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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生37巻12号

1973年12月発行

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特集 第14回社会医学研究会(主題・地方自治体と保健衛生) 巻頭言

住民に期待される地方自治体

著者: 柳沢文徳

ページ範囲:P.792 - P.792

 衣食住は身近な生活体験として,受けとめられるものです.空気・水・土地ひいては食べもの,交通などをふくめて,健康との関係という観点にたって考えるよりも,不健康とか病気にむすびついてみつめなければならぬ時代です.このような激しい時代はいうまでもなく,独占資本のつくりあげた経済の高度成長と,無批判な科学技術の乱用に求めることもできます.最近の「日本列島改造論」によりまだ健康的だと考えられる地方都市も大都市と同じに危険がせまってきています.この点は本学会でも明瞭に指摘されています.
 住民の期待は実質的,今日的日常生活における改革はもちろん国の政策にかかわることでありますが,その反住民的施策のなかにあって,1つの運動の展開は革新的な自治体づくりにあります.住民との対話によっておこなわれる地方自治体の行政は,自治体をよりいっそう民主的な方向をつくりあげています.

特別講演

地方自治と公衆衛生

著者: 曽田長宗

ページ範囲:P.793 - P.799

一般的なこと
 われわれが,自分の健康を維持し,増進し,万一これを失って傷病に悩むような場合に,一時も早く健康を回復しようと願うのは,われわれ人類共通の念願であり,その実現のために,まず自分自身や家族のものができる限りの手だてを盡すこともまた人情である.しかしながら,これにもいろいろな事情で可能の限度があり,またより十分な措置を講ずるためには,さらに広く,知人,隣人,あるいはわれわれの所属する市町村,都道府県,国などの組織的援助を,直接,間接,仰がなければならない.
 このように,組織的な社会的努力を通じて,みんなの健康を守って行こうとするのが,公衆衛生であるという,ウィンズロウの定義は,今日でもなお妥当性を失っていないとされている.

主題

地方自治体と保健活動

著者: 木下安子

ページ範囲:P.800 - P.809

 戦後,新憲法の精神を実現すべく,対人保健サービスを提供し,住民の健康保障をはたす第一線機関として,保健所は位置づけられ,保健活動はこれを軸として展開された.
 しかし,その活動がきわめて不十分であったことは,サービスを受ける住民は勿論,提供する保健医療従事者も,等しく感じているところである.しかも20数年の歴史を経た今日,保健所を根本より変え,再編成しようとする方向にすすみつつある.一方,住民の権利意識のめざめは,要求をもつ住民を多数つくり出し,いのちとくらしを守る住民運動が各地で活発化している.

自治体と医療

著者: 朝倉新太郎

ページ範囲:P.810 - P.817

 老人医療費の無料化,乳幼児医療費の無料化など,地方自治体での医療保障が国の水準を越えて先行している.このような傾向に対して,"あれは革新首長の人気取り政策だ" とか,"住民ベッタリの素人行政" といって非難する声も一部には強い.しかし,住民により身近かな地域共同体が,その共同体を構成する個々の住民の「いのちと暮し」を守ることに熱心になることは極めて自然の理であって,これにケチをつける正当な理由はない.むしろ,本当に問われねばならないことは,これまでの国の政治が,住民とそれによって構成される自治体に対して,どれほど医療を保障してきたか否か,ということではあるまいか.
 時代の変化とともに,医療は公共サービスとしての性格をだんだん強くもつようになってきている.しかし,そのことはなにも,すぐ国が前面にでて医療をコントロールすることを意味するわけではない.むしろ,どこの国においても,いわゆる医療の社会化の過程には,「自治体医療の確立」とでも呼ぶべき段階を経るのが常である.そして,この時代における医療の成熟の度合が,そのあとにつづく医療の性格を決定づけるといっても過言ではないかも知れぬ.碩学のH. E. Sigeristはこのような観点から,ソビエトの「社会主義医療」を帝政末期のZemstor Reform(1864)に結びつけて論じている.英国においても,国営医療に至る過程には,確固とした地方保健医官制度と自治体病院の展開があった.

地方自治体と住民運動

著者: 田中豊穂

ページ範囲:P.818 - P.820

 この主題のもとに,2つの演題発表と簡単な対論を行なった.西岡昭夫(三島北高校)「地方自治体と住民運動--沼津市の場合--」および藤井敬久(大分工業高校)「地方自治体と住民運動--大分新産都二期計画を中心にした住民運動から」である.

