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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生37巻4号

1973年04月発行

雑誌目次

特集 家族

家族と公衆衛生

著者: 加藤孝之

ページ範囲:P.223 - P.226

 公衆衛生は公衆,すなわち地域,家庭,職域,学校などの組織的な人々の集団が主体となり,また活動対象となって,その健康の保持と増進をはかることを目的としている.地域集団を構成している社会単位の主なものは家族であり,また職域集団や学校集団も,家族の中の一部のものによってそれぞれの集団が構成されている.このように家族は公衆衛生活動の主体であり,かつ活動対象の中心にあるといえる.
 公衆衛生における家族の役割,家族を中心にした公衆衛生活動,その今後のあり方などの問題を考えていくが「家族」のほかに「家庭」,「世帯」といった用語が公衆衛生の各分野で一般に用いられているので,まず,これらの用語の内容について整理してみたい.

社会変動と家族

著者: 大橋薫

ページ範囲:P.227 - P.235

 わが国の家族は第二次大戦前も,都市化や産業化の進行,そして個人主義思想の芽生えのなかで,いろいろ変化の兆しを示していた.たとえば,自由(恋愛)婚の出現や夫婦家族(conjugal family)の漸増傾向がそれである.終戦時前後にわたって大学生活を送った筆者は,当時このような傾向に対して,わが国に伝統的な直系家族(stem family)こそが,安定した,理想的な家族の姿であり,夫婦家族は個人主義に毒された,不安定な家族である,といつた議論をしていたことを思い出す.
 それから20数年たった今は,わが国の家族の変化は大へんなものである.自由婚や夫婦家族は一般化したし,ほかの多くの側面において姿を一変しているのである.これはいうまでもなく家族をとりまく内部的,外部的な諸条件が大きく変化したためである.なかでも,社会制度の改正,高度経済成長,都市化や産業化の急激な進行,生活水準の向上,生活観の変化などが,大きな条件である.それによって,家族はいわば現代的に衣替えをして,プラス面もみられたわけであるが,一方では,数多くの病理が現出して,マイナス面が増大している.

家族の人間関係

著者: 岡堂哲雄

ページ範囲:P.236 - P.243

中核としての夫婦関係
 人間生活は時代とともに変貌する.家族の人間関係も同じように,歴史的社会的状況の変動によって動揺する技術・文明の急速な進歩が,かつて存在した安定性のある家族の構造をおびやかし,その人間的機能を失わせつつある.
 非行少年,登校拒否児あるいはなんらかの心理的問題を示す子どもたちの姿には,おおむね家族関係的精神病理の反映をみることができる.また,反抗もせず,学ぶこともせず,無気力で無感動な青年の群像は,アイデンティティ形成に不可欠な父親的模範の不在による精神的空虚を明示している.離婚率の漸増は,ことによったら故障した洗濯機を捨てると同じ心の仕組みが夫婦の間柄に入りこんだせいかもしれない.さらに,老人福祉に対する世間の主張が声高くなされる背景には,先祖とのタテの連結を放棄した世代の罪責感の投影があるのではなかろうか.

住居と家族—住居と精神衛生に関する調査を中心に

著者: 佐竹洋人

ページ範囲:P.244 - P.251

 「住居と家族」という,かなり包括的なテーマを与えられたが,本稿においては問題領域を非常にせまく限定し,筆者がかって参加した「住居と健康に関する総合的調査1〜5)」の結果を紹介しつつ,住居の諸条件が家族の精神的健康--とりわけ家族の人間関係における健不健--にどの程度影響を及ぼすものであるかを検討することで責を果たしたいと思う.

家族と疾病

著者: 金川克子 ,   河野俊一

ページ範囲:P.252 - P.258

 公衆衛生活動の中で家族の健康管理をおしすすめるにあたっては,家族の社会学的,心理学的理解もむろん必要であるが,家族と疾病の関係についての理解が必要である.
 私たちは昭和37年秋より,金沢市内の一地区に家庭を単位とした健康管理を実験的に実施しているが,その中で観察した家族内におこる傷病の状況なども加味しながら家族と疾病の関係について述べてみたい.

