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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生37巻7号

1973年07月発行

雑誌目次

特集 医師会 私の医師会論

特に地域活動について

著者: 大渡順二

ページ範囲:P.436 - P.440

 医師会の地域保健活動を考えるといっても,いまの医師会の現状を無条件に肯定して,そのいびつな医師会に,どんな地域活動を望むか--というのでは,それは,木によって魚をもとめるに等しい.医師会の体質そのものをお互いに考え直していくのでなければ,何の前向きの議論もできない.逆にいえば,地域保健活動の問題を課せられる医師会は,そもそも,どんな医師会であるべきか.これは,医師と医師会の本質論にさかのぼる問題である.
 第一に,医師(医療機関)は,今のように,私益していいかということである.日本の社会保険医療制度が開業医制度を中心に組みたてられて発達し,維新前からの殿様の御典医としての性格は,そのまま社会保険の御典医として継承されたため,いまでは,医療の営利主義,開業医制度について,国民の誰一人疑ってかからないところに根本的な過ちがある.そういう国民的意識の中で,日本の社会保険医療が開業医制を無条件に一方の大きな柱として組みこんで出発したところに,洋服のボタンの最初のかけ違いがあり,医師会の体質的な歪曲がある.だから保険医の本来的な地域活動と,保険医の営利主義の歯車がうまく噛み合わないことは,はじめからわかっている.

地域活動の方向づけ

著者: 柏熊岬二

ページ範囲:P.441 - P.444

 最初にお断りしておくが,私は公衆衛生の専門家でもないし,医療の分野に生きるものでもない.社会病理学を専攻する一研究者であり,医師の方々にお世話になっている側の人間である.したがって,本稿で論ずる内容も社会科学的な観点による地域社会論であり,市民の立場からみた医師会論になることと思う.
 ところで地域保健という考え方は健康を守り育てるという方向を具体化する途として志向されたものであろうが,生活環境の破壊や公害などが問題になっている現在,その必要性はいっそう増しつつある.だが,それだけに医療と保健の真価と限界が問われているともいえるのである.

医師の専門的機能の組織化

著者: 青山英康

ページ範囲:P.445 - P.449

 去る4月1日に開催された日本医師会の第54回定例代議員会において,会長挨拶の形で提案され承認された「基幹委員会の新設」と「医師損害賠償責任保険制度の発足」は,今後の運営に数多くの問題を残しているものの,その発想は従来の医師会には見られなかった新しい方向性を追求するものとして,広く国民的関心が寄せられている1).これは医師の専門性を医師自らの論理性に求め,医学・医療の現状を反省している点が注目されたためであろう.
 このように恒例の代議員会における会長挨拶にさえ国民的な関心が寄せられる医師会とは,国民にとってどのような存在であり,またどのような存在であるべきなのであろうか.この問題を解明するにはまず医師会を構成する個々の会員,あるいは医師にとって医師会とはいかなる存在であり,またあるべきかを明らかにしておかなければならないであろう.なぜならば医師会が国民の健康と疾病の問題を総括的に取り組む医学・医療の専門家集団として社会的に機能する法的根拠は,医師法に規定されている個々の医師に課せられたその専門的機能にあるからである.

宮城県医師会と地域保健活動

著者: 藤咲暹

ページ範囲:P.450 - P.457

 すべての住民が高い水準の医療をたやすく十分に享受しうることが医療のあるべき姿である.しかし社会構造の急激な変革によってもたらされた医療需要構造の変化は,その供給構造との不適応を拡大し,医療をひずみの多いものとした.医学,医療,経済を包括した総合された住民の医療というものが,社会構造より一段高い次元において変容への対応がなされなくてはならなかったのであった.また,最近における社会の構造的変化によって医療の機能として,健康破綻に対処するに止まらず,健康増進に重点をおいた健康管理に積極的に関与することが強く要請されるに至っている.

大分市医師会と地域保健活動

著者: 吉川暉

ページ範囲:P.458 - P.464

 私共医師会は10年来,地域において医師の果だすべき役割,医師会の果たすべき役割について色々と考えて参りました.
 県医師会はその立場で,また日本医師会はその立場でそれぞれに果たすべき役割のあることは論をまちません.

発言あり

ホームドクター

著者: 森武夫 ,   林義緒 ,   片野卓 ,   井上一雄 ,   岡田晃 ,   ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.433 - P.435

 ホームもなければ,ドクターもいない.医療もなければ人もいない.
 ホームドクターこの世にあるの,ないないづくしに切りがない.

