォルニア両州在住の日系人を対象に1961年から1968年までの出生率の変化を追求し,その結果在米日本人についても,ひのえうまの年にやはり出生率が減少していることを明らかにしたのでここに報告する.

健康に関する権利規定・10

世界人権宣言25周年と各国の憲法

著者: 西三郎

ページ範囲:P.718 - P.719

 1973年は,世界人権宣言採択25周年にあたり,国連では,今年12月10日の世界人権宣言デーを25周年記念に当て,世界各地で広く人権問題に関する意識高揚に役立てることにしている.わが国でも,関連行事が数多く行なわれよう.また国連事務局では図に示したシンボルマークを発表している.
 国連では,世界人権宣言(1948)の採択に続いて,経済的,社会的および文化的権利に関する国際規約,市民的および政治的権利に関する国際規約および市民的および政治的権利に関する国際規約の選択議定書(1966)を採択した.その後,経済的,社会的および文化的権利の実現化について調査し,その結果を1973年2月に発表している.その報告のなかから,健康に関する権利の規定について,各国の憲法についての調査に関する部分を紹介し,世界人権宣言25周年の主旨に答えよう.なお,この調査の結果は,各国の報告によったものであり,国連の見解を述べたものではない.

私たちの保健所・39 佐賀県・唐津保健所

苦心する離れ島医療対策

著者: 楢崎直次郎

ページ範囲:P.698 - P.698

"松浦潟保健の姿映じつつみそじの歴史ふりにけるかな"唐津保健所創立30周年を迎え感慨無量なるものがあります.このときに当り所員一同相計り記念誌を発刊することになりました.先に10周年と15周年に発刊されていますが,その後,社会の変化とともに保健所業務も曲りかどにきた現在,先輩関係各位のご尽力により近代的な庁舎の完成をみるに至りました.特に市,郡医師会(会館,准看護学院),尚和会(胃研)と併設,地区における保健医療センターとして活躍することになりました.将来ともみんなに親しまれ,利用され,喜ばれる保健所を築き上げる決心です.一層のご指導とご支援の程お願いします.昭和44年5月第9代唐津保健所長楢崎直次郎
 以上が私の発刊のことばでした.その後1年余にして市,郡両医師会は大同合併し,高等看護学院も増設され,三位一体相協力して遭進しています.

教室めぐり・36 和歌山県立医大衛生学公衆衛生学教室

県の地域医療のリーダー

著者: 白川充

ページ範囲:P.707 - P.707

 昭和20年2月8日和歌山県立医専,同23年2月20日医科大学昇格,同27年2月20日新制大学として同医科大学が発足.当初衛生学教授として小松富三男教授が赴任され,2代目教授に助教授の有薗初男氏が昇格した.本学の創立時,建学の目的が県内に必要な臨床医を養成するという特殊な事情のために,県側の干渉が強く,県の経済的貧困と学閥の偏りもあって,大学造りは遅々として進まなかったようで,医科大学としての内容の充実は非常におくれているように思われる.設立者の小野真次知事は,「健康和歌山」をスローガンに掲げ,従来は老年病対策に力を入れていたが,近年は県内における産業場の開発・拡張などに伴い,大気汚染や海洋汚染などの公害の多発もみられるようになり,公衆衛生活動が特に要請されるようになった.しかし,本県は本州の最南端にあって,平地が3割,山間部7割という地勢で,都市化の波は農山村の過疎化を誘い,農民の健康管理が大きな問題ともなっている.
 昭和35年7月に,本学に公衆衛生学講座が新設されることになり,同年11月本学で初めて全国公募による教授銓考が行なわれ,筆者が初代公衆衛生学教授に決定し,赴任した.以来,以下に述べるような範囲に亘って,教育,研究,あるいは地域活動に,全力を傾けて今日に至っている.

根をおろす医師会活動

尼崎市医師会・地域保健活動の現状

著者: 斎田正雄

ページ範囲:P.713 - P.713

 尼崎市医師会においては「人間尊重の上に立った地域住民の健康開発」を基本構想として医療水準の向上,医療保障の充実と共に市当局と密接な協力のもとに地域保健活動を行なっている.ここにその活動状況の主なるものを紹介してみたい.

日本列島

解決された化製場の悪臭—宮城県,他

著者: 土屋真

ページ範囲:P.664 - P.664

 水産都市にとって頭,毛,骨などの魚の残滓処理は避けられないことです.海洋投棄も困難です.したがってこれらの残滓から,化製場で餌料や肥料が製造されています.しかし最近まで気仙沼市内でも,魚粕製造過程の乾燥時の悪臭が県の臭気規制基準200をはるかに越えて街中をただよい,公害の苦情が絶えませんでした.A工場は2,000,B工場は4,000もあり住民の工場撤去運動にまで発展し大騒ぎになったのです.
 これは性能の良い脱臭装置が国内になかったことが主因ですが,さいわい近年,静岡市を始め各地に優秀な外国製プラントが入り,一挙に解決しつつあります.気仙沼市内の化製場でもA工場がデンマーク製のプラントを入れ,B工場は日本製のそれより安価なプラントを入れましたが,どちらも臭気はわずか60前後になってしまいました.

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有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律要綱

ページ範囲:P.672 - P.672

第1目的
 この法律は,有害物質を含有する家庭用品について保健衛生上の見地から必要な規制を行なうことにより,国民の健康の保護に資することを目的とすること.(第1条関係)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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