農村保健と地方自治体

著者: 金子勇

ページ範囲:P.821 - P.826

1.実践をふまえて
 「国保直診施設の推移と山村における医療活動の経験から」(静岡県佐久間町・海老原勇),「地方自治体と出稼ぎ」(山形県白鷹町・天明佳臣),「長野県下伊那郡阿南町における保健活動とその直面する課題」(金子勇,他),「自治体と保健医療活動--僻地における保健医療活動」(高知県幡西地区・五島正規,他)の4報告が,「農村保健と地方自治体」をめぐってなされた.何れも,農村における持続的活動に従事する立場からの,実践的報告であることが,共通な特徴であり,また,農村における矛盾の集中点ともいえる僻地における日常活動を通しての発言であったことも,指摘しておく必要があろう.
 以下,4報告の問題提起と論議を,主題に視点をすえて,まとめてみる.

公害と地方自治体

著者: 吉田克己

ページ範囲:P.827 - P.831

 今回の社会医学研究会は,「地方自治体と保健衛生」を中心テーマとして開催され,地域の住民保健を守る第一次的な立場にある地方自治体の現状,あり方などについて各問題別に演題が整理されブロック・テーマ毎に一括された.
 〈公害と地方自治体〉のテーマでは,公害から地域住民を守る上で,地方自治体のおかれている立場,現況,あり方,問題点などについて4つの演題が集められた.ただ公害問題は社会的にも今日における重要な問題点であり,同時に住民保健に直接的にかかわり合う問題でもあるので,この4つの演題以外にもいくつかの演題がこの研究会に提出されており,他の討議ブロックにもあるので,これらについても目を通していただく必要があろう.他のブロックで論じられたものとしては,〈地方自治体と住民運動〉の中でとりあげられた,沼津市および大分市における住民運動

森永ヒ素ミルク中毒事件と自治体

著者: 東田敏夫 ,   細川一真

ページ範囲:P.832 - P.839

1.問題の所在―森永ヒ素ミルク中毒と自治体とのかかわりあい―
 日本の「公害」の特質は,その被害のはげしさだけでなく,被害者の人権無視と加害者責任の回避にある.すなわち,(1)被害の過少評価と加害企業責任の軽減・免罪,(2)そのための「加害企業と行政との癒着」と官製「第三者機関」および「学界の権威」による合理化,(3)被害者救済・復権のたなあげときりすて,である.
 実は,これらの日本の「公害」の特質の全ては,18年前に発生した森永ヒ素ミルク中毒事件においてその原型がみられており,これらは,その後,続発した公害事件にうけつがれた.しかも重要なことは,森永ミルク中毒被害者の人権無視は,国家独占体制における保守・官僚行政と加害企業の癒着によって生みだされたものであり,事件発生後18年,「14年目の訪問」などによって掘りおこされて以来4年を経た今日も,なお続いているのである.

自由集会

都市を中心とした保健婦活動

著者: 加藤欣子

ページ範囲:P.840 - P.841

 司会(木下安子) 都市の保健婦は,今いろいろ行きづまり悩みながら働いている.今年の社医研は東京で開くので,東京でやる以上は都市保健婦はどうあったら良いか,じっくり話し合おうということになった.まず,討論のたたき材料として,障害児ととり組む保健婦活動について報告してもらいたい.

労働衛生

著者: 川森正夫

ページ範囲:P.842 - P.842

 労働衛生は演題一覧の如くおこなわれた.また当夜引続き労働衛生自由集会がもたれ,19名が出席,口演では時間切れのため意をつくせなかった話題を話しあった。
 まず,じん肺問題では,根本対策未解決のまま高度成長政策下のスクラップアンドビルドの中で,閉山離職の追打ちがかけられ社会問題化している実情がアンケートをもとに報告された.追加討議や自由集会の中で,正しい健康診断資料を確実におさえること,運動を通して労働者と専門家が結合すること.継続的な観察が望まれること.健管と労務管理のきずながなかなか断切れないこと.勤労者の健康と生命に関する学校教育がきわめて不満足なことなど追加発言や意見が,やや,し意的ではあったが種々提言された.

総括討論

住民の側からの保健衛生を,他

著者: 西三郎

ページ範囲:P.843 - P.845

 主題「地方自治体と保健衛生」の6つの柱は,集まった演題より構成したもので,住宅問題など,多くの重要な課題が残されていよう.しかし,この総括において,地方自治体における限界の問題,社会全体における背景にある基本的な問題を深め,また多くの自治体にみられるような,いろいろな悪い現象をいかにくいとめるかの検討を意図した.今自治体が住民とともに悩み,苦しむなかで,その政策を遂行しようとするようなことが求められているのではなかろうか.しかしながら,逆に自治体が,この社医研の発表を含め,研究成果などの発表に対し圧力を加えるような反動的な自治体が存在していることも事実である.総括討論に入る前にまず,某保健所職員にみられた事例の紹介をした.その職員より,最近合成洗剤に対するマスコミの取扱いが,発表前に取扱者に圧力を加えることにより,以前ほど大きく取扱われなくなった現在,ABSの調査に対し,保健所長会等より,調査に好意がもたれず,干渉がみられた.また,尿中ABS測定値の結果が,新聞にスクープされるや,公務員の秘密を守る義務に違反するとして,市議会で問題にされたこともあった.その他NHK放映に際しても圧力が加えられたことが報告された.