寄稿 欧州再遍歴の旅から

老人問題の社会医学的研究

著者: 吉田寿三郎

ページ範囲:P.465 - P.476

 この−1972年−9月欧州から帰ってみると,有吉佐和子の"恍惚の人"という老人性痴呆を扱った小説がベスト・セラーになっていた,家族のものにすすめられて早速通読した.主人公の父がボケて終焉していく過程を小説らしく紆余曲折しながら紹介している.適当に事件を起こして最後に人間らしく割りに短い期間で昇天して行く.この老いの厳しさが読者たちには余程ショッキングであったようである.模擬的な自己体験効果をもつ芸術の力に大いに敬服した.その後老人問題の専門家とみられている方から有吉女史はあまりに世間騒がせであるなど非難をまま耳にしている.しかし私は20年近く取組んできた老人問題がいよいよ重大な,きわめて困難なものであるとますます感じているだけに,この問題を知性の上で諒解するとともに情緒の上に刻印することを高く評価する.
 めちゃな妊娠中絶が加わったあまり急激な出生率の低下で,日本の人口構成に抜きがたい大きな歪みができた.この将来が気にかかっていたが,昭和30年代に入ってようやく西欧の老人国を訪ねることができた.しかし当時厚生技官としては,老人問題の研究などというテーマでは海外出張はできなかった.成人衛生を勉強する名目で,Sweden政府の援助があって北欧へ渡った.

保健所の将来を真剣に憂う

著者: 斎藤雍郎

ページ範囲:P.477 - P.480

 本誌からの依頼によって6月号掲載の「私たちの保健所」の原稿を送ったところ,折返し再度執筆の依頼を受けた.
 それは,言われたとおり保健所の紹介だけを書いておけばよかったのに,つい筆をすべらせて「保健所業務の集中化,対人保健サービスの市町村と医療機関への委譲……,これらは保健所の合理化案であるとか,対人保健サービスなくしては,住民の離反と医師補充難を招くと批判する向も多いが,紙面の制限により反論が述べられず残念である.ただ一言,地域の問題診断もせずに,中途半端な成人病検診や,母子クリニックに嬉々としているのが保健所長か,とだけ言っておく.」と述べたのに目を留めて,"反論"を書くようにというのである.

事例 母子管理・3

心身障害児の把握と現状

著者: 東京都武蔵調布保健所

ページ範囲:P.482 - P.489

 「調布市心身障害者 親の会」が昭和42年に発足し,毎月例会を持って活動していることには保健所開設当時から関心があったが,45年5月「あゆみ教室」の誕生をみたのは大きな感動であった.一生のうちで,もっとも発達の盛んな幼児期の障害児に集団生活を与えその場を通して日常生活習慣の自立をはかり,学習,義務教育を受ける前段階としての訓練をしようと交通便利な小学校の2教室が開放されたのである.市からの300万円余の予算で校庭に面した教室一杯に,じゅうたんを敷きつめ,坐ることのできない子供のための訓練遊具もいろいろ揃え,臨時職員として採用された若い指導員数名が這い這いの練習や寝返り訓練,リズム遊び,フインガーペインティングなど笑顔で子供達に働らきかけている姿,それを受ける子供達,付添って来ている母親の表情,みんな生き生きとしていて明るく,障害児をめぐる場面としては最高の情景であった.今までは障害児に接して,早く機能訓練を,と思っても,どこでどのようにしたらよいかをすすめることもできなかった.都内の施設のリストのメモはあってもケースにふさわしいものを見出すのは至難のことであった.その重苦しさが障害児に眼を向けるブレーキとなっていたことは否めない.保健所開設後1年でこのブレーキの取れたことは私共職員にとっても仕事への意慾をかきたてる動機となったのである.あゆみ教室に通う子供達のリストには3歳児健診の該当者で受診したものも散見された.

研究

ねたきり老人の実態調査と評価法(第2報)—東京都東村山市の事例について

著者: 佐久間淳

ページ範囲:P.491 - P.495

2.綜合的分析--対処の基礎
 1)対象へのアプローチの限界
 ねたきり老人の分析をより厳密にするためには,より多くの専門職を動員することが必要となるが,これを充たすことは経費の点もさることながら,むしろ人的な面で困難を感じさせられる.最近の医療界での包括医療(comprehensive medicine)とか,綜合看護とかいわれているように,ねたきり老人に対してもより広い角度から科学的にアプローチし,望ましい対処の仕方をシステム化したいと思う.ところが,医療社会学を専攻する筆者は,昨年来2回の調査に医療職の人びととプロジェクトチームを組んでみたが,表現しにくい発想の違いを感じることが多かった.医療職の結合は機能上のものの他に,医師を頂点としたヒエラルキーで構成されている.しかも,後者から前者にウェートが転換されにくい.したがって社会科学的思考や組織論的認識が遮断され,医療の特殊性の名のもとに定形化している.かような実態を十分理解したうえで,ねたきり老人実態調査などチームを組まないと,せっかくの仕事が十分な収獲を得ないで終わる危険性をもっている.この点をまず指摘しておく必要がある.
 なお,第1報(本誌37巻・1号)でふれた栄養摂取の状況や歯科領域については,いずれ機会をみてふれたい.歯科調査は今回も都合がつかず見送りとなった.