精神病と家族

著者: 浜田晋

ページ範囲:P.259 - P.267

「患者」にとって,「家族」とは何であろうか?
 ここに22歳のA男(分裂病)の手記がある.
 『父母は,自分にサラリーマンになれ,としつこく言う.あと二,三年たてば勤めに出て月給を家に持って来てくれると本気で信じこんでいる.勿論そんなものになる気は毛頭ない.しかし自分は本心を誰にも明かさない.自分の夢はいつも父母にふみにじられてきた.小学校の頃,自分は歴史が好きで,将来考古学者になろうと思った.ある日,それを口にすると母は,顔に嫌悪の色を浮べて冷たく「お前なんぞ考古学者になれるわけがない」と言われた.そばで聞いていた店の番頭さんが「奥さん,子供の夢をこわすようなことを言うものではない」と母にいったのを今でも記憶している.すべてこういうやり方で,たびたび自分のはかない夢はつぶされて来たのだ.一人息子が金にならないものに興味をもつといつもきまって無情な態度で自分を非難する.息子の体にくついたシラミをつぶすように夢をこわして現実にひきもどそうとする.

家族健康管理

著者: 津田佳世子 ,   田中恒男

ページ範囲:P.268 - P.274

家族健康管理の現状
 家族健康管理とは,健康管理活動を家族を対象として行なうことを指すのであろうが,従来おこなわれている医療や公衆衛生活動の中で「家族」を対象とした活動としてどのような活動があるだろうか.この場合「家族」の定義が問題になるであろうが,このことについては後節にゆずるとして,家族ぐるみ,あるいは家族全体をまとめた健康管理を指すものとして考えてみたい.こうした例については,いくつかの試行的実践報告の中で,金川らによるものは1)2),「家族を1つの単位として,それぞれの家族の健康障害を把握し,全家族員をまとめた包括的な健康管理を行なう」観点から,対象家庭に対して公衆衛生学担当の教室員の指導の下に,医学部学生1〜2名が担当者となり,それぞれの家庭との接触をはかり,健康管理を行なっているものである.管理内容としては,健康診断,家庭環境調査,健康相談,健康生活指導,救急処置および疾病管理などである.これらの健康管理活動の実績は,傷病保有者の家族内累積による少罹患家庭と多罹患家庭の分類,生活および環境諸要因との関連性,家庭管理に対する反応や評価との関係,夫婦および親子の傷病の相関などについて統計的観察が行なわれている.

開業医と家族

著者: 田辺正忠

ページ範囲:P.275 - P.282

社会の矛盾を見せつけられる開業医
 その日の仕事を終えて手を洗おうとしていた時のことでした.異様なわめき声をしながら取乱した一人の女性が,子供を抱えて診察室に走りこんできました.脈も触れず,呼吸もとまり,心音も聴取できません.震える手で救急処置をし,110番に連絡し,家族に電話しそれからの30分間は,看護婦も事務も私も総がかりで無我夢中でした.父親は32歳の会社員で,母は小さな出版社の事務員をしている共働き世帯です.上に6歳と4歳になる男の子がいます.ミナ子ちゃんは生後4カ月で発育はあまり良い方ではありませんが格別に変ったこともありませんでした.生下時体重2780gで,生後40日ほどで私設の託児所へ昼は預けられました.子供は朝出勤の時に母が連れて行き帰りは託児所の人が送り届けてくれるのでした.その日は用事が忙がしく母の帰りが40分ほどおくれ荷物を一度三階の部屋に置きに戻りました.夕食の買物をするために二人の男の子を残してアパートを飛び出したところでミナ子ちゃんを抱いてきた高校生に会い,自分の部屋のベッドにいつもの様に寝かしておくように頼んで出掛けました.30分ほど買物をして部屋に戻るといやにおとなしく赤ちゃんがベッドにふさっているのでゆり動かしてみたらもう息をしていなかったというのです.小児科の同僚の医師の話では,もう寝返りもできる筈だから窒息をすることも普通はないのだけれどとのことでした.