演題一覧

ページ範囲:P.846 - P.846

特別講演
地方自治と公衆衛生 曽田長宗(国立公衆衛生院顧問)

発言あり

住民エゴ

著者: 京極 ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.789 - P.791

沈黙は果して金か
 「住民エゴ」という言葉は奇っ怪な,半陰陽みたいな言葉だ.相反する二つの要素がこの言葉を使っているわれわれ自身の中にも確かに感じとれる.エゴイズムがそのまま"ガリガリの我がまま"という意味と,逆に"住民の声","真実の叫び"という少なからず正義感をさえ匂わせるニュアンス,その二つが同時に味わえるからである.ということは,住民エゴと一口にきめつける側にも,その対象となった住民運動をどう価値づけていいか自信がないからに他ならない.
 住民エゴが,いわゆる地域包括医療に関連する諸問題に集中しているのは事実である.これは,戦後わずか1/4世紀ほどの短い期間に,世界のどの国にも比類のない経済成長と産業開発をとげたわが国が当然受けねばならぬ一つのリアクションであった.また徳川300年の閉鎖社会,そのあと明治・大正と建国の精神と一部に自由謳歌の時代があったとはいえ,ふたたび昭和に入っての20年間はカーキ色万能の圧力に押し潰された.つまり物言えぬ民が,急に物言える自由を得てからの浅い歴史のなかに,あまりもの世の移りよう,健康阻害への恐怖が住民エゴをもたらしめたのだ.

対談

住民運動

著者: 奥田道大 ,   田中恒男

ページ範囲:P.852 - P.861

 地域保健,地域医療の実現が,叫ばれている.公衆衛生従事者の大部分がいわゆるお役人という事実を認識し,地域医療を進めるために住民ニードをとらえるにはどうしたら良いのかということを考えるために,今回住民運動のテーマを選びました.

海外印象記

ヘルスマンパワー計画の策定を目指して—WHO西太平洋地域「第1回ヘルスマンパワー計画セミナー」参加から

著者: 西三郎 ,   古市圭治

ページ範囲:P.847 - P.850

 1973年9月24日より28日までの5日間にわたってWHO西太平洋地域主催の第1回ヘルスマンパワー計画に関するセミナーが開催された.このセミナーは,西太平洋地域の各国(含信託統治地域)において,国の重要な資源であるヘルスマンパワーをより有効に活用するための計画が策定可能となることを期待して開催されたもので,参加国16,21名,コンサルタント等5名,WHO事務局9名により討議が進められた.このセミナーの報告は,近く公表されることになっているが,セミナー参加の過程で得られた知見を紹介しよう.

教室めぐり・37 京都府立医科大学衛生学公衆衛生学教室

教員室ひとりひとりが独自の研究

著者: 永田久紀

ページ範囲:P.851 - P.851

 本学は昨年(昭和47年)創立100周年をむかえた.衛生学の教育を医学校開設直後から行なったという記録が残っているが,教室は明治36年に,医学専門学校となった時に,衛生細菌学教室の形で創設された.その後,昭和9年に衛生学教室が分離独立した.衛生学教室の初代主任は赤野教授で,以後,緒方,額田教授が歴任し,永田に至っている.建物も,火災などの災害もあって2,3回かわり,昭和42年に新築の2号館4階に落着いた.
 赤野の時代は下水の研究,緒方の時代は衣服の研究と,かつては教室の研究テーマの重点がはっきりしていたが,その後教室員ひとりひとりが独自の研究を進めるようになり,教室の研究分野も広範囲におよんでいる.主要研究テーマとしては,①医学公衆衛生学分野における多変量解析法,時系列解析法の応用

日本列島

妊産婦と新生児基礎(訪問)の調査—沖繩県/第1回札幌市精神衛生大会開催

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.820 - P.820

 沖縄県の衛生統計は第二次大戦,迷信,離島へき地性に基づく風俗習慣等の影を受けて不備な点が少なくない.最近は,人口動態調査各種届出制度の充実,実態調査等によって次第に内容は信ぴよう性を増してきているが,未だいくつかの問題点が残っている.そのうち,特に周産期および乳児の死亡統計については,著しく低率にあり関係者から関心がもたれていた(表1).
 また死産も極端に低い数値になっていて,本土の61.4の1/6となっている.さらに新生児および乳児死亡についてみると表2のとおりとなっている.すなわち新生児死亡率は本土の1/2に近く,乳児死亡率も低くなっている.このような状態が正しいかどうか,県厚生部予防課では昭和47年8月1日から昭和48年3月31日まで妊産婦,新生児基礎調査を実施した.調査対象,客体,方法等の説明は紙面の都合で省略するが,調査結果は次のとうりである(表3).

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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