健康意識調査にみる地域住民の衛生思想

著者: 大関知司

ページ範囲:P.497 - P.501

 近時,住民の衛生思想の向上によって,公衆衛生は著しい発展をみせております.
 古くは結核予防法に基づく結核病対策,さらに近くは高血圧・ガン・心臓病などいわゆる,成人病(老人病)対策の啓蒙運動あるいは,疾病予防,健康増進に積極的に取り組んでいるところであります.

資料 健康に関する権利規定・7

世界の憲法1968年,1969年

著者: 西三郎

ページ範囲:P.502 - P.503

 世界各国の憲法を比較するには,各国の憲法が生れた背景を究明するとともに現在の憲法の機能を明らかにしなければならない.さもないと比較に際し誤った判断をする危険があり,とくに,憲法のなかの個々の条文を取り出し,比較することは,その危険が特に大きいと言えよう.しかし,健康に関する権利を主題とした比較憲法学の研究は,公衆衛生を研究している筆者の目に触れる例はまだ見られず,また各国の憲法の全体を知ること自体非常に困難な課題と言える.そのため,便宜的ではあるが,世界各国の健康に関する権利の規定を紹介しよう.
 国連において「人権年報」を英仏両語にて1948年版より公表している.その内容は,各国の人権に関する憲法,立法および司法に関しての報告,信託統治または,非自治領についての同様の報告および人権に関する国際的な協定の原文を,年次ごとにまとめている.この年報に,各国で制定または修正された憲法のうち人権に関する条文を集録していることから英訳されている条文を訳した.各国の憲法を公布後の修正を含め紹介しよう.今回は1969年,1968年公布の憲法とした.

最近の話題から

昭和48年4月天然痘事件

著者: 斎藤誠

ページ範囲:P.481 - P.481

 発端 昭和48年4月天然痘事件の発端は,3月31日午後3時管内の東京逓信病院から,3月26日から同院に入院中の郵政省職員のK氏(33歳,男)が,天然痘の疑いがあるという届出をうけた.届出によると同氏はバングラディシュに約1ヵ月滞在し,3月18日に帰国,23日に発病し26日に受診入院したという.主症状は発熱と発疹で,現在の疹の状況,前駆疹の存在などからして,天然痘の疑いは極めて濃いと判断された.

私たちの保健所・37 大分県・中津保健所

住民との協力で健康管理

著者: 園田稔

ページ範囲:P.496 - P.496

 沿革
 大分県で県北といわれる,中津市,下毛郡を管轄地域とする当保健所は昭和13年に設置された.保健所法が公布された翌年であるから古い保健所といえよう.その後19年に簡易保険の健康相談所を併合した.27年に1棟増築がなされ,現在に及んでいる.保健所発足当時の建物がそのまま使用されているのは,他に類がないのではなかろうか.それだけ業務上不便な点も多く,改築を迫られているが具体化してはいない.職員数も26年増築時も現在もほぼ同じで,28名である.

読者から読者へ

開業医と地域医療と

著者: 津田順吉

ページ範囲:P.489 - P.489

 本誌二月号の橋本正己氏のまとめは真に有益.600円もの本誌を読めもせぬのに買いつづけている老醜医には常闇の炬火.もう一つ,田中恒男氏のまとめ.これは更に難解.しかし「反体制的」の語も「的」の語も不要ではないか.ただ,東大学派のここまでのまとめ,それに「米国的実証主義臭」などと,まことに,にくい.

日本列島

北海道労働災害職業病研究対策センター—北海道,他

著者: 加須屋実

ページ範囲:P.440 - P.440

 この長い名前のセンターは「労災職研センター」と略称されているが,昭和44年4月に労働者団体,使用者団体,学識者,その他関係官庁を含む替同者による構成で設立されたものである.北海道における業務上の災害による休業日数は全国の中でも上位を占め,特に死亡災害については全国第1位であることから,北海道の労働災害,職業病対策を統一的,かつ系統的に進めようとの意図から設立された.
 昭和47年7月に第4回定期総会が開催されたが,このときの昭和46年度の一般経過報告によるとかなり多彩な活動を行なっている.まず調査研究活動として,地下産業における削岩夫を主体とする振動障害について,港湾荷役フォークリフト連転手の腰痛症について,鉛中毒について,有機溶剤中毒について等,道内でみられる主要な職業病を対象としている.また教育,研究関係として.帯広地区,室蘭地区等における労働衛生をめぐる諸問題についての地域ゼミナールがもたれている.その他,道内各方面からセンターに対してなされた講師派遣の要請にこたえている.しかしこのセンターの特徴の一つは,労働災害,職業病に被災した人達の援獲,救済対策をも行なっていることにあるといえそうである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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