発言あり

家(いえ)

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.217 - P.219

段ボール箱の中の猫
 どぶ川に変り果てた流れの中を,段ボールの箱がゆっくりと下って行く.その箱の中から捨てられたばかりの仔猫たちの,か細い泣き声が聞えてくる.仔猫たちにとって,この段ボール箱が束の間の家であり,この先どうなるのかは誰も知らない.
 人間が自ら作り出した文明は,とどまるところを知らずに,われわれ人間を押し流して来た.ここ四分の一世紀の加速度をつけた文明の変化は,もう自らの力ではどうししようもないほど,個人の生活を押しひしゃげさせてしまった.

公衆衛生の反省・2

イプセン劇「民衆の敵」衛生技師ストックマンの立場について

著者: 曽田長宗

ページ範囲:P.220 - P.222

 役所を一応やめて,ひまもできただろうから,長年の公衆衛生活動の経験の中から,読者諸氏に多少なりご参考となるような話を書き綴れ,という編集部のご意向で,前回は,一昨年第30回日本公衆衛生学会会長講演「公衆衛生の反省」に関して,短文を見ていただいた.
 今回は,また何か題を改めて,意見を開陳しようと思い,前回との関係を特別に考慮しないでいたところ,編集部から,およそ10回許り続けて掲載する全篇に通じた欄名を付けて欲しいという注文がきた.

海外事情

サウジアラビアの保健医療

著者: 芦沢正見

ページ範囲:P.283 - P.285

 国際開発センターの委嘱によりサウジアラビヤ国開発計画のための現地調査団に加わり,昭和47年2月24日より10日間ほど同国の首府リヤド,紅海沿岸の商都ジェッダ,アラビヤ湾岸の石油都市ダンマムをまわり,この国の保健・医療の概況や外国からの技術受入れの状況など,ごく短かい間でしたが,見聞する機会に恵まれました.
 一行は石油開発公団の津村光信氏を団長とする混成部隊で,農業関係2名,地質探鉱関係1名,コーディネーター1名に筆者という構成でしたが,現地に着いて表敬訪門のあとはそれぞれの部門に分かれて行動しました.

資料 健康に関する権利規定・4

ヨーロッパ社会憲章

著者: 西三郎

ページ範囲:P.286 - P.287

 ヨーロッパでは1949年欧州理事会の結成,1950年「人権および基体的自由擁護条約」の調印に引き続いて「ヨーロッパ社会憲章」および「ヨーロッパ社会保障法典」の制定についての努力がなされ,前者は1961年10月イタリアのトリノ市において欧州理事会加盟国の署名により採択,1965年効力を発生し,現在(1969年)キプロス,デンマーク,西独,アイルランド,イタリア,ノールウエー,スエーデンおよび英国が批准している.後者は,1964年4月ストラスブルグで署名,1968年発効し,現在(1968年)スエーデン,ノールウエー,オランダ,英国,ルクセンブルグが批准している.なおこの他老齢・廃疾・遺族年金に関する暫定社会保障協定と,それら以外の保障給付に関する暫定社会保障協定の2つの暫定協定と「ヨーロッパ社会および医療扶助協約」が採択,発効している.
 欧州理事会は,東西両陣営の対立を背景にヨーロッパ連合の成立と,共産主義に対して連帯しようという政策的要望とにより結成されたが,20年の歩みとともに,多くの分野における建設的な働きを示し,直接戦争の恐れに対することは初期だけといってよいであろう.この理事会の規約には,人権と基本的自由の推移と拡充に協力することが視定され,それに従って前記の条約を始めとする一連の活動がなされている.なお欧州理事会は,ILOとの密接な協力関係のもとに作業を進めている.

日本列島

公衆衛生学会盛会裡に終る—札幌市,他

著者: 吉田

ページ範囲:P.235 - P.235

 朝夕めっきり冷えて,紅葉が美しく秋日に映える晩秋の北海道札幌市で,第31回日本公衆衛生学会が開催された(1972年11月).
 会長は札幌医大公衆衛生学教授岡田晃氏,副会長は道衛生部長野津聖氏,市環境局長渡辺進氏,元道衛生部長佐分利輝彦氏である.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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